短尺異常放送
| 分類 | 放送工学、メディア史、周波数民俗学 |
|---|---|
| 初出 | 1949年ごろ |
| 提唱者 | 田島 恒一郎 |
| 主な発生地 | 東京都港区、横浜市中区、名古屋市中村区 |
| 持続時間 | 18秒から212秒 |
| 代表的周波数帯 | 中波790kHz付近、VHF試験波 |
| 関連機関 | 日本周波数整理委員会、帝都送信研究所 |
| 影響 | 深夜番組枠の短縮、試験放送規格の改定 |
| 別名 | 短秒異常送出、瞬断癖放送 |
短尺異常放送(たんじゃくいじょうほうそう、英: Short-Form Anomalous Broadcasting)は、から程度の極端に短い放送枠の中で、通常の編成では起こりえない音声変調、時刻同期のずれ、あるいは受信機側の反応異常が連鎖的に発生する現象の総称である[1]。主にの民放試験局を起点として研究され、のちに外郭の周波数調整史料において準制度化されたとされる[2]。
概要[編集]
短尺異常放送は、短い放送尺に特有の圧縮・送出・受信の三重誤差によって、内容が放送終了後も数秒から数分遅れて視聴者側に残留すると説明される現象である。一般にはやと混同されやすいが、短尺異常放送では番組そのものが「正常に終わったように見える」点に特徴があるとされる[1]。
この現象はの試験送出記録に近いものがあるとされる一方、実際にはの小規模局が深夜に行ったの音楽テストで体系化されたという説が有力である。記録上は単なる機器不調であるが、後年の研究者はそこに「短い放送ほど異常が濃縮される」という経験則を見いだしたとされている[2]。
定義[編集]
短尺異常放送の定義は、放送時間が未満であること、送出時に1回以上の不可逆的な音声欠損、ならびに受信者の記憶にだけ残る「余韻」が生じることの三条件で整理される。なおでは、これを「超短尺帯域における意味密度の過剰増幅」と仮称しており、のちに学界で定着した[3]。
一方で、にで起きたとされる事例では、時報が鳴る前にスポンサー名だけが7回繰り返され、最後の1回だけの地図が逆さまに読み上げられた。これは放送設備の故障ではなく、短尺異常放送の典型として扱われるようになったが、この解釈にはなお異論がある。
歴史[編集]
前史[編集]
前史はのにさかのぼる。同研究所では、電波の空白時間を減らすために単位の試験送出が繰り返されていたが、担当技師のが「短いほど内容が濃くなる」という奇妙なメモを残したことが知られている[4]。このメモは当初、広告的な誇張表現とみなされたが、後に短尺異常放送の原点として再評価された。
また、の内陸部で、山間の共同受信施設が試験電波を受けるたびに、終端だけ妙に早口になる現象が21回連続で観測された。記録簿には「受信機が最後に急ぐ」とだけ書かれており、現在ではこの記述が最古級の事例とされる。
制度化[編集]
、内の非公式研究会「短波時間圧縮班」が設けられ、短尺異常放送を事故ではなく「放送文化上の副産物」として扱う方針が取られた。班の報告書によれば、短い枠ではアナウンス原稿が平均圧縮され、ナレーターの呼吸が1回分だけ過剰に記録装置へ残るという[5]。
この時期、の民放局では、深夜の天気予報をで終える試験が実施され、終了直後に受信者から「雲の位置だけが遅れて見えた」という苦情が寄せられた。局側は謝罪したが、のちに内部資料ではこれを「送出成功率98.6%」と評価している。
全国的流行[編集]
になると、短尺異常放送は地方局の深夜枠で半ば意図的に模倣されるようになった。特にとでは、1分未満の提供読みのあとに無音が3秒続き、その無音中にだけ提供社名の字幕が遅れて点灯する演出が流行したとされる。これにより視聴者は、番組が終わった後にもう一度番組が始まったような感覚を覚えたという。
の『放送時刻学会誌』には、短尺異常放送が「短いほど視聴者の注意が一点化し、異常の知覚閾値が下がる」と記されている。ただし、同号の投稿欄には「単に現場が焦っているだけではないか」とする反論も掲載されており、学界内でも評価は割れていた。
技術的特徴[編集]
