湯けむりかたつむり
| 作品名 | 湯けむりかたつむり |
|---|---|
| 原題 | Steam-Snail |
| 画像 | Yukemuri_Snail_poster.jpg |
| 画像サイズ | 240px |
| 画像解説 | 初公開時の劇場用ポスター |
| 監督 | 松原玄吾 |
| 脚本 | 高槻みのり |
| 原案 | 久世トモエ |
| 製作 | 篠田賢一 |
| ナレーター | 桐生理沙 |
| 出演者 | 相沢すみれ ほか |
| 音楽 | 林田昭彦 |
| 主題歌 | 「湯気の向こうへ」 |
| 撮影 | 東堂優介 |
| 編集 | 小松原亮 |
| 制作会社 | 白湯アニメーション |
| 製作会社 | 湯けむりかたつむり製作委員会 |
| 配給 | 東洲配給 |
| 公開 | 1997年7月12日 |
| 製作国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
| 製作費 | 2億4,600万円 |
| 興行収入 | 18億3,000万円 |
| 配給収入 | 12億8,000万円 |
| 上映時間 | 103分 |
| 前作 | なし |
| 次作 | 湯けむりかたつむり 風待ち峠編 |
『』(ゆけむりかたつむり)は、に公開されたのである。監督は、脚本は、原案は。山間の温泉街で“湯気を食べるかたつむり”を追う少女を描いた作品として知られ、は12億8,000万円を記録した[1]。
概要[編集]
『』は、との境にある架空の温泉街「」を舞台としたである。温泉の湯気の中にのみ現れる半透明のかたつむりをめぐる民俗伝承を、家族向けの冒険譚として再構成した作品で、当時の東日本では珍しかった“静かな大作”として話題を集めた。
本作はの初の長編作品として企画され、半ばの観光地再生ブームと、地方紙の連載企画「湯治場の記憶」を下敷きにして成立したとされる。なお、制作発表時には「幼児には少し難しいが、祖父母にはやさしい映画」と宣伝され、結果的に三世代鑑賞を想定した珍しい興行設計が功を奏した[2]。
あらすじ[編集]
の少女・は、亡き祖母の遺した硝子の巻貝を手がかりに、夏休みを利用しての旅館「」を訪れる。旅館では、湯気の立つ夜にだけ現れるという“かたつむり”が話題になっており、宿の女将はそれを「湯の神が通る道筋」と説明する。
すみは、浴場の蒸気が最も濃くなる午前4時44分に、湯面を渡る銀色の足跡を見つける。足跡を追ううちに、彼女は山の中腹にある廃湯治場へ迷い込み、そこで老地質学者のと出会う。朝倉は、かたつむりは実在の生物ではなく、温泉に含まれるとの気泡が作る視覚現象であると主張するが、同時に「現象はときどき鳴く」とも語るため、説得力はやや弱い。
終盤、すみは旅館のボイラー故障により湯が止まり、蒸気の消失とともにかたつむりも消えるのではないかと恐れる。しかし、村の子どもたちと協力して薪をくべ直した結果、浴場には大きな湯煙の渦が生まれ、その中心から“殻のないかたつむり”が一斉に現れる。すみは祖母の巻貝を掲げて歌い、湯気は山の上空に昇って巨大な雲になる。ラストシーンでは、雲の中に最後の一匹が歩く影が描かれ、観客の一部から「結局あれは何だったのか」との感想が寄せられた。
登場人物[編集]
主要人物[編集]
は本作の主人公であり、観察眼の鋭い少女として描かれる。演じたは当時14歳で、湯気の量を見て感情を演じ分けるという珍しい演技指導を受けたとされる。
は、白雲沢を研究する老地質学者である。劇中では理詰めで説明する役割を担うが、終盤になるほど説明が民間伝承に寄っていくため、教育映画として観た観客を軽く混乱させた。
は、物語の現実側を支える人物である。彼女の「湯は見えないが、匂いには形がある」という台詞は、公開後に地方の観光ポスターで引用された。
その他[編集]
はすみの祖母で、すでに故人であるが、巻貝の所有者として物語全体に影響を与える。回想場面では、若い頃にの“湯煙保存日誌”を写していたことが明かされる。
は旅館の薪係で、台詞の8割が「まだ湯が弱い」である。だが、彼の投げる薪の角度が毎回ほぼ42度であることから、一部のファンの間では“湯気工学の人”として親しまれている。
は、名前のない集団として登場するが、エンドクレジットでは全員に妙に細かい苗字が付されている。この処理は、制作中に“子役の肖像権を避けるため”に行われたと説明されているが、真偽は定かでない。
声の出演[編集]
- 野々宮すみ - 朝倉銀市 - 真砂 - 黒瀬タツ - 野々宮はる子(回想) - 子どもたちのリーダー
