暗闇テレビ
暗闇テレビ(くらやみてれび)は、の都市伝説の一種[1]。主に深夜、画面が映らないのに音だけが響く「家の怪談」として語られているという話である[2]。
概要[編集]
とは、テレビの電源は入っているのに、画面が真っ暗なまま“こちらの暮らし”だけを映すとされる都市伝説である[3]。
噂では、チャンネルを回しても砂嵐にもならず、むしろ暗がりの中に家庭内の細部(時計の秒針、カーテンの揺れ、冷蔵庫の霜)が浮かび上がるといい、畳の目や子どもの靴跡が「見えてはいけない形」で刻まれていくと語られる[4]。
別称として、、とも呼ばれるとされる[5]。
歴史[編集]
起源:受像技術の“節電デモ”から生まれたという話[編集]
この都市伝説の起源は、1980年代後半の節電キャンペーン「夜間低消費モード」が家庭用受像機に導入された頃に求められるとする説がある[6]。
伝承によれば、当時の電器メーカー研修では“消費電力を落としつつ視認性を確保する”ために、画素の発光を極端に抑える制御が試験された。その結果、暗転時に残る微細な残光を「他人の映像が混線したように見える」と恐れた見習い技術者の噂が、やがて全国に広まったという[7]。
また、の家庭電器修理店「横浜配電民芸サービス協同組合」の掲示板で、1991年の冬に“消えない暗さ”が報告されたのが最初期の記録であるとされる[8]。ただし、組合の当時の議事録は現存しないとされており、真偽は定かではないとも指摘されている[9]。
流布の経緯:深夜番組の“空白回”が火種になったという噂[編集]
頃、全国の地域局で“放送事故に見えるほど真っ黒な画面”が一瞬混入したことが、噂に説得力を与えたといわれる[10]。
特にの民放混成枠の検証企画で、音声だけが流れる「無音の裏側を映す」形式が一時的に採用され、視聴者からは“暗闇のはずが、家の中の生活音だけは拾われている”と目撃談が殺到した[11]。
噂がネットで再燃したのは、にまとめサイト「深夜受像記録帳」が“暗闇テレビのチェックリスト”を転載したことがきっかけとされる[12]。その後、動画投稿サイトで「音だけが聞こえる暗いチャンネル」の再現映像が増え、ブームとして定着したと語られる[13]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承では、暗闇テレビが出没する家には「見守り役の声」と「出入りの気配」が同時に現れるとされる[14]。
目撃談では、画面が真っ暗でも、リビングの温度計が一度だけ「7分間」だけ妙に下がり、次に上がるという症状が報告されている[15]。さらに、視聴者の発話に遅れて、別の誰かの息遣いが“0.9秒遅れ”で聞こえたと語る人もいる[16]。
の正体については複数の説がある。第一に「捨てられたチューナーが意識だけを残す」とする説があり、第二に「深夜の停電回避のために放出された規格外電磁ノイズが、家庭の生活パターンと結びついて“映像の体裁”をとった」とする工学寄りの解釈もある[17]。
一方で、最も噂らしいのは“白衣の受信者”が暗闇の中で手招きをする、という話である。という話では、画面の黒さが瞳のように揺れ、家族の顔が映る代わりに「誰かのいない椅子の形」だけが写るとされる[18]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションとして、画面に縦線だけが浮かぶタイプは、音だけが“ニュース原稿の読み上げ”の間合いで流れるタイプはと呼ばれるとされる[19]。
また、暗闇テレビの恐怖は「映る」ことではなく「置き換わる」ことにある、という伝承がある。たとえば、暗闇テレビが出た夜だけ、翌朝に冷蔵庫の扉の開閉回数が“前日より3回多い”と気づく、といった言い伝えが語られる[20]。
細部の違いとして、カチッというスイッチ音が鳴るタイミングが鍵になるとされ、目撃談では、時計の秒が「13の位」に来た瞬間に切り替わったと記す者もいる[21]。ただし“毎回13で合うわけではない”とする反証もあり、地域差や視聴環境(ブラウン管か液晶か)による差があるのではないかとも指摘されている[22]。
このように、暗闇テレビは妖怪的な出没譚として語られつつ、家電故障の説明にも似た顔を持つため、マスメディアが扱うときは「都市伝説と技術の境界」にすり替えて報道されることもあるとされる[23]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法として最も広まっているのは、暗闇テレビが出たら「画面に合図しない」ことである。具体的には、声を返さず、目を合わせず、チャンネルを強く回し過ぎないとされる[24]。
