猫鑑定士
| 名称 | 猫鑑定士 |
|---|---|
| 英語名 | Feline Appraiser |
| 成立 | 大正末期 |
| 主な活動地 | 東京、横浜、神戸 |
| 所管 | 日本猫資産評価協会(旧称) |
| 関連分野 | 動物行動学、愛玩動物流通、家屋風水 |
| 代表的資格 | 初級猫位・上級毛並位 |
| 評価項目 | 鳴き声、尾の角度、座り方、来客時の退避速度 |
| 通称 | ねこ鑑 |
| 制度化年 | 1934年 |
猫鑑定士(ねこかんていし、英: Feline Appraiser)は、の、、、およびを総合的に評価し、価値や適性を判定する専門職である。主に末期ので成立したとされ、のちに業界の一部に深く影響を与えたとされる[1]。
概要[編集]
猫鑑定士は、猫を単なる愛玩対象ではなく、生活空間における「行動価値を持つ個体」とみなし、その資質を鑑定する職能である。内の古書店、邸宅、料亭、獣医診療所などで発生した口伝を基礎としており、当初はの付帯業務に近い扱いであった。
制度上は、猫の希少性を判定すると、飼い主との相性を推定するが分離していたが、実務ではしばしば混同された。この混同が、後年の「猫に値札を付けるのか」という倫理論争を生み、かえって猫鑑定士の知名度を高めたとされる[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、の古道具問屋で発生した「鼠除けの良い猫を選べないか」という相談に求められることが多い。これに対し、雑誌『』の寄稿者であった渡辺精一郎は、猫の価値は品種よりも「夜半の巡回能力」と「障子前の静止時間」にあると記し、これが後の鑑定基準の原型になったとされる。
なお、最初期の猫鑑定士はではなく、、、など異分野の者が兼任していた。これは猫の評価が医学よりも空間美学に近いという当時の感覚によるもので、現存する最古の鑑定記録には「尻尾が短いが、炉辺に置くと部屋が締まる」など、現代の職業倫理では説明しにくい表現が並ぶ。
制度化[編集]
、内の非公式研究会が「猫価統一案」を採択し、猫鑑定士講習会が年3回開催されるようになった。講習会では、を使った視線追跡、を用いた来客選別、による夜間警戒適性の測定が行われ、受講者は平均48分で眠気を訴えたという。
この時期に確立された「五項目十六点法」は、鳴き声・歩幅・爪の出し方・膝上滞在時間・他猫への礼儀の5項目を16点満点で評価する方式であり、初期の流行職業として新聞広告にも登場した。ただし、16点満点のうち15点以上が出た個体はかえって「人間社会に適応しすぎている」として減点される逆転ルールがあり、学会内でも議論が分かれた。
戦後の拡大[編集]
後、住宅の狭小化と被害の再燃により、猫鑑定士は実用職として再評価された。にはが設立され、とに支部が置かれた。協会は、猫を「感情家財」として扱うためのガイドラインを刊行し、月例で「膝の上での保有期間」や「窓辺回転率」を公表した。
一方で、の調査では、鑑定の半数以上が飼い主の思い込みに左右されていたことが判明し、これを受けて協会は「猫の主観を尊重する鑑定」へ方針転換した。結果として、猫鑑定士は評価者であると同時に、猫の機嫌を整える交渉人としての役割を担うようになった。
鑑定手法[編集]
外形評価[編集]
外形評価では、の艶、耳の左右差、鼻筋の通り方、前脚のしまい方が観察される。とくに「座布団上の占有面積」は重要視され、標準値を上回る猫は「空間圧縮能力が高い」と記録された。鑑定士の間では、これを「一匹で六畳を半分にする猫」と呼ぶことがある。
また、被毛の色は単なる審美ではなく、来客の緊張を緩和する波長との相性で説明された。もっとも、この説明はの機関誌で急に導入されたもので、出典がやや曖昧である[3]。
行動評価[編集]
行動評価は猫鑑定士の本領とされ、鳴き声の音程変化、戸口での待機姿勢、家人が泣いた際の接近速度が測定された。なかでも「雨天時の視線固定時間」は、長ければ長いほど高評価とされ、最長記録はの町家で観測された214秒である。
ただし、鑑定士のあいだで最も意見が割れたのは「深夜3時に急に走る個体」をどう扱うかであった。保守派は減点対象としたが、革新派は「家屋の警報機能が内在している」として加点したため、全国で評価が二分された。
相性鑑定[編集]
相性鑑定では、猫と飼い主の関係が、、の三場面で試される。鑑定士は、飼い主が本を開いた瞬間に猫が膝へ乗るか、玄関チャイムに反応して先に驚くか、茶碗を洗っている最中に監督役へ回るかを観察する。
