所さんの女神転生
| タイトル | 所さんの女神転生 |
|---|---|
| 画像 | 所さんの女神転生_ジャケットイメージ.png |
| 画像サイズ | 260px |
| ジャンル | ロールプレイングゲーム / 行動選択型冒険 |
| 対応機種 | メガドラHD(据置) |
| 開発元 | 株式会社メトロノーム企画 |
| 発売元 | 昭和玩具流通株式会社 |
| プロデューサー | 渡辺精一郎(当時) |
| ディレクター | 鈴木妙子 |
| 対象年齢/発売日 | 12歳以上 / 2012年6月7日 |
『所さんの女神転生』(ところさんのめがみてんせい、英: Toko-san’s Goddess Reincarnation、略称: TGM)は、[[2012年]][[6月7日]]に[[日本]]の[[株式会社メトロノーム企画]]から発売された[[家庭用ゲーム機]]用[[コンピュータRPG]]。[[女神転生]]を題材としたシリーズの第1作目にあたる[1]。
概要[編集]
『所さんの女神転生』は、落とし穴のように世相を飲み込みながらも、プレイヤーの手元には「疑う余白」が残る構造を特徴とする[[コンピュータRPG]]である[1]。プレイヤーはテレビ番組で“所さん”と呼ばれる中年探究者(後述)となり、世界の裏側を「女神の転生記録」で読み替えていく役割を担う。
本作が成立した背景には、2010年代初頭に広まった「生活圏の不思議をデータで追う」文化があったとされる。特に、[[東京都]][[港区]]に本部を置く地域情報研究会「港湾未来調査会」が主催した“転生辞典サミット”が、企画書のタイトル案にまで影響したという証言が残っている[2]。一方で、制作側はサミットの存在を「会議録だけが先に燃えた」とぼかしており、真偽は定かでない(同会の記録は第3日目のみ行方不明とされる)。
通称は「TGM」であり、キャッチコピーは「見つけた謎は、いつか自分の物語になる。」である。なお、発売初週で店舗棚卸データの不整合が複数店舗で報告され、売上集計が2回修正版になったことが知られている[3]。
ゲーム内容[編集]
ゲームシステムの特徴として、戦闘は「短時間の属性推理」と「スキルの口伝(くでん)」を同時に扱う点が挙げられる。プレイヤーは敵の前で待機し、一定時間ごとに提示される“生活の断片”を選択して、味方の加護(バフ)を切り替える。ここでの断片は、レシピ、乗り換え案内、近所の噂話、あるいは湿度の記録など、奇妙に具体的な情報として提示される。
戦闘では「落としものパズル」方式が採用されており、攻撃ボタンを押すたびに、盤上に散らばったアイコン(例: 乾いた紙片、古い鍵、返品用レシート)を回収する必要がある。アイコンは回収順に意味を持ち、順序が崩れると“転生税”と呼ばれるペナルティが発生する。転生税は体力ではなく「疑念ゲージ」を消費する仕様であり、疑念ゲージが0になると、選択肢が固定化されてしまう[4]。
アイテムは所持枠ではなく“棚”として扱われ、プレイヤーが棚替えを行うほど、次の戦闘で引けるカード(加護)が偏る。対戦モードとしては、協力プレイの派生である「二人で同じ噂を違う順に信じる」モードがあり、オンライン対応ではあるが、通信が不安定な場合はオフラインと同等の“疑念同期”にフォールバックする仕組みが採られた。
オフラインモードでは、ゲーム内の天気ログがプレイヤーの移動履歴と照合される演出がある。[[愛知県]][[名古屋市]]の一部プレイ環境では、雨天時にだけ特定の敵が追加出現したとされ、アップデートで「雨の再現」に関する説明文が1文字だけ差し替えられた[5]。
ストーリー[編集]
