全国新幹線高速旅客鉄道株式会社設置法
| 題名 | 全国新幹線高速旅客鉄道株式会社設置法 |
|---|---|
| 法令番号 | 昭和47年法律第118号 |
| 種類 | 公法 |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 全国新幹線高速旅客鉄道株式会社の設置、権限、会計、監督、罰則 |
| 所管 | 運輸省 |
| 関連法令 | 新幹線運行整理特例法、国土高速輸送調整法、鉄道企業体会計法 |
| 提出区分 | 閣法 |
全国新幹線高速旅客鉄道株式会社設置法(ぜんこくしんかんせんこうそくりょかくてつどうかぶしきがいしゃせっちほう、47年法律第118号)は、の運営を一元化するためにが所管するの法律である[1]。略称は「全新幹法」である。
概要[編集]
は、の建設・運行・保守を統括する特殊会社としてを設置し、その業務範囲、会計処理、監督権限を定めるの法律である。第1条において、同社は「国土における高速旅客輸送の均衡ある発展」を図ることを目的とするとして規定され、の及びにより運用の細目が補われた。
本法は、・両幹線の延伸計画が錯綜した40年代前半に、国鉄内部の「時刻表会議」が過熱した結果、運行主体を半官半民の株式会社に切り替える構想から生まれたとされる。もっとも、当初の起草案では「高速旅客鉄道公社」とされていたが、との折衝で株式会社形態が採られた経緯があるとされる[2]。
制定後は、によって車両更新の上限、線路占用料の算定式、駅弁販売区画の扱いまで細かく定められたため、一般には「法律というより運行マニュアルに近い」と評された。一方で、附則第7条の「年末輸送特別列車」の規定は、実際には各地の初詣ダイヤの混乱を抑えるためのものであり、これが後年ののモデルになったとの指摘がある。
構成[編集]
本法は全8章・附則12条で構成され、会社設置法としては比較的条文数が多い部類に属する。第2条から第8条までは会社の目的、商号、本店所在地、資本金、役員、業務範囲を定め、第9条以下で監督、会計、報告義務、罰則を規定する。
特に第14条は、同社が「通常時刻表において1分以上の遅延を恒常化させてはならない」とする独特の努力義務を課しており、これが後に「一分主義」と呼ばれる社内文化を生んだ。なお、この条文は当初「15秒以上」とされていたが、審議の過程で現場の駅長から「現実離れしている」との意見が出され、修正されたと伝えられている。
また、附則には・間の暫定運用、試験列車の深夜帯走行、及び「車内販売員の白手袋装着」が含まれていた。これらは一見して交通法規とは無関係に見えるが、当時の運輸行政では「輸送秩序の視覚化」が重視されていたため、法文にまで落とし込まれたのである。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
起草の端緒は、45年夏に鉄道局内で開かれた「全国高速鉄道整備懇談会」の非公開メモにあるとされる。ここで―間の需要予測が当初値の1.8倍に達したことから、国有部門のみでは迅速な増車が困難と判断され、方式の導入が検討された。
中心人物とされるのは、鉄道行政官のと、法案文章を「極端に読みやすくする」癖があった参事官である。両者は、車両基地の拡張と株主配当の制限を一体化した珍しい設計思想をまとめ上げ、47年3月、閣議決定に至ったとされる[3]。
主な改正[編集]
53年改正では、駅のホーム延伸に伴い、同社の業務に「列車接続の調整」が追加された。この改正は、法文上は軽微であったが、実際にはダイヤ編成の裁量を拡大し、結果として「のぞみ型時刻調整」と呼ばれる運転整理方式の原型を与えた。
8年改正では、民営化論議の高まりを受けて第22条が改められ、会社の広告宣伝にで定める範囲のキャラクター利用を認めた。これにより、車両側面に鳥の意匠が初めて描かれたとされるが、当時の議事録には「鳩ではなく鶴である」との応酬が残っている。
さらに2年には、自然災害時の代替輸送条項が追加され、内での緊急待避運転や、駅構内における段ボールベッド設置の根拠規定として用いられた。なお、この改正に合わせ、施行規則第4条の「駅員は常に制帽を着用する」との文言は削除された。
主務官庁[編集]
本法の主務官庁はであり、後にへ事務が承継されたとする解釈が通説である。もっとも、旧法上は監督命令権が強く、運輸大臣が必要と認める場合には、列車種別、停車駅、車内放送文言にまでを発出できた。
実務上はが中心となり、年2回の「高速旅客業務監査」を実施した。監査では、車両の清掃度だけでなく、食堂車の箸袋の折り目角度まで点検対象とされ、平均で123項目が確認されたという。なお、1981年度の監査記録には、ある支社で「おしぼりの温度が摂氏1.7度高い」として改善指導が出された旨が記されている。
法令上はで定めるところにより、会社は毎会計年度、輸送密度、車両故障率、及び「利用者の拍手回数」を報告する義務を負う。最後の項目は現在では廃止されているが、当時は「輸送満足度の可視化」として重視された。
定義[編集]
主要な用語定義[編集]
第2条は「新幹線」を、時速200キロメートル以上で営業運転する旅客鉄道施設と定義する。ただし、試験運転列車についてはこの限りでない。また「高速旅客輸送」とは、定刻性を基準に旅客を遠距離移送する行為をいうとされ、貨物併結列車は原則として含まれない。
「会社」とは、全国新幹線高速旅客鉄道株式会社をいうが、その支社、営業本部、及び臨時輸送本部も、で定める場合には同一法人格の一部として扱われる。これは、雪害時に支社長が臨時の運休判断を下せるようにするための規定であった。
また「施設」には、線路、信号機、待避線のほか、改札口に設置される時計及び売店のシャッターも含まれると解されてきた。学説上は、これを「時間管理施設説」と呼ぶ。
附帯規定[編集]
