エセカレン
| 分類 | ネット・ミーム/人物呼称 |
|---|---|
| 主な出所 | 電子掲示板の利用者発の造語 |
| 初出時期 | 後半と推定される |
| 主な使用域 | 創作論、作品レビュー、炎上議論 |
| 関連語 | 、 |
| 社会的影響 | 評価経済の冷却と皮肉の増幅 |
| 特徴 | 「本物らしさ」を模倣する語用 |
| 学術的な扱い | ミーム研究の対象として断片的に言及 |
(えせかれん、英: Ese Karen)は、主に大衆向け電子掲示板から発生したとされる「偽物の人物像」を指す語である。表記揺れとしてやも見られ、ネタ作品の文脈で流通したとされる[1]。
概要[編集]
は、ある人物(と見なされる存在)に対して、その“らしさ”だけを借用して別の文脈に組み替える際に用いられる呼称として整理されることが多い。特に「偽物の松本かれん」を踏まえた比喩として語られ、本人確認をめぐる議論や創作の信用性を測る文脈で使われたとされる[2]。
語の特徴は、単なる「偽物」ではなく、模倣の精度や伝播の速度に焦点が当てられる点である。例えば、ある掲示板では“偽装タグ”を付けた投稿が一定期間で拡散し、その後に「エセカレン度」が数値化される遊びが行われたとされ、そこから「偽物でも情報は強い」という皮肉が定着したと推定されている[3]。
なお、用語の初期には誤記も多く、全角・半角のゆらぎにより検索結果が分断されることで、逆に伝播が加速したという指摘がある。この現象は当時の運営方針(スパム対策)と偶然噛み合ったとされ、言語史としては「最適な嘘の形式」が選抜された事例として扱われることがある[4]。
語源と成立[編集]
「松本かれん」系の都市的記憶[編集]
が「偽物の松本かれん」の文脈で語られるようになった経緯は、複数の系統があるとされる。まず2007年頃、内の小規模書店チェーンで配布された無料冊子が、匿名コラムの人気投票をまとめたものだとされたが、実際には“人気の装置”として再編集された可能性が指摘されている[5]。この「投票結果が投票を生む」状況が、のちに「偽装でも当たる」感覚を共有させたと推定される。
次に、と呼ばれる半公式コミュニティが形成された。ここでは「本名は伏せるが、記号としての人格は提供する」という方針が採られ、その“記号人格”の完成度を測る指標が作られた。指標のひとつが、文字列の見た目の一致率を点数化する方法であり、これが「エセカレン」の表記に直結したという説がある[6]。なお、点数の採点表はA4用紙3枚で配布され、印刷では角丸カタカナの太さ(1/100mm単位で指定)が問題になったとされ、やけに細かいのに参加者がなぜか真顔だったという証言が残っている[7]。
偽装タグ規格と「誤字が勝つ」論理[編集]
成立の決め手は、掲示板運営が導入した「リンク抑制」仕様に対する、利用者側の技術的工夫だったと説明されることが多い。すなわち、BAN(凍結)を回避するために単語を分解して書く必要が生まれ、その過程でのような半角カナ列が増えた。皮肉にも、その分解表記が検索アルゴリズムで“別単語”として扱われ、拡散が止まらなくなったとされる[8]。
この理屈は、当時のミーム解析コミュニティがまとめたとされる「嘘の冗長性モデル」に基づく。モデルでは、嘘は冗長であるほど誤判定されにくいとして、文字数が「15〜19文字」の範囲で最も好まれるとされた。実際、エセカレンは4音節相当で短く、かつ半角ゆらぎを含むため、規格として“丁度いい偽物”になったと推測されている[9]。また、この規格が広まった結果、誤記自体が評価される空気が生まれたとされ、投稿者の心理的安全性(叩かれにくさ)が上がったという回顧がある[10]。
歴史[編集]
年表(推定)[編集]
、匿名掲示板上で「偽物の松本かれん」への言及が増え、呼称としてが定着し始めたとされる[11]。ただし同年の時点では、語は“侮蔑”としてだけでなく“自己防衛”としても使われており、引用文に対して「これはエセカレンである」と注意書きする形式が一時流行したという。
には、評価サイトの運用ルールに影響が出た。具体的には、レビュー投稿の信頼度を「出典あり/なし」で判定する仕様が導入され、それに対抗する形で“出典はあるが中身は偽物”の投稿テンプレが出回ったとされる[12]。この年、誤情報が問題化したというより、むしろ「出典の形式だけで語れる」ことが笑いに変換されていった点が特徴とされる。
ごろ、語は「キャラクター造形」にも広がり、実在人物の雰囲気を借りた創作が“合意の上のエセカレン”として許容される場面が増えた。しかし同時に、模倣と詐称の境界が曖昧になり、のちの批判の伏線となったと説明される。
制度化:偽名会と採点表[編集]
エセカレンはやがて、言葉遊びから「採点表を伴う実務」へと移行したとする見方がある。特にが配布した「人格整合性チェックリスト(JIC)」では、人物像の一致度を(1)語尾、(2)間、(3)比喩の密度、(4)謝罪の長さの4項目で評価するとされる[13]。
一部の記録では、謝罪の長さが「平均78.3語(標準偏差±12.1語)」である投稿が最も拡散しやすいと計算されたとされ、異様に具体的な統計が残っている[14]。ただし、この数値は会員の手作業集計であり、集計した人数が“ちょうど17人だった”という証言もあるため、再現性は疑問視されている。にもかかわらず、数字が面白いほど強い説得力を持った結果、エセカレンという語が「感情ではなく数」で語られる段階へ移ったとされる[15]。
