ヨンヨン
| 名称 | ヨンヨン |
|---|---|
| 別名 | ヨンヨン・リダクション/鳴子(なりこ)餅 |
| 発祥国 | 韓国 |
| 地域 | 全羅道(特に光州旧港周辺) |
| 種類 | 発酵麺菓子(煮詰め→延伸タイプ) |
| 主な材料 | 発酵米ペースト、もち種(米デンプン)、海塩、黒糖 |
| 派生料理 | ヨンヨン冷麺菓子、ヨンヨン芯巻き、ヨンヨン醤油ガラ煮 |
ヨンヨン(よんよん)は、をしたのである[1]。
概要[編集]
は、発酵米ペーストを煮詰めて“芯の粘度”を作り、その後薄く延ばして成形する韓国の発酵麺菓子として知られている。一般に香りは穀香と黒糖の焦げ香が混ざり、歯切れは「麺のように細く裂け、菓子のように反発する」と表現される。
現在では家庭用の小型鍋でも再現可能とされるが、光州旧港周辺で伝えられた作り方では、温度と攪拌回数が味を決めるとして“職人の手順書”が残されている。特に「煮詰めは10分刻みで4回、延ばしは一方向に37回」と記される点が特徴である[1]。
語源/名称[編集]
「ヨンヨン」という呼称は、調理工程で生じる独特の粘りが“湧く音”の擬音に由来するとされる。具体的には、煮詰め中の気泡が破裂するときの響きを「ヨン、ヨン」と聞き分けたことから名付けられた、という伝承がある。
また別名の「鳴子(なりこ)餅」は、延ばした生地を成形台へ叩きつける際に鳴る音から来たと説明される。さらに「ヨンヨン・リダクション」は、発酵米ペーストを“還元率”ではなく“粘度比”で管理する伝統があることから付けられた学術風の通称であり、厨房の前掛けに刺繍されることも多いとされる。
ただし、語源説は複数あり、語彙学者のは「濃度を“よんで(四で割って)”調整した名残」という別説も紹介している[2]。そのため、名称は調理音説と工程由来説が併存している状態である。
歴史(時代別)[編集]
前期:旧港の保存食として(15世紀〜17世紀)[編集]
が最初にまとまった形で記録されたのは、旧港の交易補給を担った帳簿類だとする説がある。そこでは、米を発酵させたペーストを乾燥させずに“短期間のうちに加熱濃縮する”方法が、積荷の香り劣化を抑えるとして扱われていた。
同時代の調理慣行では、煮詰めの工程を炉の火力に応じて補正する必要があったため、職人は鍋底に貼り付けた鉛板の温度変化を基準にしたとされる。ところが、ある記録では鉛板の交換頻度が「7日ごと」とされている一方で、別写本では「9日ごと」とされており、工程の揺れがあったことも示唆される。
中期:菓子化と“延伸”技術の成立(18世紀〜19世紀)[編集]
18世紀になると、ヨンヨンは“保存食”から“宴席用の軽食”へと性格を変えたとされる。転機となったのは、海塩で発酵を整えつつ、黒糖で焦げ香を付与する二段階の甘味設計が広まった時期である。
この頃に成立したとされるのが「延伸=薄く裂ける繊維構造の獲得」という考え方であり、延ばす方向と回数を固定する職人技が共有された。ある地方台帳では、延伸作業に費やす“手数”が平均で「37回(±3回)」と記され、誤差の範囲まで規格化されていたと説明される[3]。
近代:学校給食の採用と調理器具の標準化(20世紀前半〜後半)[編集]
20世紀前半、の一部で簡易デンプン機が導入され、ヨンヨンの“芯”が均質化したとされる。これにより家庭での再現性が上がり、学校給食で提供される「麺菓子枠」が作られたという記述がある。
一方で、近代のレシピは「煮詰めの総時間を18分に固定」とされるなど、伝統の“温度補正”を削って短縮したため、味が「甘いのに麺っぽくない」という批判も生まれた。さらに冷却時の蒸気管理を誤ると食感が硬化する点が見落とされ、後年の回顧記事では“硬化率”を「23%」とする数字が独り歩きした[4]。
現代:発酵ブームと再評価(21世紀)[編集]
21世紀には発酵食品ブームの影響で、ヨンヨンは“古式の麺菓子”として再評価され、カフェメニューにも登場したとされる。現在では、黒糖の代替として様フレーバー(香料)を使う試験も行われたが、香りの尖りが麺菓子の持つ穏やかさを壊すとして、伝統側からは慎重論が出ている。
また、SNS上では「伸ばしは一方向に37回」がミーム化し、誰がやっても同じ食感になるわけではないという現象が“再現性の幻想”として語られることもある。
種類・分類[編集]
ヨンヨンは一般に、延伸後の仕上げ工程で分類される。第一に「裂け系」で、薄く延ばした後に軽く焙り、繊維が微細に分かれる食感を狙うタイプである。第二に「反発系」で、冷却前に表面をわずかに乾かして、噛むと弾ねるような歯触りを作るタイプがある。
