王様症候群
| 分類 | 組織行動学、擬似君主制研究 |
|---|---|
| 提唱者 | エルンスト・ヴァイグル博士 |
| 初出 | 1897年 |
| 発祥地 | ウィーン宮廷会計局内文書室 |
| 主症状 | 過剰な称号要求、椅子の高さへの執着、決裁の儀礼化 |
| 関連理論 | 小国化効果、王権錯覚仮説、昼礼命令系統 |
| 学会標準化 | 1934年、ベルン会議で暫定採択 |
| 主な研究機関 | 王冠的権威研究所(ロンドン) |
| 俗称 | 自席即位症 |
| 備考 | 一部の産業医は重役椅子病とも呼ぶ |
王様症候群(おうさましょうこうぐん、英: King Syndrome)は、の権限が過度に集中した環境で、当人が自らを半ば儀礼的な統治者のように認識し、周囲もそれを黙認することで成立するとされる心理・組織現象である[1]。もともとは末ので、宮廷会計係が王侯の私室動線を観察して記した備忘録に由来するとされる[2]。
概要[編集]
王様症候群は、本来は医療診断名ではなく、との境界に置かれる俗称である。上司本人の性格だけでなく、取り巻きが儀礼的な服従を繰り返すことで症状が固定化する点に特徴があり、実務上は会議室の座席配置、秘書の呼称、決裁印の置き位置までが観察対象になる。
この現象は、単なる横暴な人物像を指す言葉として流通しているが、初期の研究者たちはむしろ「権限が小さな空間で王権のふるまいを再演する現象」と定義した。なお、の旧官庁街で行われた聞き取り調査では、机の脚に金属装飾がある部署ほど発症率が高いとの記録が残されている[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、の付属書庫で働いていたエルンスト・ヴァイグル博士が、若手書記の昇進後の言動変化を観察したことに求められる。博士は、昇進した職員が自席に戻る際、必ず扉を三回ノックさせ、暖炉の前を「謁見の場」と呼んでいた事例を記し、これを暫定的に「Königsneurose」と命名した。
この語は当初、王族そのものを意味したのではなく、むしろ「王のように振る舞わざるを得ない局所的病理」を指していた。しかし、同年に発表された短報が社交欄に誤って要約転載され、翌週にはの新聞で「最近の役人は皆、王様気取りである」と拡大解釈されたため、以後は大衆語として定着したとされる。
ベルン会議と標準化[編集]
、で開催された「小規模権威現象に関する国際会議」において、症状分類が初めて整理された。会議では、椅子の肘掛けを左右で使い分けるA型、来客ごとに秘書の呼称を変えるB型、昼食のカレーの辛さまで決裁に含めるC型など、計17類型が提案された。
ただし、議事録の第4章には「分類が細かすぎて、結局みな王である」との編集者注があり、後年の研究者はこれを半ば英雄的な敗北宣言として扱っている。会場近くののホテルでは、参加者の4割が自室の鏡を見ながら演説の練習をしていたという逸話があるが、裏付けは弱い[要出典]。
戦後の普及[編集]
後、この概念はのへ移植され、巨大工場の主任や広告会社の役員に多発する「擬似宮廷化」として再定義された。特ににで刊行された『Vertical Velvet and the Boss』は、王様症候群を「権威が椅子の座面を通じて伝染する」と説明し、企業研修の定番資料となった。
一方ででは、期の社長室文化と結びつき、「社長の前でだけ空調温度が2度下がる現象」として俗に語られた。にはの中小企業協同組合が独自の自社診断票を配布し、机の上に銀色のネームプレートがあると重症、来客用菓子が和菓子のみなら軽症といった、実に細かい判定基準を設けている。
症状と分類[編集]
王様症候群の主症状は、権限そのものよりも「周囲に儀礼を要求する速度」の上昇にあるとされる。具体的には、会議開始前に席順を3回変更させる、文書の一行目に自称の肩書を先に書かせる、廊下ですれ違う際に相手が半歩下がるまで会話を始めない、などが挙げられる。
研究者の間では、症状を「戴冠型」「御前会議型」「城塞管理型」に分ける説が有力である。戴冠型は自己陶酔が強く、御前会議型は周囲への儀礼要求が激しく、城塞管理型は外部との接触を過剰に制限する傾向がある。なお、の調査では、これらの型が月曜午前に最も悪化し、特に筆記具が金属製の場合に発症率が1.8倍上昇したと報告されている[4]。
社会的影響[編集]
王様症候群は、個人の性格問題としてよりも、組織内の空気を「宮廷化」させる現象として語られてきた。部下は命令の内容ではなく、命令がどの程度儀礼を伴うかに注意を払い、結果として実務よりも敬礼の整合性が重視されるようになる。
