顕名掲示板
| 名称 | 顕名掲示板 |
|---|---|
| 読み | けんめいけいじばん |
| 英語名 | Real-Name Bulletin Board |
| 分類 | 実名公開型掲示板 |
| 起源 | 1968年頃の自治体広報端末 |
| 発祥地 | 東京都千代田区 |
| 運営形態 | 官民共同・登録制 |
| 代表的機関 | 内閣府情報対話推進室 |
| 普及期 | 1994年 - 2007年 |
| 特徴 | 実名投稿、肩書併記、投書の格付け |
顕名掲示板(けんめいけいじばん、英: Real-Name Bulletin Board)は、投稿者の氏名を原則として公開する形式の掲示板である。匿名性を排した議論空間としての自治体広報実験を起源に発展したとされる[1]。
概要[編集]
顕名掲示板は、投稿者が氏名、所属、連絡先を明示したうえで議論を行う掲示板の総称である。匿名掲示板の対極にある概念として扱われることが多いが、実際には、、企業の内部広報網から派生した制度的な会議記録装置として成立したとされる。
一般には、発言責任を強めることで誹謗中傷を抑制し、同時に投稿の質を上げる目的があると説明される。ただし初期の運用では、実名であることよりも「名札の濃さ」が重視され、名前が濃すぎる投稿ほど上位に表示されるという独特の仕組みが導入されていた[2]。
歴史[編集]
前史[編集]
起源は、の外郭団体が試験運用した「住民意見明示端末」に求められるとされる。当時、の区民ホールに据え付けられた端末には、氏名欄のほかに「本日着用の上着の色」を記入する欄があり、これが後の顕名掲示板の「属性可視化」の思想につながったという。
この装置を監修したは、後年の回想録で「匿名の意見は風のように消えるが、名前のある意見は役所の壁紙に残る」と述べたとされる。ただし同回想録はにで一度しか閲覧されておらず、真偽は定かでない[3]。
商用化と普及[編集]
には、が企業向けの「顕名討議板V-3」を発売し、の中堅広告代理店で先行導入された。ここでは投稿者の氏名に加え、入社年数と机の位置が自動表示され、役員が発言者の社歴に応じて返信の色を変える機能が支持された。
、の外郭研究会が「透明性のある電子世論形成」を掲げて導入補助を行ったことで、大学サークル、労働組合、町内会にまで広がった。特にのある商店街では、顕名掲示板の導入後に「誰が書いたか分かるので、張り紙の端が妙に丁寧になった」と報告されている[4]。
制度化と衰退[編集]
にはが「顕名・半顕名・準顕名」の3段階認証制度を通知し、掲示板の投稿には原則としてに準ずる識別情報が求められた。これにより、投稿は減ったが一件あたりの文字数は増え、平均投稿長はからへ跳ね上がったとされる。
一方で、実名公開の負担から若年層の離脱が進み、頃には一部の掲示板が「匿名のふりをした顕名」へ移行した。これは投稿者名が「A. Tanaka」や「市民C」のように半ば伏せられた形式で、見た目だけは匿名に見えるが管理者には完全実名が見えている仕組みであった。
仕組み[編集]
顕名掲示板の基本構造は、投稿者の実名、所属、投稿理由、責任宣誓の4要素から成る。投稿時には、画面右側に「同窓会での呼ばれ方」「役所での肩書」「町内会での役割」が順に表示され、閲覧者は発言内容と人物像を同時に判断できるよう設計されていた。
また、初期のシステムでは、投稿の末尾に自動付与される「信用印」が重要であった。これは投稿頻度、勤続年数、居住年数、そして近隣住民からの挨拶回数をもとに算出され、版では100点満点中83点以上でないと議論の上段に表示されなかった。なお、挨拶回数の計測は郵便受けに貼られたシールの枚数で代用されていたとする説がある[5]。
社会的影響[編集]
顕名掲示板は、学校、行政、企業の意思決定を「誰が言ったか」で再編した。特に後半の自治会では、反対意見が減ったというより、反対する際にまず菓子折りの相場を確認する文化が生まれたといわれる。
一方で、実名を前提にした運用は、発言の抑制と同時に、投稿文の異様な丁寧化を招いた。句読点の位置が礼儀の指標として扱われ、ある掲示板では「ですます」の連続数が12を超えると管理人が自動で拍手を送る機能まで実装された。社会学者のは、これを「日本的敬語の可視化インターフェース」と呼んでいる[6]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、実名公開が議論の質を高める一方で、同調圧力を増幅させる点にあった。とりわけの内の高校で、顕名掲示板の投稿内容が生徒会役員の人気投票と連動していた件は大きな論争を呼び、以後「掲示板に書いた責任は、卒業アルバムにも残る」と警告する自治体が増えた。
また、掲示板の管理権限を持つ者が匿名でなくとも強い発言力を持つことから、実名制度そのものよりも「管理者が実名かどうか」が問題になった。これは後に「顕名の逆説」と呼ばれ、会議では全員が名乗っているのに、最終的には議長の一存で削除される構造を示す比喩として定着した。
主要な形式[編集]
顕名掲示板にはいくつかの派生形がある。自治体向けの「広報顕名板」は、住民の意見に町内会名が併記される形式で、の一部地域では積雪量が多いほど投稿の敬語が増える傾向が観測された。
大学向けの「講義名乗り板」は、氏名のほか履修年度とゼミ番号を表示するもので、発言が教授への質問というより就職活動の自己紹介に近づくことが特徴である。また、企業向けの「役職可視板」では、部長よりも長い肩書を持つ者ほど文字色が薄くなる独自仕様が採用され、誰も読めないが全員が納得するという状態を作り出した。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『顕名掲示板の思想史』自治広報研究会、1976年.
- ^ 佐伯真理子「実名公開型討議装置における信頼指標」『情報社会学雑誌』Vol.12, No.3, pp. 41-68, 1989年.
- ^ Harold P. Winters, 'Civic Identity and Bulletin Systems', Journal of Urban Interfaces, Vol. 8, No. 2, pp. 113-139, 1992.
- ^ 中村浩一『顕名討議板V-3導入報告書』東都情報機構出版部、1988年.
- ^ Margaret A. Saunders, 'Polite Conflict in Visible-Name Forums', Annals of Social Display, Vol. 5, No. 1, pp. 7-26, 2003.
- ^ 『電子世論形成に関する調査』通商産業省外郭研究会報告、1995年.
- ^ 田所美緒「町内会と掲示責任の変容」『地域コミュニケーション研究』第19巻第4号, pp. 88-102, 2001年.
- ^ Eleanor B. Finch, 'Name, Rank, and Courtesy: A Japanese Model of Forum Regulation', Communications Quarterly, Vol. 21, No. 4, pp. 201-219, 2005.
- ^ 高橋一郎『半顕名化の社会学』国立対話政策研究所、2008年.
- ^ 長谷川怜『壁に残る名前: 顕名掲示板と近代自治』みすず書房、1997年.
外部リンク
- 顕名掲示板アーカイブ協会
- 自治体対話端末博物館
- 顕名文化研究センター
- 実名討議技術保存会
- 市民発言可視化ラボ