ランニャム
| 分類 | 音声儀礼(即興) |
|---|---|
| 地域 | 南部サハラ周縁(架空の民族誌圏) |
| 用いる媒体 | 声(咬合音・擦過音)と呼吸 |
| 成立要因(説) | 乾燥環境下での口腔温度制御 |
| 初期報告(年) | 1964年 |
| 研究機関 | 民間音響局、ソルフェージュ大学音声計測部 |
| 論争点 | 記録媒体の改変疑惑 |
ランニャム(らんにゃむ)は、周縁で行われるとされる「言葉の発熱」を利用した即興儀礼である。1960年代にの調査が入ったことで、世界的にも注目されたとされるが、現在はその起源をめぐり異説が多い[1]。
概要[編集]
は、参加者が短い定型句を反復しながら発声の「濁り(濁音率)」と呼吸のリズムを微調整し、結果として口腔内の温度や湿度の変化を引き起こすと説明される儀礼である。一般に、儀礼というより「声の設計」や「音声による環境制御」と呼ばれることが多い[2]。
成立の背景として、南部サハラ周縁の乾燥が極めて強い季節において、住民の間で喉の乾きが仕事の能率を左右する問題として扱われたことが挙げられる。このため、歌でも祈祷でもなく、むしろ会話の延長として「発熱する言葉」が編み出されたという語りが、民族誌資料の随所に見られる[3]。
なお、「ランニャム」という語は、言語学的には語根が複数の方言にまたがるため統一的な意味が確定していないとされる。音声計測の研究では、語の一部が周りの摩擦音の出現頻度と相関する可能性があると報告されたが、再現性の乏しさも同時に指摘された[4]。
このように、は儀礼・療法・コミュニティ技術の境界に位置づけられている。一方で、近年は観光向けの再現イベントが増え、元来の条件(湿度、人数、時間帯)が保たれていない可能性があるとされる[5]。
歴史[編集]
起源:口腔温度の「共同調律」[編集]
ランニャムの起源については、「乾き対策としての共同調律」によるとする説が最も広く引用されている。発声する人が増えるほど息の循環が安定し、結果として口腔の体感温度が上がるため、儀礼が生活技術として定着したという見方である[6]。
具体例として、1959年に流域の「夜間交易宿」で、旅人が一晩で咽頭痛を起こした後、現地の話者が「三拍子の濁り」を入れた短句を提示したという伝承がある。この短句が後に「ランニャムの雛形」として語られ、以後は「口の中で温度を作る言葉」として受け継がれたとされる[7]。
さらに、ソルフェージュ大学音声計測部の報告(架空のものとして引用されることが多い)では、雛形を構成する音素の出現順が「呼気→摩擦→母音伸長」の順序を保つ必要があったとされる。加えて、同報告は参加者が7人以上で安定するが、10人を超えると濁り率が過剰に上がり、逆に喉を傷める可能性があると記している[8]。数字の細かさが、後述の「記録改変疑惑」を呼ぶ一因にもなった。
ただし、当時の手順には「砂塵の落下速度」が暗黙のパラメータとして含まれていたとされる。つまり、湿度計が壊れる地域では、音声自体が天候センサーになっていたという語りである。これが、ランニャムが単なる歌唱ではなく、環境に応答する技術として発展した理由だと説明される[9]。
近代化:民間音響局と“測れる儀礼”[編集]
ランニャムが学術領域に入る契機は、1964年のによる現地試験であるとされる。同局は当時、軍事ではなく「放送機材の乾燥劣化対策」を目的としていたと説明されているが、結果的に声帯周辺の自己調律メカニズムに注目が集まった[10]。
報告書では、音声の濁り率を示す指標として「R値(Rannyam index)」が導入された。R値は、スペクトルの肩の高さを基準に毎分計測し、儀礼の進行に伴って平均で1.8%ずつ上昇する設計だとされた[11]。もっとも、R値の算出条件は後年「現地録音の再編集に依存する」との指摘があり、研究史上の小論争へと発展した。
この時期、の音声計測部が、ランニャム参加者の呼吸パターンを定量化したとされる。装置は「小型熱線マイク」と呼ばれ、口元から3.2センチ以内の距離で使用したと記録されている。距離が0.5センチ変わるとR値が“別人”のように見えるため、再現実験が難しかったとする証言が残る[12]。
なお、1972年にはが、移動式の“声の衛生ブース”を企画し、ランニャムを健康教育へ転用した。この施策は「声が乾燥を防ぐ」という理解を一般化させ、都市部の民間サークルを増やしたが、原型の条件が欠落していた可能性も指摘された[13]。
社会への影響:放送業界と観光の二重の誤解[編集]
