高ハイモニュオティック衝動性
| 分類 | 心理行動学的概念 |
|---|---|
| 提唱 | 小松原 恒一郎 |
| 提唱年 | 1974年 |
| 主な適用分野 | 広告設計、群衆誘導、交通標識、消費者行動 |
| 初期研究拠点 | 東京都立環境行動研究所 |
| 関連尺度 | HIS-12、改訂HIS-28 |
| 主な批判 | 再現性の低さ、命名の過剰さ |
| 俗称 | 高ハイ衝動 |
高ハイモニュオティック衝動性(こうハイモニュオティックしょうどうせい)は、刺激の連続入力に対して一時的に判断機能が過剰補正され、行動選択が急峻に振れやすくなるとされる心理・行動概念である。主に、、の境界領域で用いられ、ので最初に体系化されたとされる[1]。
概要[編集]
高ハイモニュオティック衝動性は、対象が「高密度の選択肢」「短い待機時間」「反復する視覚刺激」の三条件に同時にさらされたとき、本人の意思決定が通常よりも20〜35%ほど鋭く、しかし不安定に跳ねる現象を指す用語である。研究者らはこれを、単なるではなく、過剰な整流作用を伴う準衝動状態として説明してきた。
この概念は、当初はの案内標識改修計画に付随する内部報告書の中で使われた用語であり、後にの小規模研究班によって学術語化されたとされる。もっとも、初期の資料には用語の表記揺れが多く、「ハイモニュオティック」「ハイモニュオート的」「高モニュ衝動」などが混在しており、後年の整理の雑さを示している[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、の地下歩行者通路で実施された「視線分岐試験」にさかのぼるとされる。担当したは、通勤者が赤い案内板を見た直後に自販機へ立ち寄る確率が異常に上昇することに気づき、これを「意思決定の過帯電」と呼んだ[3]。その後、助手のが、通路の床面に反射テープを増やしたところ滞留時間が平均1.8秒短縮されたため、単なる迷いではなく「加速された衝動の反転」と判断したという。
この仮説はの交通局に一度は却下されたが、同年秋にの地下商店街で再検証が行われた際、試験群の62.4%が「目的の店とは別の店に入った」ことから、現象として半ば承認された。なお、この結果は後に「サンプル数が少なすぎる」として批判されている。
学術的定着[編集]
、小松原らは『都市環境と選択の歪み』第3号において「高ハイモニュオティック衝動性」の語を正式採用した。ここでの「高」は強度、「ハイ」は英語由来の強調接頭的な用法、「モニュオティック」は都市のモノトニーと選択圧を混淆させた造語であると説明されたが、語源説明は論者によって大きく異なる[4]。
にはの行動計測班が追試を行い、駅構内のコンビニ密度が1平方キロメートルあたり9店を超えると、被験者の購買予定変更率が急増することを報告した。これにより概念は一時期、でも注目されたが、実務では「売上が読めない」という理由で、むしろ忌避されたという。
制度化と流行[編集]
にはの外郭団体とされたが、HIS-12(Haimoniotic Impulsivity Scale-12)を公開した。尺度は「同じコンビニを3回見たら入店したくなる」「改札を出た直後に戻りたくなる」など、きわめて具体的な12項目で構成されていた[5]。
この尺度は一部の自治体で試験導入され、の地下街では案内音声の間隔を8.5秒から12秒に延長したところ、衝動的寄り道が17%減少したとされる。ただし、同時に迷子率も上昇したため、政策効果としては評価が割れた。
定義と測定[編集]
高ハイモニュオティック衝動性の定義には、少なくとも三つの学派がある。第一は「認知過剰補正説」で、刺激が多いほど脳内で選択抑制が強まり、結果として逆に選択が乱れるとする。第二は「環境反響説」で、歩行者の足音、看板の色、空調の風向きが相互に増幅し、衝動行動を発火させると考える。第三は、当時の一部で唱えられた「地下街宿命説」で、都市の複雑性そのものが人を寄り道へ導くとする、やや詩的な立場である。
測定には改訂HIS-28が用いられることが多い。これは12項目版の欠点を補うため、待機列、店舗配置、照明色、券売機のボタン配置まで点数化したもので、総合値が78点を超えると「高域」と判定された。もっとも、採点者によって結果が最大14点ずれることが知られており、の注記が最も多い分野でもある。
なお、1980年代後半にはの研究グループが、被験者の靴底摩耗率とHIS値の相関を示したと報告したが、後に「靴のメーカー差を無視している」として再評価が求められた。にもかかわらず、この論文は現在も入門文献として引用され続けている。
社会的影響[編集]
高ハイモニュオティック衝動性の概念は、都市空間の設計に一定の影響を与えた。特にの一部駅では、改札周辺の案内板を3色から5色へ増やしたところ、乗客の立ち止まり時間が平均0.9秒増えた一方、売店の菓子類売上が12.7%伸びたため、「衝動誘発型動線設計」として商業的に歓迎された。
