『**安蔵くんこ**』
| タイトル | 安蔵くんこ |
|---|---|
| ジャンル | 学園奇譚、心理コメディ、擬似SF |
| 作者 | 安達 厚司 |
| 出版社 | 白亜堂出版 |
| 掲載誌 | 月刊ミラージュコミック |
| レーベル | ミラージュ・コミックス |
| 連載期間 | 1997年4月号 - 2004年11月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全132話 |
『安蔵くんこ』は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『』は、の旧工業都市を舞台に、名字のようでいて人物名のようでもある「安蔵くんこ」をめぐる学園生活と超常現象を描いた漫画作品である。作中では、郊外の市立高校を中心に、検出不能な「静音現象」や、校舎の床下に残された昭和期の実験記録などが断片的に提示される。
連載開始当初は一見すると普通の学園漫画であったが、第3章以降に、旧系の実験施設、そして「くんこ式観測法」と呼ばれる謎の測定儀が登場し、読者層を急速に拡大した。特に1999年頃の単行本第5巻の増刷時には、初版2万部が3日で完売し、累計発行部数は最終的に480万部を突破したとされる[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともと工業高校向けの広告漫画や教育冊子を手がけていた人物で、の夏にの倉庫街で見た「音のしない搬送ベルト」から本作の着想を得たと語っている。なお、この逸話は本人の単独インタビューでのみ確認されており、編集部は「かなり盛っている」としている。
『月刊ミラージュコミック』編集部は当初、連載候補として「部活動もの」を想定していたが、安達が持ち込んだ企画書の欄外に「主人公は安蔵くんこ、ただし性別は読者に委ねる」と書かれていたため、企画会議が2回中断したという。結果として、4月号から連載が始まり、開始時点での原稿はわずか18ページだったが、背景資料だけで47枚に及んでいたとされる。
制作過程ではの校閲担当が、作中に登場する「静音現象」の説明文を理科年表風に整える作業に追われたほか、3巻以降は「くんこ」の表記ゆれを避けるため、社内で専用の表記マニュアルが作られた。そこでは「くんこ」を1人称に見せる場合は平仮名、「装置名」の場合は片仮名、と細かく規定されていたが、最終的にほとんど守られなかった[要出典]。
あらすじ[編集]
南雲台高校編[編集]
物語は、転校生・がの旧校舎に足を踏み入れるところから始まる。くんこは極端に音に敏感で、教室の蛍光灯が1回だけ鳴る音まで聞き分けるが、周囲にはほとんど理解されない。
この編では、学級委員のが「床下から夜だけ風が吹く」と訴え、くんこがその原因を追ううちに、学校の地下に残された試験区画「K-17室」を発見する。K-17室には、の書類、使われていない換気扇、そしてなぜか温度計が9本並んでいた。
静音回廊編[編集]
第2の大きな山場である静音回廊編では、校舎の北棟に現れる「音が消える廊下」が舞台となる。くんこは回廊を通ると自分の記憶が一部だけ欠けることに気づき、記憶の穴を埋めるため、の古い目録カードを一枚ずつ照合していく。
ここで初登場するは、回廊の長さを毎朝1.8メートルずつ測り直す謎の生徒であり、彼の測定値は天候によって0.2メートル前後ぶれることが多かった。読者投稿欄では「不安になるのに癒やされる」との感想が相次ぎ、単行本第6巻の帯にはそのまま採用された。
港湾研究区画編[編集]
後半の港湾研究区画編では、舞台が近くの埋立地に移り、旧の地下で保存されていた「くんこ式観測法」が明かされる。これは、対象を直接見るのではなく、周囲の沈黙率・机の傾き・掲示板の紙の反り返りを総合して存在を推定する手法である。
くんこはここで、自身の名前が過去の研究コード「A.K-9」と偶然一致していたことを知る。さらに、研究主任のが「名前は器具を選び、器具は人を選ぶ」と言い残して失踪したことで、作品は一気に擬似SF的な色彩を強めた。最終章では、くんこが校舎と港湾区画をつなぐ“無音の階段”を閉じるか否かの決断を迫られる。
登場人物[編集]
は、本作の主人公で、無口で観察眼が鋭いが、プリンの蓋を開ける音だけは苦手である。作中では性別や年齢がしばしば曖昧に描かれ、これがファンの考察文化を過熱させた。
は、南雲台高校の学級委員で、現実主義者を自称する一方、毎週金曜だけ校舎の角を数える癖がある。くんことは最初対立するが、のちに最も信頼される補助役となる。
は、静音回廊を調査する2年生で、常に測定器を首から下げている。彼の記録帳には「雨の日は静けさが1割増す」などの独自理論が並び、学内では半ば都市伝説のように扱われた。
は港湾研究区画の元主任で、白衣のまま内の各地を転々としていた人物である。彼女の残したメモには「くんこは名ではなく保護具」と書かれており、物語の解釈を大きく揺さぶった。
用語・世界観[編集]