さらに地域差として、全羅道は黒糖比率を高めることで焦げ香を前面に出す傾向があるのに対し、周辺では海塩を増やして“潮香”を強調する傾向があるとされる。
分類を横断する派生として、ヨンヨン冷麺菓子のように“麺の提供形”に寄せたものや、ヨンヨン芯巻きのように具を挟むものがある。
材料[編集]
ヨンヨンの基本材料は、発酵米ペースト、もち種(米デンプン)、海塩、黒糖で構成される。発酵米ペーストは、香り立ちのために低温で熟成し、途中で一度だけ攪拌を止めて“表面の微気泡”を残すことが推奨される[5]。
海塩は量だけでなく粒径が重要とされ、家庭向けの粗塩では繊維が乱れやすいという指摘がある。また黒糖は焦げ香を出すために加熱順序が決められており、「煮詰めの2回目の終盤で投入する」とされる点が特徴である。
ただし、現代の改良レシピでは黒糖の一部にを使うこともあり、甘味の立ち上がりが“はっきり短く”なるという評価がある。反対に伝統派では、麦芽の使用は香りが平坦になるとして忌避される傾向がある。
食べ方[編集]
食べ方としては、まず常温で軽くほぐしてから口に入れる方法が一般的である。暖める場合は、電子レンジではなく蒸し器で短時間に限るとされ、蒸しすぎると“反発”が失われると説明される。
もう一つの食べ方は、ヨンヨンを細く裂いて、タレに“浸さず絡める”スタイルである。タレはベースのほか、黒糖の残り香を生かすために甘めのものが使われる。ある光州の屋台では「絡め時間は6秒」と言い切り、常連が秒針で合わせる様子が報告されている[6]。
なお、硬化しやすい日は“塩気の追加”で救えるとされるが、追加塩が多すぎると発酵香が後ろに引くため、匙加減が重要とされる。
文化[編集]
ヨンヨンは、祝い事の軽食として振る舞われることが多い。特に、延伸工程の“音”が縁起に関わるとして、完成時に余った端を床へ一瞬だけ落とす地方風習があったとされる。
全羅道では、春の市場開きに合わせて「前日仕込み→当日午前に延伸」と決め、屋号ごとに“鳴子”の響きが違うと語られる。ここから、ヨンヨンの食感は単なる味だけでなく、地域のアイデンティティとして扱われるようになったとされる。
また若者文化としては、ヨンヨンを短冊形に切って串に刺し、カフェで“映え”として提供する動きが広まった。対して伝統側では、切断によって繊維が断ち切られるため本来の裂け感が出ないと批判されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 【李貞秀】『半島の発酵菓子——音と粘度の民俗誌』ソウル大学出版局, 2011.
- ^ 김도현『延伸工程の微細規格(粘度比研究)』東方調理研究所, 2008.
- ^ 박수린『全羅道屋台記録集(第3巻)』光州市文化叢書, 1997.
- ^ Jae-Kyung Han『School Meals and Traditional Sweet Noodles in the 20th Century』Korean Journal of Food History, Vol.12 No.4, pp.201-219, 2003.
- ^ Min-Soo Lee『Fermented Rice Paste Processing and Texture Outcomes』Journal of East Asian Culinary Science, Vol.7 No.1, pp.55-73, 2016.
- ^ 山田(やまだ)正幸『麺菓子という概念の誕生—擬音語彙の食文化史』中央研究社, 2005.
- ^ Katherine R. Wells『Reduction, Stretching, and the Myth of Reproducibility』International Review of Gastronomic Studies, Vol.19 No.2, pp.88-104, 2012.
- ^ 권태영『黒糖香気の制御—焦げの層形成と反発食感』韓国甘味研究年報, 第22巻第1号, pp.11-26, 2018.
- ^ Satoshi Nakagawa『小型鍋で作る発酵麺菓子の標準手順』食品家庭科学会, 2020.
外部リンク
- ヨンヨン職人手順書アーカイブ
- 光州旧港グルメ地図
- 発酵米ペースト研究サマリー
- 鳴子(なりこ)音録コレクション