陰部モザイクの三原色
| 名称 | 陰部モザイクの三原色 |
|---|---|
| 読み | いんぶモザイクのさんげんしょく |
| 分類 | インターネット文化、視覚編集慣習 |
| 発祥 | 日本の匿名掲示板文化 |
| 成立時期 | 1998年頃 |
| 主な活動媒体 | 動画投稿サイト、同人頒布、画像掲示板 |
| 関連用語 | モザイク美学、色域圧縮、三原色ヤー |
| 象徴色 | 赤・青・黄 |
陰部モザイクの三原色(いんぶモザイクのさんげんしょく)は、画像・動画において陰部を隠すモザイク処理を、特定の3色運用で体系化した和製英語・造語である。これを意図的に用いて視覚的な印象操作を行う人を三原色ヤーと呼ぶ[1]。
概要[編集]
陰部モザイクの三原色とは、陰部を隠すモザイク処理を単なる秘匿技術ではなく、赤・青・黄の3色による視覚演出として扱うネット文化上の概念を指す。明確な定義は確立されておらず、主としてから内外の画像掲示板、そしてや周辺の同人頒布文化のなかで語られるようになったとされる[2]。
この用語は、もともと編集ソフトの色調整機能を極端に使った際の副作用から生まれたとされ、のちに「隠すこと」と「見せないようで見せること」の境界を遊ぶジャンルとして拡張された。とりわけ、三原色ヤーと呼ばれる愛好者は、モザイクの粒子径よりも配色の均衡を重視するとされ、系の掲示板文化とも結びついて発展した[3]。
一方で、名称の強さに反して実態はかなり曖昧であり、単なる画像加工の癖を誇張して呼んだ俗称にすぎないという見方もある。ただし、以降のインターネットの発達に伴い、特定の色配置を「作法」として共有する小規模なコミュニティが生まれ、サブカルチャーとして独自の語彙を持つまでになった[4]。
定義[編集]
陰部モザイクの三原色は、一般に「陰部を隠すためのモザイクを、赤・青・黄の3色に限定し、色情報そのものを記号化する編集様式」を指すと説明される。なお、単にモザイクの色を派手にするだけでは成立せず、画面全体の彩度、輪郭の崩し方、フレームレートとの整合が重要であるとされる[5]。
この文化を実践する人を三原色ヤーと呼ぶが、これは自称として使われる場合と、周囲から半ば揶揄的に付与される場合がある。三原色ヤーの間では、赤を「告白」、青を「抑制」、黄を「照明」と解釈する符牒が流通していたともいわれるが、体系化された学説というより、フォーラム上の雑談が後付けで神秘化された側面が強い[6]。
また、明確な定義は確立されておらず、地域やコミュニティによっては「3色モザイク」「三色隠し」「RGB秘匿法」などの異称で呼ばれることもある。とくにの一部の同人サークルでは、印刷頒布物において三原色の配置にこだわる傾向があり、これがネット上の定義と相互に影響したとされる。
歴史[編集]
起源[編集]
起源については諸説あるが、もっとも広く知られているのは、にのPCショップ街で配布されたフリー画像補正ソフトの試用版が発端とする説である。このソフトには色チャンネルを個別に固定する不具合があり、偶然、隠蔽部分が赤・青・黄に分解されたまま保存される現象が多発したという[7]。
当時、匿名掲示板の利用者がその画面を「やけに理科っぽい」と評したことから、モザイクの色を三原色へ寄せる遊びが広まったとされる。なお、初期の記録では「三原色」といいながら実際にはマゼンタが混入していた例もあり、厳密さよりも雰囲気が優先されていたことがうかがえる。
年代別の発展[編集]
には、個人サイトや画像掲示板で「見えないのに主張が強いモザイク」として話題となり、特にの同人ソフト即売会で、色調整済みのサンプル画像を頒布する小規模サークルが現れた。2003年頃には、三原色ヤー同士が「第1世代は粒子、第2世代は色、第3世代は輪郭」と分類する独自の年表を作成し、半ば研究会のような体裁をとっていた[8]。
になると、動画編集ソフトの普及により、静止画だけでなく短尺動画にも応用されるようになった。特にのデジタルサークルが行った「1秒以内に3回だけ色相を回す」手法は、当時の掲示板で過剰に持ち上げられ、後に「横浜式三原色」として別流派化したという。
インターネット普及後[編集]
インターネットの発達に伴い、この概念は単なる加工法から、メタ的な自己言及文化へと変化した。SNSでは、実際の画像を示さず「今日は黄が強い」「赤が勝ちすぎている」といった抽象的な実況が行われ、三原色ヤー同士の暗号的会話が発達した[9]。
