行木スポーツクラブ事件
| 作品名 | 行木スポーツクラブ事件 |
|---|---|
| 原題 | Yuki Sports Club Incident |
| 画像 | 行木スポーツクラブ事件の劇場ポスター |
| 画像サイズ | 220px |
| 監督 | 渡辺精二郎 |
| 脚本 | 渡辺精二郎 |
| 原作 | 行木スポーツクラブ事件(アニメ脚色原案) |
| 製作会社 | 南九州フィルムラボ、碧海アニメ工房 |
| 配給 | スタジオ潮風 |
| 公開 | 2009年1月24日 |
『行木スポーツクラブ事件』(ゆき すぽーつくらぶ じけん)は、[[2009年の映画|2009年]]1月24日に公開された[[南九州フィルムラボ]]制作の[[日本]]の[[アニメーション映画]]である。原作・脚本・監督は[[渡辺精二郎]]。興行収入は3.7億円で[[第34回映像綱領賞]]を受賞した[1]。
概要[編集]
『行木スポーツクラブ事件』は、架空の地方都市を舞台とし、地域スポーツクラブにまつわる「帳簿だけが動く」怪異をスポーツ法廷劇として描く作品である。
本作は、原案段階での図面を「1/200スケールの机上回転」で作画していたとされ、同種の作風を持つ作品の中でも、進行役のナレーションがやけに事務的である点が特徴とされた。
監督のは、事件の核心を「誰かが勝ったか負けたか」ではなく、「勝手に勝敗が配線された」というメタファーとして設計したと説明されている。ただし後年、スタッフ間の証言が一致しない箇所もあり、『嘘のような忠実さ』として紹介されることが多い。
あらすじ[編集]
主人公のは、の小さなスポーツクラブ「ユキスポ」に入会する。練習初日、コーチのは「ボールは12個、整備表は48枚、返却は必ず“耳”から数える」と妙な手順を提示し、子どもたちは半信半疑ながら従う。
しかし数週間後、練習が終わっているはずの夜間に、の記録端末だけが更新される事態が発生する。誰が触っていないのに「出席が1名増える」「体力測定の中央値が-0.3kgだけ下がる」といった不可解な変動が続き、さらに「退会届が存在しないのに退会者が増えた」ような矛盾も重なる。
学校と警察は当初、いたずらや集計ミスを疑う。ところが中盤、矢波はクラブの古い手帳に「事件番号:Y-07/行-木-3/会計室」という符号を見つける。その番号は、クラブの会計担当が読めないはずの“体育館の床板の製造ロット”と一致していたとされる。ここで本作は、スポーツの記録が物理環境の癖を拾い上げる装置になっている、という方向へ観客の解釈を誘導する。
終盤、矢波は「勝敗の改ざん」を暴くのではなく、改ざんが改ざんでなく“仕様”であったことを突き止める。事件は、クラブが地域寄付で導入した古い採点システムの互換バグにより、帳簿が自律的に補正されていたことに起因すると説明される。ただし監督は、真相は一つに定まらない形で終わらせており、ラストショットでは体育館の照明が一瞬だけ“平手打ちのように点滅”する演出が強調される。
登場人物[編集]
主要人物(主要人物/その他)は次のとおりである。
は、勝敗に興味が薄いまま、数字のズレを「誰かの癖」だと感じ取る視点人物として設計されている。作中では、彼女が記録用紙の端を折る動作だけで緊張度を表現する演出があり、配給側の宣伝でも「事務の動きがホラーになる」と煽られた。
は、クラブの顔役であると同時に、古い規約の文言を呪文のように読み上げる人物として描かれる。彼は終盤まで“正しいことをしている”態度を崩さず、観客が最初に信じやすいタイプの加害者像として配置されたと説明される。
は、会計担当であり、帳簿が勝手に埋まる現象を「会計が先に走る」と表現する。そのため、彼のセリフは統計用語と宗教用語が接続される独特の響きを持ち、批評家の一部からは「簿記の詩性」と評された。
声の出演またはキャスト[編集]
声の出演(キャスト)は、以下の通りである。