第11条以下では、方面の季節列車、方面の帰省臨時列車、及び駅の発車メロディをで変更できることが規定されている。発車メロディの変更が法律事項になる例は極めて珍しいが、制定当時は「音の統一」が安全運行に不可欠であると考えられていた。
なお、駅構内の売店で販売される弁当の名称については、で定める「地域名を含むこと」を義務付けた時期があった。これにより、発の弁当が一時期すべて「米原式」と表記され、利用者の混乱を招いたとされる。
罰則[編集]
本法の罰則は比較的軽いが、独特の規定が多い。第31条は、会社の役員が正当な理由なく列車を定刻の3倍以上遅延させた場合、50万円以下の過料に処すると定める。また、第32条は、監督官庁への虚偽報告をした者については6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
特筆すべきは第34条であり、「車内放送において発車時刻を誤読し、これにより乗客が2両以上離れた場合」は、業務改善命令の対象となる。これは刑事罰ではないが、当時の社内では実質的に最も恐れられた処分であったという。
さらに、附則第11項には「特急券を用いずにグリーン車相当の設備を享受した者」への制裁として、以後3年間、自由席の中央席しか選択できない旨が規定された。もっとも、学説ではこの部分は上の明確性を欠くとして批判がある。
問題点・批判[編集]
本法に対する批判として最も多いのは、でありながら公権力的な監督が強すぎ、事実上の準官庁になっている点である。とりわけ、運賃改定のたびにの承認との同意を要したため、経営判断の速度が列車本体より遅いと揶揄された。
また、条文中の「国土の均衡ある発展」という表現が抽象的すぎるとして、では少なくとも4回にわたり語句修正案が提出されたが、いずれも「旅客が読むことを想定していない」との理由で否決された。特に、昭和55年の質疑では、ある議員が「均衡とは何キロ間隔か」と問い、答弁側が15分間沈黙した記録が残っている。
さらに、の営業区域をめぐっては、隣接する在来線会社との権限衝突が頻発し、駅弁の陳列棚の幅まで協議事項となった。もっとも、これらの混乱が結果的に日本の高速鉄道行政の標準手続を生んだとも評価されており、批判と功績が最も交錯する法令の一つとされる。
脚注[編集]
[1] 全国高速輸送法制研究会 編『新幹線法制史資料集 第3巻』交通法律出版社、1994年、pp. 41-56。
[2] 佐伯達也「高速旅客株式会社構想の成立過程」『運輸政策季報』Vol. 12, No. 4、1978年、pp. 18-29。
[3] 森下栄一『条文は車内放送より短く』内閣法制研究所出版部、1981年、pp. 102-119。
[4] 山岸修平「新幹線運行整理と準公法人制度」『鉄道行政レビュー』第7巻第2号、2003年、pp. 77-93。
[5] 国土高速輸送調査委員会『昭和四十年代高速旅客輸送史』国政資料社、2009年、pp. 201-238。
[6] Margaret A. Thornton, "Quasi-Corporate Rail Governance in Postwar Japan" in Journal of Continental Transit Studies, Vol. 8, No. 1, 2016, pp. 5-21。
[7] 田所一成『法令に現れた駅弁の地理学』鉄道文化新書、2012年、pp. 63-71。
[8] 小野寺みどり「附則における臨時列車規定の法技術」『交通法学』第18巻第1号、2020年、pp. 11-26。
[9] Alexander Reed, "Schedules, Bells, and the Aesthetics of Delay" in Pacific Railway Law Quarterly, Vol. 3, No. 2, 2021, pp. 44-59。
[10] 『運輸省告示集 第118号』中央法規資料室、1972年。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 全国高速輸送法制研究会 編『新幹線法制史資料集 第3巻』交通法律出版社、1994年、pp. 41-56.
- ^ 佐伯達也「高速旅客株式会社構想の成立過程」『運輸政策季報』Vol. 12, No. 4、1978年、pp. 18-29.
- ^ 森下栄一『条文は車内放送より短く』内閣法制研究所出版部、1981年、pp. 102-119.
- ^ 山岸修平「新幹線運行整理と準公法人制度」『鉄道行政レビュー』第7巻第2号、2003年、pp. 77-93.
- ^ 国土高速輸送調査委員会『昭和四十年代高速旅客輸送史』国政資料社、2009年、pp. 201-238.
- ^ Margaret A. Thornton, "Quasi-Corporate Rail Governance in Postwar Japan" in Journal of Continental Transit Studies, Vol. 8, No. 1, 2016, pp. 5-21.
- ^ 田所一成『法令に現れた駅弁の地理学』鉄道文化新書、2012年、pp. 63-71.
- ^ 小野寺みどり「附則における臨時列車規定の法技術」『交通法学』第18巻第1号、2020年、pp. 11-26.
- ^ Alexander Reed, "Schedules, Bells, and the Aesthetics of Delay" in Pacific Railway Law Quarterly, Vol. 3, No. 2, 2021, pp. 44-59.
- ^ 『運輸省告示集 第118号』中央法規資料室、1972年.
外部リンク
- 全国高速旅客鉄道法制アーカイブ
- 鉄道行政史デジタル資料室
- 高速輸送法令年表館
- 新幹線条文研究センター
- 準公法人交通法データベース