八月病
| 正式名称 | 八月病 |
|---|---|
| 英語名 | August Sickness |
| 分類 | 季節性適応不全・社会疲労症候群 |
| 初出 | 1978年ごろ |
| 提唱者 | 東京季節精神生理学研究会 |
| 主な発症時期 | 8月10日 - 8月31日 |
| 好発地域 | 日本の都市部、海水浴場周辺、盆地の盆休み圏 |
| 関連要因 | 暑熱、帰省圧、宿題遅延、冷房依存 |
| 診断上の目安 | 朝食にアイスコーヒーを選び、予定表を2回以上閉じること |
| 国際類似概念 | Late-Summer Malaise |
八月病(はちがつびょう、英: August Sickness)は、主にのやで観察される、中旬に発症しやすいとされる季節性の適応不全症候群である。旧の通達との高温注意報運用が重なったごろから学術的に注目されるようになった[1]。
概要[編集]
八月病は、に入ると急にやる気が落ち、何もしていないのに心身ともに消耗しているように感じる状態を指す概念である。一般には単なる夏バテと混同されやすいが、八月病では「連休明けの空虚感」「海に行ったのに疲れが増す」「冷房の効いた室内で妙に人生を見直す」といった特有の症状がみられるとされる。
この概念は、ではなく、かつてにあった私設研究会が、盆休み明けの職員と講師の聞き取りからまとめた報告に由来するとされる。なお、当初は「八月倦怠症」と呼ばれていたが、の大会で、より親しみやすい語感であるとして現在の名称に改められた[2]。
発祥と名称[編集]
八月病の起源については諸説あるが、有力なのは夏に豊橋市の公立高校で行われた「登校再開時の集中力低下調査」である。調査を担当したは、全校生徒のうちが8月20日以降に「宿題を開いたまま眠る」「黒板の文字が波打って見える」と回答したことから、季節依存性の疾患としての可能性を指摘したとされる。
名称の「八月病」は、当時の研究ノートの欄外に書かれた「八月は心が病むほど長い」という学生の落書きに由来するという説が知られている。また別説では、の夏季行政簡素化方針により、8月だけ公文書の起案が遅れる現象を説明するために、官庁内で半ば自嘲的に用いられ始めたともいわれる。いずれにせよ、半ばには系の生活欄で取り上げられ、一般語として定着した[3]。
症状[編集]
心理的症状[編集]
心理面では、予定を立てるとその時点で疲労が増す「前倒し消耗」が典型である。患者はに3件以上の予定を書き込むと、残りの空白ページを見ただけで帰省したくなることが多いとされる。また、中継の応援音だけで仕事をした気になる「代理達成感」も報告されている。
一部の症例では、の迎え火を見た瞬間に「今年も半分は終わった」と誤認し、急激に人生の総括を始める。これは、ではなく「季節的自己決算反応」と呼ばれ、の東京季節精神生理学研究会年報に初めて記載された。
身体的症状[編集]
身体症状としては、冷房の効いた部屋から屋外に出た際の温度差により、首筋だけが先に夏休みを取得する感覚が挙げられる。特に中心部では、8月第3週の午後2時から4時の間に、飲料の糖度が上昇するほど倦怠感が増すという奇妙な相関が報告された[4]。
また、氷菓の摂取量が1日を超えると、腹痛ではなく「将来への不信」が出現するというデータもある。これを受けて一部の内科外来では、問診票に「昨日の夕方以降にかき氷を何色食べたか」を記入させる運用が行われたとされる。
社会的症状[編集]
社会的症状は、を境に会話の内容が「旅行」から「今年の暑さは異常」に急転する現象である。特にのオフィス街では、8月下旬に会議の冒頭で3分以上天気の話をすると、その会議は実質的に八月病の罹患例とみなされることがあった。
なお、では宿題が終わっていないにもかかわらず、筆記具を整列させるだけで満足してしまう「文房具儀礼化」が観察される。これは八月病の末期症状とされ、保護者からは「夏のうちに全部終わると思っていた」という定型句が多く聞かれる。
診断と対策[編集]
八月病の診断は、器質的疾患の除外というより、夏季の生活習慣と気分の推移を総合して判断される。具体的には、朝の起床時に「今日は何日だっけ」とを3回見直し、なおかつ冷凍庫のアイスの本数を精神的に数え始めた場合、軽症と判定されることがある。
対策としては、内の一部の企業で「午前中だけ本気を出す」「会議資料を1ページ減らす」「氷水を飲んだら5分黙る」といった独自療法が採用された。もっとも有名なのはの私立クリニックが考案した「8月末を9月初日に読み替える認知補助法」であり、患者のが一時的に回復したと報告されているが、追跡調査は行われていない[5]。
歴史[編集]
1970年代 - 用語の成立[編集]
八月病という語が定着する以前、同種の状態は「夏のやけ糞」「盆明け虚脱」などと俗称されていた。、の周辺で開催された「都市生活と季節反応」に関する勉強会で、が盆休み後の学生を対象に簡易アンケートを実施し、8月後半に感情の上下幅が急増することを示したとされる。
この報告は、当初は生活指南雑誌の一記事にすぎなかったが、編集者が「病」という字を入れると売れると判断し、見出しを「八月病、都会人を襲う」と改変したことが転機になった。以後、メディアはこの語を便利な季節ラベルとして多用するようになった。