役はが務めた。ユイナは録音時、台本の“はず”を意図的に2行だけ外して読んだとされるが、完成版ではズレがほとんど聞こえない。その点が「誤差が映画の恐怖になる」として話題となった。
役はが担当した。彼は収録で、練習メニューの読み上げを時計の秒針のテンポに合わせたとされ、声だけで時間が歪むような効果が演出に取り入れられた。
役にはが配されている。天草は、数字を読む速度を変えずに感情だけを揺らす演技を行ったとされ、観客が「数字が嘘をつく」感触を掴みやすい構成となった。
スタッフ[編集]
スタッフ(映像制作/製作委員会)は、以下の通りである。
映像制作はが担当した。撮影は、実在のの倉庫照明を参考にした“高い湿度を想定したライティング”が採用され、陰影がわずかに滲むような彩色が行われたとされる。
脚本は監督のが単独で担い、特に終盤の「床板ロット一致」のくだりは、実在の工場アーカイブ資料を“見たことがある体”で再現するよう指示されたと報じられた。
音楽はが作曲し、打楽器中心のリズムに、事務コピー機の擬音(CV)を同期させる試みが取り入れられた。なお主題歌は、名義の架空バンド「ユメ帳団」が歌う『金額は泣かない』である。
製作[編集]
製作(企画/制作過程/美術/CG・彩色・撮影/音楽/主題歌/着想の源)については、複数の証言が異なる。
企画は2006年、地方紙の夕刊連載「町の数字が踊った日」を巡って始まったとされる。編集者の一人であるは、連載の取材メモに「スポーツクラブの台帳が勝手に更新される」趣旨の記事があったと語ったが、当時の紙面そのものが確認できないという指摘がある。
美術では、の床の反射率を実測した設定が入れられ、床材の反射率は「おおむね37.2%」と作中でも明示された。さらに出席簿のページ数は「全72ページ、内訳は幼年30/少年24/一般18」と細かく定められており、矢波がめくるたびに“ページの角が音を変える”演出が採用された。
特殊技術としては、帳簿の文字だけにわずかな形状揺れを導入するCGが使われた。監督はこの揺れを「人間のための誤差」ではなく「機械が機械を疑う揺れ」と呼んだとされ、完成後に社内で唯一、異論を唱えたのはVFX担当だったと伝えられている。
一方で着想の源としては、昔ながらのスポーツ用品店が残した見積書の端数計算が“祈り”のようだったという話も紹介され、数字が感情に寄り添う構造が形成された。
興行[編集]
興行(宣伝/封切り/再上映/テレビ放送・ホームメディア/海外での公開)では、公開時の反応が大きく分かれた。
公開初週はの全国ミニ配給で、上映館は合計41館とされた。宣伝はキャッチコピー「記録は、嘘の形をしている。」が中心で、ポスターではの地図に赤い矢印が7本だけ引かれていたという。赤矢印の数が“七不思議”として一部で再解釈され、SNS上で熱狂的に拡散した。
封切り2週目に売上が落ちたとされるが、これは競合映画の影響ではなく、視聴者が真相を推測しすぎて「2時間で答えが出ない」点が不満視されたためだと説明された。その後、リバイバル上映では再評価が起き、特に終盤の照明点滅シーンの考察が増えた。
ホームメディアでは、DVDに“文字ゆれ補正”の副音声を収録したため、通常版とは色調の見え方が異なるとして話題になった。海外公開はオーストラリアの配給網を通じて行われ、英語字幕では「会計が先に走る」という比喩が直訳されず、やや不自然な文体になったことが批評に繋がった。
反響[編集]
反響(批評/受賞・ノミネート/賞歴・ノミネート歴/売上記録)では、受賞と混乱の両面が語られた。
第34回映像綱領賞では、技術部門で最優秀を受賞したとされる。受賞理由は「帳簿の文字を物として扱う演出が、スポーツ映画の文法を拡張したため」とまとめられた。もっとも、同賞の選考過程については、審査員の一人が“練習の枚数”に異常なこだわりを見せたとの噂もある。
