原田和果
| 職業 | 味覚言語学研究者・官民共同プロジェクト推進者 |
|---|---|
| 活動領域 | 嗅覚・味覚の言語化(官能評価の標準化) |
| 主な貢献 | 「嗅ぎ分け規格K-9」策定、地域試験運用 |
| 所属(当時) | 財団法人日本官能評価推進機構(通称:官味機構) |
| 出身地(推定) | 北摂地域 |
| 研究手法 | 味覚語彙のコーパス化、官能ログ解析 |
| 時期 | 1970年代末〜2000年代初頭 |
| 評価 | 実装主義と批判的対話の両面がある |
原田和果(はらだ かずか)は、の“味覚言語学”を実務化した人物として知られる。1990年代にの行政委託で「嗅ぎ分け規格」を試作し、その成果が後年の地域ブランディング手法へ波及したとされる[1]。
概要[編集]
原田和果は、味覚や嗅覚の経験を“文章”として扱える形に落とし込む試みを推進した人物である。特に、官能評価を「誰でも同じ言い回しで残せる」ことを目標に据えた点が特徴とされる。
その活動はを舞台にした小規模実験から始まり、のちに民間企業の研修プログラムにも取り込まれた。なお、本人の経歴については資料の欠落が指摘されており、年次の一部は複数の聞き取り記録で食い違うとされる[2]。
原田の主張は「味の違いは、舌より先に語彙が発生する」というものであったとされる。そこで同氏は、味覚を表す語彙を単なる形容ではなく、観測手順とセットで定義する“言語化インフラ”の構想を提案したのである[3]。
経歴[編集]
初期の着想:合成香辛料の“母音ズレ”[編集]
原田が最初に注目したのは、合成香辛料の評価で見られる“母音ズレ”現象である。市販の香辛料AとBを混合比0.73:0.27で調整した試作品において、官能評価者の発話が平均で0.6秒ずれ、語尾が「-い」から「-お」に寄ることが観測されたとされる[4]。
同氏はこのずれを、味そのものではなく“記録の型”が誘発していると推定し、評価用の短文テンプレート(例:「香りは前に出て、舌の余韻は後ろに下がる」)を作成した。テンプレートはのちに北摂の研究会で共有され、参加者が独自に改変したものが複数の派生版として残っているとされる[5]。
公的委託:嗅ぎ分け規格K-9[編集]
1992年頃、原田はの地方産業支援事業において、地域の特産品(主に香味野菜と発酵飲料)を対象にした“嗅ぎ分け規格”の試作に関わったとされる。成果物は「嗅ぎ分け規格K-9」と呼ばれ、観測項目が全27カテゴリ、各カテゴリに観察時間が最大で14秒、記録は1件あたり平均で13.4語以内と定義された[6]。
この規格は、官能評価を「結果」ではなく「観測ログ」として提出させる方式だった。つまり、同じ味でも語彙がズレれば“観測手順のズレ”として扱う枠組みである。なお、K-9の試験運用はの共同店舗3か所で実施され、参加者17名のうち16名が“同一の語彙表現”に収束したとされる(残り1名は語彙表現を頑固に変え続けたという逸話が残る)[7]。
社会実装:地域ブランディングへの転用[編集]
K-9は最初、行政委託の報告書として提出されたに過ぎなかった。しかし、原田は“報告書”ではなく“研修教材”へ改変することで普及させたとされる。教材では、官能評価の練習問題が1日当たり36問、期間は6週間、総観測回数は216回とされていた[8]。
この教材が企業研修に採用されるきっかけになったとされるのが、で開催された「味と言語の実装シンポジウム(第4回)」である。原田はそこで、味の説明がうまい人ほど語彙が細かくなるのではなく、語彙が細かい“型”を先に持っていると述べたとされる[9]。この発言が、地域ブランディングの現場で“語彙設計”という発想を定着させたと推定されている。
思想と手法[編集]
原田は、味覚や嗅覚を「感想」として扱うのではなく、「手続き」として扱うべきだと考えていたとされる。そこで鍵になったのが、味覚語彙をコーパス化し、出現の順序や共起(例:「焦げ」→「甘い余韻」)を統計で追う手法である。
同氏の言語化インフラでは、観測者が入力する文が“自由作文”ではなく“文法付き入力”として定められた。具体的には、文末は原則として「〜と感じる」で統一され、形容詞は登録語彙(全312語)から選ぶ方式だったとされる[10]。
もっとも、原田の方法は単なる定量化ではなく、語彙をめぐる政治性も含むとされる。評価者が“正解っぽい語彙”へ誘導される危険を認めつつも、同氏は「誘導されるなら、その誘導の原因を解析すべきだ」と主張したとされる。この姿勢は、実務では便利だが学術では論争を呼んだ面もあったとされる[11]。
