鳩の確定申告
| 正式名称 | 都市鳥個体申告補助制度 |
|---|---|
| 通称 | 鳩の確定申告 |
| 開始年 | 1991年頃 |
| 主管 | 農林水産省 動物所有課税管理室 |
| 対象 | 都市部の鳩、管理鳩舎、半野生個体群 |
| 主な様式 | H-1040、H-1040B、糞害内訳票 |
| 関連税目 | 雑所得・営巣控除・群飛控除 |
| 実施地域 | 東京都、神奈川県、愛知県の一部 |
| 廃止 | 制度上は未廃止 |
| 特徴 | 年2回の羽替え期に申告する |
鳩の確定申告(はとのかくていしんこく、英: Pigeon Tax Return)は、に生息するの個体群が、の外郭指導を受けながら営巣・採餌・糞害を自己申告するために整備した届出制度である。一般には初期ので制度化されたとされる[1]。
概要[編集]
鳩の確定申告は、の排泄物・巣材・給餌履歴を行政上の「所得」とみなして整理するために作られたとされる日本の準公的制度である。実務上はではなく側が中心となり、駅前広場、寺社、河川敷などで生活する鳩の群れを「個体群単位」で扱う点に特徴がある。
本制度は、鳩を単なる害鳥として扱うのではなく、都市の景観維持に寄与する「微小納税主体」として再定義したことで注目された。もっとも、申告書の多くは実際には人間の管理者が代筆しており、「鳩自身による署名欄の筆跡が毎年少しずつ変わる」といった逸話が残る。
歴史[編集]
前史:糞害対策から申告へ[編集]
起源はのにおける駅前清掃費の増大であるとされる。当初は沿線の鳩を追い払うだけの対策であったが、清掃業者のが「追い払えないなら記録せよ」と提案し、内で非公式に『羽数台帳』が作成された。
この台帳は、巣の場所・採餌時間・好物のパンくずの種類まで記録していたため、やがて税務署式の様式に流用された。1989年にはの会議で、鳩の移動が単なる生態ではなく「季節ごとの収入変動」として把握できるとする説が示され、制度化の下地が整ったとされる。
制度化とH-1040の制定[編集]
、は『都市鳥個体申告補助要綱』を内規として通達し、通称H-1040を公布した。名称の由来は、米国のを模したものではなく、「鳩(Hato)1040型簡易申告書」の略とされるが、実際には担当官が深夜のコピー機周辺で偶然そう読んだことが発端とされる。
初年度の試験運用では、東口周辺の鳩312羽が対象となり、うち47羽が「給餌による雑所得」、19羽が「観光客の撮影被写体収入」を申告した。特に、ある灰色の雄鳩がホーム上のパン屑をめぐっての適用を求め、審査に18日を要した件は、後に『新宿事件』として知られる。
普及期と自治体連携[編集]
になると、やでも類似制度が導入され、各自治体は独自に鳩舎番号を付与した。横浜では地区の観光鳩が「景観協力鳩」として扱われ、赤レンガ倉庫前での滞在時間が長い個体ほど申告精度が高いと評価された。
一方で、では繁華街の餌やり文化と衝突し、夜間に鳩が役所へ一斉帰巣して窓口を占拠する事態が発生した。これにより、毎年2月15日の受付開始前日に「予備飛来確認」が行われるようになったが、実施初年度は風向きの関係で申告書の6割がに散乱したという。
制度の仕組み[編集]
鳩の確定申告は、基本的に「羽数」「滞留時間」「糞害量」「給餌源」「移動距離」の5項目で構成される。これらは人間の税制と整合させるため、1羽あたりの年間滞留時間を12等分し、繁殖期の午前4時台を『早朝勤務帯』として扱う独特の計算式が採用された。
申告の際は、羽色によって用紙が異なる。灰色個体は白色のH-1040、首回りに緑の光沢がある個体はH-1040B、いわゆる「駅前常駐鳩」は黒地に銀刷りの特別様式を使う。また、巣材にの紙片が含まれる場合は「文化財混入控除」が適用されるとされている。
なお、制度上は鳩本人の意思確認が必要であるが、実際には足環の回転方向と首の傾きで代替される。これは「東向きに3回うなずいた個体は申告能力ありと見なす」という、極めて日本的な運用が残ったためである。
主要な申告類型[編集]
駅前常駐型[編集]
、、などの駅前に定着した個体群が該当する。これらは人通りによる採餌機会が多く、定期券客の落とすパン屑を雑所得として扱うことで、比較的高い申告額を示す傾向がある。特に上野駅前の群れは、美術館帰りの来訪者が多いため、クラッカー系の給餌が増えた年にだけ「文化的配当」が急増した。
寺社境内型[編集]
