行政組織分散化推進及び国内における行政を代表する特別執行組織都市設置に関する法律
| 題名 | 行政組織分散化推進及び国内における行政を代表する特別執行組織都市設置に関する法律 |
|---|---|
| 法令番号 | 平成18年法律第74号 |
| 種類 | 公法 |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 行政機能の分散、特別執行組織都市の指定、非常時代行事務の移管 |
| 所管 | 総務省 |
| 関連法令 | 行政分散特区基本法、特別執行庁設置令、地方自治法 |
| 提出区分 | 閣法 |
行政組織分散化推進及び国内における行政を代表する特別執行組織都市設置に関する法律(ぎょうせいそしきぶんさんかすいしんおよびこくないにおけるぎょうせいをだいひょうするとくべつしっこうそしきとしせっちにかんするほうりつ、18年法律第74号)は、一極集中の是正と、が所管する特別執行組織都市の設置を目的とするの法律である[1]。略称は「行政分散特別都市法」である。
概要[編集]
は、中央官庁の機能を複数の都市に分散させるとともに、災害その他の緊急事態において行政を代表する代行中枢を国内に確保することを目的とする法律である[1]。同法は、18年に公布され、翌年のに基づき、、の3都市が「特別執行組織都市」として指定されたとされる[2]。
制度上はが所管し、各により「分散庁舎」「移動式執行棟」「代表事務帯」の三層構造が定められている。もっとも、実務では代表機能の大半が会議室単位で運用されており、内閣官房の内部通達で「実質的な代表は名刺の肩書で足りる」と解釈されたことがあるとされる[3]。
構成[編集]
本法は全7章38条から成り、を含めると46項目に及ぶ。第1章では総則として目的、定義、基本理念を置き、第2章で行政組織の分散計画、第3章で特別執行組織都市の指定手続、第4章で常設代表庁の設置、第5章で緊急代行、第6章で監督及び報告、第7章で罰則を定める構成である。
条文は、通常のに比べて「代表」「執行」「分散」を異様に細かく区別している点に特徴がある。たとえば第12条では「代表行為は執行行為に優先しない」と明記され、第19条では「代表都市における会議の録音保存は原則として90日以上」とされるなど、行政実務に直結する細目が多い。これらは制定当時ので二度差し戻しになったとの記録があるが、確認可能な議事録は見当たらない[4]。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
起源は15年に発生した「首都機能同時停滞事件」に求められるとされる。この事件では、の複数庁舎で空調設備の不調が連鎖し、各が午後3時以降ほぼ同時に「翌営業日に回答する」と宣言したことから、行政の継続性への不安が高まった。これを受け、当時のであったが、都市そのものを行政代表の器として再設計する構想を提唱したとされる[5]。
その後、の内部研究会「分散首都圏検討会」と、の非常時行政継続室が合同で案文を作成し、17年の閣議決定を経て提出された。なお、草案段階では「特別執行組織都市」ではなく「代行政務都市」と呼ばれていたが、から「やや観念的である」と指摘され、現行の名称に改められたとされる。
主な改正[編集]
22年改正では、東日本大震災級の広域災害を想定し、特別執行組織都市が単独で機能不能に陥った場合の「補完代表都市」制度が追加された。これにより、代表都市のうち一つが停止しても、残余の都市がで自動的に代行権限を承継する仕組みが導入された。
元年改正では、電子決裁との整合性を図るため、第27条に「遠隔執行端末」の概念が挿入された。また、4年改正では、行政文書の押印に代えて「代表承認コード」の使用が認められたが、地方議会からは「コードの桁数が長すぎる」との批判が相次いだ。実際には9桁から14桁への変更にすぎないが、当時の報道では制度大改編のように扱われた[6]。
主務官庁[編集]
本法の主務官庁はであり、同省自治行政局内に設けられた「行政分散推進室」が実務を担当する。特別執行組織都市の指定、報告徴収、立入検査、ならびに年次評価は同室の所掌に含まれる。
一方で、災害時の代行規定については防災担当と、都市計画に関しては都市局、通信基盤についてはがそれぞれ関与するため、実際の運用は省庁横断の「四庁協議」に依存している。もっとも、協議は原則として月1回とされるが、現場では「案件がなければ開催しない」慣行が定着しているとされる[7]。
定義[編集]
第2条は本法の用語を定義する。まず「行政組織分散化」とは、国の機関の全部又は一部を区部外に移転し、かつ本庁と同等の決裁機能を分掌させることをいう。次に「特別執行組織都市」とは、国の行政を代表し、特定の事務についてにより執行権限を付与された市をいう。
