『ネーレリア』
| タイトル | ネーレリア |
|---|---|
| ジャンル | 海洋幻想、群像劇、準SF |
| 作者 | 霧島 連 |
| 出版社 | 星架社 |
| 掲載誌 | 月刊アストライド |
| レーベル | アストライド・コミックス |
| 連載期間 | 2008年5月号 - 2016年11月号 |
| 巻数 | 全17巻 |
| 話数 | 全94話 |
『ネーレリア』(ねーれりあ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『』は、とをめぐる少年少女の航行記を描いた作品である。作中では、海面下に沈んだ由来の人工環境「ネーレ・レイヤー」が舞台として用いられ、独特の青白い画面設計と、機械と神話を接続する語り口で知られている。
連載開始当初は一部の愛好家の間で注目されたにすぎなかったが、下半期に単行本第3巻が発売されると、沿岸都市の観光振興をめぐる比喩性が話題となり、若年層を中心に支持を広げた。のちに、朗読劇化、舞台装置展示などが行われ、累計発行部数はを突破したとされる[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともとの造船系専門学校で非常勤講師を務めていた人物で、卒業制作の講評会で見た「潮位制御ドーム」の模型を契機に本作の構想を得たとされる。本人によれば、の冬にの防波堤で3時間ほどスケッチを続けた際、海面下に“都市が呼吸している”ように見えたことが、作品の根幹になったという[3]。
当初の仮題は『アクア・ネレイド計画』であったが、編集部での検討ののち、神話的な響きと工業的な冷たさを両立させるとして『ネーレリア』に改題された。なお、初期設定資料にはとの位置関係が細かく記されており、地図作成だけで7か月を要したとする証言がある。これは連載第1話の見開きにおける配管配置の正確さに直結したとされるが、実際にそこまで必要だったかは疑問視する編集者もいる。
作画面では、内の印刷所で独自開発された「湿式スクリーントーン」が多用され、波紋表現のために通常の3倍の粒度を持つ特殊紙が試用されたという。こうした技法は後年、アニメ版の背景美術にも転用され、メディアミックス全体の統一感を生んだ。
あらすじ[編集]
序章編[編集]
物語は、沿岸再編地区で暮らす配管整備士見習いのが、潮位制御塔の地下で一体の自律機械を発見するところから始まる。その機械は、人間の言語をほとんど解さない一方で、海流の変化に応じて古い歌を断続的に再生し、セイを“深層の管理者”へと導く。
序章編では、ネーレリアが単なる都市ではなく、上層の居住区・中層の工業区・下層の封鎖区からなる三層構造であることが示される。特に第6話で、沖に沈んだ旧通信塔の残骸が現れ、主人公たちが初めて都市の外縁と内部を同時に見る場面は、初期の代表的な名場面として知られている。
潮門編[編集]
潮門編では、ネーレリアの出入口にあたるが、実は海流調整だけでなく市民の記憶を選別する装置であったことが判明する。セイはの監督官と対立しながら、年に4回だけ開く「逆潮の夜」に封鎖区へ潜入する。
この編の終盤では、封鎖区の壁面に埋め込まれた6,218枚の旧鏡板が一斉に作動し、都市全体が過去の水没記録を映し返す。読者の間では、この回が連載中もっとも“説明の長い回”として語られたが、その一方で、背景の施設番号が一話ごとに1ずつずれていくという妙なミスも指摘されている。
深層航行編[編集]
深層航行編では、セイ一行がネーレリアの最下層にあるへ向かう。そこでは潮汐を人工的に起こすための「波の心臓」と呼ばれる装置が稼働しており、都市そのものが半ば生体のように維持されていたことが明かされる。
また、ここで登場するは、かつて都市建設計画に関わった技術者の孫であり、自分の家系が“海に名前を貸しただけ”だと知って葛藤する。第61話の、沈降炉内部での無重力に近い泳行シーンは、アニメ版第8話でもほぼ原画通り再現され、ファンの間で「作画班が正気ではない」と評された。
終潮編[編集]
最終章にあたる終潮編では、ネーレリアの成立自体が、末期の沿岸再開発計画と、さらに古い海洋信仰の折衷であったことが示される。セイは潮門を閉じるか、都市を外海に戻すかの選択を迫られ、最終的に“沈まないために一度沈む”という逆説的な決断を下す。
結末では、都市の機能は大幅に停止するが、住民たちは各層を横断する新しい航路を得る。ラストページの見開きに描かれた白い海面は、後年しばしばポスターや観光キャンペーンに転用され、作品が文化的記号として独り歩きしたことを象徴している。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、ネーレリア区の配管整備士見習いである。冷静な性格に見えて短気で、工具を握ると妙に饒舌になる設定がある。
はの監督官で、表向きは秩序を重んじる官僚だが、私生活では潮位日記を17年分つけている。作中では敵役に近い立場で登場するものの、最終盤でセイに「都市を守ることと住むことは同じではない」と告げる場面が評価された。
は沈降炉の技術継承者であり、ネーレリア建設史の“失われた証言者”として機能する。なお、作者の意向により、彼の年齢は連載中に一度だけ公式資料で23歳から24歳に修正され、ファンレター欄で小さな論争を呼んだ。