ランニャムは、放送業界において「乾燥環境でも喉が保つ発声法」と誤解される形で採用されることがあった。実際には、儀礼が成立するために人数・時間帯・砂塵の条件が揃う必要があるとされるが、都市型の練習会では“それっぽい”発声が先行したといわれる[14]。
その結果、いくつかのラジオ局では「スタジオ直結型ランニャム」を導入したとされる。たとえばの内部資料(外部公開はされていないが、二次引用で触れられる)は、放送開始前のウォームアップにランニャムを組み込み、平均発声疲労が34分短縮されたと主張した[15]。ただし、この数値は測定方法が曖昧で、後の批判の典拠になった。
また、観光面では、夜の市場で短句を披露する“体験版”が人気になり、録画されることが常態化した。録画が増えたことで逆に研究が進んだ側面もあるが、同時に「録音の品質調整」が行われたのではないかという疑念が強まったのである[16]。
こうしてランニャムは、療法でも芸能でもなく、声の共同調律という位置づけからずれていった。現在の議論は「元来の技術が失われたのか」「都市化によって別の合理性が生まれたのか」に割れており、結論は出ていないとされる[17]。
批判と論争[編集]
最大の論点は、初期記録の改変疑惑である。とりわけ、1964年の民間音響局報告書に含まれたとされる“完全に整ったR値カーブ”が、現地の不規則さと整合しないとして批判されている。複数の研究者は、録音後の編集で音響スペクトルが滑らかにされた可能性があるとし、「R値が“創作された曲線”ではないか」と指摘した[18]。
一方で擁護する立場もある。擁護側は、砂塵の落下が一定の周期で起こる季節条件があり、結果として“滑らかなカーブ”に見えたのだと反論している。ただし、この季節条件を裏付ける気象データの提示が乏しく、反証にもなっていないとされる[19]。
さらに、「健康への効果」が過大評価された点も論争になっている。都市型のランニャム体験会が増えるにつれ、喉の痛みが減ったという体験談が出回ったが、プラセボ効果や期待効果の可能性を排除できないとする声がある。もっとも、その説明を拒む人々は「ランニャムは気休めではなく、声の熱量が実際に身体反応を起こす」と主張している[20]。
なお、記録媒体の真正性に関する論点では、写真フィルムの保管庫から“同じ人の別カット”が見つかったという逸話もある。この逸話は信憑性が定まらないとされながらも、記事や講演でしばしば引かれるため、ランニャムの神秘性を補強してしまった面があると指摘される[21]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Amina K. Tarek『乾燥環境下の即興発声儀礼:Rannyamの指標化』民間音響局出版局, 1968.
- ^ Hiroshi Watanabe『音声計測と生活技術の接点:ソルフェージュ大学音声計測部報告』Vol.12 No.3, 1974.
- ^ Martha L. Hensley『Indexing Vocal “Heat” in Arid Speech Rituals』Journal of Applied Phonetics, Vol.8 No.2, 1979.
- ^ 【書名】『砂塵の周期性と口腔温度の共同推定』サハラ都市圏文化庁出版, 1981.
- ^ Youssef Benomar『放送開始前の発声疲労:スタジオ直結型儀礼の短期効果』カサブランカ南放送研究叢書, 1986.
- ^ Carla DuBois『Spectral Shoulder and the Rannyam Index: A Reanalysis』International Review of Acoustics, Vol.19 No.7, 1992.
- ^ 渡辺精一郎『R値曲線は誰のものか:初期録音の再編集問題』第1巻第4号, 声響史研究会, 2001.
- ^ Sergio Nakamura『音声儀礼の“正しい”条件再現:参加者数と距離の誤差』音声工学年報, Vol.27 No.1, 2009.
- ^ Eun-Young Park『乾燥地の言葉がもつ身体性:儀礼の都市転写』東アジア音声文化研究, 2013.
- ^ Rannyamデータ検証委員会『民間音響局アーカイブの再点検:要出典を含む総括』匿名出版社, 2018.
外部リンク
- Rannyam 音響アーカイブ
- 乾燥地言語研究フォーラム
- ソルフェージュ大学 音声計測部
- サハラ都市圏文化庁 声の衛生プロジェクト
- 放送ウォームアップ研究会