人工呼吸器
| Name | 人工呼吸器 |
|---|---|
| 分類 | 人工呼吸器類感染症(器具媒介型) |
| 病原体 | 機械的換気因子(仮称)/湿潤フィルム共生体 |
| 症状 | 息継ぎ失調、呼吸同期不全、胸部圧迫感、換気音の異常 |
| 治療法 | 換気同調療法、内耳リズム調整、装置リセット(手技) |
| 予防 | 回路乾燥・微粒子捕捉、定期的同調チェック、接触衛生 |
| ICD-10 | (便宜分類)J96.9 ほか |
人工呼吸器(じんこうこきゅうき、英: Artificial Ventilator)とは、によるである[1]。
概要[編集]
人工呼吸器は、に起因するとされるであり、特に換気回路に形成された微細な湿潤フィルムが媒介となって発症すると考えられている[1]。
本疾患は「呼吸ができない」ことよりも「呼吸のタイミングがズレる」ことに特徴があるとされ、患者はしばしば、喉の乾きや息苦しさに加えて、聴覚的には換気音の“ズレ”として訴えることが報告されている[2]。また、症候の発現は急性型と慢性型に分かれ、急性型は数時間以内に、慢性型は数週間単位で進行するとされる[3]。
なお、医療現場では「人工呼吸器そのもの」ではなく、それに付随する回路運用(清掃間隔、加湿方式、吸着材の選定、アラーム設定)に起因して発症が問題視されることが多いとされる。したがって、本記事では便宜的に“病名”としての人工呼吸器を扱う[4]。
症状[編集]
人工呼吸器に罹患した患者は、まず「吸うべきでないタイミングで吸ってしまう」感覚を訴えることが多いとされ、これがとして整理されている[5]。自覚症状としては胸部圧迫感、咽頭部の乾燥、軽いめまいが並行して起こることが多い[6]。
呼吸生理学的にはが中核所見とされ、換気相(吸気/呼気)が患者の呼吸努力相とズレることにより、酸素化の急落ではなく「わずかな息苦しさの波」が反復する形を呈するとされる[2]。一部では聴診上、呼吸音に周期性の崩れがみられると報告されている[7]。
重症例では、回路加湿に由来すると推定される微粒子刺激によりが生じ、患者が「装置の音が短くなった」と訴えるなど、言語化が特徴的になることがある[8]。また、回路点検の頻度が低い集団で症状の反復が増える傾向が、救急外来の後方視的検討で示されたとされる[9]。
疫学[編集]
人工呼吸器は、人工換気が日常的に行われる医療機関において散発し、集団としては「器具使用者」ではなく「回路運用担当者」周辺で報告が増えることが示唆されている[10]。これは装置の管理手順(乾燥工程、フィルタ交換、加湿調整)の差が、媒介因子の定着に影響するためと考えられている[11]。
発症までの時間は、急性型で平均2.7時間(四分位範囲1.4〜4.1時間)とされ、慢性型では平均24.3日(四分位範囲12〜36日)と推定されている[3]。ただし、これらの数値は複数施設の記録を再解釈した集計であり、測定条件の違いが寄与した可能性が指摘されている[12]。
地理的には東京都と大阪府の大都市圏で報告が多いとされるが、実際には感染対策予算と回路規格の更新速度が相関するため、見かけ上の偏りである可能性もあるとされる[13]。さらに、冬季に同調不全が増えたという「換気音の季節性」も報告されている[14]。
歴史/語源[編集]
起源:蒸留室の“同期実験”[編集]
本疾患の概念は、1908年に東京大学付属の蒸留実験室で行われた、加湿水の蒸気粒子が呼吸リズムに及ぼす影響を測定する試験に端を発するとされる[15]。当時の研究者であった渡辺精一郎は、装置音に合わせて被験者の呼吸が整う現象を観察し、「音の拍に身体が追随する」との仮説を提出したとされる[16]。ところが後年、同じ施設で換気回路の乾燥が不十分だった期間に、被験者が“息を外す”症状を呈した記録が見つかったことが、人工呼吸器という疾患概念の原型になったと推定されている[17]。
また、当時の技術者が「呼吸器が呼吸に合っていない」というメモ書きを残し、その断片が後の論文で“人工呼吸器類感染症”という語に整えられたとされるが、元メモの所在は不明であるとも報告されている[18]。このため語源は不確実性を伴うとされる。
命名:“器具のせいで起きる病”の命名会議[編集]
1919年、大阪市の臨時医療検討会で「装置の運用ミスに起因する呼吸失調」をどう表現するかが議論され、最終的に“人工呼吸器”という呼称が提案されたとされる[19]。この会議では、当時流行していた分類法に倣い「病原体は見えないが、因子として扱う」方針が採用されたとされる[20]。
語源をめぐっては、音韻的に「呼吸」と「同期」の両方に触れた名称が望まれたという指摘もあるが、当時の議事録の筆跡が複数あることから編集過程の影響があった可能性も議論されている[21]。
予防[編集]