1980年代 - 研究と制度化[編集]
に入ると、の外郭団体が「夏季学習意欲低下対策」として調査費をつけたことで、八月病は半ば公的な研究対象となった。調査はからまでの12都市で行われ、特にでは「暑さより盆踊りの練習量が影響する」との結果が注目された。
この時期、の前身組織では、八月病を「気温・休暇・家族行事・宿題の四重圧に起因する可逆性症候群」とする暫定定義が採用された。ただし、定義の文言が長すぎたため、実務では「8月に元気がない状態」とだけ説明されることが多かった。
1990年代以降 - 大衆文化への浸透[編集]
には、八月病はテレビ番組の健康コーナーや文芸誌の随筆欄で頻繁に扱われるようになり、「夏の終わりの情緒」と結びつけて語られることが増えた。特にの海岸で撮影された清涼飲料水のCMが、実際には画面外で撮影スタッフが全員汗だくであったことから、「八月病の映像化」として話題になった。
さらに、の委託研究報告書に「八月病様状態」という表現が紛れ込み、これが行政文書における事実上の初採用例とされる。なお、同報告書の脚注には「本研究は涼感扇風機の提供を受けた」と記されており、研究の中立性については一部で議論がある。
社会的影響[編集]
八月病は、日本の夏季労働観に独特の言い訳文化を形成した概念である。企業では「8月だけ会議が短くなる」「稟議が9月まで寝る」「エアコンの設定温度が経営課題になる」といった現象が、八月病を背景に説明されるようになった。
教育現場でも影響は大きく、の一部では8月最終週に「八月病回復週間」が設けられた。ここでは、宿題提出を促す代わりに、で冷たい麦茶を飲みながら進路を考える時間が与えられるという、妙に厳密な制度が試験導入された。もっとも、提出率が上昇したため、翌年からは「制度のせいで生徒が安心してしまう」として縮小された[6]。
批判と論争[編集]
八月病の概念には、当初から「単なる夏バテや怠惰を病名風に言い換えただけではないか」という批判がある。一方で擁護派は、8月という月が社会的に過密であり、が同時に襲来する以上、独立した概念として扱う価値があると主張している。
また、にはの医療関係者グループが「八月病診断チェックリスト」を公開したが、設問の一つに「夜になると花火を見ていないのに音が聞こえることがある」とあったため、学会から再検討を求められた。なお、この項目は後に「要出典」として長く残り、ある編集者が「夏の風物詩への感受性」と書き換えて事態を収拾したとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『八月期における都市疲労の季節変動』東京季節精神生理学研究会年報 第3巻第2号, 1979, pp. 14-39.
- ^ 青木里恵『盆明け虚脱と学習意欲の相関』教育と健康 第12巻第4号, 1981, pp. 201-218.
- ^ Margaret A. Thornton, "Late-Summer Malaise in Urban Populations," Journal of Seasonal Psychiatry, Vol. 8, No. 1, 1986, pp. 44-67.
- ^ 山口俊介『八月病の命名史に関する一考察』日本季節医学会誌 第5巻第1号, 1988, pp. 3-19.
- ^ K. H. McAllister, "Air-Conditioned Despair and Administrative Slowdown," Proceedings of the Society for Climate Behavior, Vol. 2, 1991, pp. 88-103.
- ^ 中村芳子『夏季教育現場における八月病様症状』学校保健評論 第18巻第3号, 1994, pp. 55-71.
- ^ 厚生労働省大臣官房企画課『夏季疲労と職務能率に関する委託研究報告書』平成16年度版, 2004, pp. 7-26.
- ^ “The August Condition: A Survey of Returning Workers,” Urban Welfare Review, Vol. 14, No. 2, 2009, pp. 101-129.
- ^ 佐伯真由美『八月病の認知療法的アプローチと麦茶の温度差』臨床生活学研究 第22巻第2号, 2017, pp. 77-94.
- ^ Christopher J. Bell, "When Summer Ends Too Slowly," International Review of Seasonal Disorders, Vol. 11, No. 3, 2020, pp. 12-41.
- ^ 田所一馬『八月病のための行政用語集』季節行政学雑誌 第4巻第1号, 2021, pp. 1-16.
- ^ 長谷川涼子『花火音幻聴をめぐる診断学的覚書』生活臨床ノート 第9巻第5号, 2023, pp. 219-227.
外部リンク
- 日本八月病学会
- 東京季節精神生理学研究会アーカイブ
- 夏季生活不調資料館
- 都市疲労観測センター
- 八月病FAQ委員会