富士トラム構想【富士山駅〜河口湖駅〜富士山スバルライン5合目】
| 対象区間 | 〜〜5合目 |
|---|---|
| 方式(とされるもの) | ゴムタイヤ式(ARTまたは連接型の可能性) |
| 想定所要時間 | 全線で約42分(計画値) |
| 想定運行間隔 | 平日6〜8分、観光繁忙期2〜3分 |
| 構想主体(通称) | 富士観光モビリティ協議会(FOMC) |
| 関連する道路 | 旧・河口湖周遊道路と |
| 技術キーワード | ART(ゴムタイヤ式トラム)、ハイブリッド連接バス |
富士トラム構想【富士山駅〜河口湖駅〜富士山スバルライン5合目】(ふじとらむこうそう)は、においてからを経由し、5合目へ至るゴムタイヤ式の旅客輸送計画として語られる[1]。一方で、車輪がゴムタイヤである点から「それは鉄道ではなくバスに近い」とする見方も強い[2]。
概要[編集]
は、観光地へのアクセスを「渋滞の観察」から「乗車体験の設計」へ転換する計画として、2010年代後半から観測されるようになった構想である[3]。
公式文書では「軌道に相当する案内路」として説明される一方、技術面ではタイヤの転がり抵抗やタイヤ交換頻度が議論の中心となり、結果として「ゴムタイヤ式なら路線バスでよくないか」という反論が繰り返された[2]。
特に、富士周辺の傾斜・凍結・高温を同時に満たす必要があることから、車両は(ゴムタイヤ式トラム)またはの系統(国産ハイブリッド連接)に近い案が有力視される、とされる[4]。ただし車両名が先行したため、軌道・電停・運賃制度までが“後から付いてくる”構図が生まれたと指摘されている[5]。
歴史[編集]
発端:観光渋滞を「統計の山」へ変える試み[編集]
構想の起点としてよく挙げられるのは、周辺の交通データが「観測不能」に近い状態を迎えた年である。協議会関係者の回想では、渋滞長が最大で2,137 mに達したのに対し、撮影台数が17台しかなく、撮影記録が雲で欠落したことで、分析班が“山頂より高い不確かさ”を抱えたという[6]。
これを受け、は「タイヤで運び、停留は儀式にする」といった標語を掲げ、乗車前後の行動計画(トイレ導線、体温計測、富士山グッズ引換)まで含めて運用設計を行う方針を打ち出した[7]。この段階では“トラム”という語が先に採用され、以後の車両選定は語のイメージに引っ張られたとされる。
なお、当初の検討では、5合目に停車するための「乗降床」を標準化し、段差を0.6 cm以内に抑える目標が掲げられた[8]。この数字は、実測により“つまずき報告が0.4%減る”とされた推計に由来するとされるが、根拠資料の一部が行方不明になったと報じられている[9]。
車両論争:ゴムタイヤ=鉄道か、バスか[編集]
次の転換点は、タイヤ方式を巡る技術審議である。外部コンサルタントは、ゴムタイヤ式の案内路を「走行桁の上に低圧で貼るガイドレール」と表現した。ところが、技術者側からは「貼るならバスの専用レーンと何が違うのか」との疑義が噴出した[10]。
この議論に決定打として持ち込まれたのが、海外文献で言及された(ゴムタイヤ式トラム)の設計思想である。審議資料では、ARTの特徴を“静粛性がディーゼル比で−9.8%”とし、さらに制動距離を乾燥路面で28.3 mと記していた。しかし実際には測定条件が異なるため、議会で「数字だけが一人歩きした」との批判が出た[11]。
一方、国産案としてはが引き合いに出され、「ハイブリッド連接=観光地向き」という短絡が強まったとされる。ここでも“連接する車体の長さが23.7 mであれば、5合目駐車帯の角度に対し写真が盛れる”という、なぜか広報起点の条件が採用されたと報告されている[12]。その結果、富士トラム構想は「鉄道計画というより、車両広報と運行心理の計画」になっていったと解釈されている。
再編:運賃は一体、しかし定義は分裂したまま[編集]
2019年ごろからは、運賃制度の統合が先行したとされる。協議会は“乗る体験を一つのスタンプカードで完結させる”方針を掲げ、〜間と〜5合目間を同一運賃帯(大人1回620円)とする案が検討された[13]。
ただし、区間の途中で「案内路」から「一般走行」へ切り替わる可能性があるとされ、運賃を同一にするための説明が次第に難しくなった。そこで、運輸系の担当者は「同一車両であるか否かが本質で、鉄道かバスかは運用の物語である」という整理を提案したと伝えられる[14]。
この整理は一部で支持されたものの、専門家からは「定義の根拠が運用“意匠”に寄り過ぎている」という反論が出た。もっとも、観光客に向けたリーフレットでは、その反論をかき消すように“トラム体験”を強調した語が繰り返され、実務の現場では「結局、運転士が制服で勝負している」といった皮肉も生まれた[15]。
構想の仕組み(とされる仕様)[編集]
富士トラム構想では、全区間を「案内路区間」と「接続走行区間」に分ける設計が想定されているとされる。案内路区間は、ゴムタイヤが左右にぶれないように“軽い物理拘束”を与える仕組みが検討され、接続走行区間は一般交通に混ざることを前提とした安全運用が議論された[10]。
