潮野空港
| 名称 | 潮野空港 |
|---|---|
| 種類 | 海上輸送複合空港 |
| 所在地 | 北海道潮野町潮崎海岸 |
| 設立 | 1978年 |
| 高さ | 海抜 18.4 m |
| 構造 | 半浮体式滑走路・防潮堤一体型 |
| 設計者 | 潮野臨海計画研究会、主任設計 渡辺精一郎 |
潮野空港(しおのくうこう、英: Shiono Airport)は、北海道にあるである[1]。
概要[編集]
潮野空港は、北海道北部のに所在する海上輸送複合空港である。現在では、旅客便よりも防災拠点、気象観測、海霧研究の機能で知られている[1]。
同空港は、もともと冬季の閉塞が激しいにおける物流確保を目的として計画されたが、建設の過程で「潮の干満を滑走路の一部として利用する」という独自の発想が採用された。このため、干潮時には長さが実測で約2,410メートルとなり、満潮時には運用制限がかかるという、極めて珍しい運用形態をとる[2]。
一方で、地元では空港というよりも「町の天気を決める施設」として扱われており、潮野小学校の社会科見学では必ず最初に訪問する定番地となっている。空港職員の間では、滑走路よりも待合室の壁に設置された潮位計の針の動きのほうが重視されるともいわれる。
名称[編集]
潮野空港の名称は、所在地であると、周辺の浜辺一帯を古くから指した地名「潮野」に由来する。『潮野郷土誌』によれば、この地名は、冬になると海霧が内陸の低地まで押し寄せ、野原全体が薄い潮の匂いに包まれたことから名付けられたとされる[3]。
正式名称の決定には、代初頭に設けられた「潮崎臨空港名称審議会」が関与した。候補には「北潮国際港空」「潮霧空港」「しお風滑走基地」などがあったが、最終的には観光誘致と防災機能の双方を端的に示すとして、現在の名称に落ち着いたとされる。ただし、当時の議事録の一部は潮位上昇で損傷しており、最終決定の経緯にはなお不明な点がある[4]。
なお、地元の一部では俗に「しおの」と呼ぶよりも「おしお」と呼ばれることがある。これは、開港直後に発行された案内放送の録音が逆再生のように聞こえたことに由来するという説があり、空港史研究家の間では半ば定説化しているが、裏付けは弱い。
沿革[編集]
計画と建設[編集]
潮野空港の構想は、の系の臨海調査に端を発するとされる。当初は漁港の補助桟橋として検討されたが、渡辺精一郎らの提案により、高潮を避けながら小型機と貨物船を同一岸壁で扱う複合施設へ転換された[5]。
建設では、通常の埋立てではなく、海底の砂州に軽量コンクリートの蜂巣ブロックを敷き詰める「透潮式基盤工法」が用いられた。これは潮の流入を完全に止めず、むしろ水圧を逃がして地盤沈下を防ぐ方法で、工期は当初予定の4年から7年に延びたが、のちに海霧が基盤を冷却するため強度が上がるという副次効果が確認されたとされる。
8月17日に暫定開港し、同年秋には貨物試験便が就航した。しかし初便の着陸時、滑走路末端にいたアザラシの群れが誘導灯と誤認されて旋回したため、記念写真では機体よりも海獣のほうが目立ってしまい、町の広報誌が異例の増刷を行った。
拡張と転機[編集]
にはターミナルビルが増築され、観光客向けの「潮霧展望回廊」が設けられた。ここでは、気圧の変化に応じて床下から微細な塩水ミストが噴き上がる装置が導入され、夏場の利用者からは涼しいと好評だったが、眼鏡が曇るとして会議室への採用は見送られた。
の台風第18号では、防潮堤の一部が破損したものの、かえって空港の象徴として「波に強い空港」の評判が広がった。この年以降、空港は定期便のハブというより、災害時の物資中継・避難訓練・海霧観測の拠点として位置づけられるようになった[6]。
なお、には国の文化資源調査の対象となり、滑走路脇の測潮塔と旧管制所が「近代臨海産業遺構」として登録されている。登録理由には、航空史と漁業史と気象学が一つの敷地内で不可分に混在している点が挙げられた。
施設[編集]
潮野空港の施設は、旅客ターミナル、貨物桟橋、測潮塔、旧管制所、そして干潮時のみ露出する「第二誘導帯」から構成される。第二誘導帯は、滑走路脇の浅瀬に埋設された白色ブロック列で、潮位が特定値以下になると使用可能となるため、時刻表は航空会社ではなく潮位表に従って改訂される[7]。
旅客ターミナルは二層構造で、上層が出発ロビー、下層が防潮倉庫になっている。防災訓練時には、出発カウンターがそのまま炊き出し受付へ転用される仕組みがあり、町民は「国内線より先に非常食が並ぶ空港」と呼んでいる。
また、敷地内には「潮風記念温室」があり、空港樹木の葉に付着した塩分を一年ごとに洗い流す儀式が行われる。これは開港当初、植栽が悉く枯死したことへの対策として始まったもので、現在では毎年5月の風弱日に合わせて職員と住民が総出で実施している。
交通アクセス[編集]
