ꙮꙮꙮꙮꙮ
ꙮꙮꙮꙮꙮ(くわんくわんくわんくわんくわん)は、の都市伝説の一種[1]。夜間の掲示板や監視カメラに「同じ印字」が連続して現れるとされ、噂が噂を呼ぶ形で全国に広まったという[2]。
概要[編集]
とは、で流布する都市伝説の怪談であり、主に深夜の画面・掲示・音声履歴に「見た目が同一の文字列」が残る現象として語られるという話である[3]。
噂では、この文字列は単なる装飾ではなく、見た者の耳元で「ꙮꙮꙮ」と似た低い反響音が始まるとされ、目撃された/目撃談は「出没場所が毎回少しずつ違うのに、痕跡だけは一致する」と強調される[4]。なお、別名として、、とも呼ばれる[5]。
歴史[編集]
起源[編集]
伝承の起源は、都市インフラの更新が急増した頃、古い掲示端末の保守ログに「本来は別の記号が崩れたもの」が残ったのが最初だとする説が有力である[6]。この説では、端末メーカーの技術者が、誤表示の原因を特定する過程で“音に置き換えると意味が取れる”と気づき、試験用の書式に固定したため、文字列が独り歩きしたとされる[7]。
ただし一方で、起源をさらに遡らせ、戦後の検閲資料の写植工程で「文字の塊が検査用コードとして流用された」とする言い伝えもある。噂の中には、あたかもそのコードが「ꙮ」の形をしているかのように語られるが、実在の資料名は出てこないとされる[8]。この点が、研究者のあいだで“正体”の議論が尽きない理由とされている。
流布の経緯[編集]
全国に広まった契機は、のある深夜番組で「監視カメラの時刻ずれ」として紹介された断片映像にあるとされる[9]。番組のテロップでは文字列が一度だけ映ったのに、翌日からネット掲示板で“同じ場所に同じ並び”が再現されたとの報告が相次いだという。
その後、の夜間巡回ボランティアが「学校前の該当掲示板だけ、朝になると文字列が追加されている」と匿名で投稿し、噂が噂を呼ぶ形でブーム化した[10]。特に「記号が増える速度」が細かく語られ、目撃談では『最初は5文字、次の日には7文字、さらに3日で12文字になる』など、桁の増え方まで一致するとされた[11]。
なお、この数字は実測ではなく“語りの定型”に近いと指摘されるものの、マスメディアの切り抜きにより信憑性が補強されたとされる[12]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
この都市伝説では、が「出没する妖怪」であるとされ、姿は示されにくいが“文字だけが先に到着する”という特徴が語られている。言い伝えによれば、出現の前触れとして、スマートフォンの通知音が通常より0.7秒遅れて鳴り、次に画面の端が微かに滲むという[13]。
伝承の内容として頻出するのは、目撃された/目撃談の共通点である。第一に、現れる場所は駅・学校・公共掲示板など人の往来があるところに寄りやすいとされ、第二に、目撃者は一度“正常に見えてしまう”ため、すぐにスクリーンショットを撮ろうとするが、撮影後の画像だけが空白になると語られている[14]。このとき、空白の代わりに必ず文字列が“別の角度で”置き換わっているとされ、恐怖を強めたとされる。
正体については、複数の説がある。第一に、紙の裏側から滲み出る“印字の残像”説、第二に、通信網が勝手に圧縮して作り出す“文字の圧縮幽霊”、第三に、文字列が人の注意を吸い寄せる“注意喰い”であるとする説である。とくに「注意喰い」と呼ばれるお化けとして説明する語りが、怪談番組で好まれたとも言われている[15]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
委細として最も語られるのは、文字列の“並び替え”である。基本形は5文字であるが、環境要因により『縦方向に伸びる』『斜めに傾く』『中点が増える』などの派生バリエーションが生まれるとされる。特に“中点”が増える系統はに加えのような点の符号が混ざると描写されることが多い[16]。
また、起源説との折衷として、“本来は別のメーカーの部品コードだった”とする創作的な補助線もある。たとえば架空の規格としてという規約が語られ、そこに基づく誤変換が怪談を生んだのだという[17]。この規約は実在しないが、噂の文章では妙に官僚的な語感で再現されるため、信じる人が出るとされる。
さらに、学校の怪談としての派生があり、夜間の職員室でだけ“黒板消しのスポンジが勝手に文字を作る”という話が追加される。言い伝えでは、スポンジに付いたチョーク粉が、消されたはずの掲示板の文字を再現するため、恐怖が増すとされる[18]。この系統は特に学期末に増えるとも言われ、学校の怪談の一種として教材の裏話に混ぜられることがあったという。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は、恐怖の連鎖を断ち切ることが目的とされ、具体的な手順が“儀式”のように語られる。もっとも広く知られるのは『出現を確認したら、20分間だけ画面を見ない』という対処である[19]。これは心理的バッファとして語られているが、一部では“注意喰い”への給餌を止める目的だとも言われている。
