山の会(ドラム)
| 名称 | 山の会(ドラム) |
|---|---|
| 略称 | YDS |
| ロゴ/画像 | 白い山影と赤いドラム面を組み合わせた紋章 |
| 設立 | 1958年(1958年6月14日設立) |
| 本部所在地 | スイス・ベルン |
| 代表者/事務局長 | マルコ・エルツァー(事務局長) |
| 加盟国数 | 27か国 |
| 職員数 | 412人(常勤296人、契約116人) |
| 予算 | 年予算 62,480,000スイス・フラン(2024年度) |
| ウェブサイト | https://yds-drums.example.org |
| 特記事項 | 遭難時の音響合図規格「YDSドラム・コール」を管理している |
山の会(ドラム)(やまのかいどらむ、英: Yamanokai Drum Society、略称: YDS)は、を目的として設立されたである[1]。設立。本部はに置かれている[2]。
概要[編集]
は、山岳地帯における捜索救助を、打楽器の「音響通信」と「標識運用」を用いて支援する国際NGOである[1]。特に、霧や積雪、携帯通信不能下でも届く規格化された打音パターンを提供することで知られている。
当会の活動は、救助隊の訓練カリキュラム、地域自治体との共同演習、そして「YDSドラム・コール」と呼ばれる合図標準の運営に整理される。理事会と総会で決議された規程に基づき、各地の山岳団体に研修を分担金方式で展開している[3]。
歴史/沿革[編集]
創設の経緯[編集]
当会は1958年、スイスのにおいて、冬季の行方不明事案が「夜間の視認不能」と「救助隊の疲労」によって長期化したことに対する対策として創設された[4]。当時の救助隊は信号弾と笛を併用していたが、雪面で反射した音が混線し、「同じ音を聞いているはずなのに場所がズレる」事例が報告されたとされる。
この問題に対して、音響工学の教育を受けたアルピニストであるが、山小屋に残る儀礼用の太鼓を「方向推定の補助」に転用できると提案したことが、設立の直接の契機とされる[5]。なお、提案書は全6部構成で、うち第3部にだけ「ドラム面の塗料厚みは0.7ミリメートルであるべき」との記述があり、後年の研究者が「やけに具体的だ」として注目したという[6]。
創設当初、当会は国際機関としてではなく、アルプスの地域連盟を前身として運営される形が採られた。1961年に規程改定が行われ、管轄地域は徐々に北欧・東欧へ拡張されたとされる[7]。
発展と制度化[編集]
1968年、当会は各国の山岳団体に対し統一合図の統計運用を求める「所管標識運用要領」を整備した。これにより、遭難者の行動(足跡の継続、一定時間の静止)と救助隊の打音の往復が、「平均交信遅延 14分±6分」に収束する傾向が観測されたと記録されている[8]。
さらに1983年、当会は理事会の決議に基づき、訓練を実施する外部機関を傘下として認定する制度を導入した。認定手続きは書類提出だけでなく、対象太鼓の音色校正(周波数帯域 70〜110Hz)を伴うとされ、監査員が現地で「叩打速度のばらつき係数 0.12以下」を確認したとの回顧が残っている[9]。
冷戦期には「救助のための通信規格」が軍事転用を疑われることがあり、一部地域では活動が制限された。一方で当会は、合図パターンに「意図的に長周期の休止」を含めることで誤認を避けるよう運用を分担金契約に組み込んだと説明した[10]。
組織(組織構成/主要部局)[編集]
当会は理事会と総会を中心として運営される。理事会は加盟国から指名される理事で構成され、総会は年1回開催される。総会は決議により規程の改定、予算の配分、加盟審査を行う権限を持つとされる[11]。
主要部局として、第一にが挙げられる。同局はYDSドラム・コールの改訂、訓練用テキスト、機材の仕様統一を所管する。第二にがあり、加盟国の山岳救助隊と共同演習を分担して計画を立てる。同部の担当地区は、当会が独自に設定した「標高帯域コード」(A: 800〜1200m、B: 1200〜1800m等)で管理されていると報じられている[12]。
第三にが置かれており、分担金と助成金の運用を監査する。監査室は外部監査と併用されるが、傍聴者が「議事録に必ず“打面の反射率”が数値で出てくる」と語ったことが、のちの奇妙な伝説につながったとされる[13]。
活動/活動内容[編集]
当会は、遭難救助における音響合図の運用を担う。具体的には、救助隊へ向けた訓練を年次で実施し、合図パターンの実地評価を行っている。活動を行う際には、現場の天候区分(降雪、強風、低霧)ごとに打音の間隔と強度を調整する方式が採用されている[14]。
また、自治体・山岳警備隊と共同で「ドラム回廊演習」を実施している。演習では、直線距離 3.2km にわたって複数の太鼓を配置し、風向きに応じて反復合図を最適化する。参加者は「太鼓の音が聞こえる位置」を地図に記録し、当会のデータベースに登録される仕組みである[15]。
さらに、当会は遭難者向けの簡易版説明書(紙面とQRコードに相当する模様印刷)を配布する。説明書には「最初の打音は3回、次は休止を挟み、最後に2回」というように、短い手順が提示されるとされる[16]。一方で、稀に誤解が発生し「それは宗教儀礼だ」と誤認されることがあるため、当会はコミュニティ向けに講習会も行っている。
財政[編集]
当会の予算は、年予算 62,480,000スイス・フランである(2024年度)。予算の大部分は職員人件費と訓練運営費に充てられるとされる[17]。分担金の取り決めは加盟国に対して行われ、標高帯域コードの対象人口と演習参加回数を基準に換算される仕組みである。