以降は、動画配信サイトの規約強化により直接的な実践は減少したが、そのかわりサムネイル文化やサイバー風MVの中に「三原色モザイク風」の演出が残った。さらにには、AI画像生成のぼかし処理を逆手に取り、「生成段階で三原色化する」という新手法が一部で流行したとされるが、これについては要出典とされることが多い[10]。
特性・分類[編集]
陰部モザイクの三原色には、いくつかの代表的な流派がある。第一に、画面占有率を抑えつつ赤青黄を均等配置する「均衡派」、第二に、赤を強調して視線誘導を狙う「赤優勢派」、第三に、黄の面積を最大化して広告バナーのような印象を作る「黄圧派」である[11]。
また、素材の解像度や圧縮率によっても分類が異なり、JPEG圧縮をかけた際に輪郭が虹色に崩れるものは「準三原色」と呼ばれることがある。古参の三原色ヤーのなかには、モザイクの正しさは色数ではなく「見る側が一瞬だけ理科の実験を思い出すか」で決まると主張する者もいた。
この文化の特徴は、秘匿のための処理を、むしろ過剰に意味づける点にある。したがって、同じ画像でも見る人によっては下品な加工、別の人には色彩設計の実験、また別の人にはネットミームとして受け取られるという、解釈の幅広さが支持を集めた。
日本における陰部モザイクの三原色[編集]
日本では、のインターネットカフェ文化と同人誌即売会文化が交差する場所で、早くからこの概念が語られた。特にやのPCサークルでは、モザイク色の違いを「礼儀」「照れ」「開き直り」の3段階として説明する配布資料が見つかったとされる[12]。
また、ではより実用主義的な解釈が強く、三原色は「印刷時に潰れにくい色」として扱われたという。これにより、関西圏ではモザイクの美学よりも再現性が重視され、同じ三原色でも紙面と液晶で別物になるという問題が頻繁に議論された。
日本の三原色ヤーは、しばしばネット文化の職人として描かれる。彼らは色相環に異常な執念を示し、RGB値をメモ帳に書き残して共有したり、特定のモザイク角度を「見切れ角」と呼んだりした。なお、系の外郭団体が2009年頃に行ったとされる聞き取り調査では、「本人たちは深刻だが、他人から見ると完全に変なこだわり」であるとの回答が多かったという。
世界各国での展開[編集]
海外では、この概念は日本独自の編集文化として紹介されることが多かったが、実際には各国で似たような「色による隠蔽美学」が存在した。韓国では、動画圧縮の粗さを逆に利用する「3-tone censoring」が一部フォーラムで流行し、米国ではのZine文化の影響下で、三原色を抽象芸術として再解釈する動きが見られた[13]。
ヨーロッパではのアンダーグラウンド映像作家が、検閲回避のためのモザイクを「カラーブロック・リチュアル」と呼び、展示作品の一部として取り込んだ例がある。ただし、これは日本語圏の三原色ヤーとは思想が異なり、実務よりもコンセプトアート寄りであった。
興味深いことに、の一部オンラインコミュニティでは、赤・青・黄に加えて緑を入れる「四原色化運動」が起こったが、三原色という語感に比べて覚えにくいとして短命に終わった。これについては、当時の投稿ログが残っているものの、保存媒体の劣化が激しく、真偽の確認が難しいとされている。
陰部モザイクの三原色を取り巻く問題[編集]
この文化をめぐっては、著作権と表現規制の境界がしばしば問題となった。三原色の配色そのものに創作性があるのか、それとも単なる加工処理なのかについて、を模した匿名掲示板上の議論が盛り上がり、結果として「色の順番に権利はあるが、順番の気分にはない」という妙な理解が定着したとされる[14]。
また、表現規制の観点からは、各種プラットフォームの自動判定が三原色を過剰検知し、無関係な図版や果物の写真までモザイク扱いにする誤作動が問題になった。とくに頃には、赤・青・黄の信号機画像がまとめて削除される事案が相次ぎ、三原色ヤーたちは「ついに信号まで検閲された」と半ば誇らしげに語ったという[15]。
さらに、同人頒布の場では、色彩のこだわりが先鋭化するあまり、元の作品内容よりもモザイクの階調ばかりが注目される傾向があった。これに対して一部の作者は、三原色モザイクを「内容を隠すための技法ではなく、むしろ作品そのもの」と主張し、サブカルチャーとしての自立を図ったが、その主張は概ね真顔で受け流された。
脚注[編集]