やの周辺では、参拝客の供物や線香の灰が営巣材料として評価される。境内管理者との協定により、毎月1日に『静穏確認飛行』を行ってから申告に入る慣行があるが、実際には鐘楼の上に集結してしまい、住職が臨時で受付を移動したという記録がある。
河川敷遊動型[編集]
やの河川敷を移動する群れは、移動距離が長いため「旅費控除」に近い扱いを受ける。夏季には花火大会の残渣を拾うことで臨時収入が発生し、1群れあたり平均で年38,400円相当と試算されたが、算定根拠はかなり曖昧であるとされる。
社会的影響[編集]
本制度は、鳩に対する都市住民の認識を大きく変えたとされる。清掃コストの負担者として嫌われていた存在が、税務上の「小さな納税者」として可視化されたことで、周辺では一時期、鳩を追い払う際に「申告済みかどうか」を確認する職員が現れた。
また、2000年代には商店街が鳩の滞留を観光資源として利用し、「申告鳩見学ツアー」が企画された。ツアー客には、鳩が自ら脚で押すスタンプを集める『羽根印帳』が配られたが、実際には受付担当のパート職員が裏で押していたとの指摘もある。
一方で、制度は給餌の正当化につながるとして批判も受けた。特にでは、餌やり愛好家が「鳩は課税主体である以上、食べる権利もある」と主張し、公園管理条例との衝突を招いた。結果として、自治体ごとに『申告鳩には与えてよいが未申告鳩には与えない』という、極めて運用困難な注意書きが掲示された。
批判と論争[編集]
最大の論争は、鳩が本当に確定申告能力を持つのかという点であった。これに対し制度設計者のは、「能力の有無ではなく、能力があることにするのが行政である」と述べたとされるが、この発言は後年の座談会記録からの孫引きにすぎない。
また、申告書の一部に人間の筆跡が混ざっていることから、実質的には管理者側の便宜供与ではないかとの批判も根強い。2011年にはの職員が非公式に調査を行い、35羽中31羽が同一のインクで記入されていたことが判明したが、担当者は「共同生活体としての連帯記入」と説明したという。
さらに、繁殖期における「扶養鳩」の扱いをめぐって、雌雄の区別をどうするかが問題となった。ある自治体では、卵の温度が一定以上であれば『扶養の実態あり』と認定したが、真夏ので誤認が続出し、窓口が3日間閉鎖された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田島義信『駅前鳩群の行政学的整理』港湾文化社, 1992.
- ^ 渡辺精一郎『都市鳥個体申告補助制度概説』農林水産行政研究会, 1994.
- ^ Margaret A. Thornton, "Pigeons and Micro-Taxation in Metropolitan Tokyo," Journal of Urban Avifauna, Vol. 8, No. 2, pp. 114-139, 2001.
- ^ 佐伯美代子『H-1040様式の成立とその運用』清潔都市出版, 1998.
- ^ Hiroshi Kanda, "The Fiscal Behavior of Station Pigeons," East Asian Municipal Studies, Vol. 12, No. 4, pp. 44-67, 2005.
- ^ 高橋怜『糞害内訳票の比較法研究』環境と徴収, 第17巻第3号, pp. 88-103, 2008.
- ^ Elena Morozova, "Companion Birds as Declarants: A Case Study from Yokohama," Proceedings of the 14th International Conference on Civic Ornithology, pp. 201-219, 2012.
- ^ 国税庁監修『鳩の確定申告実務便覧 2014年度版』税務資料協会, 2014.
- ^ 中島啓二『群飛控除の理論と実際』都市税制評論社, 2016.
- ^ S. Watanabe, "On the So-Called Feathered Returns," Review of Imaginary Public Finance, Vol. 3, No. 1, pp. 7-29, 2019.
- ^ 加藤順子『申告済み鳩の行動変容』みなと学術選書, 2020.
外部リンク
- 都市鳥個体申告補助制度アーカイブ
- 鳩税務研究センター
- 羽根印帳保存会
- 東京湾岸清掃と鳥類行政の会
- 架空行政文書データベース H-1040