また、東京近郊で行われた非公式オフ会では、名札に「偽名の呼称」を印字する規則があり、違反した参加者が罰ゲームとして“誤字版のエセカレンを3回音読”させられたという報告がある。このように、儀式性が導入されることで語が強固なコミュニティ記号になったと解釈されている[16]。
社会的影響[編集]
は、情報発信が“正しさ”よりも“体裁”で評価される局面を加速させたとされる。理由として、語が「本物かどうか」だけでなく「それっぽさの速度」を問題化したため、投稿者は内容よりも伝播装置(表記、言い回し、タイミング)を整えるようになったという。
その結果、作品レビューや創作界隈では、引用の形式(リンクの有無、文章の体裁、引用元の見た目)が重視されるようになった。一方で、批判もまた“形式の批判”へ寄っていったため、炎上は減ったという評価もある。実際、からにかけて某掲示板群では「人格整合性チェック(JIC)導入で通報率が23%下がった」とされるが、根拠資料は公開されておらず、出典の所在に揺れがある[17]。
さらに、エセカレンが「偽物でも価値がある」という方向へ読み替えられたことで、オマージュと詐欺の境界の議論が複雑化した。芸術的模倣を守りたい側は、エセカレンを“共同作業の合意語”として語った。他方、情報弱者を守りたい側は、エセカレンを“信用の奪取語”として警戒した。こうした二つの読みが同時に成立したことが、語の寿命を延ばしたとする説明がある[18]。
批判と論争[編集]
には、詐称を相対化しうる点で批判がある。特に「偽物の松本かれん」系の文脈では、最初はネタとして始まったはずが、いつの間にか“本物だと信じた人が損をする”構造を温存すると指摘されることがある[19]。
また、語の運用がコミュニティ内の権力関係と結びついたという見方もある。すなわち、偽名会の採点に参加できる者が発言力を持ち、それ以外はエセカレンとして切り捨てられる、という構図である。この点は、採点表JICの配布が限定的だったこと(配布日が“雨の日限定”とされるなど)からも推測されている[20]。
一方で擁護側は、エセカレンが“騙すための言葉”ではなく、“騙されることを前提に相互監視する言葉”だと主張した。実際、JICの項目には謝罪や間が含まれており、相手の感情を観測することで被害を減らす設計だと説明された。ただし、議論の現場では「感情の観測」が“新しい罵倒スキル”に転用されたとの指摘もあり、論争は収束していないとされる[21]。
なお、最も有名な論争例として、某大学サークルが「エセカレン度の自己採点レポート」を卒論風に提出した件が挙げられる。審査員が「参考文献欄が全て絵文字で構成されている」点を指摘したところ、サークル側は“誤字を含むほど真正性が上がる”と反論し、最終的に審査が差し戻されたと伝えられる[22]。この逸話は、嘘が“学術っぽい顔”をすると危険であることを、逆説的に示した事例として引用され続けている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐藤ミナト『ネット由来語の系譜—表記揺れと伝播の相関—』東京大学出版会, 2016.
- ^ 山口ケンイチ『嘘の冗長性モデルと半角カナの最適化』情報言語学会誌, 第12巻第2号, pp.33-58, 2014.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton『Pseudonymous Persona Metrics』Journal of Digital Rhetoric, Vol.7 No.1, pp.101-129, 2015.
- ^ 中村ユキ『「出典あり/なし」判定が生んだ体裁の経済』メディア運用研究, 第3巻第1号, pp.1-22, 2013.
- ^ 伊集院シオリ『評価サイトと信頼の形式化』レビューゲート研究叢書, 第5巻, pp.77-96, 2012.
- ^ 松崎フウ『掲示板文化の儀礼化—名札規則と誤字音読—』日本語社会史叢書, 第9巻第4号, pp.210-241, 2018.
- ^ Kwon Seojin『On the Speed of “Almost Real” Claims in Online Communities』Proceedings of the International Workshop on Memetics, pp.55-73, 2017.
- ^ 田辺コウ『JIC(人格整合性チェックリスト)の妥当性検討』創作支援工学, 第2巻第3号, pp.44-69, 2019.
- ^ Lee Hannah『謝罪文の語数分布と拡散率』Computational Social Affordances, Vol.2 No.2, pp.12-26, 2020.
- ^ (出典不明扱い)【ReviewGate】運用報告書『形式化ルール導入の影響測定』pp.1-14, 2011.
外部リンク
- 嘘語資料館(仮)
- 偽名会アーカイブ
- ミーム統計倉庫
- 人格整合性チェック解説Wiki
- レビューゲート運用史メモ