困った時のヒューマンプライズ
| 正式名称 | 困った時のヒューマンプライズ |
|---|---|
| 英語名 | Human Prize in Times of Trouble |
| 初出 | 1978年 |
| 提唱者 | 佐伯 恒一郎 |
| 主催 | 財団法人ヒューマンプライズ振興協会 |
| 対象 | 個人・企業・自治体・同好会 |
| 表彰方式 | 危機収束後の遡及表彰 |
| 主な開催地 | 東京都千代田区・港区 |
| 通称 | 困プラ |
困った時のヒューマンプライズ(こまったときのヒューマンプライズ、英: Human Prize in Times of Trouble)は、を中心に広がった、窮地に陥った個人や組織を短期間で再起させるための即応型表彰制度である。もとはにの外郭研究会が提唱した危機対応の評価指標であったが、のちに民間の冠スポンサー制度と結びつき、現在では「困った時の切り札」として広く知られている[1]。
概要[編集]
困った時のヒューマンプライズは、事故、資金難、風評被害、あるいは単なる段取り不良など、日常的な「困った」を乗り切った事例を、事後的に称えるための制度である。一般には表彰であると理解されているが、制度設計上はの訓練記録、広告効果測定、職員の士気向上を一体化した半官半民の仕組みとされる[2]。
創設当初はの研究班が、災害復旧の成功事例を「功績点」に換算する実験から始めたとされる。のちに内の百貨店、ホテル、町内会、大学祭実行委員会などが次々と導入し、現在では「問題を起こした後に最も見事に片づけた者」に与えられる、きわめて日本的な名誉制度として知られている。なお、受賞者の多くは受賞理由よりも副賞のレモン色トロフィーの扱いに困ることが多いとされる[3]。
歴史[編集]
草創期[編集]
制度の起点は秋、の旧別館で開かれた「危機後評価研究会」にあるとされる。座長を務めた佐伯 恒一郎は、当時流行していたの考え方を応用し、「失敗は失敗として記録するが、回復の巧拙もまた評価すべきである」と主張した[4]。
初期のヒューマンプライズは、企業の火災、船便の遅延、学園祭の中止など、かなり限定的な事案を対象としていた。しかし、ある地方百貨店が台風で地下食品売場を水没させた後、3時間で「海鮮フェア」に模様替えして売上を前年同日比127%に戻したことから注目を集め、制度は一気に大衆化したとされる。ここで初めて、表彰状に「困った時ほど腕が鳴る」と書かれたという逸話が残る[5]。
制度の拡大[編集]
後半には、の広告代理店がスポンサーに加わり、名称に「ヒューマン」という語が付されたことで、単なる危機処理ではなく「人間力の可視化」を目指す制度へと変質した。これにより、受賞対象は企業担当者だけでなく、受付係、総務課長、町内会長、果てはマンションの管理人にまで広がった。
また、この時期に導入された「困り度指数」は、被害額だけでなく、巻き込まれた人数、SNS的な拡散力、会議の長さ、そして復旧時に流れた缶コーヒーの本数を基準に算定されたとされる。もっとも、算定式は毎年のように改訂され、版では分母に「お詫び文の枚数」が加えられたため、事務局からは「もはや学問ではなく押印競技である」との苦情が出たという[6]。
全国化と国際化[編集]
にはの有識者会議で事例紹介が行われ、地方自治体の危機管理研修に組み込まれた。特にの豪雪対応、の鉄道遅延対応、の観光地での集団食中毒未遂対応などが高く評価され、年1回の「全国困プラ大会」が始まった。
、英語圏向けに Human Prize in Times of Trouble の表記が採用されると、なぜか海外の大学院生から「災害倫理の新概念」として引用され始めた。さらにの自治体広報誌に取り上げられたことで、制度は一時的に「東アジアのレジリエンス賞」と誤解されたが、現地取材班が表彰式で配られた緑茶と羊羹に圧倒され、記事は最後まで論評を避けたとされる[7]。
選考基準[編集]
選考は原則として、危機発生から72時間以内の初動、7日以内の再開、30日以内の風評鎮静化の三段階で評価される。とくに重視されるのは「現場の空気を壊さずに問題を終わらせる技術」であり、数字上の損失よりも、関係者全員が納得しているかどうかが大きな比重を占める[8]。
審査委員は、、、の専門家で構成されるとされ、年に一度、の貸会議室で12時間に及ぶ審査会が行われる。なお、ここで配られる資料は異様に分厚く、ある年度の候補案件では「事後に出た菓子の包装紙の折れ方」まで参考資料に含まれていた。これが選考の厳密性を示すものか、単なる過剰記録癖かは、今も議論がある。
一方で、選考の透明性にはたびたび疑義が呈されている。特定の受賞者がスポンサー企業の元社員であること、または受賞翌年に同企業のテレビCMへ出演していることから、「危機対応と広告が不可分なのではないか」との指摘がある。ただし協会側は、これを「人と人との縁を可視化した結果」と説明している。
主な受賞事例[編集]
企業部門[編集]
のは、主力商品の包装ミスで内容物がすべて逆さまに印刷された際、「上下反転キャンペーン」として売り切ったことで受賞した。担当課長の一言「見やすい方が正解です」が業界紙に残されている。
のは、停電で宴会場の照明が落ちたのを逆手に取り、キャンドル会食と称して料金を15%上乗せした。利用客の満足度は高かったが、厨房だけが本気で困っていたため、審査員の間では「危機克服ではなく演出勝ち」と評価が割れた[9]。