ストーリーは、主人公“所さん”が、街の掲示板から抜き出された古い紙束「女神転生台帳」を受け取るところから始まる。台帳は、過去の誰かの決断を、未来の誰かの性格として“転生”させる機能を持つとされている。主人公は台帳に従って町の区画を辿り、神殿でもなく研究所でもなく、なぜか路地裏のコインランドリーに最初の試練が置かれていることに困惑する。
台帳の各ページには「転生前の癖」「転生後の癖」「癖の代償」といった欄があり、代償を払うことで戦闘が有利になる。しかし代償の内容が次第に私生活の小さな選択へと侵食していくため、プレイヤーは“勝つために何を失うのか”を問われ続ける構造となっている。
終盤では、女神が実在の神話として描かれない点が特徴とされる。女神は“誰かの説明責任”そのものとして現れ、主人公に「あなたは誰の疑念を引き受けた?」と迫る。なお、最終章の選択肢は全28種類であると公式攻略書が述べているが、開発内部資料では「27種類+1種類(未実装)」と書かれていたという証言もある[6]。
また、エピローグでは港湾未来調査会の架空アーカイブが引用され、主人公が“次の所さん”として民間情報センターに異動する余韻が提示される。異動先の住所は本文中で伏せられるが、データ解析コミュニティは[[大阪府]][[大阪市]]の「北港データ局」を強く推定した[7]。
登場キャラクター[編集]
主人公:所さん(通称)。年齢は作中で一度だけ「中途半端な何歳でもない」と表現される。服装は市民講座の講師衣装(襟のないベスト)で、移動時は小型のオートカメラを携行する。所さんは“答えを見つける”のではなく“質問の形を整える”ことを武器としており、疑念ゲージの回復に関わる。
仲間: - 白磁のルナ(しろじのるな)。夢のように淡い色の装甲をまとい、盤上のアイコン回収効率を高める。元は博物館清掃員で、汚れの種類で古代の転生痕跡を判読できるとされる。 - 返却担当ケイ(へんきゃくたんとうけい)。失くし物を“返す”ことで敵の攻撃パターンを崩す。彼のスキル名「規定外の正しさ」は、発売前の体験会で最も笑われた。
敵: - 転生税官ギルド(てんせいぜいかんぎるど)。敵陣営の総称で、勝手にルールを作ってプレイヤーを追い詰める。彼らは巨大なハンコではなく、生活の“統計の断面”を武器として投げてくると描写される。 - 反証の使徒・九条(はんしょうのしとくじょう)。一度見た選択肢を「証拠不十分」として上書きし、プレイヤーの記憶に干渉する。
なお、登場人物の会話には所さん特有の間(ま)が再現されており、会話テキストが更新された日だけ、プレイヤーの音声入力が想定より増えたという現場メモが残る[8]。
用語・世界観[編集]
女神転生台帳:街の各所に“偶然”置かれている紙束である。台帳は、過去の癖を未来の性格として転写する装置であり、転写には代償(時間・記憶・他者への説明負荷)が必要とされる。代償を払うほど強くなる一方で、代償が積み上がると、主人公の言葉が他者に届きにくくなるという設定がある。
転生税:疑念ゲージが減少する仕組みを指す。転生税官ギルドが制度化した概念で、プレイヤーが“正しい手順”を踏まないほど課税される。ここで重要なのは、転生税が物理的な金銭ではなく“説明の重さ”である点である。
疑念ゲージ:戦闘中における内部パラメータで、推理を誤ると減る。ただし作中では疑念ゲージが高いほど直感が鋭くなる、とも矛盾気味に述べられる。矛盾はわざとだとする制作コメントがある一方、後年のインタビューでは「矛盾したかったわけではない」とも語られており、編集者間でも論点になった[9]。
港湾未来調査会:架空の民間団体で、地域情報と都市の“転生”を関連づける研究を行う。[[東京都]][[港区]]に拠点を置き、会員は名刺ではなく「感想文」を提出する慣習があるとされる。なお、実在の某公的機関と似たロゴが使われていたという指摘もあり、当初ロゴ案が差し替えになった経緯がある[10]。
開発/制作[編集]
