高層建築物の爆破解体及び地盤の基礎工事に関する法律
| 題名 | 高層建築物の爆破解体及び地盤の基礎工事に関する法律 |
|---|---|
| 法令番号 | 31年法律第487号 |
| 種類 | 公法(安全規制法) |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 高層建築の爆破解体計画、地盤基礎工事の手順・届出・監督、安全距離等の基準、罰則 |
| 所管 | 国土交通省が所管する |
| 関連法令 | 高層建築物の改修等に関する安全ガイドライン(平成31年告示第219号)ほか |
| 提出区分 | 閣法 |
高層建築物の爆破解体及び地盤の基礎工事に関する法律(こうそうけんちくぶつのばくはかいたいおよびじばんのきそこうじにかんするほうりつ、31年法律第487号)は、高層建築物の爆破解体と地盤基礎工事の適正化を目的とするの法律である[1]。略称は「高爆地基法」である。
概要[編集]
本法は、高層建築物の爆破解体及び地盤の基礎工事を対象として、危害の発生を防止しつつ、周辺環境と公共交通の維持に資することを目的とするの法令である[1]。
国土交通省が所管し、解体工事業者に対して、事前の爆破シミュレーション報告、基礎地盤の性状調査、ならびに工事中の振動・騒音の管理記録の提出を義務づけると規定する。さらに、施行に当たってはおよびで、距離・時間・計測点の具体的数値が定められるものとされている[2]。
構成[編集]
本法は、全11章、100箇条から成り、爆破解体計画、地盤基礎工事、届出・監督、記録の保全、ならびに罰則を体系的に規定する。
第1章では目的・用語を定め、第2章から第4章にかけて、爆破実施前の手続(計画書、住民説明会、交通影響評価)および地盤基礎工事の基準を規定する。
第5章以降では、検査、改善命令、違反した場合の手続等が置かれ、附則で経過措置と施行期日が定められるとされる[3]。なお、施行は工事種別ごとに段階的に行うものとされている。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
本法は、平成30年に発生した「夜霧サイロ崩落事件」を契機として制定されたとされる。事件では、港湾近接の高層倉庫(の架空再開発地区とされる「芝浜海上22番街区」)で、爆破解体の誘導角が設計値から約0.7度ずれ、地下配管の「空洞共鳴」により計測器が一斉に誤作動したと報道された[4]。
そこで、国会の安全委員会では「爆破は技術ではなく行政手続である」として、事前シミュレーションの提出義務を中心に据える提案が行われ、国土交通省が所管する形で閣法として取りまとめられたとされる。このとき、計測点は「建物外周から最低でも13.4メートル」等、やけに具体的な数値で議論が紛糾したという[5]。
主な改正[編集]
公布から1年後の32年改正では、地盤基礎工事のうち「根入れ深度」の算定方式に関する規定が改正され、探査ボーリングの本数は対象面積に応じて「平方メートル当たり0.6本以上」とされた[6]。また、改正法の附則で、既存現場の経過措置の期限を「施行日から起算して180日」と規定し、現場の長期化が問題となることを回避する意図が示されたとされている。
さらに3年の小改正では、豪雨時の騒音計測の扱いが整備され、原則として雨量が「10分間平均で12ミリメートルを超える場合」には再測定を要するとされた[7]。この基準は“現場の感覚”から離れたとして技術者側から反発もあり、一方で住民側からは「数字がある方が納得できる」と評価された。
主務官庁[編集]
本法の主務官庁は国土交通省であると規定される。具体的には、国土交通省の内部部局として「住宅地盤安全対策局」が所管し、都道府県を通じた監督が行われるとされる。
また、工事計画の受理および検査に関しては、同省の地方支分部局(地方整備局のうち、地盤・建築安全を担当する区分)が、提出書類の形式審査を行うものとされる。これにより、地方自治体との権限配分が整理されたという経緯がある[8]。
なお、計測機器の妥当性確認については、国土交通省が「告示」で試験方法を公表し、さらに「通達」で現場運用の細目が示される仕組みが採られている。
定義[編集]
本法では、第2条において主要な用語を定義しているとされる。たとえば「高層建築物」は、建物の高さが地上から「48メートルを超える」ものとして定められるが、地下構造を含めた実質的な危険度に応じて例外が認められるとされる[9]。