短尺異常放送では、通常の放送設備で起こるやに加え、送出機の予告灯が本編より先に消える「逆順消灯」が特徴とされる。とくに試験波では、テロップの出現より0.8秒早く音声だけが謝罪する事例が多い。
研究者たちはこれを、短い尺に対して編集・送出・監視が同時に走るため、局内の意思決定が物理的に追いつかなくなるためだと説明した。なおの実験では、の放送をで終える設定にしたところ、残り2秒分の内容がなぜか翌日の気象情報に混入し、の記録係が困惑したとされる[6]。
社会的影響[編集]
短尺異常放送は、深夜放送の慣行を変えただけでなく、短時間広告や公共案内の制作にも影響したとされる。とくに以降、内のローカル局ではの前後に「確認用の間」が設けられ、視聴者はその空白を待つことに慣れていった。
また、の内部会合では、短尺異常放送が高齢者の時刻認識に与える影響が議論され、1回ので1日の体感が約11分ずれるという研究結果が紹介された。もっとも、この数値は当時の会議資料にしか残っておらず、後年の検証は進んでいない。
一方で、短尺異常放送はオカルト番組や都市伝説の題材としても消費され、には「3分以内の放送は霊的ノイズを拾いやすい」という俗説が流布した。これにより、深夜の再放送枠が急に増えた地方局もあったという。
批判と論争[編集]
短尺異常放送をめぐっては、そもそも現象として実在するのか、それとも放送事故の後付け神話なのかをめぐり長年争われてきた。批判派は、記録の多くが局内回覧文書と個人の回想に依拠しており、再現実験がしか成功していない点を問題視している[7]。
また、の内報告では、短尺異常放送の発生率が「編集者の睡眠不足と強く相関する」と結論づけられたが、この結論は逆に理論を補強しただけではないかと揶揄された。研究会の一部では、放送事故を文化現象として美化しすぎているとの批判もあり、現在も評価は定まっていない。
それでもなお、の旧送信塔跡で毎年行われる「短尺送出追悼会」には、放送局関係者と研究者が100人前後集まる。参加者の多くは半ば冗談として参加するが、終了後に必ず原稿尺を短く読む儀式だけは厳格に守られている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田島 恒一郎『短尺送出の異常性とその余韻』帝都放送文化社, 1958.
- ^ 日本周波数整理委員会 編『短尺異常放送調査報告書 第3号』周波数資料館, 1961.
- ^ 佐伯 みどり『深夜局における瞬断と記憶残留』放送技術評論, Vol.14, No.2, pp. 41-59, 1969.
- ^ Margaret A. Thornton, “Residual Voice in Sub-Minute Broadcasts,” Journal of Media Anomalies, Vol.7, No.1, pp. 3-28, 1974.
- ^ 『日本放送協会技術研究年報 短尺枠特集』NHK技研出版, 1976.
- ^ 渡辺 精一郎『時報前倒し現象の民俗学的研究』港北書房, 1981.
- ^ H. K. Ellison, “Clock Drift and Broadcast Sentiment,” Transnational Broadcasting Review, Vol.22, No.4, pp. 201-219, 1987.
- ^ 中村 早苗『45秒CMの社会学』白樺メディア叢書, 1992.
- ^ 『放送時刻学会誌』第18巻第1号「短尺異常放送特集」, 1978.
- ^ 田島 恒一郎・監修『短尺異常放送史料集成』関東史料出版, 2004.
- ^ Gerald P. Wexler, “Why the Last Two Seconds Matter,” Shortwave Studies Quarterly, Vol.11, No.3, pp. 88-96, 1990.
外部リンク
- 帝都送信研究所アーカイブ
- 短尺異常放送史料館
- 日本周波数整理委員会デジタル年報
- 放送時刻学会
- 港区送信塔保存会