『逆賊足利高氏を討て!』
| タイトル | 逆賊足利高氏を討て! |
|---|---|
| ジャンル | 歴史活劇、戦記、学園陰謀 |
| 作者 | 桐生一馬 |
| 出版社 | 鳳凰社 |
| 掲載誌 | 月刊カゲロウ |
| レーベル | カゲロウコミックス |
| 連載期間 | 2009年4月 - 2016年11月 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全147話 |
『逆賊足利高氏を討て!』(ぎゃくぞくあしかがたかうじをうて)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『逆賊足利高氏を討て!』は、末期の政変を下敷きにしつつ、の高校生たちが“史料改竄部”として歴史を修正していくという構成を採った漫画作品である。史実をなぞるようでいて、実際にはの地下に存在する「文書改竄院」との量子門をめぐる陰謀が中核となっており、歴史漫画と、さらには学園ドラマを接続した異色作として知られている[1]。
連載開始当初は中世史ブームに便乗した企画と見られていたが、途中からが“逆賊”と呼ばれた理由を、朝廷・寺社勢力・天文観測組織の三重構造で説明する独自設定が明らかになり、読者の支持を拡大した。なお、単行本第7巻以降では毎話の扉絵に「史料監修:古川芙蓉」と明記されていたが、同名の人物の実在は確認されていないとされる[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともとの背景美術を担当していた人物であり、の『月刊カゲロウ』新人賞において「南北朝時代の足利家文書を読む少年」を題材にした短編『灰の朝廷』で佳作を受賞した。その後、編集部から「逆賊」という強い語感を前面に出すよう要請され、題名は当初の『高氏討伐記』から現在の形へ変更されたとされる[3]。
制作会議では、の編集長・三谷堂真一が「戦記漫画にしては会議シーンが多すぎる」と苦言を呈したが、結果としてその会議こそが本作の魅力になったという。特にで導入された“朝廷の御前会議をVRで再現する装置”は、当時の読者アンケートで賛否が分かれたものの、後年には「歴史改変ものの転換点」と評されることがある[4]。
あらすじ[編集]
鎌倉崩壊編[編集]
に暮らす高校生・神代蒼は、古書店で見つけた「逆賊足利高氏」を連呼する赤い写本に触れ、のへと飛ばされる。そこで彼は、足利高氏が実は「討たれることで歴史が安定する」存在であることを知り、北条方の忍びたちと協力して、あえて“討伐の失敗”を重ねることになる。第1巻終盤の「大仏切り上げ」の場面は、実際にはの大仏を舞台にしたものではなく、鎌倉幕府が地下に築いた電波防壁を指していたという設定である。
文書改竄院編[編集]
物語中盤では、の地下三層に存在するの存在が明かされる。同院は歴代の公家・僧侶・算術師が協働して歴史書を編集する秘密組織であり、毎月29日にのみ開く「逆写本棚」が物語の鍵を握る。蒼はここで、足利高氏を逆賊とする記述が成立以前から準備されていたことを知り、1話につき3回以上ある“史料の書き換え”を阻止しなければならなくなる。
天文決戦編[編集]
終盤のでは、の観測塔から放たれる光束が、過去と未来の天体位置をずらし、の命運を左右していたことが判明する。ここで登場する天文官・久世連太郎は、星の動きから政権交代を予測する「政星術」の使い手であり、彼の計算にはの誤差が許されない。最終回では、蒼が「討て!」の一語を書き換え、「討たれるな!」に改竄することで時代が一瞬だけ分岐するが、その結末は単行本加筆で再び曖昧にされた。
登場人物[編集]
神代蒼は本作の主人公で、の文芸部員である。歴史に無関心であったが、写本の呪縛により、結果的にの専門家も舌を巻く速度で史料を読み解くようになる。
足利高氏は“逆賊”として描かれる一方、作中では最も礼儀正しい人物として扱われる。戦場でも必ず敵に名乗りを上げ、矢を受ける直前に礼を尽くすため、「逆賊なのに武士道が過剰」と評されている。
久世連太郎は所属の天文官で、眼鏡のレンズに星図を彫り込んでいる。彼の初登場時には、の上で湯豆腐を食べながら暦を修正するという異様な演出があり、読者人気投票では3位に入った[5]。
また、北条沙也加、三谷堂真一、写本童子・イロハなど、各陣営の人物像はやけに細かく設定されている。特にイロハは実年齢が不明で、作中で「書物の余白から生まれた存在」と説明されるが、単行本8巻の設定資料では誕生日がと記載されており、編集部が途中で設定を足した形跡がある。
用語・世界観[編集]
本作の世界では、歴史書は固定された記録ではなく、「書き込み」で常に揺らぐものとされる。これを支えるのがという概念で、重要事件の周辺半径以内では、紙と墨が微弱に反応し、記述者の感情がそのまま年代記に混入するという。
とりわけ有名なのが「逆札(ぎゃくさつ)」である。これは討伐対象に向けて掲げる札ではなく、対象が“討たれない”ことを証明するための行政文書で、作中ではの公文書館に36枚しか現存しないとされる。この設定が後にファンの考察を加速させ、実在しない文書をめぐる収集家まで現れた。
