膝カックン
| 名称 | 膝カックン |
|---|---|
| 読み | ひざかっくん |
| 英語名 | Knee-Kakkun |
| 分類 | 身体遊戯・反射観察遊び |
| 起源 | 大正末期の学校体操研究 |
| 発祥地 | 東京都下の旧制中学校周辺 |
| 流行期 | 昭和40年代 - 平成初期 |
| 主要人物 | 斎藤栄吉、松井澄子、内田鉄三郎 |
| 関連機関 | 文部省学校衛生調査室 |
| 特徴 | 膝裏への微細接触による一時的屈曲 |
膝カックン(ひざかっくん、英: Knee-Kakkun)は、相手の膝裏を軽く刺激して瞬間的に脱力反応を誘発させる日本の身体遊戯である。関東地方の学校文化を起点に広まり、のちにの青少年行動研究にも影響を与えたとされる[1]。
概要[編集]
膝カックンは、相手の背後または側方から膝裏に触れ、体重移動の瞬間に膝をわずかに折らせる遊びを指す。単なるいたずらとして扱われることが多いが、初期には姿勢反射の観察法としても知られ、学校体育の周辺領域で半ば公認の実験的行為であったとされる[1]。
名称の「カックン」は、脱力時に膝関節が「かくん」と落ちる擬態音に由来すると説明されることが多い。ただし、旧の体操教師の間では、もともと「下肢反転試験」の俗称であり、児童が互いの信頼関係を確認するための儀礼的接触だったという説もある[2]。
歴史[編集]
起源と学校体操への流入[編集]
起源は後半、北多摩郡の旧制中学校における体操補助法に求められることがある。『膝関節の緊張解除は姿勢教育の基礎である』とした体操教師・が、整列時の余分な力みを取るために考案したとされ、初期の記録では「斉藤式膝落とし」と記されている[3]。
これが生徒間で玩具化し、頃には廊下や講堂で相互に行う遊びとして定着した。なお、の学校衛生調査室がにまとめた内部報告書では、月平均で一校あたり14.7件の「不意膝屈曲」が観測されたとされるが、集計方法が曖昧であるため、後年の研究者からは「実数はその3倍近かった」との指摘がある[4]。
大衆化とテレビ時代[編集]
40年代に入ると、の児童向け番組で偶発的に紹介され、一般名詞として急速に拡散した。とりわけ、に放送された公開収録番組『ひざで遊ぼう 児童反射講座』では、司会者が実演に失敗して自ら膝を折り、客席の笑いが17秒間止まらなかったという逸話が残る[5]。
この時期には、膝カックンをいかに「礼儀正しく」実施するかを研究する愛好家グループも現れた。代表的な団体であるは、親指の接触角度を38度前後に抑えること、相手の体重が踵から母趾球へ移る瞬間を狙うことなど、妙に細かい実技基準を定めていた。会員数は時点で全国2,480人とされるが、名簿の大半が学校名簿から転記された形跡があるため、実態は不明である[6]。
平成期の再定義[編集]
期になると、膝カックンは単なる悪戯から「関係性の確認行為」へと再定義された。特にの大学サークルやの放送研究会では、初対面の緊張を解くためのアイスブレイクとして採用され、就活イベントや新歓合宿でも断続的に用いられたという[7]。
一方で、の『学校安全白書』では、膝カックンにより転倒した例が年間87件報告されており、うち3件は「驚きによる空中での両手上げ」が原因であったと記される。ただし、この項目はのちに「膝反射に伴う自己申告事故」として再分類され、統計上はほぼ消滅した。学界ではこの処理を「事故の概念を笑いに吸収した稀有な事例」と評する者もいる[8]。
技法[編集]
膝カックンの基本技法は、相手の注意が前方へ向いた瞬間、膝裏に軽く接触し、重心移動を数センチだけ乱すことで成立する。熟練者は「触れる」のではなく「支える」ように実施するとされ、の教本では、指先の圧力を0.8ニュートン以下に保つよう推奨されていた[9]。
地域差も大きく、では後方からの実施が主流であるのに対し、では横からの接触で相手の顔の向きを確認してから行う「見合い式」が好まれた。なお、では雪面で転倒しやすいため、膝カックンは冬季にのみ解禁されたとする慣習があり、の一部学校では今も伝承されているという[10]。
また、膝カックンには「返し」の技法がある。相手が屈曲する瞬間に「おっと」と声を添えることで、衝撃を笑いへ転換させるもので、これを怠ると単なる非対称的接触として周囲から厳しく批判された。昭和後期の児童文化評論では、この声掛けの有無が文化的成熟度を示す指標とされている。
社会的影響[編集]
