飲酒義務化法案
| 題名 | 飲酒義務化法案 |
|---|---|
| 法令番号 | 63年法律第147号 |
| 種類 | 公法 |
| 効力 | 一部施行(地域限定の試験運用を含む) |
| 主な内容 | 条件付きでの飲酒義務、違反時の取扱い、飲酒量の管理制度 |
| 所管 | 厚生労働省 |
| 関連法令 | アルコール適正摂取指導要綱(厚労省告示第◯号)ほか |
| 提出区分 | 議員立法 |
飲酒義務化法案(いんしゅぎむかほうあん、63年法律第147号)は、国民に対し定められた条件下での飲酒を義務付けることを目的とするの法律である[1]。略称は「飲義法」である。所管はが行うものとされる[1]。
概要[編集]
は、いわゆる「眠気の標準化」と「地域連帯の可視化」を趣旨として、一定の時間帯・一定の場所における飲酒を義務を課す法令として制定された。所管はであり、実務は各都道府県の衛生部局に基づき運用されるものとされた。
同法は、乾杯の慣行を制度化し、飲酒量を「健康・交通・連帯」の三軸で管理する枠組みを定める。なお、同法の規定により、飲酒義務を免除される者がある一方で、違反した場合の罰則も具体的に規定される点が特徴である[2]。
構成[編集]
同法は全11章、附則および別表から成るものとされる。とりわけ第2章「義務の発動条件」では、飲酒義務を課す時間帯(後述の「暁刻」)と場所(「連帯居住区画」)を定める構造となっている。
さらに第5章「飲酒量の基準」では、原則として「純アルコール換算で75.0mL±5.0mL」を標準量として運用するとしつつ、季節係数を用いた微調整の規定に基づき適用される。条文は第3条から第9条までを中心に、の規定により、違反した場合の手続と罰則の組合せが詳細化された[3]。
なお、同法の施行にあたっては、政令で細目が定められ、さらに省令・告示・通達を通じて「飲酒記録」の扱いが告知されたとされる。実際の運用では、飲酒義務の履行確認を「音量計連動型体調端末」で行う案が検討されたが、最終的には「地域保健所の窓口スタンプ」が採用されたという証言も残っている[4]。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
同法案の起点は61年に開催された「睡眠負債対策検討会」(会長:渡辺精一郎、当時医療政策局付)に求められるとされる。検討会では、居眠り運転事故の統計を「前夜の飲酒量の分布」で説明しようとした結果、飲酒の“ばらつき”が社会の摩擦になるという議論が優勢となった[5]。
ところが、議員側の草案作成を主導したのは、自由党系の参議院議員・日野鷹臣であり、日野は「連帯は味覚でしか測れない」と述べ、議場で試しに同じ銘柄(後に『三河暁刻ブランデー』として別表に入り込む)を飲んだという逸話がある。この“議場乾杯事件”が、飲酒義務化法案という名に近い政治的合図を与えたとされるが、当時の議事録には要出典相当の空白があるとも言われている[6]。
主な改正[編集]
制定直後の運用は地域差が問題視され、64年の改正では「地域係数」を導入し、寒冷地は標準量を0.85倍、都市部は1.0倍とする整理が行われた[7]。また、未成年・妊産婦・服薬中の例外を明確化するため、第7条のただし書きが増補された。
さらに平成期の改正では、飲酒記録の提出頻度が段階化され、「月1回の申告」と「悪質違反の疑いがある場合の追加提出」の二段階となった。もっとも、改正のたびに“必要量の計算式”が複雑化し、現場では逆に混乱が増えたとする指摘もあり、の趣旨から外れているとして地方議会で質疑が続いた[8]。
主務官庁[編集]
が所管し、法令の運用状況は「飲義法運用年報」として毎年取りまとめられるとされる。各都道府県では、衛生部局の長が所掌し、の規定により保健所の職員が飲酒義務の履行確認に関する手続を担う。
また、同省は政令に基づき、別表に掲げる飲酒対象区分(酒類に限らず、発泡度・アルコール濃度・香味の管理された準拠飲料を含む)を更新する権限を有するとされた。告示や通達で運用の変更が示されるため、現場では「改正の前に同じスタンプを押す儀式だけが先行した」との冗談も広まった[9]。
定義[編集]
同法第1条では、目的として「社会の眠気を均すこと」「地域の連帯を促進すること」が掲げられる。第2条では、飲酒義務の発動条件に関し、次の用語が定義される。
まず「暁刻」とは、午前0時から午前2時までの間における、当該地域の生活活動が最も低いと統計上推定される15分幅の時間帯をいう。次に「連帯居住区画」とは、住居表示に基づき画定され、同一区画内の世帯が互いの“乾杯音”を識別可能とされる範囲をいうとされる。
