ホルペッスノリム現象
| 種類 | 都市微気象・集団観測型自然現象 |
|---|---|
| 別名 | 逆環流輪現象、ノリム反転、ホルペス輪 |
| 初観測年 | 1938年 |
| 発見者 | アウグスト・ホルペス、折村寛一 |
| 関連分野 | 気象学、社会心理学、都市工学 |
| 影響範囲 | 港湾都市、河川低地、地下街周辺 |
| 発生頻度 | 年0.7〜2.4回程度 |
ホルペッスノリム現象(ほるぺっすのりむげんしょう、英: Holpessnorim Effect)は、とが重なった環境において、が反転的に沈降し、局所的な空気の粘性低下を伴って輪状の風圧域が発生する現象である[1]。別名は「逆環流輪現象」であり、にのとのによってほぼ同時に報告されたとされる[1]。
概要[編集]
ホルペッスノリム現象は、主としてや、のような半閉鎖性の水域をもつ都市で観測される、局地的かつ周期的な風圧異常である。典型例では、気温差が0.8〜1.6度しかないにもかかわらず、路面上に直径12〜40メートルの低圧輪が形成され、紙片や軽量看板、時には未開封のチラシ束が内側へ吸い寄せられる[2]。
この現象は、の滞留、地下空洞からの微弱な対流、そして群衆の視線集中が相互に作用して生じるとされる。ただし、メカニズムは完全には解明されていない。観測者の心理状態によって輪の見え方が変化するという報告もあり、では「物理現象であると同時に、集合的な錯視を伴う準自然現象」として扱っている[3]。
発生原理・メカニズム[編集]
ホルペッスノリム現象の発生は、第一に地表近くのが特定の帯電状態に達することに起因する、と説明される。とくにの再舗装直後、換気口の近傍、あるいはで紙屑が三日以上堆積した場所で起こりやすいとされる。ここで発生した微小な逆流が、周囲の空気を輪状に巻き込むことで、いわゆるノリム環が成立する[4]。
第二に、都市の騒音が一定の閾値を超えると、群衆の注意が一点に固定され、風の流線が人間の歩行方向に沿って補強されるという「注意流体説」がある。これはのが提唱したが、現在でも支持率は高くない。なお、現地では「大勢が同じ方向を向いた瞬間に輪が締まる」と言われており、観測員が遅れて来るほど輪径が小さくなるという奇妙な傾向が報告されている[5]。
種類・分類[編集]
ホルペッスノリム現象は、輪の形成高度と持続時間によって大きく4類型に分類される。A型は地表面すれすれに発生する短命型で、最も頻繁に観測される。B型はやで発生し、輪の内部に落ち葉が浮遊するため写真映えするとされる。
C型は港湾地域に特有で、塩分を含んだ霧が輪の縁に沿って帯状に残る。D型は最も稀で、の吹き抜け空間で発生し、エレベーターの到着音に同期して拡大・縮小を繰り返す。学術的にはD型の説明が最も難しく、とされることも多いが、実地ではしばしば「館内放送に反応する」と記録されている[6]。
歴史・研究史[編集]
初期報告[編集]
最初の組織的記録は、のが、冬季の市場広場で「紙片が円環状に回収される」現象を観測した調査ノートに遡るとされる。一方で、同年にのがで似た現象を「輪風」として報告しており、後年この二人の姓を連結した用語が定着したというのが通説である。
ただし、実際にはホルペスのノートに折村の印影があった、逆に折村の報告書にドイツ語の欄外書き込みがあったなど、資料間の整合性が低い。これは戦時中の文書移送で混線したためと説明されるが、では「そもそも同じ秘書が両方を書いた可能性」を示唆している[7]。
学説の対立[編集]
以降は、空気力学説と社会心理学説が激しく対立した。前者はのらが主導し、風洞実験で輪状渦の再現を試みた。後者はのが提唱し、群衆の期待が現象を増幅するとした。
両陣営はので公開討論を行ったが、会場外で偶然ホルペッスノリム現象のA型が発生し、委員席の配布資料がすべて内向きにめくれたため、議事録は「事実上、風に決着をつけられた」と記されている。なお、この会議以後、研究者は「ホルペッスノリムの前では議論も輪になる」と冗談を言うようになった[8]。
観測・実例[編集]
もっとも有名な実例はのである。午後3時14分ごろ、冷凍コンテナ列の陰で直径28メートルのB型が発生し、見物人約430人のうち87人が同時に「今、来る」と発言した直後、輪が急に内側へ締まり、係留ロープが1.2メートル浮上したと記録されている[9]。
またのでは、豪雪後の排雪路線上にC型が発生し、黄色い雪かきスコップの列が円弧を描いた。地元紙はこれを「冬のノリム」と報じたが、翌日の気温上昇で輪は消失し、スコップだけが妙に整列したまま残ったという。研究者のの孫にあたるとされるは、この現象を見て「祖父の記録はやはり正しかった」と述べたとされるが、本人の署名入り記録は確認されていない[10]。
影響[編集]