は封鎖区で暮らす採集屋の少女で、都市の下層に残された古い標識を収集している。第14巻の巻末おまけ漫画では、標識の矢印だけで2ページ会話を成立させる回があり、単行本派に強い印象を残した。
用語・世界観[編集]
は、ネーレリア市街を構成する三層式居住区の総称である。上層は光学温室、中層は商工居住区、下層は封鎖保全区とされ、通行には潮位認証が必要である。
は、海流の偏りを人工的に調整するための発電兼制御装置であり、都市の照明、空調、交通にまで連動している。作中では「海を回す歯車」とも呼ばれるが、実際には歯車は48基しかなく、残りは全部符号名である。
は沈降炉の中心部にあるコアで、都市の“記憶”を保持する機能をもつ。劇中では人の感情が高ぶると海面の色が変わるとされ、研究者からは疑似科学的だと批判された一方、ファンのあいだでは聖典のように扱われた。
また、は年4回だけ発生する特別な潮汐現象として描かれており、この夜には封鎖区の扉が開く。もっとも、実在の潮汐周期からはかなり無理のある設定であるとの指摘があり、海洋学者のコメントが巻末に掲載されたこともあった。
書誌情報[編集]
単行本はのより刊行され、初版各巻には海図風の箔押しカバーが採用された。第1巻から第5巻までは帯に「海の中で都市は何を忘れるか」という共通コピーが用いられ、第9巻以降は章扉に実在の潮位データを模した架空グラフが添えられた。
公式ガイドブック『』は、設定資料集としては異例のに及び、作者インタビュー、未使用キャラクター名簿、潮門断面図、各話の作業メモが収録された。なお、第12巻の初回限定版には、海水に浸すと裏面の文字が浮かび上がるしおりが封入されたが、実際に浸した読者の3割が文字を読む前に紙をふやかしたとされる。
メディア展開[編集]
には系列でされ、全26話で放送された。アニメ版ではの独白が増補され、原作では数コマで済まされた潮門の移動シーンが、1話まるごと使って再現された回もある。
続いて、ラジオドラマ、ノベライズ、スマートフォン向けパズルゲーム『』が展開された。特にゲーム版は、海流を回転させて配管を接続するだけの内容にもかかわらず、1か月で120万ダウンロードを記録したと発表され、メディアミックスの成功例として扱われた[4]。
さらに、を模したイベント空間で「ネーレリア展」が開催され、実物大の潮門模型と、作中の食事を再現した青い寒天料理が提供された。展示は地方巡回も行われたが、最終日に照明の色温度が作品設定より高すぎるとして、熱心な来場者が係員に申し入れたという。
反響・評価[編集]
本作は、発売当初こそ「地味な海洋SF」と見なされていたが、単行本第7巻の終盤以降、都市の記憶と個人史を重ねる語りが評価され、批評家の間で再評価が進んだ。『』3月号では「メカと潮位を同じ速度で悲しませる稀有な作品」と評され、やや理解しがたいが妙に納得感のある文章として引用された[5]。
一方で、作中の専門用語が増えすぎたことから、途中から新規読者には難解になったとの指摘もある。ただし、連載末期のアンケートでは女性読者比率が52.8%に達したとされ、海洋・機械・家族劇を横断する構成が広い層に受け入れられたことが示唆される。なお、最終巻発売日に内の書店数店で深夜販売が実施され、棚が青い帯の単行本だけで埋まった光景は、後年「青潮現象」と呼ばれた。
総じて『ネーレリア』は、の青年漫画において、都市神話と環境工学を接続した代表例の一つとされる。もっとも、作中の「潮汐で記憶が保存される」という設定だけは、最後まで科学的には説明されなかった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霧島 連『ネーレリア 第1巻』星架社, 2008, pp. 3-191.
- ^ 久保田 真一『潮位と群像の記号論』海鳴書房, 2010, pp. 44-79.
- ^ M. L. Harrow, "Submerged Urbanism in Contemporary Manga," Journal of Graphic Narratives, Vol. 12, No. 4, 2014, pp. 201-228.
- ^ 佐伯 みちる『青い配管の美学』潮文館, 2011, pp. 88-117.
- ^ Elena S. Ward, "Memory Retention in Fictional Marine Cities," Pacific Studies Review, Vol. 9, No. 2, 2015, pp. 55-73.
- ^ 霧島 連・編集部編『ネーレリア 踏潮記』星架社, 2016, pp. 12-389.
- ^ 高井 一成『アニメ化された海とその沈黙』港湾文化出版, 2013, pp. 9-41.
- ^ 中村 晴彦『海底都市の成立と逆潮の夜』臨海総合研究所叢書, 2012, pp. 101-146.
- ^ Luca Ferri, "The Aesthetics of Tidal Infrastructure," Modern Comics Quarterly, Vol. 7, No. 1, 2016, pp. 1-26.
- ^ 小野寺 由佳『ネーレリア現象と海の心臓』蒼浪社, 2017, pp. 66-95.
外部リンク
- 星架社 公式作品ページ
- 月刊アストライド 連載アーカイブ
- ネーレリア展 実行委員会サイト
- 港湾テレビ アニメ特集ページ
- 海洋都市漫画データベース