金玉の皮ウイングスーツ飛行
| 読み | きんぎょくのかわういんぐすーつひこう |
|---|---|
| 発生国 | 日本 |
| 発生年 | 1912年(公式記録では1913年説もある) |
| 創始者 | 小樽港の見習い整備士 斎藤 鉄次郎 |
| 競技形式 | 低高度滑翔+タッチタイム制 |
| 主要技術 | 皮膜ストラット・トリム(角度制御) |
| オリンピック | オリンピック正式競技(暫定採用) |
金玉の皮ウイングスーツ飛行(きんぎょくのかわういんぐすーつひこう、英: Jingyoku-no-Kawa Wing Suit Flight)は、で生まれたのスポーツ競技である[1]。
概要[編集]
金玉の皮ウイングスーツ飛行は、滑走路ではなくを模した専用コースにおいて、競技者がを身につけ、低高度で一定区間を通過しつつ指定点へのタッチを競う競技である[1]。
「金玉の皮」という呼称は、競技名としては露骨であるが、実際にはスーツの補助骨格に用いられる“皮膜ストラット”の歴史呼称に由来するとされる[2]。この皮膜は現在、動物由来ではなく複合フィルムに置換されているにもかかわらず、競技文化の象徴として名称が温存されている点が特徴である。
また、本競技は安全面の統制が強い。ヘルメット内の呼気センサーが規定値を超えた場合は自動減速が作動し、競技者は「風に勝つ」より「風の条件を読み替える」技術に比重が置かれていると指摘される[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
競技の起源は、後期に小樽で発達した港湾物流の効率化計画に求められるとする説がある[4]。当時、港の測量担当が海面反射の歪みを抑えるため、風向きを疑似的に“固定”する必要に迫られ、軽量な翼状補助具の試作が行われたのである。
その補助具の試作記録を、のちに創始者とされる(小樽港の見習い整備士)が保管していたとされる。斎藤は1912年の強風の日に、倉庫梁から落下した作業用の皮膜付き補助材が、海面上で一度だけ見事に跳ねた瞬間を目撃したと伝わる[5]。ただし、この“見事に”が競技化の直接契機になったかは資料が乏しいため、要出典とされることも多い。
いずれにせよ、斎藤のグループは1913年、海岸線沿いに全長412mの実験帯を整備し、通過時間と再現性を採点する簡易大会を開いた。これが「金玉の皮ウイングスーツ飛行」の語感が最初に書き残された出来事だとされる[6]。
国際的普及[編集]
国際的普及は、第一次世界大戦期に各国の気象観測が増強されたことと結びつくとされる[7]。特に、海岸線の風を読む訓練法として“滑翔姿勢を数秒維持する”練習が注目され、旧大陸のクラブが小樽の型を模倣したのである。
1920年代にはの沿岸気象クラブが、海岸コースにおけるタッチ点を導入し、現在の得点様式の原型となったとされる[8]。また、1949年にの前身にあたる海空スポーツ調整会議が開いた試合では、当時の規定として「風速が7m/s未満のときは飛行距離加点を抑える」など、やけに細かい運用が議論されたと記録される[9]。
その後、競技はやにも移植され、現地の風土に合わせて“皮膜ストラット”の曲げ硬度が調整された。結果として、同じウイングスーツでも沈み込み角の好みが国別に分かれ、国際大会では「同一設計のはずが違う」ことが戦術上の混乱要因として語られることとなった[10]。
ルール[編集]
試合場は、砂地に海岸線を模した(全長300〜450m)と、左右に補助風向矯正の“帆柱”(高さ4.2m、間隔27m)が設けられる構造である[11]。
試合時間は原則として、1選手あたりのフライト枠が与えられ、その中で指定点へのタッチを最大3回まで試みる形式とされる[12]。タッチは手袋またはウイングスーツ先端のいずれかで可だが、審判が「タッチ面積」を測定し、0.5cm²未満の接触は“すれ”として無効になるなど、細部に基づくとされる運用がある[13]。
勝敗は、(1)タッチ点通過の合計得点、(2)未到達ペナルティ、(3)減速機構の作動回数によって決められる。なお減速機構は安全のための自動制御であるが、競技者は“作動させない”ことが上級技術として扱われる。一部では「安全装置に競技のドラマが寄っている」と批判もあるが、オリンピック委員会側は「オリンピック正式競技」であることを理由に規定の固定を推進したとされる[14]。
技術体系[編集]
金玉の皮ウイングスーツ飛行においては、飛行の成否が(ウイングスーツの迎え角)との一致度で評価されるとされる[15]。
技術体系は大きく「静的制御」「動的補償」「風読み反転」の三系統で整理されることが多い。静的制御は、離脱直後の0.8秒間に角度を固定し、以後は姿勢保持に徹する方式である。一方、動的補償は、風の乱れが来たときに胸部パッドの圧力を0.12秒単位で変えてたわみを戻す。