社会的影響[編集]
原田の活動は、官能評価の現場に“言語設計”を持ち込んだ点で影響力が大きかったとされる。特に、地方の食品開発では試作品の差が小さいほど説明が曖昧になりがちであったが、K-9以降は「説明が曖昧=観測ログが揺れている」と扱われるようになった。
この考え方は、やの一部自治体で“商品コンセプト監査”のような運用に転用されたとされる。監査では、商品説明文が登録語彙のどのクラスタに属するかが確認され、出現率が低い語彙が多い場合には“過剰な演出”として注意が入ることもあったという[12]。
一方で、言語化が進むほど現場の創造性が萎縮するという懸念も出た。そこで原田自身は、K-9に「意図的逸脱カテゴリ」を設ける提案をしていたとされる。意図的逸脱カテゴリは全27カテゴリのうち2カテゴリを“あえて曖昧”にする枠であり、逸脱の回数が月間で平均3回までに抑えられるよう設計されたとされる[13]。
批判と論争[編集]
原田の方法には、科学性と妥当性をめぐる批判が存在した。味覚や嗅覚の経験は個人差が大きく、語彙の統一が必ずしも味の差の縮約を意味しないと指摘されたのである。
また、登録語彙312語の選定基準が透明でないとする声もあった。官味機構(通称)の内部資料では、語彙選定に「会議で発言しやすい言い回し」を含めたという趣旨の記載があるとされるが、同時に別の記録では「会話ログから自動抽出した」と説明されており、矛盾が残っているとされる[14]。
さらに、K-9が普及するにつれて“評価のための言語”が一般の消費者向け説明へも浸透し、味の話が次第に“手続きの話”になっていったという批判が出た。ある批評家は、原田の手法が「食べる喜びを、記録する義務に変えた」と述べたとされるが、反論としては「義務ではなく共同理解の土台に過ぎない」とする立場があった[15]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 原田和果『味覚言語学の実装論—嗅ぎ分け規格K-9の記録から』官味機構出版, 1996年.
- ^ 中村暁人『官能ログ解析入門:形容詞312語の系譜』日本技術評価協会, 1998年.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton『Taste as Procedure: A Linguistic Audit Framework』Journal of Sensory Communication, Vol.12 No.3, pp.41-67, 2001.
- ^ 佐藤利光『地域特産の説明設計:K-9から監査へ』京都産業政策研究所, 第1版, 2003年.
- ^ 李承浩『Corpora of Flavor: Co-occurrence Patterns in Snack Descriptions』International Review of Food Linguistics, Vol.7 No.1, pp.9-22, 2004.
- ^ 鈴木真一『母音ズレの統計:官能評価者の発話遅延モデル』大阪言語工学研究会, 1994年.
- ^ 田村結衣『評価テンプレートの社会的影響—“〜と感じる”統一の功罪』社会言語学年報, 第18巻第2号, pp.101-129, 2006.
- ^ Kobayashi, Ren.『Standardization of Smell Differentiation in Municipal Projects』Proceedings of the East Asian Practical Science Society, Vol.3, pp.201-219, 2007.
- ^ 谷口はるか『官能評価の誤差と倫理:意図的逸脱カテゴリの設計』日本倫理工学会, 第9巻第4号, pp.55-73, 2009年.
- ^ Watanabe, Seiichiro『Taste Records and Governance: A Companion Note』Asian Administrative Review, Vol.2 No.1, pp.1-12, 1992年.
外部リンク
- 官味機構アーカイブ
- K-9実装ガイド(旧版)
- 京都嗅ぎ分け規格運用報告
- 味覚語彙コーパス配布所
- テンプレート化研究室