また、全国に広まった手順として「暗闇のチャンネルを固定し、音量を“17”まで落としてから、部屋の電気を先に消す」方法が知られている。という話では、この順序を逆にすると、テレビの暗さが部屋に“降りてくる”とされる[25]。
学校の怪談としては、担任が“夜更かし当番”を作り、暗闇テレビが騒ぐ家から児童を避難させたという話がある。たとえばの小学校で、2005年の冬に「受像機封印訓練」が行われたと語られる[26]。もっとも、当該校の記録は見つかっていないとされ、噂の域を出ないともいわれる[27]。
ほかにも「画面の黒を見てしまったら、台所の水を3口だけ飲む」といった民間療法が紹介されることもあるが、不気味さを和らげる根拠は示されていないとされる[28]。
社会的影響[編集]
暗闇テレビの噂は、家庭内の“夜の沈黙”をめぐる恐怖とパニックを増幅させたとされる[29]。
のある地方紙では、夜間の家電修理依頼が通常より約1.6倍に増えたという報道があったといわれる(ただし、都市伝説との因果関係は明示されていないとも指摘される)[30]。
また、噂の広まりに合わせて、電器店では「暗闇モード解除シール」なる商品が一時的に売れたとする証言がある。シールには「受像機を“見返さないでください”」という注意書きが印字されていたといい、買い求めた客がレジで笑ってしまうほど不気味な文面だったとされる[31]。
一方で、懐疑的な層からは「単なる放送事故の説明の言い換えに過ぎない」との批判も出た。とはいえ、暗闇テレビが恐怖として扱われることで、夜更かしの抑制や家族の在宅確認といった行動変化が結果的に起きたとも言われており、噂は社会を“軽く統制する”装置として作用した面があったとされる[32]。
文化・メディアでの扱い[編集]
ブームの波に乗る形で、暗闇テレビはバラエティ番組の企画「深夜の異音チェック」やドキュメンタリー風の怪談コーナーで取り上げられたとされる[33]。
特に、画面が暗い映像の扱いは編集しやすく、テロップで“画面が映らない恐怖”を煽れるため、マスメディアが取り上げると“都市伝説と怪談の中間”として定着しやすかったとも指摘されている[34]。
一方で、文化作品では「妖怪」や「お化け」に寄せられることが多い。たとえば、ゲーム雑誌の攻略記事で、暗闇テレビを倒す条件として「受像機の電源を落とす前に、部屋の窓を3回だけ開ける」が紹介されたという[35]。ただし、ゲーム内仕様に基づくのか、噂の記号が借用されたのかは不明とされる[36]。
このように、暗闇テレビは“見えないのに確かにそこにある”という感覚を商品化し、視聴者の恐怖を短い時間で引き出す記号として機能してきた、と説明されることが多い[37]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山根誠二「暗闇テレビと家庭の沈黙」『民俗映像研究』第12巻第2号, 2011年, pp. 41-58.
- ^ 佐伯律子「都市伝説における“暗転”の語りの構造」『日本怪異語彙論叢』Vol. 5, 2014年, pp. 103-127.
- ^ M. A. Thornton, "The Silence Before the Broadcast," Journal of Media Folklore, Vol. 18, No. 3, 2013, pp. 9-33.
- ^ 井口一馬「受像機の節電制御と残光知覚」『家電工学と噂の境界』第3巻第1号, 2008年, pp. 22-39.
- ^ 横浜配電民芸サービス協同組合『夜間低消費モード研修資料』非売品, 1991年.
- ^ 田村由紀夫「ブーム期の怪談が与える行動変容:深夜視聴の制限」『地域社会とメディア』第21巻第4号, 2010年, pp. 201-226.
- ^ K. Watanabe, "Electromagnetic Apparitions in Domestic Space," International Review of Urban Legends, Vol. 7, Issue 2, 2012, pp. 55-79.
- ^ 【NHK】編『深夜放送の技術史と安全対策』日本放送出版協会, 2002年, pp. 118-121.
- ^ 清水花苗「“17”という数の呪文:暗闇テレビ対処法の記号論」『数の民俗』第8号, 2016年, pp. 77-96.
- ^ 斎藤伸也『全国に広まった家の怪談』新月文庫, 2020年, pp. 250-268.
外部リンク
- 深夜受像記録帳
- 家庭怪談アーカイブ
- 夜更かし安全センター(架空)
- 噂の周波数図鑑
- 電波民俗の資料室