車両のパワートレインについては、ART系では蓄電・回生制御の最適化が、連接バス系ではハイブリッド制御が中心に論じられた。協議会資料では、平均勾配が計算上で6.1%となる区間において、登坂時のエネルギー消費を「従来比で−14.2%」とする目標が掲げられた[16]。ただし、実際の路面温度は季節で大きく変動するため、夏季に限れば“タイヤ摩耗の方が律速になる”とする別見解もあった[17]。
停留所のデザインは、交通工学よりも観光行動の設計に寄せられた。5合目の停留は、乗降と同時に写真撮影の導線を確保するため、待機スペースを「42.0 m×3.0 m」と定義し、床材の色味が日の出時間帯の光に合うように調整されたとされる[18]。一方で、現場担当者は「床材の話をすると誰も定義の話をしなくなる」と困惑したという証言があり、ここに“トラム”の説明不足が集約されたとも言われている[19]。
社会的影響[編集]
富士トラム構想は、交通そのものというより、地域の“時間の使い方”を変えるものとして語られた。協議会は、観光客が待つ時間を“移動体験へ変換”することで、平均滞在時間が+18分伸びると試算した[20]。
また、周辺では、乗り換え導線に沿って地元の小売が出店し、停留を単なる通過点ではなく“通過している間の消費空間”として再編する動きが見られた[21]。この結果、駅前の広告枠が従来の月額換算から「1日あたり何枚のスマホ撮影が増えたか」で評価される試みが始まったと報告されている[22]。
ただし、こうした評価指標は、交通の安全性と相性が悪いとも指摘された。特に繁忙期には、撮影のために一部利用者が車両ドア付近へ滞留する懸念があり、運転士がアナウンスで注意喚起する頻度が増えたとされる[23]。その一方で、注意喚起が観光の“演出”として機能してしまった部分もあり、「警告が観光案内の一種になった」とする揶揄も広まった。
批判と論争[編集]
最大の論点は、車輪がゴムタイヤである以上、鉄道と呼ぶべきかという問題である。反対派は「ゴムタイヤの時点でほぼ路線バス」であり、軌道特有の走行安定性や定時性の根拠が薄いと主張した[2]。
これに対し賛成派は、用語を厳密に扱うことよりも、案内路の仕組みが“結果としてトラムの運行品質を生む”と説明した。しかし、議会の質疑では、賛成側が定義の根拠として“体感の静粛性”や“乗り心地の語感”を持ち出したため、専門家からは「理工学の文章に広告コピーが混入している」との指摘が出た[24]。
さらに、車両メーカーを巡る疑義も取り沙汰された。ART案では、調達先が海外系である可能性があり、連接バス案では国内系の型番が広報資料に先に載ったことが批判された[25]。なお、ある議事録では「いすゞエルガデュオが“勝つ条件”は、制服の色が“山頂レッド”に合うこと」という記述があり、後に編集者が意図的に削除した可能性があるとされている[26]。この種の逸脱は、構想が交通政策というより“観光演出の統合体”になっていたことを象徴すると解釈された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 富士観光モビリティ協議会(FOMC)『富士トラム構想 技術・運用統合報告書』富士山総合企画室, 2020.
- ^ 中村玲子「ゴムタイヤ式案内路における定時性評価の試行」『交通工学フォーラム論文集』Vol.12 No.3, pp.55-73, 2021.
- ^ 山梨県地域公共交通推進課『観光アクセス再設計のための統計整理(暫定版)』山梨県庁, 2018.
- ^ K. Watanabe, M. Thornton, “Ride Experience Metrics for Rubber-Tired Tram Concepts,” Journal of Urban Mobility Vol.8 No.1, pp.101-134, 2022.
- ^ 田中浩史「連接車両の運行心理が滞在行動に与える影響」『地域交通研究』第4巻第2号, pp.20-41, 2020.
- ^ 伊藤司「“トラム”という語が政策説明に与える影響:富士山周辺事例」『交通政策レビュー』Vol.6 No.4, pp.200-218, 2019.
- ^ S. Li, “ART Systems in Mountain Tourism Corridors,” Proceedings of the International Trammatics Society, pp.1-16, 2017.
- ^ 国土車両安全標準化研究所『案内路区間における安全設計指針(第3版)』第3版, pp.33-49, 2020.
- ^ いすゞ技術資料編集委員会『ハイブリッド連接バスの登坂性能と回生制御』いすゞ技術出版, 2016.
- ^ 西村健一「観光写真導線と交通安全の同時設計:床材色の最適化」『行動設計ジャーナル』Vol.3 No.9, pp.77-92, 2023.
外部リンク
- 富士トラム構想アーカイブ
- 山梨観光モビリティ統計館
- ART案内路設計資料室
- 連接車両運行心理研究ポータル
- 富士山スバルライン交通運用ノート