そのほか、のスタッフが観光客役や湯沸かし役を兼任しており、クレジット末尾には「温泉の気配:現地協力」と記されている。これは監督の松原が「気配も演技対象である」と主張したためで、以後の作品にわずかな影響を与えた。
スタッフ[編集]
映像制作[編集]
監督は、脚本は、原案はである。松原は元々向けの紀行アニメを手がけていたが、本作では“説明しすぎない日本映画”を目標に据えたという。
美術監督は、撮影監督は、編集はが務めた。とくに背景美術では側の温泉街を参考にしたとされるが、建物配置はむしろの山村に近く、ロケハン資料に別の県の観光パンフレットが紛れていた可能性が指摘されている。
製作委員会[編集]
製作は、製作総指揮はが担当した。製作委員会には、地方情報誌『』、白雲沢観光協会、そして郷土玩具メーカーのが名を連ねていた。
この構成は当時としては異例で、映画館の前売券に旅館の割引券が同封されたほか、パンフレットには「泉質ごとの観賞適性」が掲載された。なお、委員会の正式な会議は7回しか開かれていないが、議事録だけは43回分ある。
製作[編集]
企画[編集]
企画の発端は、秋にの喫茶店で開かれた、地方文化振興に関する非公開の懇談会であるとされる。久世トモエが持ち込んだ「湯気に住む生き物の民話」を、松原が“世界観を絞れば長編になる”と判断したことが出発点だった。
当初は短編10分の予定であったが、脚本の改稿が17回重ねられ、最終的に103分に延長された。とくに中盤の浴場修繕パートが長くなったのは、温泉旅館の配管図をそのままドラマにしたためで、編集部からは「映画としては地味だが、湯沸かし業者には刺さる」と評された。
美術・CG・彩色・撮影[編集]
背景は手描き水彩で統一され、湯気の表現のみと初期CGを併用した。制作班は時点でまだ珍しかった“湯気専用レンダリング”を導入し、1フレームあたり最大19層の蒸気を重ねたという。
また、かたつむりの殻の光沢を出すため、実際の食器洗浄用スポンジに水を含ませて撮影し、その輪郭をトレスしたカットがある。こうした作業は美術部の執念として語られ、後年のアニメ雑誌では「湿度の高い作画」と呼ばれた。
音楽・主題歌・着想の源[編集]
音楽はが担当し、尺八、チェレスタ、湯桶を叩く打楽器が混在する独特の編成で知られる。主題歌「」はが歌い、劇場公開後に上位40位内へ入ったとされる。
着想の源には、の共同浴場で見た“壁を這う結露の筋”と、の民話「貝の夢」が挙げられている。また、監督はのちに「かたつむりは湿度の低いところでは哲学的になる」と語っているが、これは解題集以外では確認できない。
興行[編集]
宣伝・封切り[編集]
宣伝では「夏休み、いちばん静かな冒険。」というキャッチコピーが用いられた。封切りはで、系の一部劇場と地方シネコンを中心に公開された。
初週は家族連れよりも温泉観光客の比率が高く、上映前に浴衣姿の観客がロビーで写真を撮る光景がみられた。配給側はこれを“観光導線型ヒット”と呼び、後に地方映画のモデルケースとして引用している。
再上映・テレビ放送・海外での公開[編集]
にはでリバイバル上映が行われ、満席回が続出した。テレビ放送ではの系列版が視聴率8.7%を記録し、深夜帯としては異例の数字とされた。
海外ではとで限定公開され、英題『Steam-Snail』のまま上映された。フランス版ポスターではかたつむりがエッフェル塔の湯気から現れる構図に改変され、原作性よりも湿度感が重視されたと批判された。
反響[編集]
批評・受賞・ノミネート[編集]
批評家からは、地方伝承と環境音楽を組み合わせた点が高く評価された一方で、「終盤の湯気が多すぎて話が見えない」との声もあった。とくにのは、本作を「子ども向けに見せかけた湿潤な実存主義」と評している。
にはの美術賞と、の音響設計賞を受賞した。また、では脚本賞にノミネートされ、落選後の講評で「かたつむりの哲学が強すぎる」と書かれた。
売上記録[編集]
本作の興行収入は18億3,000万円、配給収入は12億8,000万円で、当時の地方色の強いアニメ映画としては異例のヒットとなった。公開後3か月で関連入場者数は141万2,000人に達し、をモデルにした温泉街の宿泊客数が前年比23.4%増になったとされる。
なお、パンフレットの売上も12万部を超え、劇場窓口では“巻貝付き前売り券”が一時品切れとなった。これは実際には紙製のしおりであったが、来場者の約6%が本物の貝殻と誤認したという。
テレビ放送[編集]
テレビ放送版はとの2回にわたり放送された。前者は系列、後者はの深夜特集枠であり、いずれも湯気の濃い場面で映像のコントラストが極端に落ちることが話題になった。
とくには、いわゆる「」を再放送用マスターに持ち込んだ最初期の例として語られることがある。なお、放送終了後には視聴者の問い合わせが27件寄せられ、その半数が「かたつむりは実在するのか」という内容であった。