制作経緯は「テレビの“所”の扱い方」をゲームに落とす試みから始まったとされる。株式会社メトロノーム企画は、単に有名司会者を模したのではなく、視聴者の“善意の疑い”をゲームのパラメータとして扱う方針を取ったという。プロデューサーの渡辺精一郎は、「恐怖ではなく好奇心で課金が止まるようにしたい」と語ったと記録されている[11]。
スタッフは職能が細分化されており、テキスト班だけでなく“間(ま)調整班”が置かれた点が特徴である。鈴木妙子ディレクターは、会話の改稿に時間がかかり、誤字修正が累計で1,742件に達したと後に明かしたが、これは社内バージョン管理の仕様に由来する誤差が含まれる可能性があるとされる[12]。
開発では“疑念同期”の実装が難所だった。オンラインでプレイヤー同士の選択順が食い違った場合、サーバ側で補正すると不公平が生まれるため、クライアント側の揺らぎを残したまま進行する設計が採られた。結果として、通信が弱い環境ではオフライン的な挙動が増え、「現地の電波の性格が反映されるRPG」と評された。
音声収録は「笑いが発生しやすい沈黙」を優先したため、収録スタジオの防音材が8ヶ月で交換になった。しかも交換日は[[2011年]][[11月]]の最初の金曜日だったと、関係者がやけに具体的に覚えていたという[13]。
音楽[編集]
音楽は、神殿風の荘厳さよりも、日常に潜む“規則のずれ”を強調する方向で作られた。作曲は藤堂あい(とうどう あい)が担当し、メインテーマ「仮説の行進」は、3拍子と5拍子を小節単位で入れ替える構成になっている。
サウンドトラックでは、戦闘曲のブレイクで必ず1秒だけ無音が入り、その間に“説明文”が表示される。プレイヤーは音の有無で選択肢の重みを推定するため、結果としてテンポが学習される。発売当時、無音1秒が評価を割ったとされるが、後のアップデートで無音時間は維持しつつ、表示速度をわずかに調整した[14]。
全曲数は32曲であるとされ、ボーナストラックには“所さんの冷蔵庫音”が収録されている。冷蔵庫の音をサンプリングした素材は、開発スタッフの自宅から集めたと説明されているが、別資料ではスタジオで録音したと記されており、制作会議録の矛盾が指摘された[15]。
他機種版/移植版[編集]
本作は当初メガドラHDの独占として発売されたが、需要に応じて携帯型端末「パルムQ」での移植が計画された。移植版は2014年に配信され、タイトル表記は『所さんの女神転生(モバイル台帳編)』へと変化した。
移植に際しては、疑念ゲージの表示位置が画面右上から中央下へ移動し、タッチ操作が導入された。これにより、戦闘中の“間”が変化するため、音楽の無音1秒のタイミングが微調整されたとされる[16]。
ただし移植版では、サーバ同期を行わない仕様が採られたため、オンライン対応は限定的となった。オフラインでも新規の転生税官ギルド衣装が追加された一方で、会話の“沈黙の長さ”だけが固定されるという批判が出た。ファンの間では「手のひらの所さんは、喋るのが早い」と揶揄された[17]。
評価[編集]
売上は発売初週で約67万本、同年末までに全世界累計で103万本を突破したと報告されている[18]。この数値は、地域別に店舗在庫の差し引き処理が反映されており、実売に対して誤差がある可能性があると同社は注意書きを付けている。
日本ゲーム大賞に関しては、本作が「物語設計の独創性」部門で受賞したとされる。ただし当時の受賞理由は、ほかの候補作が“説得の整合性”を重視していたのに対し、本作は“疑念の残し方”が評価された、と極めて抽象的なものであった[19]。
一方、メディアレビューでは賛否が割れた。ある批評は「生活の断片を収集する楽しさが、いつの間にか生活を管理する恐怖に反転する」と述べた。別の論評では「笑えるのに、妙に痛い」と評され、最終的にファミ通クロスレビューゴールド殿堂入りソフトに認定された[20]。
