マンジュウベニインコ
| 名称 | マンジュウベニインコ |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 脊索動物門 |
| 綱 | 鳥綱 |
| 目 | オウム目 |
| 科 | インコ科 |
| 属 | Aureopsitta |
| 種 | A. manjuensis |
| 学名 | Aureopsitta manjuensis |
| 和名 | マンジュウベニインコ |
| 英名 | Manju Red Parrot |
| 保全状況 | 準絶滅危惧(島嶼個体群) |
マンジュウベニインコ(饅頭紅鸚哥、学名: ''Aureopsitta manjuensis'')は、に分類されるの一種[1]。の限られた島嶼環境に生息するとされ、果皮の発酵片を用いた独特の採食行動で知られている[1]。
概要[編集]
マンジュウベニインコは、西方の小島群で確認されたとされる中型ので、全長は平均28.4cm、翼開長は41〜46cmである。体色は名前の通り紅色を基調とするが、腹部に淡い白斑が散り、遠目には饅頭に粉をまぶしたように見えることから、この名が付いたとされている。
本種はにの臨海生物研究班が提出した未公表メモに初出するとされるが、実際に広く認知されたのはの報告書以後である。なお、島民の間ではそれ以前から「夜明けにだけ赤く鳴く鳥」として半ば伝承化しており、学術記録と民間伝承が奇妙に先行・後追いする形になっている[1]。
分類[編集]
マンジュウベニインコは、形態学的には・のうち、嘴の上部に短い角質のくびれがあることから独立属に置かれている。初期にはの一亜種と見なされたが、舌乳頭の配列と尾羽基部の脂腺構造が既知種と大きく異なるとして、にの分類委員会で分離が提案された。
ただし、同委員会の議事録には「標本A-17のみで属を立てるのは早計である」とする慎重論も残されており、現在でも一部の研究者は「環境色彩変異個体群」にすぎないと考えている。一方で所蔵標本の羽根軸に、通常の鳥類では見られない微細な粉末沈着が確認されたことが、独立種説を支持する材料になったとされる。
形態[編集]
成鳥は頭頂部から背にかけて濃紅色、翼端はやや黒味を帯び、尾羽先端に黄色の細帯が入る。くちばしは淡橙色で、特に上嘴の先端がわずかに膨らむのが特徴である。眼周囲には青白い裸出部があり、繁殖期にはその色が濃くなることが観察されている。
体重は平均112g前後で、島嶼性の鳥としてはやや軽量である。胸骨の竜骨突起は発達しているが、飛翔は直線的ではなく、いったん高度を落としてから滑空する独特の軌道を示す。このため、の古い漁師は「空で一度礼をしてから渡る鳥」と呼んだという。なお、雛は孵化直後に頭部だけが妙に大きく見え、これが「饅頭」連想の起源になったという説もあるが、要出典とされている。
分布[編集]
本種の分布域は、南部の断崖地帯と、周辺の亜熱帯林に限られるとされる。特に南東斜面のアカギ林、北端の石灰岩台地、そして無人島の潮だまりに近い低木帯で記録が多い。
個体数は時点で推定320〜410羽とされ、年による変動が大きい。これは台風後に一時的に増える採食個体と、繁殖失敗年の急減が重なるためである。さらにの現地調査では、夜間のみ島の集落周辺に近づく「半夜性個体群」が確認されたが、同報告書では観測装置の赤色フィルター不具合の可能性も指摘されている。
生態[編集]
マンジュウベニインコは果実食を主とするが、成熟したパパイヤやトベラの果肉よりも、落果が半発酵した部分を好むとされている。これは消化に必要な糖分と微量塩分を同時に摂取するためと考えられており、実際に採食後の糞には柑橘様の香りが残ることがある。
繁殖期はからで、雌雄は互いに羽繕いを30分以上続けた後、樹洞で1〜3個の卵を産む。雛は孵化後14日ほどで目を開くが、親鳥が巣口に持ち込む果皮片を受け取る際、毎回左側を向いてから食べるという儀礼的な行動が見られる。これが社会性の一部と解釈され、群れ内では「左回りの礼法」と呼ばれている。
社会性は比較的高く、通常は6〜18羽の小群で行動する。鳴き声は「キュル、ベニ、ベニ」と聞こえる短音の連続で、群れが合流する際には3秒間だけ同調して静止することがある。なお、代の観察記録には、満月の夜にのみ羽色がやや暗くなる個体がいると記されているが、これは光の反射条件によるものとみられている。
人間との関係[編集]
マンジュウベニインコは、島民の生活史のなかで「幸運を呼ぶ赤い渡り鳥」として扱われてきた。の古い家屋では、初見の日に赤飯を炊く習慣があったともいわれる。またには、羽色の美しさから土産物の意匠として利用され、菓子店の包装紙に描かれることが多かった。
一方で、の台風後に餌資源が減少した際、数十羽が集落の果樹園を荒らし、住民との軋轢が生じた。これを受けての島しょ自然保護担当が「果実提供区」を試験導入し、週2回、熟度の高いバナナと無塩パパイヤを置く政策が行われた。結果として被害は減少したが、鳥が配布箱の蓋を自ら開けるようになったため、かえって学習能力の高い種として注目された。
文化的には、の民謡に「まんじゅうべにの朝」という節回しがあるとされるほか、の案内板にも本種の絵柄が使われている。ただし、同案内板の説明文には「嘴で貝殻を割る」と誤記されており、地元の小学校で訂正運動が起きた経緯がある。
脚注[編集]
[1] 1978年の初出資料については、未整理の観察ノートしか確認されていないため、成立経緯には異説がある。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高瀬康平『小笠原島嶼鳥類調査報告』国立科学博物館資料叢書, 1994, pp. 41-67.
- ^ M. R. Ellington, "Insular Psittaciformes of the Western Pacific", Journal of Avian Taxonomy, Vol. 18, No. 3, 2001, pp. 203-219.
- ^ 佐伯由佳『紅色羽毛群の比較形態学』東京大学出版会, 1999, pp. 88-113.
- ^ Harold J. Fenwick, "On the Fermented Fruit Preference of Aureopsitta", Pacific Ornithology Review, Vol. 7, No. 2, 1988, pp. 55-71.
- ^ 小笠原海洋生物調査委員会『南島の鳥類相と潮風林』委員会報告書第12号, 1993, pp. 12-29.
- ^ 渡辺精一郎『島嶼性インコ類の嘴形態』日本鳥学会誌, 第52巻第4号, 2002, pp. 301-318.
- ^ Claire M. Underwood, "A Note on the Manju Red Parrot in Hahajima", Transactions of the Tokyo Natural History Circle, Vol. 14, No. 1, 1979, pp. 9-16.
- ^ 『小笠原諸島における赤色羽毛鳥の保全指針』環境省自然環境局, 2008, pp. 5-24.
- ^ 木下志保子『饅頭紅鸚哥の鳴声解析とその方位性』鳥類音声研究, 第9巻第2号, 2011, pp. 77-94.
- ^ E. P. Mallory, "The Curious Case of the Half-Nocturnal Parrot", Island Ecology Monographs, Vol. 3, No. 4, 2015, pp. 141-158.
外部リンク
- 国立科学博物館 鳥類資料室
- 小笠原自然保護研究会
- 日本鳥類分類学協会
- 島嶼生態アーカイブ
- 東京自然史談話会