大衆どら焼き依存症
| 分類 | 食行動依存(俗称) |
|---|---|
| 対象菓子 | どら焼き |
| 主な症状 | 購入頻度の増加、代替困難、罪悪感の反復 |
| 成立時期 | 1990年代(研究・用語として) |
| 関連領域 | 社会心理学、マーケティング倫理、栄養疫学 |
| 関連制度 | 菓子相談窓口(自治体任意) |
| 主要論点 | 「依存」の範囲と表現の妥当性 |
大衆どら焼き依存症(たいしゅうどらやきいぞんしょう)は、で広まったとされる「どら焼き摂取の反復が生活機能を侵食する」食行動上の状態である。1990年代以降、菓子消費統計とメディア言説を結び付けた研究が進み、いわば大衆菓子版の依存概念として扱われてきた[1]。
概要[編集]
大衆どら焼き依存症とは、を中心とした摂取習慣が、本人の時間管理・対人関係・経済判断にまで影響しうる状態として語られることが多い。臨床診断名として確立したものではないが、報告書やメディアでは「依存」の語が用いられている[1]。
この状態は、単なる嗜好や食べ過ぎとは区別されるとされる。具体的には、(1)購入までの思考が反復し、(2)入手困難時に代替行動が成立せず、(3)食後に罪悪感や自己嫌悪が生じるにもかかわらず反復が止まらない、という三点セットが“観測されやすい”と説明される。一方で、どこからが依存なのかは定義の揺れが大きいとされ、研究者の間で数値基準が頻繁に組み替えられたとされる[2]。
名称と選定基準[編集]
これらの条件は一見もっともらしいが、後に「理屈は整っているようで、回答者の気分で揺れる」ことが指摘された。ある研究会報告では、質問紙の語尾が「〜してしまう」になるだけで肯定率が平均7.3ポイント上がったと記されている[5]。そのため、依存症という語は、医学的厳密さよりも社会の語り方に近い、という立場が徐々に強まったとされる。
「大衆」と付く理由[編集]
名称の「大衆」は、特定の高級菓子ではなく、日常的に流通するどら焼きが対象である点を指すとされる。なお、の広報資料では、依存という語を“怖く聞こえないように”扱うため、当時は「大衆どら焼き傾向」など別名も検討されたという。ただし、統計論文では最終的に現行表記が採用されたとされる[3]。
研究で用いられた“疑似診断”条件[編集]
早期の研究では、依存の代理指標として「1週間あたりの購入回数」「予定外購入の比率」「代替菓子での満足感低下」を用いたとされる。特に有名なのが、のが提案した“どら焼き・ループ指数(Dorayaki Loop Index, DLI)”である。DLIは、例えば「予定外購入が週2回以上」「同型商品以外で満足が60%未満」「冷蔵庫に“予備在庫”を置きたくなる衝動が月6回以上」といった、やけに細かい項目で構成された[4]。
歴史[編集]
1990年代後半には、コンビニ出店とモバイル決済の普及により、どら焼きが“いつでも手に入る”菓子として位置づけ直されたとされる。その結果、研究者は「入手可能性が高いと、行動が反復しやすい」という仮説を立て、購買履歴データと質問紙を突合させた調査が増えた。
一方で、議論も過熱した。どら焼きは季節商品のため、購買データには季節性が強く乗る。ある研究者は「依存という言葉が、単なる季節効果を上書きしてしまう危険がある」と述べた[8]。また、当事者団体の一部は「依存と呼ばれると“恥”になり、相談が閉じる」として、用語の運用に慎重さを求めたともされる。
起源:1960年代の“防災どら焼き”構想[編集]
大衆どら焼き依存症の“起源”は、食文化ではなく防災行政の検討資料にあるとする説がある。1964年、の一部自治体で、避難所配布用の携帯食としてどら焼きが検討され、当時の試作品は「1個あたり水分保持が最適」「常温で香りの落ち込みが小さい」などと記録されたとされる[6]。ただし、この検討は実施に至らず、資料だけが残った。
後年、この資料の“香り保持”の表現が、心理学者の想像力を刺激し、どら焼きが「記憶の足場」になるという解釈へつながったとされる。とはいえ、当時から“依存”という言葉があったわけではないとされ、依存概念の導入は、もっと後のメディア環境の変化に引き寄せられた。
用語の成立:1991年のテレビ特集と統計の接続[編集]
用語が広まったきっかけとしてしばしば言及されるのが、1991年の深夜番組「胃袋の経済学」での特集である。同番組では、の商店街に設置された臨時窓口「どら相談」が取り上げられ、視聴者参加のアンケート結果が“依存らしさ”として視覚化されたとされる[7]。
このとき番組制作側は、街頭調査として「同じ店で買う回数」を数え、さらに“買う前にスマホで検索する回数”も記録したという。細かい話だが、当時の統計で「検索回数が0回の人でも依存扱いされる」ケースが存在し、その調整として“DLI”の原型が作られたとされる[4]。もっとも、この連動は学術的手続きとしては不自然だと後に批判された。
社会的影響[編集]
大衆どら焼き依存症は、菓子業界と自治体の広報の両方に影響したとされる。例えば、の健康部局では、1999年度から「甘味行動リスク面談」を実施したと報告されている。面談では、栄養相談という建前の下、どら焼き購入の曜日パターンが細かく聞かれたという[9]。
また、企業側では「依存を煽るのではなく、依存を“設計で抑える”」という名目が登場した。具体策として、期間限定のどら焼きに“落ち着く味”を添えたセットが売られたが、当の説明書では「安心のため、置き換え推奨」などと書かれ、どら焼きを食べること自体が計画管理対象になったとされる。これにより、消費者が“意志の管理”を求められる方向へ社会の語りが変わったという指摘がある[10]。
さらに、SNSが普及した後は、「依存症診断メーカー」的な自己診断コンテンツが拡散し、自己評価の指標として“点数”が独り歩きしたとされる。点数はサイトごとに異なり、同じ行動がA判定にもD判定にもなる事例が報告された。にもかかわらず、ユーザーは“点数の変化”を改善目標として扱い、結果として行動は数字に合わせて変形したとされる[2]。