[1] 井上和也『匿名掲示板と色彩隠蔽文化』電脳新書、2014年、pp. 41-58。 [2] 佐伯真理子「1990年代末の画像加工語彙に関する一考察」『ネット文化研究』Vol. 12, No. 3, 2019年, pp. 113-129。 [3] Michael R. Hensley, “Primary Colors and Online Censor Aesthetics,” Journal of Digital Folklore, Vol. 7, No. 2, 2021, pp. 22-39. [4] 高橋悠人『インターネットと三色の匿名性』北星出版社、2022年、pp. 7-19。 [5] 山根千尋「モザイク粒子径と視線誘導の相関」『視覚情報学会誌』第18巻第1号、2018年、pp. 5-21。 [6] Martin E. Koenig, “Three-Color Obfuscation as Vernacular Code,” Media Anthropology Quarterly, Vol. 9, No. 4, 2020, pp. 77-94。 [7] 『新宿ソフトウェア街の記録 1997-1999』新都区産業資料室、2001年、pp. 201-208。 [8] 木下優『同人ソフトと配色の政治学』蒼林館、2010年、pp. 88-104。 [9] 河合朋子「SNSにおける色彩実況の発話形式」『現代言語文化』第15巻第2号、2021年、pp. 66-81。 [10] “AI-Generated Censor Blocks and Their Unstable Palettes,” Screen Studies Review, Vol. 3, No. 1, 2024, pp. 3-17。 [11] 佐藤礼二郎『モザイクの分類学』港湾社、2016年、pp. 145-162。 [12] 中村直樹『池袋・中野サブカル史』都心書房、2011年、pp. 233-240。 [13] Claire Dubois, “Exported Obfuscation and the Aesthetics of Three Tones,” European Journal of Net Studies, Vol. 5, No. 2, 2018, pp. 51-68。 [14] 『匿名判例集・第7版』私設ネット法研究会、2020年、pp. 309-312。 [15] “Signal Lights as False Positives,” Platform Moderation Bulletin, Vol. 11, No. 6, 2017, pp. 9-12。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 井上和也『匿名掲示板と色彩隠蔽文化』電脳新書、2014年。
- ^ 佐伯真理子「1990年代末の画像加工語彙に関する一考察」『ネット文化研究』Vol. 12, No. 3, 2019年, pp. 113-129.
- ^ Michael R. Hensley, “Primary Colors and Online Censor Aesthetics,” Journal of Digital Folklore, Vol. 7, No. 2, 2021, pp. 22-39.
- ^ 高橋悠人『インターネットと三色の匿名性』北星出版社、2022年。
- ^ 山根千尋「モザイク粒子径と視線誘導の相関」『視覚情報学会誌』第18巻第1号、2018年、pp. 5-21。
- ^ Martin E. Koenig, “Three-Color Obfuscation as Vernacular Code,” Media Anthropology Quarterly, Vol. 9, No. 4, 2020, pp. 77-94.
- ^ 木下優『同人ソフトと配色の政治学』蒼林館、2010年。
- ^ 河合朋子「SNSにおける色彩実況の発話形式」『現代言語文化』第15巻第2号、2021年、pp. 66-81.
- ^ Claire Dubois, “Exported Obfuscation and the Aesthetics of Three Tones,” European Journal of Net Studies, Vol. 5, No. 2, 2018, pp. 51-68.
- ^ 『匿名判例集・第7版』私設ネット法研究会、2020年。
- ^ “Signal Lights as False Positives,” Platform Moderation Bulletin, Vol. 11, No. 6, 2017, pp. 9-12.
外部リンク
- 電脳三色文化アーカイブ
- 匿名掲示板資料室
- モザイク美学研究会
- 同人配色年表データベース
- ネット検閲観測所