黒柴大学2018年入試でのイスラム教騒動
| 発生年 | 2018年 |
|---|---|
| 発生場所 | 内(入試会場)および全国(抗議活動) |
| 関係組織 | 入試委員会、(架空の調停機関)、各イスラム団体 |
| 争点 | 出題図版・用語選定・解答指示文の適否 |
| 象徴的論点 | 「の絵」掲載をめぐる解釈 |
| 影響 | 入試問題の事前宗教リスク審査の導入 |
黒柴大学2018年入試でのイスラム教騒動は、に実施されたの一般入試をめぐり、の教義に抵触するとして抗議が相次いだとされる事件である。主な争点は、出題用の図版に関する解釈の食い違いであり、特にの絵の扱いが注目された[1]。国内では複数のイスラム団体が共同声明を出し、入試制度の運用見直し論へと波及したとされる[2]。
概要[編集]
の一般入試において、問題冊子に含まれる複数の記述がの教義、あるいは礼拝・慣習上の禁忌に抵触しているとして、抗議が噴出したとされる。騒動はSNSでの指摘から始まり、短期間で新聞・テレビの報道領域へ拡大したことで、大学側の対応も注目された[1]。
当初は「誤解を招きうる表現がある」という穏当な見方もあったが、その後「抵触箇所が38個ある」とする集計が提示されると、議論は一気に制度論へ移行した。集計の根拠は、問題中の図版・注釈・出題意図説明文(いわゆる凡例)を細分化し、1箇所を1“指摘単位”として数え上げた方式にあったとされる[2]。この方式は、抗議側の主張を可視化する一方で、大学側の反論では「分類の恣意性」が問題視された。
背景[編集]
は地方国立を模した理念を掲げる一方、一般入試の出題作成は大手編集プロダクションに外注していたとされる。編集プロダクションは「学習者に分かりやすい図版」を優先しており、語彙や図柄の“説明可能性”が高いほど採用される仕組みがあったとされる[3]。
一方で、入試問題は宗教的配慮の対象が明確化されてこなかった。入試委員会の規程には「公序良俗に抵触しないこと」との記載があったものの、具体的にのどの領域(偶像、図像、文言の含意など)をどう扱うかは、委員個々の運用に委ねられていたとされる[4]。
この空白が、外注版の図版と、抗議側が想定した解釈の差を拡大させた。特に、図版に付されていた「教育目的の説明」文が、受け手によっては“宗教権威の図像化”に読める可能性があるとして、論点化したとされる。ここで、のちに象徴的に扱われる「の絵」の存在が焦点となった。
経緯[編集]
“38個”集計の出現[編集]
抗議の中心となったのは、入試問題冊子に対する緻密な“再読解”である。抗議側は問題を(1)図版(2)見出し(3)注釈(4)解答欄の指示文(5)例文の語彙の5カテゴリに分け、さらに各カテゴリを細分化した。その結果、抵触している可能性がある箇所を合計38個として提示したとされる[5]。
ここで特徴的なのは、単なる「言及がある/ない」ではなく、「受験者がどの程度“同一視”されうるか」を尺度化した点である。たとえば、図版の周辺にある注釈が“宗教の歴史説明”の体裁であっても、受け手が図像の真意(権威性、肖像性)に到達できる場合は1指摘単位に加えたとされる。ただし大学側は、これは解釈の前提を固定しているため「科学的集計ではない」として反発した[6]。
図版と「ムハンマドの絵」問題[編集]
騒動の最初の火種は「一枚の挿絵」といわれることが多い。抗議側の説明では、当該挿絵は宗教人物を想起させる輪郭線のスタイルで描かれており、しかも挿絵の下に日本語で簡潔な説明文が付いていたため、図像の意図が限定できない、とされた[7]。
大学側の説明は、図版は“歴史教科書風”の汎用的な記号であり、特定人物を直接的に描写する意図はなかった、というものであった。ただしこの反論が報道で単純化される過程で、「意図の有無」よりも「見えてしまうか」という観点に議論が寄ってしまったとされる。結果として、SNSの拡散では「の絵が入っていた」という短い文言が独り歩きした[8]。
さらに、会場がの浜松市近郊に複数設けられていたため、受験者の発言が地域ごとに異なる温度感をもって広がったとされる。ある受験者は「試験中は違和感があったが、時間がないので解答した」と述べ、別の受験者は「注釈を読めば誤解しない」と反論した。温度差は、同じ紙面を見ていたはずなのに起きた“読みの距離”として記録された[9]。
大学側対応と“暫定ガイドライン”[編集]
騒動が拡大したのち、は入試委員会名義で「配慮のための点検」を開始したと発表したとされる。点検は、図版を1枚ずつスキャンし、外注元のデータと照合する“版管理方式”で行われた。さらに、点検期間は“公開データとしては14日間”とされる一方、内部文書では“17日間”と記されていた、という食い違いも後に報道された[10]。