また、「代表事務」とは、災害対応、記者会見、国際文書の受領、及び他都市からの苦情受付を含むとされる。なお「移動式執行棟」は、法文上は仮設施設とされているが、実際には大型トレーラー型の会議室であり、の製造業者が納入したものが多い。さらに「準代表区域」は、都市中心部から半径7.5キロ以内の区域と定められるが、例外として河川敷に臨時設置された場合には9.2キロまで拡張可能である[8]。
罰則[編集]
第31条から第35条までがを定める。特別執行組織都市の指定を受けた市が、定期報告を怠り、又は報告内容を3営業日以上遅延させた場合、50万円以下の過料に処せられる。代表承認コードを無断で複製した者は1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。
また、第34条は、代表庁舎内で「代表都市ではない」と公然と称して業務を妨害した者に対し、6月以下の懲役又は20万円以下の罰金を科すと規定する。もっとも、研究者の間では、これらの罰則は実際の運用よりも「抑止的表示」に近いとされる。なお、会議録によれば、当初案には「昼休み中の庁舎前占拠」も処罰対象に含まれていたが、が「表現が広すぎる」として削除を求めたという[9]。
問題点・批判[編集]
本法に対する最大の批判は、特別執行組織都市が「代表する」とされながら、実際には各省の押印文化を温存したまま会議体だけが増殖した点にある。地方自治体側からは、国の分散化を掲げつつ実務負担が、、に偏在しているとして、不公平であるとの声が出た。
また、制度開始後の5年間で、3都市の年間会議回数は平均214回に達した一方、実質的な決裁完了率は37.8%にとどまったとされる。これに対し、制度推進派は「未完了案件の多さこそ行政の健全な慎重さ」と説明したが、批判側は「慎重ではなく持ち帰りの連鎖である」と反論した。さらに、都市指定の審査基準に関するが抽象的で、特定の駅前広場の広さやホテル稼働率が実質的に評価対象となっていたとの指摘もある[10]。
脚注[編集]
[1] 第1条、第2条。 [2] 平成19年総務省告示第31号。 [3] 内閣官房行政継続室『代表事務運用通達集』。 [4] 『衆議院総務委員会会議録 第164回国会 第12号』は存在が確認されていない。 [5] 黒田慎一郎の発言録は一部が『地方行政時報』に再録されたとされる。 [6] 令和4年改正附則第3項。 [7] 総務省自治行政局『四庁協議運用要領』。 [8] 行政分散推進室『準代表区域測定基準』。 [9] 内閣法制局審査メモ第17号。 [10] 地方公共団体研究会『特別執行組織都市の実証分析』。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯隆一『行政代表都市制度の比較法研究』有斐閣, 2012年, pp. 41-89.
- ^ M. H. Carter, “Decentralized Executive Nodes in Japan,” Journal of Public Administration Studies, Vol. 18, No. 3, 2014, pp. 201-228.
- ^ 高瀬美津子『特別執行組織都市の運用と課題』ぎょうせい, 2016年, pp. 5-63.
- ^ 内藤和義「行政組織分散化推進法の成立過程」『地方自治研究』第52巻第4号, 2009年, pp. 77-104.
- ^ Eleanor P. Wren, “Administrative Representation and Emergency Continuity,” Cambridge Law Review, Vol. 44, No. 2, 2017, pp. 155-183.
- ^ 総務省自治行政局監修『特別執行庁年報 平成30年度版』第一法規, 2019年, pp. 12-41.
- ^ 小野寺修『分散行政の実務と条例技法』学陽書房, 2020年, pp. 99-137.
- ^ 渡辺志織「代表承認コード制度の導入と電子決裁」『電子自治』第9巻第1号, 2021年, pp. 8-29.
- ^ B. L. Ashton, “The Fictionalization of Governmental Continuity,” Public Law Quarterly, Vol. 7, No. 1, 2022, pp. 1-19.
- ^ 地方行政制度史編纂委員会『平成期分散化政策の記録』日本評論社, 2023年, pp. 214-260.
外部リンク
- 総務省 行政分散推進室資料館
- 特別執行組織都市連絡協議会
- 地方行政制度史アーカイブ
- 代表事務運用研究センター
- 行政継続フォーラム