ビロビロパーマネントPCC
| 名称 | ビロビロパーマネントPCC |
|---|---|
| 別名 | B-PCC、永久毛膜処理 |
| 分類 | 美容化学・都市生活技術 |
| 発祥 | 東京都中央区日本橋界隈 |
| 提唱者 | 田沼 恒一郎、メアリー・L・ハドソン |
| 提案時期 | 1987年頃 |
| 主用途 | 髪型固定、展示用繊維の擬似老化、儀礼的整髪 |
| 特徴 | 高湿度下での形状保持率が99.4%とされる |
| 関連機関 | 日本毛髪応用学会、東西複合素材研究会 |
ビロビロパーマネントPCCは、発祥とされる毛髪固定および極薄膜形成の複合技術である。末期にとの共同研究から生まれたとされ、現在では「一度形を決めると、湿気を与えても決して元に戻らない」処理法として知られている[1]。
概要[編集]
ビロビロパーマネントPCCは、毛髪に対して特殊な樹脂状前駆体を塗布し、低温で半固定化したのち、空気振動によって「びろびろ」とした微細波形を定着させる技術である。名称の「PCC」は、一般にはPermanent Curvature Complexの略とされるが、初期資料ではPolymer Curl Capsule、さらにはPale Cloud Coatingなど揺れがあり、定義は長く統一されなかった[2]。
この技術は、単なるパーマネントウェーブの変種ではなく、湿度・風圧・静電気の三条件を逆利用して髪の外側に薄い保護層を作る点に特徴がある。特にの美容サロンとの化学材料商が共同で試作した試験体では、夏の接近時にも、前髪の角度が2.7度しか変化しなかったと記録されている[3]。
もっとも、初期の普及はきわめて限定的であった。施術時間が平均4時間12分と長く、失敗すると「毛束がガラス繊維のように鳴る」と報告されたためである。にもかかわらず、期の都市文化と相性が良く、短期間に広告業界、舞台衣装業界、さらにはの整列演出にまで利用が広がったとされる。
歴史[編集]
成立前史[編集]
前史としては、末期の和装髪結いに用いられた「紙芯巻き」や、戦後の液の研究が挙げられる。とくににの理美容講習会で配布された『耐湿整髪小誌』には、毛髪表面の水分移動を抑えるために「薄膜性乳剤」を重ね塗りする発想が記されており、これが後のPCCの原型になったという説がある[4]。
一方で、化学史の側からはの工業試験場で開発された紙用コーティング剤「CP-7」が、偶然にも人毛に対して高い定着性を示したことが起点であるともされる。研究主任のは、のちの回想録で「試験紙より前髪のほうがよく反応した」と述べており、これがしばしば引用される。ただしこの記述は、同一人物の別の手記と食い違うため、要出典のまま放置されている。
命名と初期拡散[編集]
「ビロビロパーマネントPCC」という奇妙な名称は、秋にのヘアサロン『モノクローム・セクション』で生まれたとされる。店長のが、試作直後の髪を見て「ビロビロだが永久だ」と口走ったのを、常連のコピーライターが広告文に転用し、そのまま業界用語化したのである。
翌年にはの百貨店催事場で「B-PCC実演会」が行われ、1日で延べ1,740人が見学したとされる。実演では、モデルの頭部に扇風機を3台当てても前髪が乱れず、観客が拍手した直後に天井の空調が停止したため、髪型だけが奇妙に波打つ映像が記録された。これがテレビ局のワイドショーで繰り返し流され、技術は一気に都市伝説化した。
制度化と普及[編集]
にはが「PCC型半永久整髪法に関する暫定指針」を公表し、薬剤の粘度、温度、施術後48時間の帽子着用禁止などを細かく定めた。指針では、髪の重量増加が平均0.8gを超える場合は「過剰びろびろ」と見なすとされ、全国の美容学校で計測訓練が行われた[5]。
この時期、PCCは一般家庭にも浸透し始めたが、用途は多様化した。舞台俳優が役作りのために使用したほか、の食品会社では、商品撮影時に湯気で髪が崩れないよう社長自ら施術を受けたという。さらにの展示船内では、湿気の多い海上で「見た目が最後まで変わらない」ことから、来場者の案内係に採用された例がある。
技術的特徴[編集]
PCCの中核は、ケラチン表面に微量のカチオン性高分子を抱かせた後、弱い超音波で束間に微細空隙を作る工程にあるとされる。これにより、髪は硬化するのではなく「ふくらんだまま保つ」状態になる。研究者の間では、通常のパーマが「曲げる技術」であるのに対し、PCCは「曲がったままの空気を保存する技術」と説明されることがある。
また、一般の整髪剤と異なり、仕上がり直後に鏡を見ると、本人よりも周囲の照明が整って見えるという副次効果が報告されている。これは髪表面の反射率が微妙に変化し、顔の輪郭が少しだけ舞台用に補正されるためとされるが、の一部研究者は「心理的補正に過ぎない」としている。
もっとも、欠点も多い。第一に、雨天時の持続性は高いものの、逆に乾燥した冬季には静電気が集まりやすく、金属ドアノブに触れるたびに前髪が独立して立ち上がる。第二に、施術3週間後から毛先が「紙テープの端」のようにほどけ始める現象があり、利用者の一部はこれを美点と捉え、一部は解消不能の事故として扱った。
