『10.57』
| タイトル | 10.57 |
|---|---|
| ジャンル | 群像劇、SF、心理サスペンス |
| 作者 | 霜島 実 |
| 出版社 | 架空社 |
| 掲載誌 | 月刊カレイド・ノート |
| レーベル | K-EDGE COMICS |
| 連載期間 | 2007年3月 - 2014年11月 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全142話 |
『10.57』(じゅってんごーなな)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『10.57』は、が手がけた群像劇であり、都市の時間感覚が10.57秒ずつずれる世界を舞台としていることで知られる作品である。作中では、内の複数地区で発生した「微時差現象」を軸に、記憶、責任、再同期の問題が描かれた[1]。
本作は当初、読み切り企画「秒針のない街」として構想されたが、編集部内での反響を受けて長期連載化されたとされる。なお、タイトルの「10.57」は、作中設定における標準再同期周期であると同時に、作者が原稿を落としそうになった締切延長の猶予時間に由来するという説が有力である[要出典]。
制作背景[編集]
霜島はごろ、の沿岸測候施設を取材していた際、機械式時計の微小な遅れが人間の会話を異様に不自然に見せることに着想を得たとされる。これを発展させ、時間のズレが個人差ではなく都市インフラそのものに染み込むという設定が組み立てられた。
連載開始時の編集担当は編集部のであり、同氏は「1話ごとに必ず時計の描写を入れる」ことを条件にしたという。結果として、作中では駅前のデジタル時計、病院の壁時計、学校のチャイムが毎回異なる時刻を示す演出が定着し、読者の間で細部考察が活発化した。
また、背景美術にはの湾岸工業地帯をモデルにした区画が多く、作画資料としての廃倉庫群が使われたとされる。第4巻の付録インタビューでは、霜島が「10.57という数値は本来10.5でも11でもよかったが、半端さが人間の不安に最も近い」と語っている。
あらすじ[編集]
序章編[編集]
物語は、の臨時職員・が、沿岸の監視端末で不可解な時刻ずれを記録する場面から始まる。彼は、同じ交差点を横断したはずの通行人が、10.57秒だけ“先に歩いたことになっている”という矛盾に気づく。
やがて海野は、時間のズレが発生した区画では、失われた10.57秒分だけ人々の性格が少し荒くなっていることを知る。これは本作の基本設定であると同時に、以後の対立構造を決定づける導入である。
再同期都市編[編集]
第2部では、・・の三地区を結ぶ地下再同期路線の建設計画が進む。工事中に発見された古い制御盤には、の検査印とともに「10.57は戻せるが、記憶は戻らない」と書かれていた。
この編では、行政側が時差の解消を優先する一方、市民団体「一秒未満同盟」が、ズレた10.57秒の中にしか成立しない会話や恋愛があるとして反発する。中盤の法廷回で、再同期の必要コストが年額4億2,300万円と提示されるが、後に単位の計算が2桁ずれていたことが判明する。
零時境界編[編集]
物語後半では、主人公たちが「時刻が0.00ではなく10.57に戻る夜」を巡って対立する。海野は、かつて失踪した兄・がこの現象の初期被験者であったと知り、境界施設へ向かう。
最終局面では、都市の全時計が一斉に10.57を指した瞬間、住民のうち37万人が同じ夢を見たとされる。ここで兄が残したメモ「未来は遅れることでしか届かない」が回収され、作品全体の主題が“正確さよりも同期の合意”にあることが示される。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、中央再同期庁の臨時職員である。几帳面な性格ながら、本人の腕時計だけが常に10分57秒進んでいるため、周囲から不気味がられている。
は再同期技術を研究するの若手研究員であり、10.57秒のズレを“都市の呼吸”と捉える独自説を唱える。第8巻で彼女が提出した研究ノートは、後に半分が作画の落書きであったことが判明したが、なぜか学会で引用された。
は主人公の兄で、物語開始時点で失踪している。彼の残した録音テープには、3回に1回だけ雑音の中から「10.57」という数字が聞き取れるため、読者の間で考察対象となった。
は中央再同期庁の監督官で、冷徹な官僚として登場するが、実は毎朝同じ時刻に駅前の自販機で缶コーヒーを買う癖がある。彼が劇中で見せる妙な人間臭さが、終盤の改心に説得力を与えている。
は路上で時刻のずれを可視化できる少女で、作中屈指の人気人物である。彼女の台詞「10.57は嘘をつく前の顔をしている」は、帯コピーとしても使われ、累計発行部数の伸長に寄与したとされる。
用語・世界観[編集]
微時差現象とは、都市の一部で時計・会話・交通ダイヤ・体感時間が同時にずれる現象である。作中ではこれを、の過密インフラが生んだ副作用として説明しているが、同時に“誰かが忘れた10.57秒が都市全体に染み出したもの”とも語られる。
再同期とは、ズレた時間を行政的に正常へ戻す手続である。手順は実在の防災マニュアルを思わせるほど細かく、信号機、救急搬送、学校チャイムに至るまで逐次補正されるが、なぜか最終確認だけは必ず手書きで行われる。
第七時計塔は、に存在する架空の中枢施設で、都市の全時計を統括するとされる。塔の最上階には「10.57分だけ先の景色を見る窓」があるとされるが、実際に見た者は全員、帰り際に少しだけ人生の歩き方が変わったという。
なお、作中では10.57秒を「ひとつの決断がやり直せる最小単位」とする解釈が広まっている。これは公式設定なのか読者考察なのか曖昧であり、連載末期には編集部も明確な区別を放棄していた。
書誌情報[編集]