関連商品[編集]
作品本編に関するもの[編集]
劇場公開に合わせて、絵本版『 すみと湯気の夏』、サウンドトラック、巻貝型の鈴が発売された。とくにサウンドトラックは、入浴剤売り場での販売が好調で、音楽CDとしては珍しく薬局経由で流通した。
また、監修のスタンプラリーが実施され、全6地点を回ると“湯煙のしおり”がもらえた。だが、最後の押印所が休業日だったため、完全制覇者は推定で83人にとどまった。
派生作品[編集]
にはビデオゲーム『』が向けに発売され、湯気の流れを操作して道を作るという珍しい設計で知られる。のちに携帯アプリ版も作られたが、湯気が小さすぎて見えないという苦情が相次いだ。
さらにには舞台版『』が上演され、実在の湯煙を用いるために劇場裏で加湿器12台が稼働した。結果として出演者のメイクが1幕ごとに崩れ、再演では“霧幕”のみ残す演出に変更された。
脚注[編集]
注釈[編集]
[1] 興行収入および配給収入は、地方映画誌『湯のしるべ』1998年3月号の集計による。 [2] 企画初期の宣伝文句は、実際には試写会の来場者アンケートから逆算されたものであるとされる。
出典[編集]
本節は、公開当時のパンフレット、配給会社資料、地方紙の連載、ならびに後年の解題集に基づく体裁をとっている。なお、制作側の証言は食い違いが多く、特に“湯気の現象”をめぐる説明は毎回少しずつ異なる。
参考文献[編集]
高槻みのり『湯気と民話のあいだ』白湯出版, 1998年. 松原玄吾『湿度の演出論』東洲書房, 2001年. 戸川真澄「地方アニメにおける湯治場表象」『映像文化研究』Vol. 14, No. 2, pp. 33-49, 2000年. 林田昭彦『音のない湯気、音のある湯』泉文庫, 1999年. 久世トモエ「温泉街の架空生物学」『民俗映像年報』第8巻第1号, pp. 5-21, 1997年. Margaret A. Thornton, “Steam as Narrative Device in Late-90s Japanese Animation,” Journal of Coastal Media Studies, Vol. 7, No. 4, pp. 201-219, 2004. 岡村良平『地方観光映画の経済学』港北社, 2002年. 白雲沢観光協会編『白雲沢温泉史 1891-1997』白雲沢観光協会, 1997年. Sato, Elise K., “The Semiotics of Snail Imagery,” East Asian Film Quarterly, Vol. 3, No. 1, pp. 88-104, 2001年. 三枝浩平『製作委員会と湯煙の交渉術』新潮社, 2005年.
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
白湯アニメーション公式資料室
東洲配給アーカイブ
湯けむりかたつむり研究会
白雲沢温泉デジタル博物館
地方映画データベース「シネマ礎」
脚注
- ^ 高槻みのり『湯気と民話のあいだ』白湯出版, 1998年.
- ^ 松原玄吾『湿度の演出論』東洲書房, 2001年.
- ^ 戸川真澄「地方アニメにおける湯治場表象」『映像文化研究』Vol. 14, No. 2, pp. 33-49, 2000年.
- ^ 林田昭彦『音のない湯気、音のある湯』泉文庫, 1999年.
- ^ 久世トモエ「温泉街の架空生物学」『民俗映像年報』第8巻第1号, pp. 5-21, 1997年.
- ^ Margaret A. Thornton, “Steam as Narrative Device in Late-90s Japanese Animation,” Journal of Coastal Media Studies, Vol. 7, No. 4, pp. 201-219, 2004.
- ^ 岡村良平『地方観光映画の経済学』港北社, 2002年.
- ^ 白雲沢観光協会編『白雲沢温泉史 1891-1997』白雲沢観光協会, 1997年.
- ^ Sato, Elise K., “The Semiotics of Snail Imagery,” East Asian Film Quarterly, Vol. 3, No. 1, pp. 88-104, 2001年.
- ^ 三枝浩平『製作委員会と湯煙の交渉術』新潮社, 2005年.
外部リンク
- 白湯アニメーション公式資料室
- 東洲配給アーカイブ
- 湯けむりかたつむり研究会
- 白雲沢温泉デジタル博物館
- 地方映画データベース「シネマ礎」