また「爆破解体」とは、爆薬を用いて建築物を破砕し、もっぱら材料としての回収可能性を目的としないものとされるが、回収を行う場合でも“破砕が支配的”であれば爆破解体に該当すると解される[10]。
「地盤の基礎工事」は、基礎地盤の補強、充填、ならびに地盤の安定化に関する作業を広く含むとされる。さらに、振動評価に用いる「有効観測点」については、外周からの距離のほか、地盤種別(砂質・粘性・埋立混合等)ごとに必要数が積算される仕組みが採られている。
罰則[編集]
本法においては、義務を課す規定に違反した場合の罰則が整備されている。第73条では、所定の計画書を提出しないで爆破解体を行った者は、として1年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処するものと規定される[11]。
また、第81条では、地盤基礎工事に関して安全基準を満たさない状態で工事を継続した場合、違反した場合の手当(改善命令)を受けても是正しないときは刑を加重する旨が規定される。なお、計測記録を改ざんした場合には、さらに重い罰則が適用されるとされる。
ただし、災害対応のためにやむを得ず工事を一時停止した場合は、この限りでないとする例外が置かれており、現場に一定の裁量を与える構造になっている。
問題点・批判[編集]
本法は安全面での効果が期待された一方、過度な手続が現場の速度を阻害するという批判が指摘されている。とりわけ「住民説明会は工事開始30日前までに実施し、説明資料はA3で統一する」といった運用が周辺自治体の負担を増やしたとの声がある[12]。
技術者側からは、数値基準が“振動の現象”よりも“申請書の整合性”を優先させる形になっているとされる。たとえば振動計の設置位置について、条文上は外周13.4メートル以上とされるが、実際には地盤の層構造が複雑な地域で「距離」だけでは評価できない場合があるという指摘があった。
一方で住民側からは、爆破の実施日が「平日の9時〜11時」に制限され、さらに昼休みの12時台は連続計測が禁じられるなど、生活リズムへの配慮が制度化されたことが評価されたとされる。ただし、それは“安全のため”というより“議会の都合”とも揶揄されたという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 国土交通省住宅地盤安全対策局『高層建築物の爆破解体及び地盤の基礎工事に関する法律逐条解説(平成31年版)』ぎょうせい, 2019.
- ^ 山本和弘「爆破誘導角の行政管理モデル:第487号を中心に」『日本建築安全学会誌』Vol.12 No.3, pp.41-63, 2020.
- ^ 佐伯瑞希「有効観測点と地盤種別の相互作用に関する試算」『地盤工学政策研究』第7巻第1号, pp.101-129, 2021.
- ^ Carter, J. & Thornton, M. A. “Administrative Oversight in Controlled Demolition: A Comparative Note” 『Journal of Building Safety Regulation』Vol.4 No.2, pp.77-99, 2018.
- ^ 岡田眞紀夫「夜霧サイロ崩落事件の再検討—計測器誤作動の要因」『港湾防災年報』第19号, pp.210-238, 2019.
- ^ Bergström, L. “Vibration Governance: The 13.4-Meter Rule and Beyond” 『International Review of Infrastructure Compliance』Vol.9 No.1, pp.1-22, 2022.
- ^ 『安全計測機器の妥当性確認に関する試験方法(平成32年告示第44号)』国土交通省, 2020.
- ^ 林田直人『住民説明会の標準化と建設現場—A3義務の実務』中央公論新社, 2022.
- ^ 高橋健二「雨量閾値12ミリの制度設計に関する一考察」『気象・環境アーカイブ』Vol.3 No.4, pp.55-72, 2023.
- ^ Sato, T. “On the Limits of Distance-Based Vibration Assessment” 『Proceedings of the Ground Stability Policy Forum』第2巻第2号, pp.33-52, 2021.
外部リンク
- 住宅地盤安全対策局ポータル
- 爆破解体計画書オンライン提出システム
- 振動計測点DB(試験運用)
- 高爆地基法Q&A掲示板
- 地方整備局・監督運用メモ(非公開扱い)