批評では、の寄稿が「ホラー寄りのスポーツドラマ」と位置づけた一方、別の論考では「結局、出席簿の誤差を恐れているだけ」との冷静な評価も見られた。また、数字の設定が細かすぎるため「作り話の誠実さ」が逆に“嘘の匂い”として感じられるという指摘もあった。
売上記録としては、累計興行収入が3.7億円、配給収入が約1.9億円とされる。ただし会計担当の監修データが途中で修正された可能性があるとされ、要出典の注記が付けられた箇所がある。
テレビ放送[編集]
テレビ放送では、地上波での初回放送に“学校行事向けに編集した特別版”が存在したと報じられた。
特別版では、のシーンのうち、帳簿の文字が“読めない角度”で映る部分が、簡易字幕を追加する形で補われたとされる。視聴率は関東圏で11.8%を記録したと公式資料では説明されたが[注釈要確認]、同時期の競合枠の放送時間との整合性が十分ではないとする指摘もある。
また放送局はで、通常版とは別のカラーグレーディングが施されたとされ、画面の青みが強いことから「嘘に寄り添う色」として一部で評された。
関連商品[編集]
関連商品(作品本編に関するもの/派生作品)は複数発売された。
まず『行木スポーツクラブ事件 記録用紙ファイル』(非売品)が地域の上映館で配布された。用紙には本作の架空ルールが印刷され、合計72ページの内訳を再現した“復刻冊子”であるとされた。
次に、サウンドトラック『金額は泣かない - Score』がリリースされた。収録曲には「耳から数える(試合前)」「コピー機の祈り」「床板反射率37.2%」などタイトルが付けられ、音源購入者の間で“数字暗記用のBGM”として利用されたという。
さらに、コミカライズ『行木スポーツクラブ事件 -帳簿が走る-』が刊行されたが、原作のラスト解釈が変わっていると批判も出た。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精二郎『『行木スポーツクラブ事件』制作記録(改訂増補版)』南九州フィルムラボ出版, 2010年.
- ^ 菊池文香「夕刊連載と数の怪異—『町の数字が踊った日』再検証」『西山日日新聞研究叢書』第12巻第2号, 西山出版社, 2011年, pp. 44-63.
- ^ 小早川テルマ『音が帳簿になる瞬間』青潮音楽文庫, 2012年, pp. 101-138.
- ^ 佐久間ユイナ『声優ノート:誤差を聞かせる』東京声優学院, 2013年, pp. 67-89.
- ^ 榎戸マサト「読み上げテンポと時間の歪み:収録現場の観察」『アニメ演技学会誌』Vol. 8, 第3号, 2014年, pp. 201-219.
- ^ 白河ソウ「文字ゆれCGの設計原理:VFX担当から見た『嘘の誠実さ』」『日本映像技術年報』第27巻第1号, 2015年, pp. 12-29.
- ^ 天草ケンジ「感情だけを揺らす数字:演技方針の試行」『声と意味の研究』第5巻第4号, 2016年, pp. 77-95.
- ^ 『第34回映像綱領賞 受賞作品一覧』映像綱領賞事務局, 2009年, pp. 3-8.
- ^ S. Taniguchi, “Accounting Horror in Sports Animation: A Case Study of Yuki Sports Club,” Journal of Narrative Engineering, Vol. 4, No. 2, 2010, pp. 55-74.
- ^ M. Thornton, “The Rhythm of Error: Subtitling the Yuki Method,” International Review of Film Adaptation, Vol. 9, No. 1, 2012, pp. 1-21.
外部リンク
- 行木スポーツクラブ事件 公式アーカイブ
- 南九州フィルムラボ 作品データベース
- 第34回映像綱領賞 過去資料室
- スタジオ潮風 リバイバル上映情報
- ユメ帳団 オフィシャルページ