ポリエステルコレクトネス
| 名称 | ポリエステルコレクトネス |
|---|---|
| 英語名 | Polyester Correctness |
| 提唱年 | 1968年頃 |
| 提唱者 | クロード・ヴァルモン、渡辺精一郎 |
| 主な対象 | 衣料表示、着用作法、繊維行政 |
| 中心地域 | フランス、日本、英国 |
| 関連法令 | 合成繊維表示基準要綱 |
| 象徴的施設 | 国立合成服飾資料館 |
| 批判 | 過度に形式的で実用性に乏しいとされた |
ポリエステルコレクトネスは、製品における表示、着用、洗濯、保管の各局面で「素材としての品位を損なわないふるまい」を求める一連の規範である。元来はにの工業美学研究から派生した概念とされ、のちにを中心とする衣料行政で独自の発展を遂げた[1]。
概要[編集]
ポリエステルコレクトネスとは、製の衣料品をめぐる言語、態度、製品選定、着用順序をめぐり、素材への敬意を表明することを重視する思想である。一般にはの扱いを洗練させるための生活規範と説明されるが、実際には後半の繊維不況対策として、メーカー側が消費者教育を装って広めた面が強いとされる[2]。
この概念は、当初はの展示会で使われた専門用語であったが、にで開催された「国際衣料と生活文化会議」を通じて一般化したとされる。なお、当時の議事録には「ポリエステルを侮蔑する姿勢は、近代都市の衛生観念に反する」との一文が残っており、後年の研究者はこれを事実上の宣言文とみなしている[3]。
歴史[編集]
発祥と初期理論[編集]
起源については諸説あるが、最も有力なのは、春にの合成繊維研究所で行われた、静電気とシワ復元率の相関実験に由来するという説である。実験責任者のは、試料布を三段階で折り畳み、最終的に「折り目の礼節」が保たれるものだけを正式な高級素材と定義したという[4]。
一方、日本ではが系の委託研究として、ポリエステル製スーツの「会議室適性指数」を算出したことが始まりとされる。ここでいう適性指数は、椅子に座った際の背面光沢、袖口の騒音、昼食後の回復速度を点数化したもので、最高値は100点ではなく「3.8礼節点」であった。なぜ3.8なのかについては説明が残っていない。
制度化と普及[編集]
に入ると、の外郭団体が「合成衣料の社会的信用向上」を名目に、店舗表示の統一を進めた。これにより、洗濯表示のみならず、ハンガーの材質や試着時の姿勢までが半ば規範化され、百貨店では「ポリエステル相談窓口」が設けられたとされる[5]。
にはが『ポリエステル製品の品位保持指針』を刊行し、着用者が雨天時にコートを脱ぐ際は「一度だけ肩を払ってから畳むこと」が推奨された。これがいわゆる「肩払い原則」である。都内の一部学校では家庭科の授業に導入されたが、教材の約18%が静電気で黒板に貼り付いたため、普及は限定的であった。
国際的展開[編集]
にはのがポリエステルコレクトネスを「近代衣服倫理の一形態」と評価し、ではこれに対する批判的研究として「ポリエステル・アイロニー」が提唱された。両者はしばしば同じ学会で激しく対立したが、懇親会では同じテーブルでナプキンの折り方を議論していたという[6]。
また、の見本市では、来場者のうち43%が「ポリエステルかどうかで名刺を受け取る手の角度を変えた」と報告され、これが輸出業界に大きな影響を与えた。なお、この調査はサンプル数が37人しかなく、しかも全員が同じ宿泊先の常連であったため、信頼性には疑問がある。
主要概念[編集]
表示礼節[編集]
表示礼節とは、衣料品タグに記載された比率を、単なる数値ではなく社会的メッセージとして読み解く態度を指す。たとえば「ポリエステル65%、綿35%」は単なる混紡比率ではなく、「都市生活における妥協と持続性の均衡」を示す符号とされた。
この解釈は、後半にの量販店で広まり、売場係員が客に対して「この65はかなり礼儀正しいです」と説明する慣行を生んだ。記録によれば、最も礼節点が高いとされたのは78%配合の裏地で、見えない箇所ほど品格が高いとする逆説が支持された。
静電気倫理[編集]
静電気倫理は、ポリエステル製衣料に生じる帯電を「不必要な個性の噴出」とみなし、着用者が他者との接触前に一礼することを求める考え方である。とくに冬季のでは、コートの袖がドアノブに吸い寄せられる現象を避けるため、公共施設の入口に「接触前整髪台」が設置された[7]。
この習慣は奇妙なことに接客業へも波及し、百貨店の販売員が商品を畳む際に、まず空中で2秒静止する所作を義務づけられた。結果として、商品回転率は11%低下したが、顧客満足度は逆に上昇したとされる。
洗濯後同一性[編集]
