1998年4月13日の試験放送に写った不気味な女
1998年4月13日の試験放送に写った不気味な女(1998ねん4がつ13にちのしけんほうそうにうつったふきみなおんな)は、の都市伝説の一種である[1]。1998年4月13日の試験放送中に、画面へ不気味な青白い女の顔が数分間映し出されたという噂が全国に広まったとされる[2]。
概要[編集]
1998年4月13日の夜、テレビの試験放送を視聴していた者の間で「急に画面が“呼吸”するようにチラつき、青白い女の顔が写った」という怪談が語られたとされる。噂では、その顔は笑っているのか泣いているのか判然とせず、目だけがやけに合って見えたという[3]。
この都市伝説は、当時の放送技術への不信と、家庭にある“受像機”そのものへの恐怖が混ざり合った話として言い伝えられている。マスメディアが直接の解説を控えたこともあり、恐怖と不気味さがブーム化し、インターネット以前の段階でも口コミで増幅されたと考えられている[4]。
伝承の核は「試験放送」という“意味のないはずの時間”に、意味のある何かが割り込んだという点にある。噂は、妖怪の出没譚のように扱われる一方で、テレビ障害の話に見える表面も併せ持つとされる。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、放送局の技術資料では「局内監視用の試験パターン」とされるものにあると噂されている。とある系列局の関係者(名を伏せた目撃談として語られることが多い)が、1998年4月13日20時41分から20時44分までの3分間、「同期信号が一瞬だけずれた」ためにノイズが“顔の形”を取ったと説明した、という伝承が残されている[5]。
この説が広まった背景として、当時の放送設備で用いられていた装置に、米国製の信号整流部品が混在していたという話がある。整流部品の型番が「A4-13」だったとする語りもあり、日付の“4月13日”と結びつけて語ることがあったとされる。もっとも、目撃談の多くは技術的な検証よりも、恐怖の感触を中心に語られる点で統一されている[6]。
さらに、青白い女という正体不明の存在については、地域の古い水難の言い伝え(“井戸の底に声が溜まる”とされる類)が“テレビの画面へ転写された”とする、怪談寄りの起源が語られた。噂では、その声が聞こえると画面が“曇る”とされるが、実際の現象が確認されたわけではない。
流布の経緯[編集]
流布は、放送直後の電話の混雑と、深夜に開いていた掲示板代替の情報交換(学生のメモ帳、ラジオ番組の投書コーナー、近所の喫茶店)を介して進んだとされる。特に「ノイズの中に“輪郭がある”」「映ったのは2回ではなく1回だけ」という細部が、後から聞いた人の語りでも一致しやすかった点が、噂を強化したと考えられている[7]。
全国に広まった決定打は、翌月の地方紙が“試験放送の記録媒体が一部欠落していた可能性”を匂わせたことだと言われている。記事名は「技術記録に断絶、追跡は慎重に」などとされ、具体的な部品名は濁されたとされる。これにより、正体の特定よりも恐怖が先行し、妖怪の出没譚として語り継がれる方向へ傾いた[8]。
一方で、技術解説を試みた研究会が「画像の偶然のパターン」とする見解を出しても、噂の熱は下がらなかったとされる。むしろ“偶然では説明しにくい”という言い方が、都市伝説の言説を補強したと指摘される。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承における不気味な女は、青白い肌と、黒目の奥がわずかに光って見える点が特徴とされる。噂では、その顔が画面いっぱいに広がったのではなく、画面の左上の暗部から“ゆっくり浮上するように”現れたとも言われている[9]。
出没時間については、20時41分〜20時44分の3分間とされることが多いが、派生では「2分12秒」「ちょうど一回のチャンネル切替音が鳴るまで」といった語りもある。目撃談の中には「音声は通常の試験トーンだったのに、女が口を動かしている気配だけがした」という不気味な記述があり、恐怖を増幅させている[10]。
また、伝承では女が“こちらのチャンネル操作に反応する”ように語られる。目撃者がリモコンのボタンを押すとノイズがいったん整い、押した直後に輪郭が濃くなる、という話が残されている。妖怪やとされるお化けの特徴として、「人間の行為を引き金に姿をはっきりさせる」という筋立てが好まれたと考えられる[11]。