人工呼吸器の予防は、媒介因子の定着を防ぐことに主眼を置くとされる。具体的には、回路の乾燥工程を必ず挿入し、湿潤フィルム形成を“工程的に”断つことが推奨される[22]。とりわけ、回路乾燥の目標は「表面が触って冷たく感じない程度」を基準に運用されることがあり、数値基準に換算する試みとして、温度計の測定値が37.0±2.0℃付近で安定した例が紹介されたとされる[23]。
また、定期的にを行うことが有効とされ、換気音の周期性を観察する簡易手順が提案されている[24]。接触衛生については、回路交換時の手袋交換タイミングが重要視され、ある監査報告では「交換から再装着までの平均経過時間が48秒を超えた群で再発が増えた」と記載されたとされる[25]。
予防策は単独での効果ではなく、回路加湿方式(加湿器の型番、蒸気生成方式)と組み合わせることで最適化されると考えられている[26]。ただし、施設間で運用差が大きく、一般化には慎重さが求められると指摘されている[12]。
検査[編集]
人工呼吸器の検査は、呼吸の同調ズレを客観化する方向で整備されてきたとされる。代表的には、換気相と患者努力相の時間差を解析するが用いられる[27]。検査結果としては、時間差の中央値が急性型で0.31秒、慢性型で0.47秒に集中するという報告がある[28]。
次に、聴覚情報を補助的に扱うがある。これは、呼吸音の周波数帯における“うねり”を指標化し、患者が訴える「短くなった」感覚と整合するかを確認する試験として記述されている[7]。
さらに、回路由来の媒介因子を間接的に示すため、回路内の微粒子付着量を拭き取り検査する方法が提案されている[29]。ただし、採取手技の標準化が難しいことがあり、検査の再現性が低い可能性があるとされる[30]。
治療[編集]
人工呼吸器の治療は、原因因子の除去と同調の再構築を同時に行う方針が主流であるとされる。まず、回路を「汚染された湿潤フィルムを含むもの」とみなし、再装着前に完全な乾燥と交換を行うが推奨される[31]。
呼吸同期を回復させる方法として、装置の換気出力に対し患者の努力相が追随するよう調整するがある[32]。ある臨床報告では、同調療法により症状スコアが開始時の8.4点から2.1点へ低下したと記載されたが[33]、評価者間の差が影響した可能性も併記されている[34]。
加えて、聴覚刺激を用いるが併用されることがあり、これは換気音のリズムを一定化し、身体の予測誤差を減らすという考えに基づくとされる[35]。ただし一部には副作用として、頭痛や耳鳴りの一過性増加が報告されており、適応を選ぶ必要があると指摘されている[36]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山本澄人『器具媒介性呼吸失調の概念整理』医用装置学会誌, 1932.
- ^ 渡辺精一郎『同期実験と換気音の生理学』第3回蒸留室研究報告書, Vol.2 No.1, pp.11-38, 1912.
- ^ Margaret A. Thornton『Auditory Rhythm in Ventilation-Linked Syndromes』International Journal of Pseudorespiratory Research, Vol.14 No.4, pp.201-219, 1978.
- ^ 佐藤麗華『人工呼吸器類感染症の疫学的観察(多施設後方視的検討)』日本呼吸同調学会雑誌, 第7巻第2号, pp.55-73, 2004.
- ^ Dr. Kenji Otsuka『Microhydrated Film as a Putative Vector of Desynchrony』Journal of Mechanical Breathing, Vol.22 No.3, pp.99-131, 1991.
- ^ 田中和則『換気同調療法:手技標準化の試み』臨床呼吸同期学, pp.1-24, 2016.
- ^ 李承佑『Seasonality of Ventilation Sound Irregularity』Seoul Medical Audio Review, Vol.9 No.1, pp.77-90, 2009.
- ^ ノーマン・ハルスト『ICD-10便宜分類の運用実態と課題』World Health Classification Bulletin, Vol.3 No.6, pp.10-44, 1986.
- ^ 清水眞理『換気音周期解析の基礎と臨床応用』医用計測年報, 第12巻第1号, pp.33-61, 1999.
- ^ Rossi, A.『The Myth of Ventilator-Linked Illnesses』The Lancet of Curious Errors, Vol.1 No.1, pp.1-9, 1972.
外部リンク
- 換気同調研究アーカイブ
- 医用装置監査ポータル
- 呼吸音解析ワークショップ
- 多施設症候群データベース
- 臨床手技標準化リポジトリ