社会的影響[編集]
PCCは美容技術にとどまらず、1980年代末から1990年代初頭の都市文化を象徴する記号になった。テレビCMでは、電車内で風に吹かれても髪が乱れないことが「自己管理」の象徴として描かれ、広告代理店各社がこぞって採用した。その結果、周辺の美容院では、PCC施術の予約が3か月待ちになる一方、失敗例を面白がる見物客も増えた。
教育現場でも奇妙な広がりを見せた。内の私立女子校では、文化祭の演劇部がPCCを応用したウィッグを使用し、袖幕に触れると生徒の髪だけが完全に動かなくなる演出が話題となった。校内報では「美しく整うが、感情の起伏まで固定される」と評され、翌年から演劇部への貸与が許可制になった[6]。
また、地方都市では湿度対策の一環として歓迎された。では梅雨期の婚礼需要と結びつき、花嫁の髪型を式の開始から終了まで維持するための「PCC祝言コース」が作られたという。なお、当時のブライダル業界では、カメラマンが「髪が微動だにしないと写真の時間が読める」と述べた記録が残る。
批判と論争[編集]
PCCをめぐっては、早くから健康被害と文化的画一化の批判があった。特にの消費生活センターには、「施術後、髪が永遠に礼儀正しく見える」「寝起きの無防備さが失われた」などの相談が相次いだとされる。美容業界内部でも、自然な毛流れを尊重する派と、強い造形美を重視する派が対立した。
研究倫理の面では、初期実験においてが使用した試料数が明記されていないこと、また一部の実験が「本人の髪であるかどうか不明な毛束」で行われたことが問題視された。これに対し、関係者の一人であるは「髪は委任状ではない」と意味深な反論をしたと伝えられるが、発言の文脈は不明である。
さらに、PCCが「永久」と称されながら実際には6〜8週間で再処理が必要である点も批判された。この矛盾はむしろブランド価値を高めたとする見方もあるが、の周辺では、1990年代後半に表示の妥当性が非公式に検討されたとする証言がある。
派生文化[編集]
PCCの流行に伴い、いくつかの派生表現が生まれた。たとえば、前髪だけを極端に固定する「部分PCC」、湿度に応じて波形が変わる「気象連動PCC」、そして試験的に導入されたものの誰も注文しなかった「逆ビロビロ処理」がある。
の劇場街では、舞台俳優の間で「初日PCC」「千秋楽PCC」といった俗称が使われ、同じ薬剤でも公演日数に応じて前髪の高さを調整する文化があった。また、の寒冷地サロンでは、凍結した静電気を利用する「雪解け前固定」なる亜種が提案されたが、実用化前に担当者が全員風邪をひいたため中止された。
インターネット普及後は、PCCの失敗例が「前髪が独立国家のように立つ」「毛先だけで時報が読める」などの表現で共有され、ミーム化した。これにより、実際には一度も施術したことのない層にまで名称が浸透し、今日では技術名というより、何かやけに頑固な状態全般を指す比喩としても使われている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
の美容文化
脚注
- ^ 田沼 恒一郎『都市毛髪固定技術史』日本毛髪応用学会出版部, 1996.
- ^ 三枝 隆文『薄膜と前髪の相関』工業材料新聞社, 1992.
- ^ Mary L. Hudson, "Permanent Curl Capsules in Late Shōwa Tokyo", Journal of Urban Cosmetology, Vol. 14, No. 2, pp. 77-103, 1994.
- ^ 岡村 玲子『湿度下整髪の実験的基礎』東洋美容化学会誌, 第8巻第1号, pp. 11-29, 1991.
- ^ H. Whitaker, "The Birobiro Effect and Social Hair Preservation", International Journal of Applied Aesthetics, Vol. 22, No. 4, pp. 201-218, 1997.
- ^ 斎藤 恒一『永久毛膜処理の実務と誤差』青葉出版, 2001.
- ^ 鈴木 美奈子『前髪はなぜ立ち上がるのか』生活科学評論社, 1989.
- ^ M. K. Sorensen, "Humidity-Resistant Styling Polymers in East Asia", Cosmetic Materials Review, Vol. 9, No. 3, pp. 55-69, 1990.
- ^ 『耐湿整髪小誌』大日本理美容協会資料室, 1954.
- ^ 黒田 直人『PCC表示問題と消費者の錯覚』現代流通法研究, 第3巻第2号, pp. 144-159, 1998.
外部リンク
- 日本毛髪応用学会アーカイブ
- 東西複合素材研究会年報
- 都市美容技術博物館
- 前髪文化保存委員会
- 昭和整髪資料室