膝カックンは、学校生活における上下関係の可視化にも寄与したとされる。先輩が後輩に行う場合は「通過儀礼」、逆に後輩が先輩に行う場合は「勇気の証明」と解釈され、同じ動作でありながら共同体内の意味が反転した。この意味の可塑性が、のちの日本的ジョーク研究に大きな示唆を与えた[11]。
また、の企業研修では、チームビルディングの一種として「膝カックン応答訓練」が試験導入された。受講者は互いの膝裏ではなく名札の裏を軽く叩くことで代替儀式を行い、3日間の研修で離職意向が12%低下したという報告があるが、測定前後で昼食が豪華になっていたため因果関係は不明である[12]。
近年では、デジタル文化の中で「膝カックン」が、意外なタイミングで表示や通知が来る現象の比喩として用いられている。特に以降、若年層の間で「通知に膝カックンされた」という言い回しが流行し、身体技法が情報社会の隠喩へと転用された点が注目されている。
批判と論争[編集]
膝カックンは一見無害な遊びとして語られる一方、相手の姿勢制御を意図的に崩す点について、当初から批判が存在した。はの声明で「笑いを伴うとはいえ、膝関節周辺への不意接触は倫理的配慮を要する」とし、教育現場での反復実施を自粛するよう求めた[13]。
これに対し、愛好家側は「膝カックンは身体の緊張を解く共同作業である」と反論し、で開かれた公開討論会では、実演開始から8分で議論が終わり、その後の拍手によって学術集会が事実上レクリエーション化したと記録されている。なお、討論の途中で司会者自身が膝カックンを受け、結論文が誤って「賛成多数で保留」と印刷されたことが、論争を長引かせる一因となった[14]。
現在の位置づけ[編集]
現在、膝カックンは主に懐古的な学校文化の記憶として語られるが、一部の民俗研究者は、これを日本における「触れないほど笑える接触文化」の典型例として評価している。の企画展『からだのいたずら、ことばの礼儀』では、膝カックンの模擬再現装置が展示され、1日平均642人が体験したと報告された[15]。
また、地方のイベントでは、子ども向け安全教育の文脈で「急な脱力をどう受け止めるか」を学ぶ教材として流用されることがある。ただし、実際には講師が最初に膝を折ってしまい、予定していた説明より先に笑いが起こることが多いとされる。こうした不完全さこそが、膝カックンの文化的生命力であるとする見方もある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 斎藤栄吉『下肢緊張解除法の研究』東京体操教育出版, 1932, pp. 41-58.
- ^ 文部省学校衛生調査室『児童の不意屈曲に関する内報』文部省印刷局, 1935, pp. 3-19.
- ^ 松井澄子『遊戯としての反射観察』日本学校体育学会誌 Vol. 12, 第3号, 1941, pp. 211-224.
- ^ 内田鉄三郎『膝裏接触行為の民俗誌』民俗研究叢書, 1958, pp. 77-103.
- ^ Harold B. Kessler, “A Social History of Knee-Kakkun in East Asian Classrooms,” Journal of Recreational Anthropology Vol. 8, No. 2, 1976, pp. 88-117.
- ^ 日本膝遊戯協会編『KAKKUN Manual: 触れ方の美学』協会内部資料, 1974, pp. 5-33.
- ^ 青山由紀『笑いと姿勢の教育史』教育文化新書, 1989, pp. 144-169.
- ^ 渡辺精一郎『学校事故統計の再分類に関する覚書』東京社会衛生研究所報告 第17巻第1号, 1997, pp. 9-26.
- ^ Margaret A. Thornton, “Micro-Motion Rituals and Peer Trust,” International Review of Somatic Play Vol. 21, No. 4, 2008, pp. 301-329.
- ^ 『膝カックン再評価のための資料集』国立歴史民俗博物館研究報告, 2019, pp. 55-81.
- ^ 小林夏生『通知に膝カックンされる社会』情報感覚学評論 第4巻第2号, 2022, pp. 12-38.
外部リンク
- 日本膝遊戯協会アーカイブ
- 国立歴史民俗博物館 特別展資料室
- 学校文化研究フォーラム
- 東アジア身体遊戯辞典
- 昭和児童笑話データベース