ホルペッスノリム現象は、都市交通と商業活動に小さいながら無視できない影響を与えている。港湾では輪の発生によりクレーンの荷重計が一時的に0.4〜0.9%ずれ、配送車が3〜7分遅延する事例が報告されている。地下街では、輪が空調の戻り流を狂わせるため、香水売場の匂いがフロア全体に拡散し、客足が増える場合もあるという。
一方で、心理的影響も大きい。現象を一度見た者のうち約62%が「自分だけが見ている気がした」と回答し、再観測時には周囲の説明を信じなくなる傾向がある。の都市防災調査では、災害時の集団退避ルートがノリム環の内部で1〜2度だけ曲がることで、避難誘導に混乱が生じる可能性が指摘されている[11]。
応用・緩和策[編集]
応用面では、における微気流誘導技術として注目されている。たとえばでは、低圧輪を利用して海鳥の着水位置を制御する試験が行われた。また、の周辺整備計画では、歩行者導線の心理的安定化のため、あえて輪を生じにくくする舗装パターンが採用されたとされる。
緩和策としては、①輪の発生地点に白線を引かない、②可燃性チラシを屋外で束ねない、③現場の第一発見者に「現象名を三回唱えさせない」などがある。特に③はの内部通達にのみ記載されているとされ、実務上の有効性は高いが、科学的な根拠は薄い。なお、近年はAI監視カメラが輪を過敏に検出し、実際より大きな警報を出す「過剰ノリム問題」も報告されている[12]。
文化における言及[編集]
ホルペッスノリム現象は、都市伝承や映像作品にしばしば登場する。のテレビドラマ『湾岸の風標』では、主人公が輪の中心で失踪者の手帳を拾う場面があり、放送後に実際の問い合わせ件数が増えたとされる。さらにの独立系映画『ノリムは回る』では、地下駐車場の換気扇の唸りを通じて現象の不安が描かれ、で特別賞を受けた。
インターネット上では、輪の内部に立つと「古い契約書の署名欄に引き寄せられる感じがする」という体験談が共有される。また、の会報には、現象の発生時になぜか年配者が「また輪が来た」と先に言い当てる傾向があると記されている。これは経験則とされるが、一部の編集者からは「記憶の後付けではないか」とする異論も出ている[要出典]。
脚注[編集]
[1] ホルペス・折村説は、戦前文献の相互参照に基づくとされるが、原本の所在は一定しない。 [2] 低圧輪の直径は観測地点により大きく異なる。 [3] 国立気象研究所『都市微気流年報 1949-1956』より。 [4] 微粒子帯電モデルは再現実験が難しい。 [5] ファン・デル・メールの理論は、後年「都市の注視圧」として再解釈された。 [6] D型の実例は少なく、研究者ごとに定義がずれる。 [7] ベルリン自由文書館所蔵の「ホルペス箱」資料群。 [8] ジュネーブ会議の議事録第4分冊。 [9] 横浜港湾局『山下埠頭異常風圧記録』1977年版。 [10] 折村瑞枝の証言は口述記録のみ残る。 [11] 内閣府『都市避難導線と局地環流の相互作用』2016年。 [12] 国土交通省内報「自動検知装置の輪誤認識に関する注意喚起」。
関連項目[編集]
脚注
- ^ ホルペス, A.『Städtische Ringströmungen und ihr Publikum』Leipziger Verlag, 1941, pp. 17-44.
- ^ 折村寛一「新潟港における輪風観測について」『気象試験場報告』第12巻第3号, 1939, pp. 201-219.
- ^ 三枝道夫「局地低圧輪と歩行者導線の関係」『日本気象学会誌』第29巻第7号, 1956, pp. 88-103.
- ^ Harrington, Phyllis. "Attention Fields in Urban Airflow" Journal of Civic Meteorology, Vol. 8, No. 2, 1961, pp. 55-79.
- ^ ファン・デル・メール, E.『都市群衆の視線と空気渦』アムステルダム都市研究出版, 1964, pp. 101-132.
- ^ 国立気象研究所『都市微気流年報 1949-1956』東京, 1957, pp. 3-64.
- ^ 山口一成「港湾におけるノリム環の季節変動」『沿岸環境学雑誌』第17巻第1号, 1978, pp. 11-29.
- ^ Jean-Luc Moreau. "The Holpessnorim Effect in Semi-Enclosed Harbors" Revue de Météorologie Urbaine, Vol. 14, No. 4, 1983, pp. 233-251.
- ^ 内閣府『都市避難導線と局地環流の相互作用』政策資料集, 2016, pp. 74-91.
- ^ 北川玲子『ノリム輪の社会学: 見ることが風を変える』風景社, 2020, pp. 5-118.
外部リンク
- 日本ホルペッスノリム学会
- 国際都市輪風観測ネットワーク
- 新潟港微気象アーカイブ
- 横浜湾岸現象データベース
- 都市風圧現象研究センター