このため、公共部門では以降、会議室の楕円テーブル化、座席の固定化、秘書の裁量拡大が「予防策」として導入された地域がある。もっとも、内のある外郭団体では、楕円テーブルを導入したところ、かえって「円卓の王」と呼ばれる上司が出現し、誰も議題に触れられなくなったと報告されている。これが「小国化効果」の典型例であるとする説もある。
批判と論争[編集]
批判の第一は、王様症候群が便利な説明語として濫用されやすい点にある。実際には単なるパワハラ、業務過多、あるいは古典的な自己愛傾向で説明できる事例も多く、の会議では「病名のように見える比喩表現を、診断のように扱うべきではない」との強い反発があった。
ただし支持派は、比喩であるからこそ組織の空気を可視化できると反論している。とりわけの産業医グループは、「王様は本人の中にいるのではなく、周囲の沈黙に巣を作る」とする声明を出し、以後この表現を半ば社会学的警句として扱うようになった。なお、同声明には署名者のうち2名が自分を「副王」と記していたため、後年まで茶化されている。
民間療法と対策[編集]
対策としては、王様症候群を刺激する儀礼の削減が推奨される。たとえば、役職名での呼称を固定しない、席順を会議ごとに抽選にする、決裁文書を青色ペンで回覧するなどである。にのあるIT企業が導入した「三分間無王会議」は、最初の2週間で議長が4回交代し、議事録だけが妙に立派になった。
また、民間では「王冠を外す」儀式として、上司の椅子のクッションを少しだけ低くする、来客用の水を紙コップに統一する、といった半ば迷信的な方法も知られている。もっとも、の老舗企業では、社長室の座布団を撤去したところ、社長が立ったまま印鑑を押し続けるようになったため、むしろ別種の権威化が進んだとされる。
大衆文化[編集]
王様症候群は、やにおいて、強権的な上司のテンプレートとして頻出する。とりわけの連続ドラマ『会議室の王冠』では、主人公が毎週違う部署で即位するという設定が話題になり、最終回では人事部そのものが王国化するという急展開を迎えた。
また、以前の動画共有サイトでは、重役椅子を使った再現コントが流行し、机をノックする回数で権威が測定される「ノック指数」が一部で話題となった。2020年代には、SNS上で「うちの課長、朝礼の拍手が足りないと不機嫌になる」といった投稿が王様症候群の実例として拡散されたが、投稿の約3割は冗談であるとみられる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Ernst Weigl『Über die Königsneurose kleiner Ämter』Kaiserliche Archivdruckerei, 1898.
- ^ Margaret L. Havers『Vertical Velvet and the Boss: A Study of Office Majesty』University of Chicago Press, 1958.
- ^ 渡辺精一郎『組織内擬似君主制の研究』日本行政心理学会誌 第12巻第3号, 1964, pp. 41-67.
- ^ Hans Reuter『Die Thronbildung im Sitzungssaal』Berliner Verlag für Sozialkunde, 1936.
- ^ 佐伯由紀子『社長室文化と儀礼行動』経営行動研究 第8巻第2号, 1972, pp. 113-139.
- ^ Catherine M. Bell『The Crown Reflex in Bureaucracies』Oxford Social Review Vol. 27, No. 4, 1981, pp. 201-229.
- ^ André Voss『Könige am Kopierer: Eine Feldstudie』Schweizer Institut für Organisationsforschung, 1990.
- ^ 小林俊介『王様症候群の予防における椅子高の影響』産業衛生と空間 第5巻第1号, 2004, pp. 9-22.
- ^ Patricia E. Noon『The Quiet Coronation: Silence as a Corporate Tool』Harvard Bureau Journal Vol. 41, No. 2, 2012, pp. 88-104.
- ^ 『会議室の王冠――権威の演出とその崩壊』東京社会評論社, 1994.
外部リンク
- 王冠的権威研究所
- 国際小規模権威学会
- ウィーン宮廷文書デジタル館
- 組織宮廷化アーカイブ
- ベルン会議議事録再編委員会