このように本作は、ゲームが“疑い”を楽しませるのか、それとも“疑い”を消費させるのか、読解の余白を残したまま支持を得たとされる。
関連作品[編集]
関連作品としては、同世界観を扱う冒険ゲームブック『女神転生台帳の写し方』がある。シリーズ一作目の出来に触発され、後年になってテレビアニメ化されたと説明されるが、実際には“アニメ予告番組”の形で配信された短編が先行したという資料もある[21]。
また、所さんの女神転生を題材にした舞台「転生税の朱印」も上演された。脚本は「質問の回数」を時間単位に換算して構成され、客席の笑い声が多いほど次の台詞が短くなる実験が試みられた。なお、この舞台の記録映像は現存せず、関係者の話だけが残っている[22]。
派生として、同名を冠したサウンドノベル『疑念ゲージの明滅』や、スマートスピーカー向け“口伝ガイド”が存在するとされる。これらはいずれも世界観の周縁を拡張したものとして扱われる。
関連商品[編集]
攻略本は『所さんの女神転生 完全台帳ガイド(第3版)』が発売された。作中の転生税パターンを一覧化し、アイコン回収の最適順序を図解したとされるが、編集部は「最適はプレイヤーの疑念に依存する」と但し書きを付けた[23]。
ほかに、著者不詳の書籍『湿度で読む女神転生』や、開発スタッフの手記を集めた『間(ま)調整班の沈黙ログ』が販売された。手記は8章構成で、各章に“沈黙の平均長さ”が示されているとされるが、平均値の根拠となる測定器が何かは記されていない[24]。
また、コレクターズアイテムとして「女神転生台帳レプリカ(非売品)」が配布されたとされる。配布条件は抽選で、応募口数が1人最大10口、当選者数が全国で1,200人という数字が公式案内に書かれていたと報じられた。ただし、当選者名簿の一部が別媒体で閲覧不可になっており、集計方法に疑義があるとの指摘がある[25]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『TGM開発秘録:疑念を数えるRPG』株式会社メトロノーム企画, 2013.
- ^ 藤堂あい「“無音1秒”がプレイヤーの選択を変える条件」『Journal of Everyday Game Sound』Vol.7 No.2, pp.41-59, 2014.
- ^ 鈴木妙子『質問の形を整える:所さんの女神転生設計メモ』幻燈社, 2015.
- ^ 港湾未来調査会編『転生辞典サミット会議録(仮)』港湾未来調査会, 2011.
- ^ A. Thornton「Reincarnation Accounting in Action-Decision RPGs」『Proceedings of the Soft-Choice Conference』Vol.12, No.1, pp.201-228, 2016.
- ^ 李承煥「疑念同期とクライアント揺らぎ:TGMの通信挙動解析」『Networked Play Review』第4巻第3号, pp.88-103, 2017.
- ^ 『ファミ通クロスレビュー』編集部『ファミ通クロスレビュー:金塊の物語設計』角川書房, 2012.
- ^ 『日本ゲーム大賞 受賞理由集(2012年版)』日本ゲーム大賞委員会, 2013.
- ^ 昭和玩具流通株式会社『棚卸差異報告書 第2修正版』昭和玩具流通, 2012.
- ^ Gareth M. Dallow「On the Humor-Driven Silence Mechanic」『International Review of Play Studies』Vol.19, pp.10-33, 2018.
外部リンク
- TGM公式台帳サイト
- 港湾未来調査会 データベース
- メトロノーム企画 アーカイブ
- 無音1秒研究会
- Toko-san 台詞解析コミュニティ