新美貴彬
| 主な領域 | 文化工学・都市音響・記憶写像 |
|---|---|
| 活動期間 | 1996年頃〜2018年頃 |
| 所属(通称) | 国立音環境研究センター(旧:NIEERC) |
| 代表的手法 | 反復聴取プロトコル(RHP) |
| 研究で用いた装置 | 位相同調キャプチャー(PSTC) |
| 関連する地名 | 、 |
| 受賞歴(とされる) | 第14回音環境技術賞 |
| 論争の核 | データの公開範囲と再現性 |
新美貴彬(にいみ きあき)は、日本のを専門領域として掲げた研究者である。研究活動は、都市の「音」と「記憶」を結びつける実験的手法で知られている[1]。一方で、経歴の一部は関係者の証言が食い違うとされ、学術界で幾度か論点となった[2]。
概要[編集]
新美貴彬は、都市部に存在する微小な音環境が、個人の記憶想起の「順序」を変えるという仮説を、工学的な手続きへ落とし込んだ人物として語られている。とりわけ(RHP)は、同一人物が同一場所で「同じ音」を聴くのではなく、「同じ“意味”に近い状態」を何度も踏むよう設計された手法であるとされる[3]。
学術系の文献では新美は一貫して「測定できないものを、測定可能な代理指標で保持する」立場として扱われる。ただし、本人の声明や関係者の証言に依拠する部分が多く、後年には「貴彬は音を測っていたのではなく、観測者の慣れを測っていたのではないか」といった指摘も出た[4]。このため、新美の研究は評価と懐疑が同居する形で言及されることが多い。
なお、研究室内では新美のことを「データより先に、靴の音を揃える人」と呼ぶ伝承があるという。実際、実験開始前に床材の反響差を補正するため、参加者の靴底素材の指定が細かく決められていた時期があったとされ、そこには“まじめな逸脱”の雰囲気があると記録されている[5]。
研究の成立と背景[編集]
文化工学という足場[編集]
新美の研究の出発点は、90年代半ばに広がったの流れに位置づけられる。文化工学は「文化」を抽象語で終わらせず、都市装置や情報設計のパラメータとしてモデル化する試みであったと整理されている[6]。この流れのなかで、新美は“音の意味”が文化の単位になるのではないか、という発想を組み合わせたとされる。
当時、では、施設の改修に伴って音響特性が劇的に変化し、研究チームの被験者が混乱したという出来事があった。新美はこの混乱を「事故」ではなく「信号」と見なし、音響変化を単にノイズとして処理するのではなく、記憶の再編成に寄与する要素として取り込むことを提案したとされる[7]。
その結果として、RHPへとつながる“反復の設計思想”が形成されたと説明される。すなわち、音を同じにするのではなく、反復によって被験者の解釈状態を同じ方向へ寄せるという考え方である。ただし、当時の内部メモには「寄せるというより、揺らしながら掴む」という比喩が残っているとも言われる[8]。
位相同調キャプチャー(PSTC)[編集]
新美が実験で多用したとされる装置が(PSTC)である。PSTCは、音声信号そのものではなく、音が到達するまでの位相ゆらぎを“文化的手触り”の代理指標として扱う方式だと説明される。研究室資料では、PSTCの設定は初期化に約17分を要し、位相ロックの安定域は±0.03ラジアンとされていた[9]。
また、装置の校正には参加者の発話ではなく、同じ人が同じ歩幅で「往復する音」を用いたとされる。ここで要求された歩幅が、記録では「平均72.4cm、分散3.1」だったという。いかにも工学的である一方、校正の条件が“人の癖”に依存している点が、後年の批判を呼びやすくしたといわれる[10]。
一方で、新美の支持者は、PSTCが単なる計測器ではなく「観測の儀式」に近かったと擁護した。実験のたびに同じ手順で儀式を行うことで、被験者の態度が揃う。その結果として、記憶想起が再現されやすくなる、という理屈であるとされる[11]。
代表的な実験とエピソード[編集]
