真球式永久機関
| 種類 | 力学現象、擬似永続運動 |
|---|---|
| 別名 | 球殻循環現象、ラザフォード回転 |
| 初観測年 | 1897年 |
| 発見者 | エドウィン・ラザフォード |
| 関連分野 | 力学、材料工学、計測学、都市伝承学 |
| 影響範囲 | 欧州、北米、日本の工学教育機関と博覧会会場 |
| 発生頻度 | 年数件から数十件とされる |
真球式永久機関(しんきゅうしきえいきゅうきかん、英: Spherical Perpetual Motion)は、においてがを伴いながら自律的に回転を維持する現象である[1]。別名をといい、にの工学者によって最初に記録されたとされる[2]。
概要[編集]
真球式永久機関は、真球に近い球体が特定の床面や支持条件のもとで、外部からの明確な駆動がないにもかかわらず、長時間にわたり回転を維持するように見える現象である。多くの場合、、、あるいはで作られた球殻が用いられ、、、の見本市や大学の実験室で報告されてきた。
この現象は、しばしばの実現例として誤解されるが、研究者の間では、表面張力、床材の微細な傾斜、空気の層流、観測者の期待効果が複合した結果であると説明される。ただし、とする報告も残っており、特に球体内部の共鳴腔が回転を補助するという説は、とされながらも根強い支持がある。
発生原理・メカニズム[編集]
真球式永久機関のメカニズムは、球体の外形が極めて滑らかであるほど顕著になるとされる。球面上に生じたの温度差が、接触面の摩擦係数を周期的に変化させ、結果として回転が維持されるというのが通説である。
一方で、の委員会報告では、回転継続の主因は床面に埋め込まれた鉄粉の配列による微弱な磁気勾配であるとされた。しかし、後年のによる再現実験では、同じ球体を、、上でそれぞれ回転させたところ、継続時間が平均で、、と大きく変動し、単一要因では説明できないことが示唆された。
なお、球体内部に砂粒を入れると現象が消失することが多いが、1912年のでは、あえて微量のを封入した「湿式真球」が展示され、来場者の拍手により回転が加速したとの記録がある。この点については、現在でもの一種とみなす立場と、単なる床の振動であるとする立場が対立している。
種類・分類[編集]
真球式永久機関は、球体の材質と設置環境により、いくつかの類型に分けられている。
第一に、である。これはやのような重い材質で構成され、停止しにくい反面、初動に高い精度を要する。第二に、があり、内部空洞の音響共鳴によって回転が整えられるとされる。第三に、は、床面の薄い湿気層を利用して摩擦を極端に減少させるもので、の旧実験棟で多く観測された。
また、民俗学の分野では、との二分類が行われることがある。祝祭型は博覧会や開校記念式典など、意図的に披露されたものを指し、事故型は工房の床に落ちた球体がそのまま止まらずに転がり続け、作業員が退勤できなくなった事例をいう。後者は労務管理上の問題を引き起こし、のの精密機器工場では、停止確認にを要したと記録されている。
歴史・研究史[編集]
19世紀の初期記録[編集]
最初の体系的記述は、にで刊行された『球体の疲労と自走現象に関する覚書』に見られる。著者のは、展示用の真鍮球が机上で回転し続けたことを、当初は測定器の故障とみなしたが、同席していたが床面のワックス処理を指摘したことで注目が集まった。
その後、にはのが、球体の表面に微細な螺旋傷を入れると継続時間が平均でになると報告した。この研究は機械論の新展開として歓迎されたが、追試の大半が失敗し、ネッセルの助手が「球が研究者を選ぶ」と記した書簡だけが残っている。
博覧会と大衆化[編集]
になると、真球式永久機関はやで実演され、新聞各紙が「無尽の回転」と報じた。特にのでは、見物客が球体に硬貨を投げ入れる習慣が生まれ、これにより摩擦条件が変化して現象が一時的に増幅されたという。
この時期、の若手会員であったは、球体の材質よりも観客の拍手の間隔が重要であると主張し、いわゆるを提唱した。なお、この説は当時の寄席文化との親和性から一部の興行師に支持されたが、学術的にはほぼ無視された。
戦後研究と再評価[編集]
後、真球式永久機関は一度は荒唐無稽な見世物として扱われたが、の計測機器の高精度化により再評価された。特にのは、回転継続中の球体内部温度が周囲より高いことを示し、熱対流が回転維持に寄与している可能性を示唆した。
ただし、同時期の年次大会では、同じ装置が発表者の靴底の静電気で動いたことが判明し、会場が一時騒然となった。これ以降、真球式永久機関の研究は、物理学と舞台装置学の境界領域に位置づけられるようになった。
観測・実例[編集]
代表的な実例として知られるのは、にの旧輸出見本市会場で記録された「第三展示室の赤銅球」である。この球体は、床の傾斜がしかないにもかかわらず、開場から閉場までのにわたり断続的に回転し、係員が閉館後に球を包布で覆うまで停止しなかった。
また、の準備期間中に行われた予備展示では、の仮設倉庫で保管されていた真球が、夜間の空調運転に合わせて毎時だけ方向を変える現象が観測された。これについては、空調担当者が「球が空気の流れを読んでいる」と証言しており、録音記録も残されている。
さらに、のにおける私設観測例では、雪解け期の湿った倉庫床で真球が自発的に回転し、所有者がにわたり動作確認を続けた結果、球よりも観測者の方が疲弊した。研究者の間では、この種の長時間観測が、現象の実在性を示すと同時に、観測者の判断を曇らせる要因でもあると指摘されている。
影響[編集]
真球式永久機関は、工学史上の奇談としてのみならず、社会現象としても一定の影響を及ぼした。まず、への過度な期待を抑制するため、はに理科教材の注意書きを改訂し、「長く回ることと無限に働くことは同義ではない」と明記した。
一方で、展示会産業には利益をもたらした。球体が長時間動き続ける様子は、電力をほとんど消費しない省エネルギーの象徴として扱われ、のでは関連ブースの来場者が前年のに増加したとされる。もっとも、実際には周辺照明と冷房の消費電力が増えたため、展示の環境負荷はむしろ高かったという指摘がある。
また、言語面でも「真球式」という表現が転じて、形だけ整って中身が不安定な制度を揶揄する比喩として用いられるようになった。官庁内部では、根拠の薄い会議資料を「真球案件」と呼ぶ俗語が一時期流通したが、である。
応用・緩和策[編集]
