ワスプ
| 分類 | 社会階層の通称 |
|---|---|
| 対象地域 | (特に周辺) |
| 成立時期(説) | 19世紀末〜20世紀初頭 |
| 運用機関(説) | (通称) |
| 評価軸 | 家系・教育・資産・社交回路 |
| 関連語 | ワスプ化、ワスプ指数 |
| 関連領域 | 階層社会学、統治設計、名門教育 |
ワスプ(英: WASP)は、主にで用いられたとされる「知的・資産的上流層」の社会的呼称である。肩書きのように使われる一方、運用上はの委員会が定めた判定基準に基づくとされる[1]。
概要[編集]
ワスプは、社会階層を指す通称として知られるとされる概念である。表向きには「上品さ」や「教養」のような抽象的属性を含むが、実務的には点数化された判定体系が併走していたとする説がある。
当初は特定の慈善団体の会員名簿における分類記号として用いられたとされる。のちに、の政策調整に関わる複数の実務家が、この記号を一般紙面で使えるように整形した結果、通称が独り歩きしたとされる[2]。
なお、語源については昆虫の(スズメバチ)に由来するという俗説も見られる。ただし、知的・資産的上流層を刺すように「監査する」存在として比喩化されたという説明が付されることが多い[3]。このように、語は短いが意味運用は複数に枝分かれしていると考えられる。
歴史[編集]
起源:名門教育の「貸借台帳」[編集]
ワスプの起源は、19世紀末の東海岸の名門教育機関に置かれた「貸借台帳」だとする説がある。そこでは授業料だけでなく、寄付の履歴、図書館の利用権、社交行事への出席率などが細分化され、合計点で会員区分が更新されたとされる[4]。
この台帳を運用したのは、の私設財団「チェスナット・トラスト」であるとされる。財団は1897年に、出資者の子弟を優先登録するための暫定記号を導入した。記号は当初「WasP」と表記され、年2回の監査(春査・秋査)をもじった内輪の呼び名だったと説明される[5]。
さらに、この制度が評判化した転機として、1904年のでの大規模同窓会が挙げられる。出席者を移動動線別に色分けした結果、掲示板に表示される区分が「ワスプ」一語で読み上げられるようになった、という経緯が語られている。ただし、その会場で実際に掲示されていたのは「WASP-17」なる細かな番号体系だったとする記録もあり、細部が揺れるとされる[6]。
拡大:ワシントンD.C.での「整合評価」[編集]
ワスプは、やがてにおける統治上の「人材配置」の議論へ接続された。1921年に設置されたとされる、上流層を対象とした整合評価の委員会が、その通称の公的な格を与えたとされる[7]。
この委員会は「上流層整合評価局」(通称)と呼ばれ、判定基準には驚くべき具体性が含まれた。たとえば「過去10年の慈善寄付の平均額が年当たり3万2,450ドル以上」「名門校在籍期間が合計で少なくとも7学期」「図書館カードの再発行が0回」などの条件が列挙されたとされる[8]。
もっとも、批判としては「資産の単純化が人間の複雑さを潰した」点が問題化した。1932年の委員会議事録では、議題番号が「第9号(ただし副議題は第9-1号)」と二段構造になっており、評価自体が官僚的に肥大化したことが示唆される。なお、最後の小項目に「刺すような指摘(sting)」を加える案が出たとされるが、最終案では「刺す(sting)」が「整える(set)」に置き換えられたと記されている[9]。ここに昆虫由来の比喩説が接続される余地が生まれたと考えられる。
現代化:ワスプ指数と「透明な不透明」[編集]
戦後、ワスプは「ワスプ指数」として再設計されたとされる。これは市民向けにはわかりやすく、しかし評価の詳細は内部資料に留めるという方針で整えられたと説明される。
1958年、の都市計画研究会が、ワスプ指数を地域の人材循環モデルに組み込んだ。モデルでは、学歴・職能・居住形態の寄与率が「学歴:38%、職能:33%、居住:29%」のように並べられたとされる[10]。さらに、残り1%は「社交回路」扱いで、数値化しにくい部分を“観測不能”として逃がすことで計算が成立した、とする記述もある。
ただし、指数が広まるほど誤読も増えた。ある地方紙が「ワスプは階層を刺す昆虫のように、上流層を選別する存在である」と報じた結果、学校現場では比喩が教材化され、テスト問題に“WASPは何を刺すか”が出たという逸話が残っている[11]。このように、ワスプは制度としての顔と、比喩としての顔が相互に増幅していったとされる。
社会に与えた影響[編集]
ワスプは、採用や寄付、入学判断などの「目に見えない調整」を説明する語として機能したとされる。特に、の私立学校連盟では、会議の議事録において「ワスプ該当枠」という表現が常套化したという指摘がある[12]。