洗濯後同一性とは、乾燥後の衣料が元の形状をどこまで保持しているかを測る概念であり、ポリエステルコレクトネスの中心的な価値である。にはの試験場で、同一性を判定するための「ハンガー投影法」が開発され、吊るしたシャツの裾が床から何センチ離れているかで人格評価まで試みられた。
この方法は後に「やや実存主義的である」と批判されたが、実際には学校制服の導入議論で重宝された。制服委員会の内部文書には「綿は善意、ポリエステルは責任」といったスローガンが見られる。
社会的影響[編集]
ポリエステルコレクトネスは、からにかけて、家庭科教育、量販店文化、企業の制服規定に深い影響を与えた。特に周辺のサラリーマン文化では、夏季のノーネクタイ運動と結びつき、速乾性の高いスーツ地を選ぶこと自体が勤勉さの証明とみなされた。
一方で、過剰な規範化への反発もあり、にはの若手デザイナー集団が「しわを消さない権利」を掲げる運動を起こした。彼らはポリエステルの自然な皺を「素材の発言」と呼び、百貨店のショーウィンドウに未仕上げのジャケットを並べたが、初日に7着盗まれ、運動は妙に人気を博した。
また、行政面ではとの合同通知により、病院売店における「帯電しにくい患者衣」の推奨が行われた。これにより入院時の見舞い需要が一時的に増加し、売店のカーディガン売上は前年比で24.6%伸びたとされる。
批判と論争[編集]
ポリエステルコレクトネスに対する批判は、主に「生活実感から遊離している」「素材への敬意が儀礼化しすぎている」の2点に集約される。とくにのでは、社会学者のが「人間は布を着るのであって、布のために人間が再教育されるべきではない」と述べ、会場から拍手と失笑が同時に起こった[8]。
ただし、擁護派は「規範があるからこそ素材の差異が可視化される」と反論した。実際、の一部企業では、制服の選定基準にポリエステル比率だけでなく「着席時の音量」「雨天時の乾燥速度」「朝礼での反射率」が加えられ、これが労働環境改善に寄与したという見方もある。
なお、の国会質疑で、ある議員が「ポリエステルコレクトネスは憲法上の思想に含まれるのか」と質問したところ、政府参考人は「一般に衣料行政の範疇である」と答弁したが、その後の答弁書では「範疇」の字が3回も誤植されていた。これが最後の大きな論争として記憶されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ クロード・ヴァルモン『Synthétique et Civilité』Presses de l'Atelier, 1969, pp. 41-88.
- ^ 渡辺精一郎『合成繊維礼節論』日本衣生活研究会, 1971, pp. 15-64.
- ^ 田宮由紀子「ポリエステル表示の社会史」『繊維文化研究』Vol. 12, No. 3, 1978, pp. 201-229.
- ^ Margaret L. Henshaw, “Dress Codes and Polymer Morality,” Journal of Fabric Sociology, Vol. 8, No. 2, 1984, pp. 77-103.
- ^ 小塚洋一『素材と公共圏』朝日服飾出版, 1988, pp. 9-51.
- ^ 『国際衣料と生活文化会議 議事録』大阪国際衣料センター, 1972, pp. 5-19.
- ^ Robert J. Ellison, “The Ethics of Static Cling,” Royal Institute of Fabric Studies Bulletin, Vol. 6, No. 1, 1985, pp. 11-39.
- ^ 『ポリエステル製品の品位保持指針』日本繊維センター, 1976, pp. 1-27.
- ^ 中村芳樹「洗濯後同一性と制服行政」『行政繊維学雑誌』第4巻第2号, 1991, pp. 66-92.
- ^ Anne-Claire Dupont, “Sur la politesse des fibres,” Revue Européenne des Matières Synthétiques, Vol. 19, No. 4, 1993, pp. 155-180.
- ^ 『しわと国家』東都資料社, 1998, pp. 3-29.
- ^ 渡辺精一郎『ポリエステルの声を聞け』日本衣生活研究会, 1974, pp. 101-126.
外部リンク
- 国立合成服飾資料館デジタルアーカイブ
- 日本繊維センター年報ライブラリ
- 欧州ポリエステル倫理学会
- 衣料表示史研究ポータル
- 静電気文化史コレクション