さらに、この女の正体については複数の説が存在する。①放送局の女性作業員が何らかの事故で死亡し、機材に残留したという説、②水難で失われた“名を呼ばれない声”が像として結晶化したという説、③誤作動した映像補正回路が偶然顔パターンを生成したという説である。どの説も、最後は「確認されていない」という形で収束するため、噂が続いたとされる。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションでは、画面の出方が細かく変化する。たとえば「最初は水平同期の乱れだけで、0.6秒遅れて顔が追従した」という語りや、「女の顔が出る直前に、時計の数字が2桁だけ逆再生のように揺れる」という報告がある[12]。
関東圏の語りでは、内のある送信所周辺で現象が強かったとされる。具体的にはの放送所(仮称として“渋谷中継センター”と呼ばれることが多い)から見た場合、同じ週の別日にも“薄い残像”が出たという怪談が広まった[13]。ただし、これを裏づける公式記録が存在したかは不明とされる。
一方で、東北地方の派生では、同日の朝に学校の放送委員が「試験用のテープが見つからない」と騒いでいたという噂が接続される。夜の試験放送と、昼の学内放送の“音の癖”が似ていたことで、女のイメージが結びついたと語られるのだという[14]。
最も笑いどころのある派生として、「女は青白いが、なぜか頬だけが赤い」という細部に執着する目撃談がある。なぜ赤いのかは語られないまま、以後その地域では“頬が赤い未確認”を見たら速やかにチャンネルを変えよ、という対処法に接続された。こうした過剰に具体的な属性が、都市伝説を“覚えやすく”し、広がりやすくしたと考えられている。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は、基本的に「視聴を継続しない」ことが核とされる。具体的には、女が出たと感じたら“画面を直視せず、視線を下げてリモコンを握る”ことで、女の輪郭が薄れると言い伝えられている[15]。
次に多いのが、音声設定の変更である。目撃談では、女の顔が出る直前に試験トーンが歪むため、音量を0(ミュート)にすると“口が閉じる”とされる。これは都市伝説的には“相手が声を得られない”ことを意味すると解釈され、恐怖を避ける手順として語られた[16]。
さらに俗に「送信所の方向へは背を向けるな」という対処もある。理由は“女が背後の人間に回り込む”という妖怪的な説明が付くからだとされる。ただし、どの方角が正しいかは地域で食い違い、側では“北東”、側では“西南西”とされることがあり、真偽は不明である[17]。
最後に、最も実用的であるとされるのが「試験放送の録画を再生しない」ことである。録画を見返すと、青白い女が“その後に別の顔へ入れ替わっているように見える”と恐怖を煽る形で語られる。このため、ブーム期には録画媒体の整理が行われたという話すら残っている。
社会的影響[編集]
この都市伝説は、放送業界に対する“見えない瑕疵”への不安を増幅させたとされる。試験放送は通常、視聴者が能動的に選ぶものではないため、「偶然そこにいた視聴者」が恐怖の当事者になりやすかった点が、パニックを生む構造だったと考えられている[18]。
また、家電の買い替え需要に結びついた可能性が指摘されている。噂の広がりと同時期に“ノイズに強い受像機”をうたう広告が増えたという記憶談が多く、都市伝説が購買行動の背中を押したとされる。ただし因果関係は検証されておらず、「気分の問題」とする声もある[19]。
一方で、学校現場でも影響があったとされる。放送委員や視聴当番が、試験放送に“勝手に心霊番組が紛れ込む”という言い方で注意喚起されたという[20]。このように、恐怖が“教育的なルール”へ変換されることで、噂は生活の中に定着したと考えられる。
結果として、1998年4月13日以降、「見たはずがないものを見た」と語ることが、共同体内で共感を生む合図になっていったとも言われている。つまり都市伝説は怪談であると同時に、当時の人々のコミュニケーションの道具にもなったとされる。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化・メディアでは、直接的な再現ではなく“放送ノイズを怪異にする”表現として取り入れられたとされる。1999年前後のホラー系バラエティや深夜枠のドキュメンタリ風番組で、黒帯・同期ずれ・青緑の肌色再現を組み合わせ、「試験放送のはずが…」という導入が繰り返された[21]。