なお、ファンの間では「高氏は本当に逆賊だったのか」という議論が長く続いたが、作中後半で「逆賊とは国家に逆らう者ではなく、国家を成立させてしまう者の総称」であると再定義され、作品全体の意味が反転する構造になっている。
書誌情報[編集]
単行本はより刊行され、初版帯には毎巻異なる「討て!」の書体が採用された。第1巻から第6巻までは戦記色が強く、第7巻以降は改竄院編に合わせて解説ページが増補され、各巻末に「史料注」と称する8〜12頁の小冊子が付属した。
また、刊行の特装版第9巻には、作中の写本を模した三方金装丁版が同梱され、定価にもかかわらず初週でを売り上げたとされる。これは同出版社の歴史漫画としては異例の数字であり、書店員の間では「月刊カゲロウ棚が一時的に鎌倉時代になる」とまで言われた[6]。
メディア展開[編集]
には制作によるテレビアニメ化が発表され、全24話で放送された。アニメ版では、原作の文書改竄描写が映像化される際に、字幕が毎回わずかに変化する演出が採用され、録画して比較する視聴者が続出した。
さらに『逆賊足利高氏を討て! -改竄の章-』がで上演され、客席上空にプロジェクションされた古文書の文字が、回ごとに2〜3文字ずつ異なることが話題となった。加えて『逆賊足利高氏を討て! 暦の裂け目』も配信され、歴史クイズに正解すると“討伐の余白”を埋められる仕組みが社会現象となった。
一方で、実写映画化の企画も一度進行したが、足利高氏役候補が全員「逆賊」の一言で降板したという噂がある。ただし、この逸話は制作委員会の記録に残っておらず、要出典とされがちである。
反響・評価[編集]
本作は累計発行部数を突破し、の歴史漫画としては珍しく、の家庭教師教材にも引用された。読者からは「史実より先に設定が来る漫画」「足利高氏を一番丁寧に扱っているのに一番ふざけている」といった感想が寄せられた。
批評家のは『文芸時評』で、本作を「歴史の勝者ではなく、脚注の勝者を描いた作品」と評した。また、の一部司書が本作の注釈を実在史料と誤認し、レファレンスの仮受付に持ち込んだという逸話もある[7]。
ただし、後半の時間改変要素については「中盤以降に急に難解になる」「高氏が討たれるか討たれないかで10話分引っ張るのは流石に長い」との批判もあった。それでも最終巻刊行時には全国約で応援フェアが組まれ、表紙が並ぶと赤い写本のように見えることから、“棚が燃えて見える漫画”として記憶された。
脚注[編集]
[1] 作品冒頭の表記は単行本第1巻奥付に基づくとされる。 [2] 古川芙蓉については刊行時の担当編集者の別名義であるという説がある。 [3] 連載前史については作者インタビュー再録集『桐生一馬の墨と星』による。 [4] 第3話のVR装置は読者投稿欄で大きな議論を呼んだ。 [5] 人気投票は公式サイトで3回実施され、久世連太郎はいずれも上位に入った。 [6] 初週売上は出版社発表による。 [7] 国立国会図書館での誤認エピソードは一部ファンブログに由来する。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 三谷堂真一『連載企画の現場から――月刊カゲロウ編集後記』鳳凰社、2017年、pp. 41-58.
- ^ 桐生一馬『逆賊足利高氏を討て! 公式設定集 史料改竄圏の歩き方』鳳凰社、2016年、pp. 12-93.
- ^ 有馬静子「脚注で読む中世活劇」『文芸時評』Vol. 28, No. 4, 2018, pp. 66-71.
- ^ K. Morisawa, "Temporal Annotations in Japanese Historical Comics," Journal of Media Mythology, Vol. 14, No. 2, 2020, pp. 101-124.
- ^ 古川芙蓉『改竄院覚書』月刊カゲロウ特別資料室、2014年、pp. 5-39.
- ^ H. Watanobe, "Ashikaga and the Ethics of Reverse Labels," East Asian Narrative Studies, Vol. 9, No. 1, 2019, pp. 77-88.
- ^ 桐生一馬・三谷堂真一『桐生一馬の墨と星』鳳凰社、2015年、pp. 3-27.
- ^ 佐倉みどり「アニメ字幕が毎回変わるという事件」『映像文化研究』第12巻第3号、2016年、pp. 14-29.
- ^ M. A. Thornton, "The Cathedral Beneath Kyoto: Fictional Archives and Public Memory," Archive Quarterly, Vol. 22, No. 7, 2021, pp. 211-230.
- ^ 加藤鉄舟『逆賊高氏論の再検討』南都史料出版社、2018年、pp. 9-64.
外部リンク
- 月刊カゲロウ公式アーカイブ
- 鳳凰社作品紹介ページ
- 逆賊足利高氏を討て! データベース
- 日本改竄史研究会
- アニメ版『逆賊足利高氏を討て!』特設サイト