助成金は主に自然災害対応の枠で配分され、音響合図機材の更新(膜材、マウント、耐水コーティング)に用いられるとされる。なお、当会の財務文書には「耐水コーティングは積雪下での音量低下を—2.3dB以内とする」との項目があり、予算審議の際に妙に細部が揉めたという証言が残っている[18]。
内部監査は財務監査室が行い、理事会に報告される。監査報告書は要約版と詳細版の二系統で運営され、要約版では成果指標(交信成功率 91.4%など)だけが記載され、詳細版では機材の検査記録が添付されるとされる[19]。
加盟国(国際機関の場合)[編集]
当会は現在、27か国を加盟国としている[20]。加盟国は、救助隊の訓練体制と山岳地帯のリスク評価に基づき、総会の決議で承認される。
加盟国の例としては、、、、、、、などが挙げられる。各国は所管地域を申請し、山岳連携部が現地の演習計画を調整する運営される方式が採られている[21]。
なお、加盟国のうち一部は「音響救助の監督支援」だけを担う準加盟形態を取る場合があるとされる。この場合、分担金は通常の半額である一方、YDSドラム・コールの試験実施に職員を派遣する必要がある、と運用実態が説明されている[22]。
歴代事務局長/幹部[編集]
歴代の事務局長としては、創設期の指導者であった(1958〜1972年)がまず挙げられる。彼は「規格より先に、現場で聞こえることが重要だ」として、設立当初から監査ではなく訓練参加を優先したとされる[23]。
次いで、1973年から1989年まで事務局長を務めたのはである。彼女は音響救助標準局を拡充し、打音のパターン表を「天候別」に分類する枠組みを作ったと記録されている[24]。
1990年代にはが短期間で運営を立て直したとされ、財務監査室の整備を進めた。一方で、在任中に会計書類の記載粒度が増えすぎたため、職員が「監査が走る速度が速い」と評した逸話が残っている[25]。
現職の事務局長であるは、2020年代に「低霧合図の最適化」を重点課題とし、職員数と機材更新のバランスを重視しているとされる。
不祥事[編集]
当会には不祥事として、2019年に発覚した「霧中合図の誤印刷事件」がある。事案では、山岳連携部の印刷委託先が誤った天候区分テンプレートを用い、低霧時の手順が通常霧の文面と入れ替わった可能性が指摘された[26]。
当会は、即時に回収と差し替えを行ったと説明し、誤配布分は推定で 1万2,430部、影響が疑われる演習は 38件とされる。ただし、当会側の説明は「誤配布でも交信成功率は統計上で下がらなかった」という趣旨であり、現場の参加者からは「聞き分けができる訓練者には救われたが、できない人は不安になった」との批判が寄せられた[27]。
このほか、2022年に財務監査室へ提出された機材検査記録に、検査日付の不整合が複数見つかったとの指摘もあった。調査の結果、いくつかの記録は「検査再開日」を日付として記載していたためと説明されたが、監査委員会の報告書では「運営される帳票の概念が現場とズレている」ことが明記されたとされる[28]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山崎千尋『音響合図の救助学—YDS規格の全貌』スイス救助研究会, 2021.
- ^ Franz H. Hegen「The YDS Drum Pattern and Snowfield Reflection」『International Journal of Mountain Safety』Vol.12 No.3, 1969, pp.41-63.
- ^ Irina Sālen『遭難者のための短手順文書設計』ベルン大学出版局, 1986.
- ^ ジョナス・ブロー『監査と訓練の二重統治:山の会の運営史』ベルン州法務出版, 1994.
- ^ Katrin Möller「Weather-Indexed Sound Signaling in Alpine Searches」『Proceedings of the European Acoustics Society』Vol.27 No.1, 2008, pp.110-129.
- ^ 中村玲奈『標高帯域コードが生んだ連携の最適化』日本山岳協会, 2015.
- ^ United Nations Relief Coordination Office『Non-visual Communication in Disaster Response』UNRCO Press, 2017, pp.88-92.
- ^ The Swiss Academy of Field Science『水膜材の音響減衰評価—膜厚と反射の関係』第6巻第2号, 2013, pp.201-219.
- ^ Martínez, Elena「Drums, Myths, and Metrics: A Case Study of Yamanokai」『Global NGO Governance Review』Vol.9 No.4, 2020, pp.9-27.
- ^ “収束する交信遅延”:YDSドラム・コールの推定手法(第3版)YDS内部研究報告書, 2018.
外部リンク
- YDS公式アーカイブ
- ベルン音響救助訓練センター
- 標高帯域コード協議会
- 山岳連携部 共同演習報告書庫
- YDSドラム・コール 機材規格書ダウンロード