入鋏印等特定鉄道用証印の一部乞食を規制する法律の一部を改正する法律
| 題名 | 入鋏印等特定鉄道用証印の一部乞食を規制する法律の一部を改正する法律 |
|---|---|
| 法令番号 | 42年法律第17号 |
| 種類 | 公法 |
| 効力 | 現行法として扱われる |
| 主な内容 | 特定鉄道用証印(入鋏印等)の一部悪用類型を新設し、罰則・例外規定を整備する |
| 所管 | 鉄道省が所管する |
| 関連法令 | 入鋏印等特定鉄道用証印の一部乞食を規制する法律、鉄道区域内治安整理規則(省令) |
| 提出区分 | 閣法 |
(いえばさみいんとうとくてつどうようしょういんのいちぶこじきをきせいするほうりつのいちぶをかいせいするほうりつ、42年法律第17号)は、入鋏印等の濫用に起因する国内の駅前混雑を抑止することを目的とするの法律である[1]。略称は「入鋏印乞食規制改正法」である。
概要[編集]
本法は、駅構内における等の証印が、名目上は「正規の改札補助」として掲出されつつも、実際には物乞い行為の動員とセットになっていると指摘されたことを契機として制定されたものである。そこでは、証印の付随行為として判定されうる態様を具体化し、適用範囲を「一部乞食」に限って再定義することとしたのである[1]。
制定後の運用では、証印の真偽判定が現場任せになり、駅長の裁量により「今日は許す・今日は許さない」が発生したとの不満が噴出した。これを受けて本法は、平成の世ならデータで解決したといわれるところを、なぜか明治以来の鋏(はさみ)文化に戻り、証印の打刻深度まで規制対象に織り込む方針を採ったとされる[2]。
構成[編集]
本法は、元となる「入鋏印等特定鉄道用証印の一部乞食を規制する法律」の一部を改正する形式で、改正本文、附則および経過措置により構成される。改正本文では、対象証印の定義(第2条)、適用態様(第4条の2)および罰則(第9条)を中心に改められている。
第1条においては、改正の趣旨として「証印の外形に惑わされることなく、証印の周辺行為の実態をもって判断する」旨が明記された。なお、例外として「駅員に準ずる者」が所持する場合の取扱いが置かれ、違反した場合の処分にも一部緩和が規定された[3]。
附則では、本法の施行期日を公布の日から起算して「60日を経過した日」と定めるとともに、地方の旧慣例(とされる)に関する申告手続きを規定した。その申告書の様式は、鉄道省告示で定められ、折り目(山折り/谷折り)まで細目に規定されている点が、当時の文書実務家に衝撃を与えたとされる[4]。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
当初の規制法は、の周辺で「入鋏印で呼び出される者」が通路を占拠し、荷運びの往来が阻害された事件に端を発したとされる。特に、午前7時台に集中するとの指摘があり、統計係は「1週間の平均入鋏印提示数:312.4件(概数)」と報告したとされる[5]。
もっとも、当時の調査は“見た目の証印”に偏り、真に問題だったのは証印の打刻(うちこみ)の深さではなく、その後の「寄せ物」の配列であったと後に訂正された。この訂正を受けて、証印の運用設計を扱う委員会は「鋏は物語の鍵である」として、打刻深度を0.8ミリから1.3ミリまでの帯として定義する提案をしたと記録されている[6]。
主な改正[編集]
本法の改正点として、まず第4条の2が新設され、「入鋏印等の提示に続いて、改札線から半径12歩以内で物乞いの誘導に該当する者」を規制対象に追加した。ここでいう「12歩」は、鉄道省の省令により1歩を約37センチとして換算し、半径約444センチとする扱いが示されたとされる[7]。
また、罰則については第9条が改められ、違反した場合の罰金の上限を従前の300円から500円へと引き上げた一方で、証印の剥離(はくり)を自ら申し出て返納した者には「没収免除の一部」を認めるとされた。この返納は、のにある「証印返納所」で受け付けられる運用が行われ、行列ができたという逸話も残っている[8]。
主務官庁[編集]
本法の主務官庁はであり、同省は、証印の様式、打刻の規格、運用上の判断基準について必要なおよびを定め、さらにおよびにより現場への指示を行うことができるとされる(第12条の運用)[9]。
鉄道省は、特定路線を対象として「証印監査月」を設定し、監査の期間中は駅員が“鋏の持ち込み”を制限するなどの措置を行うことができるとされた。この月の実施は、単なる安全対策というより、行政現場の緊張を維持する儀式のように扱われたとも指摘されている[10]。
なお、地方官庁(府県)の協力体制については、各駅長の報告様式が細かく定められ、「違反状況の記入欄:全23欄、必須欄:9欄」といった運用が導入されたとされる。欄の多さが逆に現場負担を増やしたという批判も、同時期の回覧文書から読み取れるといわれる[11]。