また、ネット掲示板が普及する前から、番組の視聴者投稿は“目撃談のフォーマット”を整える役割を果たしたとされる。投稿には「日時」「チャンネル」「部屋の明るさ」「家族の反応」がセットで書かれ、そのうち“家族が笑っているか泣いているか”はテンプレとして固定化したという[22]。
文学作品でも、青白い女は具体名を持たずに「放送設備の奥から湧く声の顔」として象徴化された。漫画では、女の頬の赤みだけを強調する表現が流行し、「赤い頬のノイズ」という小ネタが独立して語られることもあったとされる[23]。
この都市伝説は、妖怪やとされるお化けのような超自然を語りつつ、同時に技術的誤作動の言い訳を残している点で、現代的な怪談として扱われ続けている。読者が“信じる”より先に“疑う”位置に置かれる構造が、メディアの消費速度と噛み合ったと評価されることがある。
脚注[編集]
参考文献[編集]
『テレビ試験放送の運用史(仮題)』日本放送技術史研究会, 2002.
高橋信次『映像同期と偶像のあいだ』映像技術叢書, 1999.
M. A. Thornton『Broadcast Anomalies in Domestic Receivers』Journal of Media Phenomena, Vol. 12 No. 3, pp. 101-137, 2001.
『怪談フォーマットの定量分析:投書・目撃談・テンプレ』怪奇メディア研究所, 第1巻第2号, pp. 44-63, 2004.
Sato, Y. and K. Watanabe『Blue-Tone Apparitions During Calibration Broadcasts』Proceedings of the International Society for Signal Folklore, Vol. 7, pp. 220-238, 2003.
『学校の放送委員と夜のノイズ:聞き取り調査報告』文教視聴教育局, 2000.
菊池玲央『同期ずれが呼ぶもの』河出メディア選書, 2005.
柳瀬まどか『青白い女の統計:恐怖の伝播モデル』新潮心霊新書, 2010.
Note: The Uncanny Woman Hypothesis, pp. 1-12, 1998(書名が実際の資料と一致しない可能性があるとされる)
関連項目[編集]
脚注
- ^ 日本放送技術史研究会『テレビ試験放送の運用史(仮題)』日本放送技術史研究会, 2002.
- ^ 高橋信次『映像同期と偶像のあいだ』映像技術叢書, 1999.
- ^ M. A. Thornton『Broadcast Anomalies in Domestic Receivers』Journal of Media Phenomena, Vol. 12 No. 3, pp. 101-137, 2001.
- ^ 怪奇メディア研究所『怪談フォーマットの定量分析:投書・目撃談・テンプレ』怪奇メディア研究所, 第1巻第2号, pp. 44-63, 2004.
- ^ Sato, Y. and K. Watanabe『Blue-Tone Apparitions During Calibration Broadcasts』Proceedings of the International Society for Signal Folklore, Vol. 7, pp. 220-238, 2003.
- ^ 文教視聴教育局『学校の放送委員と夜のノイズ:聞き取り調査報告』文教視聴教育局, 2000.
- ^ 菊池玲央『同期ずれが呼ぶもの』河出メディア選書, 2005.
- ^ 柳瀬まどか『青白い女の統計:恐怖の伝播モデル』新潮心霊新書, 2010.
- ^ Note: The Uncanny Woman Hypothesis『Note: The Uncanny Woman Hypothesis』pp. 1-12, 1998.
外部リンク
- 怪奇放送アーカイブ
- 同期ずれ図鑑
- 学校放送委員の手帖
- 青白い顔の記録庫
- 恐怖の伝播ログ