『メコリメコリ』
| タイトル | 『メコリメコリ』 |
|---|---|
| ジャンル | 奇想日常×音の擬態 |
| 作者 | 浜昼イネト |
| 出版社 | 翠藍出版 |
| 掲載誌 | しびれ舟タイムズ |
| レーベル | 藍灯(あいとう)コミックス |
| 連載期間 | 〜 |
| 巻数 | 全12巻 |
| 話数 | 全93話 |
『メコリメコリ』(めこりめこり)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『メコリメコリ』は、音を“手触り”として描くことを主題とした漫画である。主人公が耳でなく指先に「メコリ」を感じることで、日常の小さな出来事が異様に大きな出来事へ変換されていく点が特色とされる。
連載はの春、言葉の擬音に頼り切っていた読者層へ「擬音の物理」を提示する試行として始められたとされる。のちに、音をめぐる学園内実験や生活マナーを題材化する流れが定着し、は発売から数年で200万部に到達したと報じられた[1]。一方で、実験的な表現のせいで読み方が一般化せず、SNSでは「音が聞こえないのに読めるの?」という議論も起きたとされる[2]。
制作背景[編集]
“メコリ”は擬音ではなく手順だった[編集]
作者のは、執筆の初期に「擬音を鳴らす」と言うより「手順を踏む」と表現すべきだと考えたとされる。具体的には、効果音を決めるたびに“筆圧”を一定にするためのチェックリストを作り、各話の最終ページでは机上の消しゴム位置を必ず右上から始めることが決められていたという[3]。
このため、作中の“メコリ”は単なる音ではなく、視覚・触覚・会話のタイミングを揃える合図として扱われた。編集担当のは、試し読みの反応が「怖い」より先に「手元が忙しい」へ向かったことを理由に、連載枠を増やすよう提案したとされる[4]。なお、同社の社内資料では“メコリ”を「触覚整列信号」と呼んでいたとされるが、実際にどの資料かは確認できないという指摘もある[5]。
音響家と台所の共同研究(風)[編集]
制作側は、架空の協力として“音響家”のを関与させたことが知られている。彼女は実在の研究機関ではなく、内の小規模な「生活音観測室」を自称していたとされ、鍋をかき混ぜる音の周波数ではなく“失敗の音”を収集していたという設定が作中に反映されたとされる[6]。
また、各編の扉絵には、実際の街の商店街の床タイル寸法を参考にした“反響の幾何”が描かれたとされる。中でも第3話の扉絵について、編集部が「幅12.7ミリの溝で、読者の目の動きが変わる」と主張したため、読者が定規を当てて考察する“タイル定規班”が現れたことが話題となった[7]。このように、リアリティは科学で支えられるというより、生活の観察で支える方向へ寄せられていった。
あらすじ[編集]
『メコリメコリ』は、音が“触れる”ようになる現象をめぐって、日常の選択が連鎖して世界のルールが書き換わる様子を描く物語である。各編では、主人公のが「メコリ」を合図として環境を整えることで、トラブルの原因そのものを別の形に再編集していく。
なお、物語は“編”ごとに読み味が変わるよう設計されているとされ、擬音の密度、コマ割りの角度、次回予告の語尾が段階的に変化する点がファンの間で分析対象とされている[8]。
(1)第1編「耳に手を置け」 主人公のユイは、通学路の踏切が鳴るたびに、ポケットの中の小銭が「鳴らされていないのに鳴った」と感じるようになる。駅前の駐輪場で起きた自転車転倒事故は、犯人探しではなく“メコリの順番”が違ったことにより再発すると判明し、ユイは自分の指先の感覚を信じる訓練を始める。
(2)第2編「机の裏で鳴る」 学校の職員室では、誰も触れていない備品が机の裏側で勝手に動く事件が起きる。ユイは給食当番の音に着目し、牛乳パックの開け方が原因で反響がねじれていると推理する。だが、クラス全体の“おかわり”のタイミングが揃った瞬間、現象は一時的に収束する代わりに、次のトラブルの種を作ってしまうことが示される[9]。
(3)第3編「合図が薄まる」 ユイがメコリを強く感じようとするほど、逆に世界の輪郭がぼやけていく。編集部の設定資料では、この編の空気感は「息を吐く回数」を基準に作ったとされ、ユイのセリフが短くなるほど、コマの余白が増える仕様になっているという[10]。さらに、駅前の観測室を名乗るが登場し、「強く触るな、順番を整えろ」と忠告する。
(4)第4編「メコリの契約」 ユイは、生活音観測室の名を借りた“市民ボランティア”へ協力を求められる。そこでは、音の違いを申告するための用紙が配布され、申告が累積されるほど街のルールが変わる仕組みだと説明される。ユイは署名の欄にペンを置いた瞬間、過去の記憶の一部が入れ替わる感覚に襲われ、メコリが合図であると同時に契約のように作用していることが明らかになる[11]。
登場人物[編集]
は主人公であり、指先の感覚を頼りに音の“手触り”を整える人物として描かれる。ユイの行動は正義のように見えるが、本人は「間違いを直す」つもりであり、誰かを裁くつもりはないとされる。
は生活音観測室を名乗り、現象の観測ではなく“生活の失敗”から原因を推定する。口調は丁寧だが、時折だけ言い回しが統計的であり、読者が資料の出典を探すような癖があると指摘されている。
は編集担当として登場し、制作側の都合を匂わせるメタ的な発言をする。第2編以降、彼女のセリフが読者のコメント欄に似たリズムへ変化していくことが分析されている[12]。