潮野空港への交通アクセスは、中心部からの連絡道路と、湾内を巡る連絡バスが基本である。空港連絡バスは通常25分間隔で運行されるが、霧が濃い日は発着時刻が海霧信号灯の色により調整されるため、時刻表よりも掲示板の「視程注意」欄のほうが実質的な運行情報となっている[8]。
鉄道は、のから徒歩接続とされているものの、実際には干潮時にのみ現れる木道を経由するため、利用者は「乗換え」というより「潮待ち」を経験することになる。冬季にはこの木道の下を流氷片が通過し、観光客が最も写真を撮る地点として知られている。
自家用車利用の場合、空港北側の立体駐車場が使われるが、強風時には屋上階の車両が潮風で方向感覚を失うとして、地元では下層階が人気である。なお、送迎車の停車枠には「短時間停車」のほか「海鳥待機枠」が設けられており、カモメの滞在が長い場合は係員が音響装置で誘導する。
文化財[編集]
潮野空港は、北海道内でも珍しい「現役空港を含む近代臨海複合遺構」として評価されている。特に旧管制所は、厚い防潮ガラスと手回し式の霧笛連動盤を備えた建物として、により保存対象に指定されている[9]。
また、空港敷地内の石碑「潮門建立之碑」は、の開港記念として建立されたものである。碑文には、開港当日の潮位、風速、地元中学生による合唱曲名まで刻まれており、後年の調査で「空港碑としては過剰に生活感がある」と評された。ただし、この碑は毎年の除潮作業で微妙に位置がずれるため、実測値と碑文の座標が一致しない年がある[10]。
さらに、滑走路端の防潮堤に埋め込まれた青銅製の方位盤は、航空機の進入角を示す目的で設置されたが、現在では釣り客の潮目確認に使われることのほうが多い。こうした用途の変化が、潮野空港の文化財的価値を高めているとされる。
脚注[編集]
[1] 潮野町史編さん委員会『潮野町史 第6巻 空と潮の章』潮野町役場、1994年、pp. 211-219。
[2] 佐伯仁志「干満を利用した滑走路運用に関する実地報告」『臨海交通工学』Vol. 12, No. 3, 1982年, pp. 44-58。
[3] 潮崎郷土資料館編『潮野地名考』潮崎郷土資料館、1971年、pp. 3-12。
[4] 北海道臨空開発協会『潮崎臨空港名称審議会議事録抄』内部資料、1981年、pp. 17-23。
[5] 渡辺精一郎『透潮式基盤工法の理論と実際』北海建設出版、1975年、pp. 88-105。
[6] Margaret A. Thornton, “Storm-Resilient Aerodromes on Tidal Shores,” Journal of Coastal Infrastructure, Vol. 9, No. 2, 2005, pp. 101-126。
[7] 潮野空港運航課「第二誘導帯の使用基準」『空港運用月報』第31巻第4号、1999年、pp. 1-9。
[8] 山本志乃『海霧とバス時刻表の相関』潮野交通研究会、2012年、pp. 55-67。
[9] 北海道教育庁文化財保護室「潮野空港旧管制所の保存調査報告書」2016年、pp. 14-31。
[10] 田村海斗「潮門建立之碑の座標ズレと潮位補正」『地域遺産年報』第8号、2019年、pp. 77-84。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 潮野町史編さん委員会『潮野町史 第6巻 空と潮の章』潮野町役場、1994年.
- ^ 佐伯仁志「干満を利用した滑走路運用に関する実地報告」『臨海交通工学』Vol. 12, No. 3, 1982年, pp. 44-58.
- ^ 渡辺精一郎『透潮式基盤工法の理論と実際』北海建設出版、1975年.
- ^ 北海道臨空開発協会『潮崎臨空港名称審議会議事録抄』内部資料、1981年.
- ^ Margaret A. Thornton, “Storm-Resilient Aerodromes on Tidal Shores,” Journal of Coastal Infrastructure, Vol. 9, No. 2, 2005, pp. 101-126.
- ^ 山本志乃『海霧とバス時刻表の相関』潮野交通研究会、2012年.
- ^ 北海道教育庁文化財保護室『潮野空港旧管制所の保存調査報告書』2016年.
- ^ 田村海斗「潮門建立之碑の座標ズレと潮位補正」『地域遺産年報』第8号、2019年, pp. 77-84.
- ^ 中村一朗「潮風環境下におけるターミナル外装材の白化現象」『建築海洋学会誌』第15巻第1号、1991年、pp. 9-22.
- ^ 小林ルミ「空港と町内会の境界に関する一考察」『地方空港研究』第4巻第2号、2008年、pp. 63-70.
外部リンク
- 潮野空港公式案内所
- 潮崎湾観測ネット
- 北海道近代臨空遺産アーカイブ
- 潮霧交通連絡協議会
- 潮野町文化財データベース