症状・日常の描写(調査事例として報告されたもの)[編集]
報告書では、典型例として「週の前半で衝動が増え、週末に取り返す」型が多いとされる。ある調査では対象者のうち、どら焼き購入が“金曜に偏る”人が34.2%、“日曜に偏る”人が21.7%であったと記述されている[11]。さらに、購入時刻が“18時台”に集中した例もあるとされ、菓子の焼成香が夕方に強くなるという民間説が付随した[12]。
また、やや奇妙なエピソードも紹介されている。たとえばの高校教師は、テスト期間に生徒へ配るはずだったどら焼きを、自分が先に食べてしまう癖が出たとし、反省のために“カバンの中で冷却”を試みた。しかし結果として冷却の手間が儀式化し、むしろ購入頻度が上がったという。研究者はこれを「行動の置換が依存の形式を温存した例」と呼んだ[8]。
例外もある。どら焼きに依存しているはずの人物が、餡の種類を変えるだけで症状が落ち着いたというケースが報告されている。その人物は「餡が変わると“自分の過去”も変わる感じがする」と述べたとされるが、こうした心理言語の分析は主観が強く、再現性が薄いとして扱われた[5]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、「医学的な依存症との混同」である。用語が“比喩”として成立している可能性がある一方で、報道ではしばしば診断名のように扱われ、当事者が治療を求める一方、医療側は食品嗜好の領域だと判断するというすれ違いが起きたとされる[13]。
また、研究手法への異論も多い。DLIのような代理指標は、質問紙と購買ログの整合が完全ではない。特に、自己申告の「我慢できなさ」の数値は、どら焼きの販売促進キャンペーンの気配で変動しうる。実際、で地域クーポンが始まった月は、肯定率が平均12.9%上昇したとする報告がある[14]。この上昇が依存の増大なのか、単に“買いやすさ”の変化なのか、判別が難しいとされた。
さらに、奇妙な論争として「依存症はどら焼きが悪いのか、調理環境が悪いのか」という方向へ議論がずれたことが挙げられる。ある研究会では、ホットプレートの温度が高いほど“期待感”が上がり、結果として購入前の反復思考が増えた可能性が示唆された。もっとも、そのデータは「温度計の型番が途中で変わった」ため厳密性に欠けると指摘されている[15]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐藤礼子『菓子購買と反復思考:DLIによる擬似診断の設計』日本行動疫学会, 2002.
- ^ Margaret A. Thornton, “Frameworks for Food-Driven Compulsion in Mass Retail,” Journal of Applied Consumer Psychology, Vol. 18, No. 2, pp. 101-124, 2006.
- ^ 全国和菓子協同組合『大衆菓子の言葉づかい指針:依存表現の抑制と相談窓口』全国和菓子協同組合, 1999.
- ^ 鈴木啓介『どら焼き・ループ指数(DLI)の妥当性検討』生活行動計測ラボ報告書, 第3巻第1号, pp. 1-38, 1998.
- ^ 伊藤真理『質問紙語尾が肯定率に与える影響:食行動調査の小さな差』臨床社会研究, 第12巻第4号, pp. 55-72, 2001.
- ^ 東京都防災企画部『避難所携帯食の検討:常温香気保持の試験記録(1964年)』東京都防災企画部, 1964.
- ^ 番組制作班『胃袋の経済学』テレビアーカイブ記録集(横浜版), pp. 210-233, 1991.
- ^ 山本和幸『依存の語彙が相談行動を縮める:当事者団体の回顧聞き取り』社会福祉レビュー, 第7巻第2号, pp. 77-96, 2004.
- ^ 田中由紀子『甘味行動リスク面談の運用実態:中野区1999年度報告』自治体保健政策年報, Vol. 5, No. 1, pp. 33-49, 2000.
- ^ Kazuya Nakatani, “Designing ‘Replacement’ Without Stigmatizing Consumers,” Ethics & Marketing Quarterly, Vol. 9, No. 3, pp. 201-220, 2011.
- ^ 松本健一『曜日偏向と焼成香の錯覚:どら焼き購入時刻の統計再検討』北海道栄養科学会誌, 第14巻第1号, pp. 12-29, 2005.
- ^ Nobuko Hirai, “Cold-Storage Rituals and Compulsive Purchase,” International Journal of Behavioral Food Studies, Vol. 2, No. 1, pp. 1-18, 2007.
- ^ 中村隆『“依存症”の比喩化による医療アクセス齟齬の分析』日本プライマリ・ケア学会誌, 第20巻第6号, pp. 501-520, 2008.
- ^ 大阪市健康部『地域クーポン施策が甘味関連自己評価へ与えた影響』大阪市健康部年次報告, pp. 88-113, 2013.
- ^ Catherine L. Ward, “Hot-Plate Temperature and Anticipatory Thinking in Food Procurement,” Appetite & Expectation, Vol. 31, No. 4, pp. 900-915, 2012.
外部リンク
- 嘘ペディア:どら焼き依存症相談窓口DB
- 大衆菓子言説アーカイブ(架空)
- DLI計算機(説明だけが厳密)
- 地域クーポンと購買偏向の可視化
- 質問紙語尾研究の補助資料