応用面では、真球式永久機関は装飾装置、教育用模型、心理実験の刺激材として利用された。とりわけの初年次講義では、球体の回転を観察させることで、摩擦、慣性、観測バイアスを同時に教える教材として重宝された。
緩和策としては、球体の下にを敷く、室温を一定に保つ、観客の拍手を禁止する、などが提案されている。もっとも、最も効果的とされたのは「球を見つめすぎないこと」であり、の試験では、観測者が5分ごとに視線を外すだけで継続時間が平均短縮した。
ただし、商業施設においては逆に「止まらないこと」自体が集客要素となるため、完全な緩和は望まれないことも多い。近年では、で回転速度を可視化することで誇張演出を防ぐ設計が普及しているが、見た目の神秘性が損なわれるとして、から反発もある。
文化における言及[編集]
真球式永久機関は、文学、映画、演劇の中でしばしば「終わらない努力」の象徴として描かれてきた。特にの小説『』では、退職を拒む研究者が真球を抱えたまま研究室をさまよう姿が印象的に描かれ、候補になったとされる。
映画では、の『』が有名である。撮影に用いられた球体は実際にはモーター駆動であったが、公開後に観客の間で「映画が現象を模倣したのか、現象が映画を模倣したのか」が話題になった。なお、主題歌を歌ったは後年のインタビューで、録音スタジオの床でも球が止まらなかったと語っており、信憑性は不明である。
また、インターネット上では、止まらない議論を「真球化する」と表現する用法が広まり、とも結びついた。とりわけ、深夜の技術系掲示板で延々と続く摩擦論争は、しばしば「真球式永久機関スレ」と呼ばれていた。
脚注[編集]
[1] 真球式永久機関研究会編『球体回転現象の基礎と周辺』中央計測出版、1998年、pp. 14-19. [2] E. Rutherford, “On the Self-Sustaining Motion of Perfect Spheres,” Proceedings of the Manchester Institute of Mechanics, Vol. 12, No. 3, 1898, pp. 201-219. [3] 高瀬順三郎「拍手同期と展示物の回転安定性」『日本機械学会雑報』第41巻第2号、1927年、pp. 7-15. [4] Margaret H. Wells, “Floor Wax and the Persistence of Rotation,” Journal of Applied Odd Mechanics, Vol. 5, No. 1, 1905, pp. 33-41. [5] 田島久作『熱対流と球殻運動の境界』国立産業技術研究所報告、1954年、pp. 88-102. [6] 山辺広志『現象としての永久機関とその社会的受容』風見書房、1979年、pp. 114-121. [7] Karl Nessel, “Spiral Scratches on Spherical Bearings,” Berichte der Technischen Hochschule Berlin, Vol. 8, No. 4, 1904, pp. 55-63. [8] A. J. Morrow, “Audience Synchrony in Exhibition Devices,” Transactions of the Royal Society of Demonstrations, Vol. 3, No. 2, 1928, pp. 9-27. [9] 佐伯玲子『真球と都市伝承』港区文化資料館叢書、2009年、pp. 201-208. [10] “The Unending Sphere and Its Public Reception,” Bulletin of the Institute for Pseudo-Mechanical Studies, Vol. 19, No. 1, 2016, pp. 1-16.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 真球式永久機関研究会編『球体回転現象の基礎と周辺』中央計測出版、1998年。
- ^ E. Rutherford, “On the Self-Sustaining Motion of Perfect Spheres,” Proceedings of the Manchester Institute of Mechanics, Vol. 12, No. 3, 1898, pp. 201-219.
- ^ Margaret H. Wells, “Floor Wax and the Persistence of Rotation,” Journal of Applied Odd Mechanics, Vol. 5, No. 1, 1905, pp. 33-41.
- ^ Karl Nessel, “Spiral Scratches on Spherical Bearings,” Berichte der Technischen Hochschule Berlin, Vol. 8, No. 4, 1904, pp. 55-63.
- ^ 高瀬順三郎「拍手同期と展示物の回転安定性」『日本機械学会雑報』第41巻第2号、1927年、pp. 7-15.
- ^ 田島久作『熱対流と球殻運動の境界』国立産業技術研究所報告、1954年、pp. 88-102.
- ^ A. J. Morrow, “Audience Synchrony in Exhibition Devices,” Transactions of the Royal Society of Demonstrations, Vol. 3, No. 2, 1928, pp. 9-27.
- ^ 山辺広志『現象としての永久機関とその社会的受容』風見書房、1979年、pp. 114-121.
- ^ 佐伯玲子『真球と都市伝承』港区文化資料館叢書、2009年、pp. 201-208.
- ^ "The Unending Sphere and Its Public Reception," Bulletin of the Institute for Pseudo-Mechanical Studies, Vol. 19, No. 1, 2016, pp. 1-16.
外部リンク
- 国際真球現象学会
- 東京計測文化アーカイブ
- 曼荼羅回転装置研究センター
- 英国展示機械史協会
- 日本擬動力学資料室