また、医療や法律の専門職団体でも、ワスプ的な選別が“善意の調整”として語られた。たとえばの弁護士会では、依頼者の紹介率が高い会員を「ワスプ相当」として優遇する内規があったとされる。内規は「紹介が月間12件を超える場合、事務手数料の減免を適用する」という単純な形で書かれていた一方、減免の実施は年末ではなく“監査期の満月の翌営業日”とされており、制度が儀礼化していた点が記録として残る[13]。
一方で、ワスプの言説は、異なる階層の人々に対し「努力が足りない」という道徳判断を付与する媒体にもなったとされる。統計上の格差そのものより、格差を“説明できた気になる言葉”が広がったことが影響として大きいと見る研究者もいる[14]。このように、ワスプは数字と物語の両方を使い分けながら社会を動かしたとされる。
批判と論争[編集]
ワスプは、分類が固定化しすぎる点、そして判定が透明でない点で批判されてきたとされる。1964年の公聴会では、判定者が「教育歴の長さ」と「寄付の継続性」のみを重視し、人の成熟や価値観を見ないと指摘された[15]。
さらに、ワスプ指数が示される際、分母の取り方が恣意的ではないかという論争が起きたとされる。ある試算では、分母を“上位10区分に属する世帯”に限定した結果、ワスプ指数の上位層が急増したように見えたという[16]。このとき、担当者が「上位10区分という言い方は誤解を生む。正しくは“上位10区分に見える人々”である」と述べたとされ、言語の揺れが政策の正当性を揺らしたと報告された。
なお、語源を昆虫のワスプに求める俗説が再燃し、「上流層が刺されるのは当然」とする煽動的な言い回しが広がったこともある。この点について、の教育審議会は「比喩の暴走が差別の口実になる」として注意喚起文を出したとされる[17]。ただし注意喚起文の末尾には、なぜか“WASP-17の採点基準は改定しない”と記されていたとされ、実務面の慎重さと広報の不一致が笑い話になったとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Catherine L. Mercer「WASPという分類記号の制度史(1900-1935)」『Journal of American Social Metrics』Vol. 12, No. 3, pp. 41-78, 2011.
- ^ 渡辺 精一郎「階層通称の翻訳と誤読:WASPの日本語報道をめぐって」『社会言語学年報』第8巻第2号, pp. 113-146, 2014.
- ^ Thomas E. Whitlock「The Alignment Bureau and the Scorecard Logic」『Public Administration Review』Vol. 23, No. 1, pp. 9-36, 1959.
- ^ Eleanor P. Daughtry「Secret Audit Calendars in Elite Clubs」『American Historical Accounting』Vol. 7, No. 4, pp. 201-236, 1986.
- ^ 伊藤 瑞穂「寄付データの“儀礼化”と政策判断:満月の翌営業日説の検証」『都市制度研究』第5巻第1号, pp. 55-90, 2020.
- ^ Marcel J. Armand「On the Misleading Metaphor: Wasps, Selection, and Social Sorting」『International Review of Stratification』Vol. 18, No. 2, pp. 77-104, 2003.
- ^ S. A. Nkrumah「Measuring the Unmeasurable: the 1% Social Circuit」『Sociology of Models』Vol. 2, No. 1, pp. 1-29, 1998.
- ^ Robert K. Haldane「WASP-17: a Case Study in Internal Numbering」『Proceedings of the Committee for Administrative Nomenclature』Vol. 31, pp. 300-319, 1972.
- ^ Evelyn R. Stone「When Minutes Become Meaning: elite minutes and public belief」『Journal of Civic Storytelling』第3巻第4号, pp. 240-266, 2016.
外部リンク
- 上流層整合評価局 公式アーカイブ(閲覧者限定)
- ワスプ指数 計算機(復元プロトタイプ)
- チェスナット・トラスト 資料室
- WASP-17 掲示板データベース
- 満月監査カレンダー研究サイト