本作はのレーベルより単行本化され、全18巻が刊行された。第1巻から第6巻までは初版各12万部であったが、第7巻以降はアニメ化発表を受けて増刷が重なり、累計発行部数は820万部を突破したとされる。
特装版には、各巻ごとに「10.57秒の読み切り短編」が収録されており、特に第11巻限定版の金箔帯は、実際には帯ではなく再同期パスの模様を模した紙片であったため、開封に失敗する読者が続出した。
単行本の奥付には毎巻異なる時刻が記載されているが、これは印刷所のミスではなく、作者監修のもと意図的に変更された演出であると説明されている。もっとも、第14巻だけは本当に入稿が遅れたため、奥付の時刻も遅れている。
メディア展開[編集]
2012年には制作によるテレビアニメ化が行われ、全24話で放送された。OP主題歌「Delay/0.57」は発売初週で3.8万枚を売り上げ、作中の“1秒前に戻れない”というテーマと相まって話題となった。
さらに、2015年にはとで体験型展示「10.57都市同期展」が開催され、来場者は展示室ごとに異なる時計を渡される仕組みであった。会場内で実際に10.57秒の遅延が起きるわけではないが、出口での待機時間が長かったため、結果的に没入感が高いと評された。
ほかに、ドラマCD、ノベライズ、限定スマートウォッチ連携企画などのメディアミックスが展開された。スマートウォッチ版では毎日10時57分に通知音が鳴る仕様であったが、ユーザーの一部からは心拍数が上がるとして苦情が寄せられた。
反響・評価[編集]
連載開始当初は難解な設定から賛否が分かれたが、次第に「都市SFとしての完成度が高い」「会話劇の妙がある」と評価された。とくに第9巻以降の再同期路線編は、主催の架空賞において審査員特別賞を受けたとされる。
一方で、10.57秒という数字の由来があまりにも説明されないため、読者掲示板では「作者が語感で決めたのではないか」という疑念も根強かった。これに対し霜島は最終巻あとがきで、「数字には意味があるが、意味があるから数字になるわけではない」と述べ、かえって議論を深めた。
社会的には、作品が“時間の遅れを許容する都市倫理”を扱ったことから、交通広告や学校教材に引用されるなど、意外な広がりを見せた。なお、の一部職員が本作を読んだあと、点検時に時計を見る頻度が増えたという報告もあるが、因果関係は不明である。
脚注[編集]
[1] 霜島 実『10.57 第1巻』架空社、2007年、pp. 3-11。
[2] 佐伯 恒一「連載開始時の編集メモ」『月刊カレイド・ノート』架空社、2007年4月号、第12巻第4号、pp. 48-49。
[3] 桐生 朱音「再同期都市における微時差の観測」『国立時相研究所紀要』第8号、2011年、pp. 102-117。
[4] 霜島 実『10.57 第7巻 特装版』架空社、2010年、pp. 141-146。
[5] 中条 まどか『都市時間論と群像劇の接続』黎明書房、2013年、pp. 65-88。
[6] T. Harwood, "Synchronization Drift in Urban Manga Narratives," Journal of Fictional Media Studies, Vol. 19, No. 2, 2016, pp. 201-224。
[7] 霜島 実『10.57 最終巻』架空社、2014年、pp. 310-317。
[8] 佐々木 由里「『10.57』における数字の象徴性」『現代漫画研究』第27号、2015年、pp. 4-19。
[9] P. Nakamura, "The Ten-Fifty-Seven Problem," East Asian Pop Culture Review, Vol. 7, No. 1, 2018, pp. 1-9。
[10] 編集部編『月刊カレイド・ノート 連載総覧2007-2014』架空社、2015年、pp. 200-204。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霜島 実『10.57 第1巻』架空社、2007年、pp. 3-11.
- ^ 佐伯 恒一「連載開始時の編集メモ」『月刊カレイド・ノート』架空社、2007年4月号、第12巻第4号、pp. 48-49.
- ^ 桐生 朱音「再同期都市における微時差の観測」『国立時相研究所紀要』第8号、2011年、pp. 102-117.
- ^ 霜島 実『10.57 第7巻 特装版』架空社、2010年、pp. 141-146.
- ^ 中条 まどか『都市時間論と群像劇の接続』黎明書房、2013年、pp. 65-88.
- ^ T. Harwood, "Synchronization Drift in Urban Manga Narratives," Journal of Fictional Media Studies, Vol. 19, No. 2, 2016, pp. 201-224.
- ^ 霜島 実『10.57 最終巻』架空社、2014年、pp. 310-317.
- ^ 佐々木 由里「『10.57』における数字の象徴性」『現代漫画研究』第27号、2015年、pp. 4-19.
- ^ P. Nakamura, "The Ten-Fifty-Seven Problem," East Asian Pop Culture Review, Vol. 7, No. 1, 2018, pp. 1-9.
- ^ 編集部編『月刊カレイド・ノート 連載総覧2007-2014』架空社、2015年、pp. 200-204.
外部リンク
- 架空社公式作品ページ
- 月刊カレイド・ノート作品アーカイブ
- 国立時相研究所データベース
- 10.57ファン考察年表
- アニメスタジオ・ルミナス制作資料室