次に多いのは、掲示板や端末の周囲に“測量用の白いテープ”を貼り、文字列が現れるはずの位置を物理的に封じる方法である。目撃談では、封じたテープが翌朝にはなぜか別の場所に移動しているが、文字列は増えないため「多少の効果があった」とされる[20]。
ただし、逆効果とされる作法もある。スクリーンショットを撮る、音声を録音する、文字列を手書きで模写する、という行為は“記号を固定化する”とされ、パニックが起こりやすいと恐れられる。特に『真似して投稿した瞬間、通知が3倍の速度で来る』という噂があり、ネットの文化として拡散を加速したと指摘されている[21]。
社会的影響[編集]
社会的影響として最初に挙げられるのは、施設側の“夜間掲示物の監査”が増えたことである。噂が流布した地域では、掲示板の更新作業が通常より月平均1.6回増え、清掃員のシフトも夜間寄りに調整されたとされる[22]。
また、メディアは不気味さを煽る形でブームを支えたとされるが、同時に監視カメラ映像の扱いに倫理面の議論をもたらしたとも言われている。『文字列だけが加工で残る』という編集トリックが横行し、怪談として成立する一方で、誤情報が混入したという指摘が出た[23]。
教育現場では、学校の怪談として語られることが増え、授業中の雑談で“出没する時間の予測”が出されることがあった。いわゆる“予告表”を作る動きが広まり、結果として子どもが夜に一人で見に行くケースが報告され、学校が注意喚起を出したとされる[24]。このように、都市伝説の恐怖は一度言葉として流通し、次に行動へと移ったと整理されている。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化・メディアでは、が“映像の不具合”として扱い、としては“検証ごっこ”の題材になったとされる。たとえば、怪談バラエティでは「文字列が出た画面だけなぜか静電気の音がする」という演出が定番化し、恐怖と笑いの境目を狙ったと語られる[25]。
ネット上では、文字列をフォントで再現するコミュニティが生まれ、作られたフォントが“お守り”として配布されたという。もっとも、配布されたはずのフォントは一部環境で別記号に変換され、結果としてが“増殖した”と解釈されることもあった[26]。この誤変換自体が怪談の補強材料になり、あれこれ試すうちにブームが続いたと考えられている。
なお、文化作品では妖怪表現として「姿は出さないが、出没の気配だけを字幕で示す」手法が採用されることがあり、言い伝えをそのまま短いシーンに圧縮した脚本が好まれたとも言われる。編集者のメモには『文字列は長い説明を代替する』と記されていたが、出典は示されていないとされる[27]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田辺ミオ『夜間掲示板に現れる記号の系譜』幻灯社, 2009.
- ^ 桐谷礼央『注意を喰う文字——都市伝説の認知工学』第14回怪異研究会論文集, Vol. 14, No. 2, pp. 31-58, 2011.
- ^ 瀬戸口ハル『フォント再現と噂の自己強化』情報民俗学雑誌, Vol. 7, 第1巻第3号, pp. 9-24, 2013.
- ^ 【架空書名】鈴代カンナ『監視映像の“残り方”と編集倫理』編集工房新書, 2018.
- ^ Matsukawa, R. "Echo-Printing in Urban Legends: The Kwaṅ Kwaṅ Pattern" Journal of Apparitional Media Studies, Vol. 4, No. 1, pp. 101-132, 2015.
- ^ Thornton, Margaret A. "Digital Residue and the Unseen Witness" Proceedings of the International Symposium on Folklore and Networks, pp. 77-94, 2016.
- ^ 中島ユウ『学校に広がる怪談の伝搬モデル』日本学校文化紀要, 第22巻第4号, pp. 221-240, 2020.
- ^ 加部想太『妖怪としての文字——正体の仮説整理』怪奇史学レビュー, Vol. 19, No. 3, pp. 55-90, 2022.
- ^ 渡里真澄『M-GLYF 12号の周辺——誤変換ログの検証』機械文字研究会報, 第5巻第1号, pp. 1-20, 2001.
- ^ Kurose, D. "When Screens Remember: A Study of Uncanny Glyph Clusters" Tokyo Review of Digital Myths, pp. 10-33, 2017.
- ^ Aoki, S.『(やけに一部だけ正しい)都市伝説の統計的特徴』アストラル出版, 1999.
外部リンク
- Kwaṅ Kwaṅ フォーラム(非公式アーカイブ)
- 夜間掲示板監査ログ図書室
- 怪異フォント再現データベース
- 学校の怪談 口承目録
- インターネット文化研究:記号逸脱事例集