風読み反転は最も難度が高いとされ、測定した風速変動の周期に合わせて“逆に沈む”ことで安定を得ると説明されることがある。なお、この方法が実際に有効かは論争があるものの、審判講習の資料では「成功例のログはVol.3に掲載」と明記されている[16]。
用具[編集]
用具の中心は、競技者の胴体に装着するである。スーツは外装フィルム、内装補助帆、そして皮膜ストラットを束ねるトーションベルトから構成される[17]。
皮膜ストラットは、かつての呼称に結びつく“皮”という比喩に由来するとされるが、現在は紫外線に強い複合材で製造され、温度18〜24℃の範囲で最大弾性が出るよう設計されるのが一般的である[18]。また、競技者の安全確保のため、ヘルメットには呼気センサーが搭載され、規定値を超えた場合は自動で“滑翔モード”へ移行する。
このほか、手袋には0.7mmの柔軟層があり、タッチ面積を稼ぐための粗面加工が認められている。なお、粗面加工の許容範囲は、規定書で「平均粗さRaが2.0〜2.6μm」と記されるなど、妙に理科っぽい数値が採用されている[19]。
主な大会[編集]
主な大会としては、毎年7月にで開催される「海岸帯記録戦」が最も歴史が長いとされる[20]。この大会は、同じ風条件が揃わないため、競技者は“再現性”で順位を狙う必要がある。
次いで、秋の「環太平洋低高度杯」が国際的に注目される。参加国は年によって変動するが、過去10回の出場国数が18前後で推移したと報告されることがある[21]。また、予選は風速計測に基づき、主滑翔帯の帆柱角度を事前に設定する方式が採られる。
さらに、冬季の「白夜タッチマラソン」では、タッチ点が視界に影響されないよう高反射素材が用いられ、競技者の視覚戦略が評価されるとされる[22]。この大会は危険性が高いとして観客席を遠ざける運用が追加されているが、ファンの間では“熱いローカル競技”として語り継がれる。
競技団体[編集]
競技団体としては、国際的な統括である(IFASF)が知られる。同連盟は規定の調整、用具承認、審判認定を担当し、特に皮膜ストラットの材質規定を巡って年次改訂を行うことで知られている[23]。
国内ではが小樽の海岸帯整備を支援し、練習環境の固定に注力してきたとされる。なお、団体の公式資料では、協会の前身が港湾労働者の安全講習を兼ねていた旨が記されているが、詳細は公開されていない。
一方で、選手の健康管理を担う民間の計測ネットワークが並走し、競技者の呼気ログを解析して“安全装置の誤作動リスク”を早期発見するサービスを提供していると報じられたことがある[24]。この連携が功を奏した例として、ある大会で減速機構の誤作動が前年比で13.4%減少したとされる報告がある[25]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 斎藤鉄次郎『海岸帯記録戦覚書』小樽港整備局, 1926年.
- ^ Jean Lenoir『Low-Altitude Wing-Suit Scoring』Revue d’Aéroterrestre, Vol.12, No.4, pp.41-63, 1931年.
- ^ 佐倉光彦『呼気センサーと競技安全の相関』日本スポーツ工学会誌, 第7巻第2号, pp.77-92, 1978年.
- ^ 山田澄夫『皮膜ストラット規格史:Ra値から見る競技進化』滑空用具研究, Vol.3, No.1, pp.10-28, 1986年.
- ^ Klaus Weidemann『International Standardization of Coastal Wind Courses』Proceedings of the Air-Sea Association, Vol.8, No.9, pp.201-219, 1955年.
- ^ 岡本玲子『海岸線風読み反転技術の評価ログ』スポーツ計測年報, 第19巻, pp.55-83, 2004年.
- ^ International Federation of Air-Sea Sports『IFASF 裁定規則(試作版)』IFASF出版部, 1969年.
- ^ 藤原健次『白夜タッチマラソン運営記録と観客動線』北海道冬季競技研究会報, 第2巻第6号, pp.1-18, 1999年.
- ^ Marta Gómez『The Periodicity Myth in Wing-Suit Aerodynamics』Revista de Ciencias del Deporte Aéreo, Vol.24, No.3, pp.99-133, 2012年.
- ^ 大西真理『オリンピック正式競技への道程:金玉の皮ウイングスーツ飛行の場合』嘘っぽいスポーツ史叢書, 2020年.
外部リンク
- 小樽海岸帯アーカイブ
- IFASF 裁定規則ポータル
- 皮膜ストラット材質データバンク
- トリム角シミュレータ研究室
- 白夜タッチマラソン観戦ガイド