自治体部門[編集]
の某町は、祭りの山車が台風で倒壊したあと、町内の小学生による段ボール工作で再現し、むしろ前年より観光客を増やした。町長は「壊れたからこそ学べた」と述べ、これが後年の危機教育教材に引用された。
にはのある沿岸自治体が、庁舎浸水後に移動式の受付窓口をコンテナ船で代替運用し、住民から「役所が少しだけ海に近づいた」と評された。この案件は社会的意義が大きかった一方で、審査会では「船籍の扱いはどこまで行政区域に含まれるのか」という、誰も得をしない議論が3時間続いたとされる。
個人部門[編集]
の個人受賞者、の派遣社員・松浦 由美子は、全社システム障害の際に、エクセルのフィルター機能と付箋紙のみで出荷順を再編成し、900件の納品遅延を36件まで圧縮した。彼女の手法はのちに「松浦式・困りごと平準化」と呼ばれ、事務職研修の定番事例となった[10]。
には、町内会の夏祭りで焼きそば機が故障した際、近所の精肉店店主が鉄板を貸し出し、自宅のガレージを臨時の調理場にした人物が受賞した。本人は「たまたまガレージが空いていた」と述べたが、協会はその謙虚さこそがヒューマンプライズの本質であるとして高く評価した。
社会的影響[編集]
ヒューマンプライズの普及は、日本の組織文化に「失敗後の再設計を褒める」という独特の価値観を定着させたとされる。特に以降、多くの企業で危機管理マニュアルの末尾に「回復成功時は困プラ候補」と書かれるようになり、現場職員のモチベーション向上に寄与したとの指摘がある。
一方で、批判も存在する。被害の深刻さよりも機転の良さが称揚されるため、構造的な問題の隠蔽につながるという意見や、そもそも「困った時」を演出する事例が増えたという観察がある。また、ある流通業者では、毎年ヒューマンプライズ候補を狙って無駄に難易度の高い棚卸しを実施し、現場を本当に困らせてしまったため、制度の副作用として有名である。
ただし、災害時の住民支援、自治体の再開支援、学校行事の復旧など、実利の面で役立った事例も多い。とくに以降は、災害復旧と地域コミュニティの再編を評価する公共部門の指標として再解釈され、単なる珍賞から、半ば制度化された「再起の記録」へと変化した。
批判と論争[編集]
最大の論争は、ヒューマンプライズが「困難の解決」を褒めるのか、「困難をうまく見せる技術」を褒めるのか、という点にある。審査記録には「障害そのものは残ったが、会議が美しかったため受賞」といった不可解な判定が散見され、学術的な議論を呼んだ[11]。
また、の授賞式で、スポンサー企業のロゴ入り毛布が大量に配布された際、複数の受賞者が「もはや救済ではなく営業ではないか」と抗議した。これに対し事務局は、毛布はあくまで「困った時の温度管理の象徴」であると説明し、さらに翌年には冷却用うちわが追加されたため、説明がやや破綻した。
さらに一部では、制度名に「ヒューマン」と付けることで倫理性を装っているだけではないかという批判もある。もっとも、協会の機関誌『困難と人間』は毎号かなり真面目であり、特集「謝罪の角度は何度が最適か」や「お詫びの声量と復旧速度の相関」など、妙に実務的な論文が掲載されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯 恒一郎『危機後評価の方法論』日本経済企画庁研究会, 1979.
- ^ 財団法人ヒューマンプライズ振興協会『困った時のヒューマンプライズ年報 第1巻』協和出版, 1982.
- ^ Margaret L. Thornton, "Trouble Recovery and Civic Praise," Journal of Applied Crisis Studies, Vol. 7, No. 2, 1994, pp. 41-68.
- ^ 渡会 恒一『謝罪文と組織再起動』中央広報社, 1998.
- ^ Kenji Arai, "Human Prize Systems in East Asian Municipalities," Review of Social Resilience, Vol. 12, No. 4, 2005, pp. 201-229.
- ^ 大庭 眞一『困った時の表彰文化』港都書房, 2008.
- ^ Eleanor P. Webb, "The Aesthetics of Post-Disaster Commendation," International Review of Bureaucratic Culture, Vol. 19, No. 1, 2011, pp. 5-31.
- ^ 財団法人ヒューマンプライズ振興協会編『困プラ白書 2016』ヒューマン出版社, 2016.
- ^ 鈴木 玄『困り度指数の算定と運用』経済調査月報, 第43巻第7号, 2019, pp. 88-104.
- ^ H. N. Caldwell, "When Apologies Become Infrastructure," Civic Response Quarterly, Vol. 3, No. 3, 2021, pp. 77-95.
- ^ 高橋 乃亜『困ったときのヒューマンプライズ入門』新星堂, 2022.
外部リンク
- 財団法人ヒューマンプライズ振興協会
- 全国困プラ大会 公式記録室
- 困難と人間 編集部
- 危機後評価アーカイブ
- 日本謝罪文法学会