また、では、この概念を応用して「選ばせるより先に、選ばせたくさせる」設計が流行した。たとえばの屋外広告で、同一商品を3回以上視認した通行者のうち41%が、当初予定していなかった商品カテゴリーを選んだという社内報告がある。ただし、測定条件が昼夜で混ざっていたため、学術的にはやや信用しづらい。
一方で、学校現場では「校舎内の掲示物が多すぎると児童生徒が無関係な購買や移動を始める」として、掲示枚数の上限を定める自治体も現れた。これにより高ハイモニュオティック衝動性は、学術概念であると同時に、掲示板の整理基準としても生き残った。
批判と論争[編集]
批判の中心は、そもそも概念名が過剰に大きい点にあった。命名当初から「高」「ハイ」「モニュオティック」「衝動性」という四重の強調が重なっており、の心理学者は「名称だけで現象の8割を消費している」と評した[6]。
また、実験の多くが、、に偏っていたため、住宅地や郊外で再現しにくいという問題もあった。1987年の共同研究では、の郊外型モールで再検証した結果、HIS値はほとんど上昇せず、代わりに「家族連れの滞在延長」だけが観測された。これが本当に同じ現象なのかについては、今も意見が分かれる。
さらに、1990年代には一部のマーケティング会社がこの概念を「購買を支配する秘術」のように宣伝し、学会側が強く反発した。小松原自身も晩年、「私はただ、通路が人の意思より少し速く歩くことを言いたかっただけである」と述べたと伝えられるが、この発言は記録媒体が不鮮明である。
主な研究者[編集]
中心人物はである。彼は生まれの都市行動学者で、の職員住宅で育ち、少年期から駅の時刻表と商店街の広告を比較する癖があったとされる。のちにに移り、通路設計と意思決定の関係を20年以上調べた。
共同提唱者とされるは、標識の色彩設計を担当した技術系研究者で、1975年に刊行された内部報告書『案内色の選択圧』の図版をほぼ単独で作成したという。彼女の作成した図4では、青い矢印よりも黄緑の矢印の方が「寄り道誘発係数」が高いとされ、以後、駅構内の色彩設計に影響した。
また、以降はでも類似研究が進み、が「urban impulsivity under dense cue fields」という概念を発表した。これが高ハイモニュオティック衝動性の国際展開とされるが、原文を読むとかなり別物である。
脚注[編集]
[1] 1974年の初出論文では「High Haimoniotic Impulsivity」という英題が併記されたとされる。 [2] 1970年代の内部文書には誤植が多く、同一報告書内で表記が5種類確認されたとされる。 [3] 小松原の回想録によれば、試験は雨天時に限って数値が跳ねたという。 [4] 『都市環境と選択の歪み』第3号は現存部数が少なく、引用箇所の確認が難しい。 [5] HIS-12の採点表は配布版と研究者控えで設問順が異なる。 [6] 榊原俊介の発言は講演録のみで確認されている。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 小松原 恒一郎『都市環境と選択の歪み 第3号』東京都立環境行動研究所, 1974.
- ^ 飯島 由紀子『案内色の選択圧』生活選択安定研究会, 1975.
- ^ 榊原 俊介『地下街における衝動と遅延』日本行動学会誌 第18巻第2号, 1978, pp. 41-66.
- ^ K. Komatsubara, Y. Iijima, 'High Haimoniotic Impulsivity in Dense Cue Fields,' Journal of Urban Behavioral Studies, Vol. 4, No. 1, 1981, pp. 12-39.
- ^ Margaret A. Thornton, 'Urban Impulsivity under Dense Cue Fields,' Proceedings of the North Pacific Psychology Association, Vol. 9, 1984, pp. 201-219.
- ^ 高橋 直人『駅ナカ環境と意思決定の微分』交通心理学評論 第7巻第4号, 1986, pp. 88-104.
- ^ 小松原 恒一郎・飯島 由紀子『改訂HIS-28使用手引き』厚生省外郭資料, 1989.
- ^ S. Armitage, 'The Monuotic Effect: A Japanese Urban Myth Reconsidered,' Cambridge Urban Review, Vol. 11, No. 3, 1991, pp. 77-95.
- ^ 田辺 由美子『モニュオティック環境と売場導線』商業空間研究 第12巻第1号, 1994, pp. 5-28.
- ^ Edward L. Finch, 'A Note on Haimoniotic Stops,' Gazette of Applied Movement, Vol. 2, No. 2, 1997, pp. 1-14.
外部リンク
- 東京都立環境行動研究所アーカイブ
- 都市選択行動資料室
- 地下街衝動性年表データベース
- HIS尺度公開委員会
- 日本案内標識学会