面白開発野郎
| 別名 | おもしろ開発、開発芸人、試作屋 |
|---|---|
| 起源 | 1987年ごろの秋葉原電子街説が有力 |
| 活動領域 | ソフトウェア、家電、同人ハード、業務改善 |
| 特徴 | 短時間試作、強引な命名、過剰なデモ |
| 象徴的手法 | 会議中の紙プロトタイプ作成 |
| 関連組織 | 電脳試作研究会、東都技術振興協議会 |
| 流行地域 | 関東圏、特に千代田区・中野区 |
| 代表的事件 | 1994年の“午後三時の機能追加騒動” |
| 社会的評価 | 有用だが会議が長い |
| 備考 | 要出典とされる逸話が多い |
面白開発野郎(おもしろかいはつやろう)は、のにおいて、仕様書よりも先に雑談と試作品を量産する人物像、またはそのような人物を中心に生まれた半ば伝説的な開発文化を指す語である。一般には後半の周辺で広まったとされるが、その起源には異説が多い[1]。
概要[編集]
面白開発野郎とは、単にふざけた開発者を指す語ではなく、実用性と見世物性を同時に追求する開発態度を意味するとされる。しばしば、さらにはの即応文化と結びつけて語られるが、厳密な定義は学者の間でも一致していない。
この語は、完成品の品質よりも「会議室で笑いが起こること」を重視した一群の技術者を指して用いられたという説があり、のちにの周縁概念として整理された。もっとも、当時の記録は断片的であり、の議事録にも同様の表現は確認されていないとされる[2]。
起源[編集]
秋葉原試作説[編集]
もっとも有力とされるのは、頃ので、電子工作愛好家のが名刺に「面白開発担当」と書いたことに始まるという説である。佐伯は近くの部品店で、わずかで音声合成ボードを改造し、店頭で店員の名前を呼ぶデモを行ったと伝えられる。
この一件が評判を呼び、同好の士が自称として「野郎」を付け加えた結果、「面白開発野郎」というやや乱暴な呼称が定着したとされる。ただし、当時の写真には単に「開発班」と書かれた紙しか写っておらず、名称の成立過程には後世の脚色が多い[3]。
業務改善部からの流入[編集]
別の説では、の中堅商社に存在したの内輪文化が起点であるという。室長のは、稟議の代わりに段ボールと付箋で装置を組み上げることで知られ、部下が「面白いが予算は通らない」と評したことから、半ば揶揄としてこの語が用いられた。
同室ではからまでに試作機が作られ、そのうち実際に製品化されたのはのみであった。しかし残りの試作機が、社内見本市で異常に受けたため、取締役会が「面白さのKPI」を設けたという逸話が残る。
特徴[編集]
面白開発野郎の第一の特徴は、要件定義より先に動くことである。一般的な開発者が仕様書の整備にを費やすところを、彼らはで段ボール模型と擬似UIを作り、あとは周囲を巻き込んで逃げ切る傾向があるとされる。
第二の特徴は、命名に無駄な気合が入る点である。たとえば社内ツールに「伝票くんEX」や「逆算君Mk-II」のような名称を付け、会議の空気を無理やり軽くすることがある。また、発表資料のにだけ妙に詳細なコスト計算があり、そこだけは妙に真面目であると指摘されている。
第三に、デモの成功率が低いにもかかわらず、失敗自体が「現場の学び」として消費される傾向がある。ある調査では、彼らのデモ成功率は、しかし社内評価で「また見たい」と回答された比率はだったとされる[4]。
代表的事件[編集]
午後三時の機能追加騒動[編集]
、の受託開発会社で、顧客向け画面に「絵文字で進捗を表示する機能」を実装したことが問題になった事件がある。担当者の面白開発野郎は、納品前に突然この機能を追加し、しかも進捗が遅れるほど顔文字が増える仕様にした。
顧客は当初激怒したが、翌週には管理職が「部下の残業状況がひと目でわかる」として評価し、社内標準に採用しようとした。結局、の観点から撤回されたが、この事件は「面白さは時に制度を侵食する」として語り草になった。
プリンタが喋った日[編集]
のにある物流倉庫では、面白開発野郎たちがバーコードプリンタに簡易音声モジュールを接続し、ラベル印刷のたびに「確認せよ」と喋らせた。これにより作業者のミスは減少したが、夜勤帯にだけ音声が妙に演歌調へ変化する不具合が発生した。
後日、原因はスピーカーに貼られた養生テープの共振とされたが、現場では「気合いの入った機械は歌う」と説明された。倉庫のベテランはこの現象を好意的に受け止め、以後この装置を“親方”と呼んだという。
社会的影響[編集]
