ノベスポン
| 名称 | ノベスポン |
|---|---|
| 英名 | Novespon |
| 分類 | 多孔質吸水素材・応用工法 |
| 発祥 | 日本 |
| 提唱時期 | 1950年代末 |
| 主用途 | 包装、緩衝材、衛生資材、造形補助 |
| 中核組織 | 東京産業試験所 ノベスポン研究班 |
| 関連法規 | 工業材料表示暫定要領(1962年改定) |
| 特徴 | 吸水率の段階調整と圧縮復元性 |
ノベスポン(のべすぽん、英: Novespon)は、の下町工業地帯を中心に普及したとされる、吸水性を制御した多孔質素材およびその応用技術群である。にで体系化されたとされ、のちに包装、衛生、模型製作の各分野へ広がった[1]。
概要[編集]
ノベスポンは、系繊維と微細気泡を含む樹脂を段階的に発泡させた素材、またはその加工法を指す用語である。一般には「水を抱え、しかし溜めすぎない」材料として説明され、やの周辺分野で高く評価されたとされる。
名称はの novelty と sponge を接合した造語とされるが、実際にはの資材商「」の納品札にあった略記から定着したという説が有力である。ただし、初期資料の一部はの保管庫移管時に欠落したとされ、成立事情にはなお不明点が多い[2]。
歴史[編集]
前史と試作期[編集]
ノベスポンの原型は、30年代にの印刷資材業者が、湿気で膨らむ梱包材を逆利用しようとした試験片に見出されたとされる。とりわけの梅雨期、倉庫内で放置されていた試作板が午後3時過ぎに最も復元率を示したことから、担当技師のが「午後型スポンジ」と呼んだ記録が残る。
その後、の委員会で改良案が持ち寄られ、には吸水孔径を0.18ミリから0.42ミリまで3段階で制御する方式がまとめられた。なお、この数値は当時の測定器の校正誤差を含むため、実測では0.31ミリ前後であったとの指摘もある[要出典]。
普及と制度化[編集]
、の指導のもとで「ノベスポン規格票」が作成され、厚さ、復元時間、臭気保持率の3項目が事実上の業界標準となった。これにより、駅弁の仕切り、精密部品の輸送枠、病院の簡易洗浄パッドなどへの採用が進んだ。
特にの輸出倉庫では、ノベスポンを敷いた木箱が太平洋航路でも荷崩れしにくいことが確認され、関連資材の一部にも使われたとされる。もっとも、実際の採用範囲については、当時のパンフレットが「試験導入」と「常用」を意図的に混同しており、後年の編集で誇張された可能性がある。
産業から生活用品へ[編集]
に入ると、ノベスポンは家庭用品へ転用され、台所用吸水マット、花卉保水シート、楽器ケースの湿度調整材として流通した。なかでもの文具問屋街では、消しゴムの粉を集める用途に転用された小型ノベスポン片が「ノベ棒」と呼ばれ、学生の間で半ば玩具化した。
にはの生活情報番組で、ノベスポンを冷蔵庫の野菜室に入れると「きゅうりが2日長持ちする」と紹介され、翌週には各地で買い占めが発生したとされる。統計上は売上が前月比で187%増えたと記録されているが、増加分のかなりの部分は試供品の再計上によるものであった。
構造と性質[編集]
ノベスポンの特徴は、吸水孔が完全に均一ではなく、中心部と外縁部で硬度が異なる点にあるとされる。これにより、表面は柔らかく、内部は水分を保持しすぎない「二層的な応答」が生じる。
研究者のは、の論文で、ノベスポン片をの蒸留水に浸した場合、重量増加率が初期値の4.6倍から4.9倍の間で安定すると報告した。もっとも、同論文では試料番号が14個しか記載されておらず、再現性には疑義があるとされる。
また、古い工場で製造されたロットには、わずかに臭が残るものがあり、これが「安心感を与える香り」として好まれたという逸話がある。逆に臭気のないロットは「ノベスポンらしくない」と返品されることさえあり、品質管理担当者を悩ませた。
社会的影響[編集]
ノベスポンは、戦後日本における「素材をそのまま捨てず、別用途へ回す」発想の象徴として受容された。とくに高度成長期の都市部では、限られた倉庫空間を有効活用する素材として重宝され、の企業では会議用コースターまでノベスポン製にした例があった。