定義[編集]
第2条では、「入鋏印等特定鉄道用証印」とは、鉄道事業者が発行し、改札補助又は通行手続の便宜のため掲出される証印をいうものと規定する。さらに、特定鉄道用証印の一部として、鋏で刻印された「入鋏印(いえばさみいん)」、およびそれに類似する「縫刻証(ぬいこくしょう)」が列挙される[2]。
また、第2条第3項において「一部乞食」については、物乞い行為それ自体ではなく、証印の提示により人の流れを変えることにより成立する態様として定義されたとされる。ここでいう「流れを変える」とは、駅構内での誘導、迂回の促進、ならびに「寄せ物」配置の助言を反復することに該当する者である[12]。
さらに、第4条の2では適用態様が追加され、「証印の提示に基づき、改札線から半径12歩以内で、両替所に関する誘導を含む場合」は禁止されるとされた。なお、施行日後に限り、証印が紙片である場合の例外についてはこの限りでないとする、微妙に現場泣かせな但書が置かれている[13]。
罰則[編集]
本法の罰則は、第9条において違反した場合の処罰として定められる。すなわち、第4条の2に違反して証印と誘導行為を一体として行った者は、500円以下の罰金に処するとされる[14]。
一方で、証印の返納を速やかに行い、かつ誘導の停止を誓約した場合には、罰則の全部又は一部を免除することができるとされる。誓約書はが定める様式により作成され、署名は「黒インクのみ」が要件とされるという細かさがあったとされる[15]。
なお、駅員が職務上の見落としにより違反を看過したと認められる場合には、懲戒相当の内部処分が行われる旨がの運用条項に置かれた。これは法律本文では罰則ではないとされつつ、実務上は“実質罰”のように扱われたとの証言がある[16]。
問題点・批判[編集]
本法は、証印の外形を起点として周辺行為まで規制する設計であったため、誤認の可能性が指摘された。特に、地方の古い係員が所持する「旧縫刻証」まで一部乞食として扱われた事例が報告され、行政の判断が“見た目”に引きずられる危険があるとされた[17]。
また、半径12歩のような数値基準は、現場での計測が困難であった。議論では「12歩を数える係が必要になるなら、本末転倒ではないか」との声が上がり、結局は鉄道省通達で「人数で測る場合は3人同時に歩数を数える」といった場当たり的な救済が出されたとされる[18]。この点は、制度が“規制のための規制”になったと批判された。
さらに、返納所での行列が社会問題化し、駅前の混雑が一時的に悪化したとする意見もある。もっとも、これは「返納が進めば秩序が回復する」とする反論もあり、結論は当時の審議会でも折り合わなかったとされる[19]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 鉄道省『入鋏印等特定鉄道用証印の一部乞食を規制する法律の解説』鉄道省印刷局, 【明治】41年。
- ^ 山田鏗太郎『駅前秩序と証印行政』内務省法制調査室紀要, 第3巻第2号, pp. 21-58, 【明治】42年。
- ^ Dr. Margaret A. Thornton『Administrative Markings in Railway Public Spaces』Journal of Comparative Transport Law, Vol. 7, No. 1, pp. 101-139, 1899.
- ^ 松本亀之助『証印返納制度の運用実態と誤認』鉄道省統計年報附録, 第5号, pp. 3-44, 【明治】43年。
- ^ Klaus R. Feld『Punitive Fines and Local Compliance Mechanisms』International Review of Public Orders, Vol. 12, Issue 4, pp. 77-95, 1901.
- ^ 証印書式研究会『黒インク縛り—告示様式の規律効果』文書実務叢書, 第2巻, pp. 55-83, 【大正】元年。
- ^ 小野寺理兵衛『半径測定の法的技術—12歩問題』法学技術通信, 第9巻第6号, pp. 201-237, 【明治】44年。
- ^ ハロルド・ウィットル『The Buttoned World of Station Regulations』Cambridge Historical Studies of Law, Vol. 3, pp. 12-33, 1903.
- ^ 鉄道省『改正法案逐条説明』鉄道省資料第17号, pp. 1-26, 【明治】42年。(※題名がやや不正確とされることがある)
- ^ 佐伯清一郎『証印と公共の動線』東京法政講座, 第1編, pp. 9-40, 【明治】45年。
外部リンク
- 証印法令アーカイブ(鉄道省)
- 駅前秩序史レキシコン
- 黒インク文書館
- 12歩計測手引(復刻)
- 縫刻証コレクション