さらに「標準飲酒量」とは、純アルコール換算で75.0mL±5.0mLとし、季節係数(夏=1.00、冬=1.06、春秋=1.03)を乗じて算出するものとされた。なお、63年法律第147号の別表では、基準飲料の一つとして「三河暁刻ブランデー(アルコール度数37度、樽熟成最低21か月)」が掲げられるが、監査資料には“21か月の理由は未記載”とされる[10]。
罰則[編集]
同法では、飲酒義務を課す規定に違反した場合の取扱いが定められる。第8条では、正当な理由なく暁刻における義務を履行しなかった者は、まず「履行督促」を受けるものとし、その後の不履行について罰則を適用するとされた。
第9条の罰則は段階的であり、の規定により、初回の違反は「拘留7日」または「地域連帯基金への金銭納付(10万円)」のいずれかに該当する場合があるとされる。二回目は「罰金30万円」、三回目以上は「1年以下の懲役」とし、禁止される行為(虚偽の履行申告)も同条に列挙された[11]。
ただし、の規定により、次に掲げる者についてはこの限りでないとされる。すなわち、医師の診断書に基づきアルコール摂取が危険と判断された者、そして服薬相互作用が認められる者が該当するとされる。なお、同法の附則において、免除証明の有効期限は原則90日とされるが、地方によって運用が異なったことが後に問題とされた[12]。
問題点・批判[編集]
同法は“均す”思想が先行し、個別事情を扱う設計が難しかったとして批判された。特に、暁刻の判定が統計推定に基づき行われるため、実際の生活リズムと乖離しやすいとされる。例えば、繁忙な夜勤従事者が「暁刻は過ぎている」と主張しても認められない事例が内で相次いだとされるが、公式には「個別の例外運用は通達による」と説明された[13]。
また、飲酒義務化が“酒による問題”を増やすのではないかという懸念が早期からあった。野党は、飲義法が健康施策というより社会統制であるとの趣旨で追及し、飲酒量の計算式が複雑で現場が追いつかないことを問題視した。
一方で擁護派は、違反した場合の罰則が抑止力になり、地域の「夜の孤立」が減ると主張した。とはいえ、後年の調査では、履行確認スタンプが“晩酌の代わりに睡眠を削る儀式”として機能した地域があることも示唆された。さらに、条文の文言が「乾杯音」に依存する部分があり、無音環境での履行確認について「どうしても沈黙が処罰対象になりかねない」との指摘が出たとされる[14]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 厚生労働省医療政策局『飲酒義務化法案運用年報(昭和六十四年度版)』厚生労働省, 1989.
- ^ 日野鷹臣『暁刻という概念と議場乾杯の社会学』第一調整出版, 1990.
- ^ 渡辺精一郎『睡眠負債対策と飲酒分布の推定(第2報)』日本公衆衛生雑誌, Vol.58 No.3, pp.112-129, 1991.
- ^ Katherine M. Thornton『Harmonizing Social Alertness Through Legal Mandates』Tokyo Journal of Policy Studies, Vol.12 No.1, pp.41-60, 1992.
- ^ 田中しずか『免除証明の実務と不均衡な運用』自治体法務研究, 第9巻第2号, pp.77-95, 2003.
- ^ 日本衛生行政協会『保健所窓口における履行確認の手続統一に関する検討』日本衛生行政協会報, 第15巻第1号, pp.1-18, 2006.
- ^ M. Alvarez『Compliance Metrics and “Toast Sound” Reliability』International Review of Behavioral Regulation, Vol.7 No.4, pp.200-233, 2010.
- ^ 総務省行政評価局『飲義法施行後の行政コスト算定の試算』行政評価資料, pp.35-52, 2012.
- ^ 厚生労働省『アルコール濃度計の告示運用に関する通達集(抜粋)』厚労省告示・通達編集室, 2014.
- ^ 林田卓也『酒は制度になるか—飲酒義務化法案の周辺史』法政策論叢, 第21巻第3号, pp.9-28, 2018.
外部リンク
- 飲義法資料室
- 暁刻判定シミュレーター
- 連帯居住区画ガイド
- 地域連帯基金の会計透明化ページ
- 飲酒記録制度Q&A集