この点検の結果、出題冊子に付随する注釈文のうち、宗教的含意が強く受け取られうる表現を削除し、代替として一般的な文化史説明に差し替えたとされる。ただし、完全な削除ではなく「誤解を招かない範囲へ調整」として処理されたため、抗議側からは「修正が部分的すぎる」と再度批判が出た[11]。
なお、騒動の調停に関しては、当時すでに存在するとされたなる機関(運用実態は曖昧)が“暫定ガイドライン”を提案したとされる。ガイドラインには「図版は個人肖像を避ける」「教義に触れる例文は匿名化する」といった項目が並び、次年度入試からの反映を求めたと報じられた[12]。もっともこのガイドラインが実際に採用されたかは、公開資料からは判別しにくいとされた。
社会的影響[編集]
騒動は、大学入試の領域におけるの解像度を一段上げたとされる。具体的には、問題作成側が「守るべき対象」を抽象語ではなく、図版・語彙・注釈のどの層で検討すべきかに分解し始めたとされる。これにより、翌年の入試では“専門家レビュー枠”が増えた大学が複数出たと報告された[13]。
また、抗議側の“38個”集計が独特の説得力をもったことで、類似の論争における集計方法(単位化・細分化)が模倣される傾向が見られた。つまり、何が問題かの議論だけでなく、「何を数えるか」をめぐる競技化が起きたと指摘されている[14]。
さらに、受験生の側にも心理的影響があったとされる。試験当日に「設問の解釈が宗教的に危険ではないか」を気にして時間が伸びたという報告がSNS上で共有され、大学は後日「設問解釈の揺れを前提とした採点設計」を見直す意向を表明したとされる[15]。この“揺れ”という言葉が、宗教の問題から学術的な配慮へ言い換えられた点が、制度設計の現実感として記録された。
批判と論争[編集]
大学側の批判は、主に「図版の解釈は受け手依存であり、特定の宗教基準を強制できない」という点に集中した。入試問題は多様な受験者を対象とするため、単一の読み筋を前提にした評価は不当である、とする見解が出された[16]。
一方で抗議側は、法的強制の有無とは別に、社会的礼節として配慮は可能であると主張した。特に、図版が“歴史教育目的”であったとしても、結果としてに結びつくような造形が含まれているなら、先に除外すべきだという論法であった[7]。この対立は、事実認定(何が描かれていたか)と価値判断(何を避けるべきか)の二層が絡む論争だったとされる。
また、集計“38個”の妥当性についても論争が起きた。ある編集者は「注釈を読む人ほど細分化して数えられる」という観点から、集計が“読みの丁寧さ”を武器にした可能性を指摘した。一方で別の論者は、丁寧に読んだ結果として問題が浮かび上がるなら、それ自体が配慮不足の証拠であると反論した[17]。
なお、騒動の報道には揺れがあった。『入試問題に含まれたのは38箇所である』とする報道がある一方、『38箇所は抗議側の自己基準であり、大学が確認したのは12箇所のみ』とする報道もあったとされる。ここで数字が途中から変化している点が、後年になって「最初から“数字の箔”が必要だったのでは」と揶揄する声を生んだと報じられた[18]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山本雄介『入試問題と社会的配慮—外注制作の現場報告』黒曜学術出版, 2019.
- ^ Margaret A. Thornton『Religious Sensitivity in Public Assessments』Oxford University Press, 2020.
- ^ 田中誠一『大学入試の版管理と修正履歴』静光図書, 2018.
- ^ 佐藤美咲『“38個”の数え方—抗議集計と可視化戦略』文芸社, 2021.
- ^ Katherine R. Ellis『Cartography of Offense: Interpreting Exam Materials』Cambridge Scholars Publishing, 2019, pp. 112-139.
- ^ 黒柴大学入試委員会『一般入試問題点検手順書(暫定版)』黒柴大学出版部, 2018.
- ^ 宗教的表現研究会『学習資料における図像のリスク分類(第3版)』日本学術協会, 2020, Vol. 3, pp. 41-76.
- ^ 匿名『受験者体験のログ分析:試験当日の情報行動』『教育社会学通信』第12巻第2号, 2019, pp. 55-63.
- ^ 内田はるか『外注と責任分界点—入試コンテンツの契約実務』星雲法務出版, 2022, pp. 201-219.
- ^ Jonas W. Rask『Syllabuses and Symbols』Harvard Academic Press, 2018, pp. 88-103(書名が一部誤記されているとする指摘あり).
外部リンク
- 黒柴大学 入試広報アーカイブ
- 宗教的配慮 入試Q&A集
- 教育問題点検レポート館
- 図版リスク分類データベース
- 受験者ログ研究フォーラム