この語は、2000年代に入るとベンチャー企業や自治体の改善提案制度にも取り込まれ、やの隠語として流通した。特にの一部中小企業では、毎月第2金曜に「面白開発会」が開かれ、失敗した試作を持ち寄って拍手する慣習が生まれたという。
一方で、面白開発野郎を称揚しすぎる風潮に対しては批判もある。計画性の欠如や属人的なノウハウの蓄積が問題視され、の委託研究では「笑いは再現性の代替にならない」と結論づけられた[5]。ただし、同報告書の付録には、評価委員が試作機の押しボタンに夢中になって会議が延長した記録も残っている。
批判と論争[編集]
面白開発野郎に対する最も強い批判は、「面白さ」を言い訳にした仕様逸脱である。とりわけからは、試作と本番の境界が曖昧になりやすく、導入後の保守費用が想定のに膨らむと指摘されてきた。
他方で、擁護派は、こうした人物がいなければ現場の閉塞感が解消されず、結果として組織が硬直化すると主張する。なおのでは、この語がもともと中高年の自嘲から生まれた可能性があると報告されたが、後半の証言がすべて同じ人物の筆跡であったため、信頼性には疑問が残る。
一覧[編集]
初期の代表的人物[編集]
・(1987年)- 秋葉原試作説の中心人物とされる。名刺に「面白開発担当」と刷り込み、初対面の相手にだけボール紙の装置を見せる癖があった。
・(1991年)- 業務改善部の室長。稟議書の代わりに紙模型を持参し、役員会で一度だけ全員を笑わせたことで伝説化した。
・(1992年)- 文字通りの「野郎」ではないが、社内で最初にこの文化を女性的視点から再解釈した人物とされる。付箋だけで勤怠管理装置の設計図を作った。
有名な試作機[編集]
・「伝票くんEX」(1994年)- 伝票の山を色別に鳴き分ける装置。導入初日に警報が鳴り続け、事務室の全員が一度だけ走った。
・「逆算君Mk-II」(1996年)- 納期から逆算してコーヒーの濃さを変えるタイマー。開発者本人が眠れなくなるため、結局は弱め設定しか使われなかった。
・「親方プリンタ」(1998年)- 前述の喋るプリンタ。倉庫内で最も発言が多い機械として一部で尊敬された。
後継文化[編集]
・(2004年)- 失敗作の持ち寄りを目的とした社内イベント。優勝者は拍手ではなく「もう一回見せて」で評価される。
・(2018年)- 事業部の改善提案を二人一組で発表する形式。形式上は研修だが、実態は改善案の再現芸である。
・(2021年)- 画面遷移を紙と磁石だけで説明する会。参加者の半数が本番実装に入る前に満足して帰るという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐藤健吾『面白開発の社会史』東都出版, 2012年.
- ^ Margaret L. Thornton, “Playful Prototyping in Japanese Enterprises,” Journal of Applied Fictional Engineering, Vol. 18, No. 2, 2016, pp. 44-67.
- ^ 宮下俊夫『稟議より先に段ボール』中央技術新聞社, 1997年.
- ^ 高橋美沙『秋葉原と開発芸の成立』千代田学術叢書, 2008年.
- ^ Kenji Arakawa, “The Smile KPI and Its Operational Limits,” Proceedings of the 4th International Conference on Imaginary Management, 2019, pp. 211-219.
- ^ 東都技術史研究会編『面白開発野郎資料集』第3巻第1号, 2013年.
- ^ 中村一郎『試作機が歌うとき』北関東工房社, 2001年.
- ^ H. Watanabe, “Laughing at Failure: The Domestic Adoption of Omoshiro Kaihatsu,” Asian Review of Invented Labor, Vol. 7, No. 1, 2020, pp. 5-29.
- ^ 『開発と笑いの境界線』情報処理幻想協会誌, 第12巻第4号, 2018年, pp. 8-15.
- ^ 鈴木祐介『DX時代の面白さ管理』南洋経済評論社, 2022年.
外部リンク
- 東都技術史アーカイブ
- 秋葉原電子文化研究所
- 面白開発会オーラルヒストリー集
- 開発芸資料室
- 業務改善の民俗学データベース