は同級生で、メコリを“気合い”だと誤解する。結果としてトラブルを解決することもあるが、誤解ゆえに次の被害を呼ぶことが多く、後半でユイの訓練相手として重要な役割を担う。
用語・世界観[編集]
本作では「音」を物理ではなく運用として扱うため、用語が生活の手順へ接続される。特に重要なのはであり、これは“音を鳴らす”ではなく“タイミングを整列させる合図”として機能すると説明される。
は、耳でなく指先に擬音を感じる現象の呼称である。初期の作中では軽く扱われるが、第3編で「感じ取れない人が悪いのではなく、順番が乱れている」といった倫理的な含意へ広がるとされる。
は、場所の寸法と生活動作の組み合わせで反響が決まるという考え方である。商店街の床タイルを測る“タイル定規班”が現れたことから、読者の間で反響幾何が一種の遊びとして普及したと報告されている[13]。
は、第4編で登場する手続きであり、街のルールを更新するための仕組みとして描かれる。なお、この制度が現実の行政に近いと感じる読者もいるが、作中では架空の運用として提示されるため、どこまでが比喩かが議論となった[14]。
書誌情報[編集]
『メコリメコリ』はのレーベルにより刊行された。全12巻で完結し、各巻の帯には「今週、メコリの順番を守れ」といった指示文が印刷されていたとされる。
特に第6巻『メコリメコリ—反響幾何の夜』では、巻末に“指先メモリ”というページが付録として同梱された。指示は「机の上の消しゴムを12秒だけ見つめ、次のコマで指を鳴らす」など細かく、視覚的な遊びとして定着したという[15]。
累計発行部数は、の時点で150万部、に200万部を突破したとされる。これはテレビアニメ化の前段階として、編集部が“耳ではなく指に届く”読者獲得を優先した結果だと分析される[16]。
メディア展開[編集]
本作はにテレビアニメ化され、『メコリメコリ:触れる合図』のタイトルで放送された。アニメでは“メコリ”が音響効果ではなく画面上の微細な揺れとして表現され、視聴者が手元の作業中でも追跡できるように設計されたとされる。
また、放送前の特番では「指先で聴くトレーニング」が紹介された。ここで司会がのスタジオ床に靴下のまま乗り、足音をわざと揃える場面があり、視聴者が自宅で真似して床を傷つけたという苦情が制作側に寄せられたと報じられた[17]。
さらに、アニメ放送の翌年にはドラマCD『メコリメコリ—合図が薄まる午後』が発売され、朗読劇の形式では“メコリ”の沈黙が最も重要だと説明されたとされる。メディアミックスの中心は“体験の同期”であり、漫画単体では届きにくかった読者層へ拡張する戦略が取られたと評価されている[18]。
反響・評価[編集]
『メコリメコリ』は社会現象となったとされ、生活の小さな音に注意を向ける人が増えたと報告された。大学のサークルでは「通学の反響幾何」をテーマにした短期研究会が立ち上がり、模擬実験として“溝幅の違いで気分が変わるか”が調べられたという[19]。
一方で批判も存在し、特に擬音が触覚へ置換される描写が、読者によっては“都合のよい説明”に見えると指摘された。作中の制度描写に現実の行政的手続きの雰囲気があるため、擬似的な規範として受け取られた可能性があるとして、SNSでは「読後にメモを取らないと損をするの?」という声もあったとされる[20]。
それでも、作品がもたらした最大の影響は、音を“聞く”から“管理する”へ意識を変えた点である。批評家の一人は「メコリは感情を鳴らすのではなく、選択を鳴らす」と表現し、ユイの行動が“正しさ”ではなく“順番の倫理”として読まれる構図を評価した[21]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 浜昼イネト『メコリメコリ—制作手順の手触り』翠藍出版, 2021.
- ^ 嶺川スミカ『編集現場の“擬音”設計』月刊ペン先論叢, 第14巻第3号, pp. 41-58, 2020.
- ^ 小金井アヤメ「生活音観測室ノート:失敗の音を読む」『生活音学会報』Vol.12 No.1, pp. 12-27, 2019.
- ^ 山野リョウ「触覚擬音と読者反応の遅延」『メディアミックス研究』第7巻第2号, pp. 88-103, 2020.
- ^ 国立間欠技術センター「反響幾何の机上測定」『公共実験叢書(第8集)』pp. 1-32, 2018.
- ^ 渡瀬ミツオ『擬音は契約になるのか:漫画表現の社会学』藍灯書房, 2019.
- ^ International Journal of Sound-Procedure Art「Mekori as timing governance in narrative」Vol.5 Issue4, pp. 201-219, 2020.
- ^ Sato, Keiko「The politics of silence between panels」『Visual Ethics of Comics』第3巻第1号, pp. 77-96, 2021.
- ^ 高坂ハル「タイル定規班の記録」『路地裏読書会年報』第2巻第6号, pp. 5-19, 2018.
- ^ 安倍ナギサ「“手元が忙しい”読書体験の最適化」『新世代エンタメ論』第9巻第9号, pp. 301-312, 2017.
外部リンク
- 藍灯公式メコリ倶楽部
- しびれ舟タイムズ作品アーカイブ
- 反響幾何ファン計測サイト
- 触覚擬音トレーニング掲示板
- メコリメコリ朗読劇レーベル案内