一方で、その過剰な吸水性が原因で、百貨店の生花売場において展示台が軽く傾く事故がに3件報告されたとされる。これを受けては一時期、展示用ノベスポンの使用量に上限を設ける指導を行ったが、現場では「上限を守ると花が乾く」として、実務上は半ば黙認されていた。
社会学者のは、ノベスポンの流行が「水分を管理することが衛生観念そのものになった時代」を示すと論じた。もっとも、同時期に似た性質の素材が複数出回っていたため、実際にはノベスポンの名が先行しただけという見方も強い。
批判と論争[編集]
ノベスポンをめぐっては、由来の不透明さと、実験データの一部が業界紙の広告欄から引用されていたことが批判された。にはの生活面で「便利だが、語感が妙に新しすぎる」と評され、名称の再検討を求める投書が相次いだ。
また、の収蔵候補として一度挙がったものの、「素材そのものではなく周辺商習慣の展示に近い」として見送られた経緯がある。これに対し愛好家団体のは、むしろ周辺商習慣こそが本体であると反論し、で開かれた記念講演会では来場者132人中87人が試作品を持参した。
なお、以降はエコ素材の台頭により存在感を失ったが、最近では手作業で加工しやすい点が再評価され、模型愛好家や舞台美術の現場で細々と使われている。
派生用語と文化[編集]
ノベスポンからは、用途や硬さの違いによっていくつかの派生語が生まれた。たとえば、薄手のものは「ノベ薄」、高密度タイプは「ノベ芯」、廃材を再圧縮したものは「リバースポン」と呼ばれた。
では、相手の話を柔らかく受け止める態度を「ノベる」と言い換える隠語が広まったとされるが、これはのテレビCMで使われた台詞が独り歩きしたものとみられている。さらに一部の専門学校では、ノベスポンの切断実習に失敗した学生を「スポン落ち」と呼ぶ冗談もあった。
文化史的には、素材名でありながら生活態度や倹約観念まで連想させる語として珍しく、短命ながらも記憶に残る工業用語であると評価されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 木下栄造『ノベスポン試験片の復元挙動』東京産業試験所報告 第12巻第3号, 1959, pp. 41-58.
- ^ 中村節子『多孔質吸水材の段階孔径制御に関する研究』日本材料学会誌 Vol. 23, No. 4, 1981, pp. 219-233.
- ^ 佐伯隆一『戦後包装文化と水分管理意識』都市生活史研究 第8号, 1993, pp. 77-96.
- ^ 田代義彦『ノベスポン規格票の成立過程』工業標準史叢書, 1967, pp. 112-149.
- ^ Margaret A. Thornton, “Controlled Porosity and the Japanese Commodity Foam Boom,” Journal of Comparative Material Culture, Vol. 5, No. 2, 1976, pp. 88-104.
- ^ 渡辺精一郎『包装材料の臭気保持率と消費者心理』商工評論 第31巻第1号, 1972, pp. 9-27.
- ^ E. J. Collins, “Minor Industrial Sponges in Postwar Asia,” Materials and Society Quarterly, Vol. 14, No. 1, 1988, pp. 3-19.
- ^ 石橋久美子『花卉売場における吸水マットの事故報告』東京都消費生活年報, 1975, pp. 55-61.
- ^ 全国ノベスポン保存会 編『ノベスポン年表 1956-1998』保存会資料集, 2001, pp. 1-84.
- ^ 松浦健一『「ノベスポン」とは何か――語源論再考』国語国文資料館紀要 第17号, 2004, pp. 201-214.
外部リンク
- 全国ノベスポン保存会
- 東京産業試験所アーカイブ
- 日本包装史データベース
- 下町工業素材博物館
- ノベスポン研究者連絡網