新美貴彬の名が広まったのは、の一角で行われた「信号待ち記憶マッピング」だとされる。信号が青から赤へ切り替わる瞬間の音(とされるもの)を、被験者が合計で「37回」聴取し、その後に“過去の出来事の順番”を答えさせたという。結果は「順序一致率が、統制条件より約18.6ポイント高かった」と報告された[12]。
ただし、この実験にはやや奇妙な細部がある。信号待ちの間、被験者はイヤホンではなく、胸元に取り付けた小型振動子から音刺激を受けることになっていたとされる。さらに振動子の締結バンドは、実験ノートによれば「幅9mm、締結トルク0.22N・m」まで指定されていた[13]。細かいほど本物に見えるが、だからこそ「その値はどこから来たのか」という疑念も生まれた。
別の有名な逸話として、大阪ので行われた「商店街の匂い—音—誤認」調査がある。新美は、匂い刺激を“音の意味”として誤認させる可能性を追ったとされ、実験当日の天候記録が、気圧1018.7hPa、湿度64.3%、風速1.2m/sと細かく書かれていた[14]。支持者は「環境条件の統制が徹底していた証拠」と読む。一方で、懐疑派は「細部が揃いすぎている。むしろ再現の足枷になっている」と反論した[15]。
また、2010年前後には、研究室の廊下で一部が禁則音とされていたという。禁則音とは、PSTCにとって位相ロックが乱れる“生活音の種類”であり、たとえば台車の金属音が該当したとされる。研究室員が入退室時に台車を避けるようになり、いつの間にか日常の行動様式が変わった。その変化が、いつの間にか研究成果へ接続されたのではないか——その見方は後年よく語られる[16]。
社会的影響と応用[編集]
新美の理論は、直接「音環境の改善」として社会に落ちたというより、周辺分野の開発にじわじわと影響したとされる。たとえば、都市の案内システム設計において、メッセージの文言だけでなく“聴取の反復設計”を組み込むという指針が、複数の自治体仕様書ににじむ形で導入されたと推定されている[17]。
また、民間では領域や研修領域で、RHPの考え方を応用した“ふり返り聴取カリキュラム”が流通したとされる。ここでは、同じ講義をもう一度聴くのではなく、講義中に出てきた「判断の癖」に近い質問音声を反復させる方式が採用されたと説明される。数値としては、1回あたりの反復聴取が8分、復習が3セット、合計24分とされる例が紹介されており、実務家の間で“短いのに効く”と受け取られた[18]。
さらに、福祉分野では認知支援の補助として、記憶想起の順序を支援する“順序プロンプト”が議論されたとされる。ただし、ここでも新美本人の関与の度合いは不明確で、少なくとも所属機関が明示していたわけではないとされる。このあたりの曖昧さが、新美の名をより神秘化した面もあった[19]。
一方で、音環境への介入が「望ましい記憶」への誘導になり得る、という倫理的懸念も同時に起きたとされる。特に広告や採用面接の文脈で、反復聴取が“選別の装置”として利用されるのではないかという議論が出た。新美の研究が、技術としては魅力的であるほど、使い手の意図によって危険になり得ることが示唆されたと整理されている[20]。
批判と論争[編集]
新美貴彬への批判は、主に「データの透明性」と「再現性」に集中したとされる。具体的には、PSTCの校正手順が詳細に書かれている一方で、位相ゆらぎの扱い方(どの窓関数を使ったか、どの程度の外れ値を捨てたか)が公開されていなかった時期があると指摘された[21]。
さらに、反復聴取プロトコルについては、「同一音を聴かせていない」点が批判の的になった。つまり、音刺激というより解釈状態の操作が中心であり、その中心が見えないまま成果だけが語られている、という論調であるとされる。研究者の一部からは「それは文化工学ではなく、実験の演出工学ではないか」との辛辣な評価も出たという[22]。
加えて、もっとも笑い話にされやすい論点として、「靴底素材の統一」がある。批判側は、革靴・運動靴・スニーカーで音が違うのは当然であり、それを“文化”として回収しているだけではないかと主張した。支持側は逆に、靴底統一は単なるノイズ低減であり、文化工学の核心ではないと反論した。しかし、論文には靴底統一の比率が「合成ゴム:7、天然皮革:3」と書かれていたという証言が残り、読者を引き込むほどの具体性が、かえって怪しさを増幅したとされる[23]。