本作の世界では、「静音現象」は単なる無音状態ではなく、空間そのものが音の発生を先回りして抑制する現象として扱われる。作中ではの旧研究資料を参照した設定が置かれており、校内放送が3秒遅れると現象が強まるとされる。
「くんこ式観測法」は、に港湾試験棟で試作された観測プロトコルで、音響測定よりも「机の脚の摩耗」「掲示物の貼り替え頻度」「給湯室の湯気の向き」を重視するのが特徴である。学術的には荒唐無稽であるが、作中ではこれが高い再現率を持つことになっている。
また、作品後半で重要になる「無音の階段」は、物理的な階段というより、同じ場所を通っているのに上下移動の感覚だけが欠落する現象として描かれる。連載当時は読者から「説明されるほど分からなくなる」と評され、そこが魅力であるともされた。
書誌情報[編集]
単行本はのレーベルより刊行された。第1巻には「南雲台高校編」が収録され、第5巻からは「静音回廊編」に入り、巻末には毎回、作者による1ページの「測定メモ」が付属した。
特装版は第8巻、第11巻、第14巻の3種類が存在し、それぞれに校舎の窓を模した透明カバー、港湾区画の地図カード、くんこの名前を反転印刷したしおりが封入された。なお、第11巻初版には誤っての方角が90度ずれて印刷され、回収騒ぎになったが、現在では誤植版が高値で取引されている。
海外版は英語圏向けに『Anzō Kunko and the Silent Corridor』として再編集されたが、沈黙を表現する擬音語の処理に失敗したため、評論家の間では「原作の妙が8割失われた」とされる。
メディア展開[編集]
2002年にはが発表され、ながら平均視聴率4.8%を記録した。制作はが担当し、特に第7話「蛍光灯が鳴る夜」は、BGMを極端に削った演出で話題となった。
また、向けのサウンドノベル版、向けの探索アドベンチャー、さらには沿線の駅でスタンプを集める「無音の階段ラリー」など、メディアミックスが積極的に展開された。駅スタンプ企画は想定外の人気を呼び、内の一部駅では週末に整理券が配られたという。
実写化企画も一度だけ進行したが、主人公の沈黙を映像で表現するのが難航し、最終的には朗読劇とAR展示を組み合わせたイベント「安蔵くんこ観測会」に変更された。これにより作品は漫画の枠を超え、社会現象となったとする評価もある。
反響・評価[編集]
連載中から、読者の間では「分かる気がするのに説明できない漫画」として熱烈に支持された。特にの夏頃には、ファン同士が学校の階段や給湯室の配置を報告し合う投稿文化が生まれ、地方紙の生活欄でも取り上げられた。
批評家からは、学園漫画の形式を借りながら、都市の残響と個人の記憶の欠損を重ねた点が高く評価された一方で、「作者が設定を思いついた順に描いているように見える」との指摘もあった。実際、最終巻のあとがきでは安達が「第4巻までの理屈は後から作った」と述べており、編集部はこれを半ば黙認していた。
累計発行部数は最終的に480万部を突破し、の一時期には内の古書店で第3巻が定価の7倍で取引された。現在でも、作品冒頭の「くんこが教室の沈黙に気づく場面」は、後期漫画の名場面としてしばしば引用される。
脚注[編集]
[1] 連載開始号は編集部資料に基づくとされる。 [2] 累計発行部数は書店向け販促資料の数値であり、後年の再集計で若干の差異がある。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 安達厚司『安蔵くんこ 第1巻』白亜堂出版, 1997, pp. 3-57.
- ^ 高瀬由里「沈黙表現の可視化と学園漫画」『コミック文化研究』Vol. 12, 第4号, 2001, pp. 44-61.
- ^ 白石健一『90年代漫画の音響演出史』緋芽書房, 2008, pp. 112-139.
- ^ M. Thornton, “Measuring Silence in Serialized Comics: The Anzō Kunko Case,” Journal of Japanese Popular Media, Vol. 8, No. 2, 2010, pp. 201-226.
- ^ 安達厚司『作者自註 安蔵くんこ測定メモ集』白亜堂出版, 2004, pp. 7-88.
- ^ 西園寺みどり「港湾試験棟と都市伝説の交差」『現代サブカル考古学』第3巻第1号, 2006, pp. 15-29.
- ^ K. Ishimoto, “The Corridor That Forgot Its Sound,” Mirage Review of Comics, Vol. 5, No. 1, 2005, pp. 9-34.
- ^ 『アニメーション年鑑 2003』星雲社, 2003, pp. 318-322.
- ^ 藤堂誠一『メディアミックスは階段を上る』白亜堂新書, 2011, pp. 66-97.
- ^ 大槻奈々『くんこ現象の民俗誌』東雲民俗出版, 2014, pp. 140-169.
外部リンク
- 白亜堂出版 作品案内
- 月刊ミラージュコミック公式アーカイブ
- 安蔵くんこファンメモリアル協会
- 南雲台高校資料室デジタル館
- ミラージュ・アニメーション特設サイト