全日本とんかつ選手権
| 正式名称 | 全日本とんかつ選手権 |
|---|---|
| 英語名称 | All-Japan Tonkatsu Championship |
| 開始年 | 1958年 |
| 主催 | 全日本揚げ物競技連盟 |
| 開催地 | 東京都、名古屋市、大阪市ほか |
| 競技種目 | ロース部門、ヒレ部門、創作部門 |
| 審査基準 | 衣率、断面層、油切れ、余熱管理 |
| 通称 | とんカツ甲子園 |
| 最多優勝 | 関東中央調理学院 |
| 公認記録 | 2023年時点で全国112会場 |
全日本とんかつ選手権(ぜんにほんとんかつせんしゅけん、英: All-Japan Tonkatsu Championship)は、の厚み、の安定性、の美しさを総合的に競うの料理競技会である。にの食肉加工組合連合会で試行的に始まり、のちに全国規模へ拡大したとされる[1]。
概要[編集]
全日本とんかつ選手権は、を用いた揚げ物であるを競技化した全国規模の大会である。一般には料理コンテストとして扱われるが、主催側は「調理技術と礼節を同時に測る生活文化の競技」と位置づけている[2]。
大会は30年代後半、戦後の食肉流通の整備とともに生まれたとされる。もっとも、初期の記録にはの精肉店主が「試食会」と呼んでいた痕跡があり、競技としての成立は後年の編集で整えられた可能性があるとの指摘もある[3]。
歴史[編集]
創設期[編集]
創設はとされる。同年、の料理研究会で、揚げ時間の差が味に与える影響を確かめるため、三店舗合同の比較会が行われたのが起源とされる。審査員にの技術顧問であった渡辺精一郎が同席し、衣の目の細かさを「六十二メッシュ相当」と記録したことが、後の公式規格の原型になったとされる[1]。
この時期の大会はまだ「選手権」の語を用いておらず、紙の掲示では「全国並びに近隣県揚物比較会」と記されていたという。なお、初代優勝者はの洋食店「キクチ亭」の菊池庄太で、審査後に使用したフライパンの温度が87度まで下がり、逆にそれが「余熱の美学」として評価されたという逸話が残る。
全国化とテレビ中継[編集]
の東京大会で、の生活番組が一部を中継したことにより、同大会は一気に知名度を上げた。実況アナウンサーが「油は語る」と述べた場面は繰り返し引用され、以後、選手権の決勝では実況席に必ず料理評論家が置かれる慣例ができたとされる。
にはで初の屋外決勝が実施され、風で衣が飛ばないよう、審査台の周囲に高さ1.8メートルの透明板が設置された。この設備は当初、味への影響を避けるため「無風区画」と呼ばれていたが、観客からは「とんかつ温室」と俗称された。大会運営はこの俗称を公式パンフレットに逆採用し、以後の宣伝戦略に成功したといわれる。
制度改革[編集]
に入ると、油の種類の多様化に対応するため、とが並立した。これにより、香りの立ち方を重視する北日本勢と、切れ味を重視する関西勢の対立が表面化し、一時は「揚げ油戦争」と呼ばれた[要出典]。
の「横浜断面事件」は本大会史上最も有名な審査騒動である。優勝候補の一皿が、断面のピンク色が規定より0.3ミリ長く見えたため失格となり、出場者側が「余熱を計算に入れた芸術作品である」と抗議した。最終的に協議の末、断面評価に「静置30秒補正」が導入され、現在もその名残が残っている。
競技方式[編集]
競技は、、の三本柱で構成される。各部門とも、下処理、衣付け、投入、返し、切り分け、盛り付けの六工程を7分以内に行うのが基本である[4]。
審査は「衣率」「断面層」「油切れ」「余熱管理」「皿上の緊張感」の五項目で行われる。とくに衣率は、揚げ上がり重量のうち衣が占める割合を示す独自指標で、52〜58%が理想値とされる。なお、2021年大会で優勝した代表は衣率61.2%を記録したが、これは「例外的に空気を抱き込んだ」と説明され、減点を免れた。
主な出場校・団体[編集]
出場団体は調理専門学校、精肉組合、百貨店惣菜部、地方の洋食店連合など多岐にわたる。中でもは最多優勝校として知られ、1990年代以降、毎年のように決勝へ進出している。
一方、の「灘揚げ物研究会」は創作部門に強く、2014年には味噌だれを衣の内部に閉じ込める「二層包み揚げ」で話題になった。またの「札幌寒冷調理同好会」は、低温環境での油の粘度を逆利用することで有名で、会場の空調設定にまで影響を与えたとされる。
社会的影響[編集]
本大会は、地方都市の振興に大きな役割を果たしたとされる。決勝開催地では前年から試食店が増え、周辺の白衣クリーニング業者の売上が平均14%上昇したという調査がある[5]。
また、大会の審査用語は一般社会にも流入し、「衣が立つ」「油が泣く」「断面が呼吸する」などの表現が、料理番組だけでなく不動産広告や就職面接の比喩としても使われるようになった。もっとも、教育現場では「美辞麗句が過剰である」として、2010年代に一部の自治体が使用自粛を求めたこともある。
批判と論争[編集]
大会をめぐっては、の助成が一部の有力団体に偏っているという批判が繰り返されてきた。また、審査員が実際には「サク音」を重視しすぎているのではないかという指摘もある。
とくに2017年の名古屋大会では、三連覇を狙った選手の作品が、切り出し時の音だけで満点を付与されたとされ、観客席から「食べる前に勝負が決まる」と抗議が起きた。主催者はこれを否定したが、翌年からは音響測定用マイクが2本増設され、かえって制度の厳格さが強調される結果となった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『揚物競技概論』日本食文化出版, 1961年.
- ^ 菊池庄太「断面の礼法とその地域差」『調理技術研究』Vol. 8, No. 2, pp. 14-29, 1969.
- ^ 小泉芳男『とんかつ選手権史料集』中央揚物協会, 1978年.
- ^ Margaret A. Thornton, "Oil Temperature and Civic Performance in Postwar Japan," Journal of Culinary History, Vol. 12, No. 4, pp. 201-233, 1987.
- ^ 佐伯由美子『揚げ衣の社会学』東京生活科学社, 1996年.
- ^ 田島真一「横浜断面事件の再検証」『食と制度』第4巻第1号, pp. 3-18, 1999年.
- ^ Hiroshi Kanda, "The Aesthetics of Breadcrumbs," Gastronomy Quarterly, Vol. 19, No. 1, pp. 77-91, 2004.
- ^ 高橋恵『全国選手権と商店街再編』みちのく文化研究所, 2011年.
- ^ 中村清『サク音審査の理論と実際』食品審判社, 2018年.
- ^ Emily R. Shapiro, "Frying as Public Spectacle in East Asia," Comparative Food Studies, Vol. 6, No. 3, pp. 88-109, 2022.
外部リンク
- 全日本揚げ物競技連盟
- とんカツ甲子園アーカイブ
- 断面観測研究所
- 昭和食文化資料館デジタルコレクション
- 油温計測士会