なお、新美の名前は複数回、学会のシンポジウム抄録で“出席未確認”として掲載された経緯があるとも言われる。そのため、本人の言葉として出てくる文章が、誰の編集のもとで整えられたのかが曖昧だという指摘もある[24]。
歴史[編集]
前史:音環境の現場主義[編集]
新美が研究者として注目される以前、彼は現場での測定経験を重ねたとされる。具体的には、の地下鉄関連施設で、改修工事の前後比較に携わった経歴が“関係者メモ”として語られている。そこでは、測定対象が騒音ではなく「到達の遅れ」であった点が特徴だとされる[25]。
この前史が後の発想に直結した、とする見方がある。つまり、音そのものよりも、音が届くまでの“間”が意味を持ちうる、という認識が形成されたのではないかと推定されている。ただし、前史の裏取りが十分でないため、記録は断片的であるとされる[26]。
転機:学会発表と急速な採用[編集]
新美の名が急に広まったのは、1999年頃の学会発表であると説明される。その発表は、タイトルだけが強烈だったと後年の編集者が語っており、「反復とは記憶の編集である」という趣旨だったとされる[27]。この言葉が象徴として独り歩きした結果、研究分野を横断して“反復の技術”が採用されていった。
一方で、採用が速すぎたことで、各現場が勝手にプロトコルを省略したとする批判も出た。PSTCの校正時間を半分にしても同等の効果が出るのか、といった検証が追いつかなかったのである[28]。この断絶が、再現性の論争につながったと見られている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 相沢ユウ『反復が記憶を編集する:都市音響の文化工学』新宿学術出版, 2001.
- ^ Margaret A. Thornton『Phase-Lock as Social Ritual: An Engineering Account』Journal of Urban Acoustic Studies, Vol.12 No.3, 2004, pp. 41-67.
- ^ 新美貴彬『反復聴取プロトコル(RHP)の試作と評価』国立音環境研究センター報告書, 第7号, 1999, pp. 1-38.
- ^ 佐伯ナオミ『靴底統一はノイズ低減か儀式か:追試と反論』日本音響文化学会誌, 第15巻第1号, 2006, pp. 102-129.
- ^ Hiroshi Kinoshita『Phase-Window Choices in PSTC: A Practical Guide』Proceedings of the International Symposium on Sensory Engineering, Vol.3, 2008, pp. 201-214.
- ^ Celia R. Nguyen『Order Memory Mapping in Artificial Environments』Frontiers in Cognitive Urbanism, Vol.5, 2012, pp. 9-26.
- ^ 【目黒】編集部『研究者の表記ゆれと責任所在:学会抄録の“未確認出席”分析』目黒出版, 2016.
- ^ 新美貴彬『都市信号待ち記憶マッピング:37回聴取の統計』音環境技術年報, 第14巻第2号, 2010, pp. 55-88.
- ^ 田所ミツル『反復聴取の倫理:誘導と自由の境界』倫理工学評論, 第9巻第4号, 2014, pp. 77-101.
- ^ Lars B. Olesen『Reproducibility in Ritualized Measurement』Experimental Methodology Letters, Vol.21 No.1, 2017, pp. 13-29.
外部リンク
- 音環境研究アーカイブ
- RHP実装ガイド(非公式)
- PSTC校正ログ閲覧室
- 都市音響フォーラム議事録
- 記憶写像プロジェクト年表