この工程はきわめて主観的であるが、逆にその主観性こそが信頼の源泉であったとされる。ある上級鑑定士は「相性とは統計ではなく、毛の微妙な逆立ちである」と述べたが、この言葉だけが一人歩きしての広告に頻出した。
資格制度[編集]
猫鑑定士の資格は、初級・中級・上級の三段階に分かれていたが、実際には猫の前で平静を保てるかどうかが最重要であった。試験は筆記、実地、沈黙の三部からなり、最後の沈黙試験では40分間猫に無視され続けても表情を崩さないことが求められた。
の制度改正で、上級資格者には「爪切り補助の助言権」と「猫用座布団の配置提案権」が与えられた。なお、更新講習を3回連続で欠席した者は「人間側の生活が忙しすぎる」として失格になることがあり、これは現在でも一部の地方支部に残る慣習である。
社会的影響[編集]
猫鑑定士の普及は、後期の都市生活に小さな変化を与えたとされる。商店街では「鑑定済みの猫」が看板猫として迎えられ、下宿屋では入居条件に「猫鑑定士の簡易所見」が添えられることもあった。また、では、鑑定士が静かに頷くだけで商品が高級に見える演出が多用された。
一方で、猫の価値を「飼い主の満足度」と「家屋の静寂性」で数値化することへの批判も根強かった。にはが抗議声明を出し、猫鑑定士は「猫を査定するのではなく、猫と人の関係を翻訳する職能である」と弁明した。この弁明は一定の支持を得たが、同時に「では翻訳料はいくらか」という新たな論点を生んだ。
批判と論争[編集]
最大の論争は、猫鑑定の結果がしばしば飼い主の思い込みに一致してしまう点にあった。つまり、猫鑑定士は猫を見ているようで、実際には飼い主の生活習慣を見抜いているだけではないかという批判である。
また、に関東地方のある講習会で、評価用として持ち込まれた猫のうち7匹が同一の親族であったことが判明し、「血統鑑定の前に搬入管理を見直すべき」との指摘が出た。これに対し主催側は「猫社会は人間が思うより狭い」とコメントしたが、かえって伝説化を招いた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『帝都における猫価の成立』帝都趣味社, 1936年, pp. 14-29.
- ^ 中村静枝『猫鑑定士講習録』横浜商工会議所出版部, 1939年, pp. 3-41.
- ^ Margaret A. Thornton, "On Feline Appraisal in Urban Houses," Journal of Comparative Domestic Studies, Vol. 12, No. 4, 1959, pp. 201-219.
- ^ 佐伯松太郎『膝上滞在時間の測定法』日本猫資産評価協会, 1962年, pp. 7-18.
- ^ Helen K. Wren, "The Ethics of Appraising Companion Animals," London Review of Applied Zoology, Vol. 8, No. 2, 1971, pp. 88-103.
- ^ 木暮千鶴『毛並みと空間圧縮能力』家政工芸新報社, 1978年, pp. 55-74.
- ^ Robert J. Ellery, "Feline Valuation and the Quietness Index," Proceedings of the International Society for Pet Economics, Vol. 3, No. 1, 1984, pp. 1-17.
- ^ 藤堂杏子『猫を翻訳する職業』東京みすず書房, 1994年, pp. 102-126.
- ^ 日本動物倫理連盟編『猫査定をめぐる声明集』青土社, 1995年, pp. 61-69.
- ^ 渡辺精一郎『猫の値段と月の満ち欠け』帝都趣味社, 1937年, pp. 1-12.
- ^ Sarah P. Eldridge, "Why Cats Refuse Certification," Cat Studies Quarterly, Vol. 21, No. 3, 2009, pp. 33-47.
- ^ 『猫鑑定士実務要覧・改訂第七版』日本猫資産評価協会, 2018年, pp. 9-88.
外部リンク
- 日本猫資産評価協会
- 帝都趣味アーカイブ
- 横浜商工資料館 猫価研究室
- 国際伴侶動物査定学会
- 猫鑑定士通信