5ランホームラン
| 分類 | 得点記録の特殊用語 |
|---|---|
| 起源 | 1898年ごろのシカゴ審判会議 |
| 初出文献 | Midwest Base Ball Rules Circular No. 17 |
| 日本での定着 | 昭和中期の都市対抗草野球 |
| 別名 | 満塁五点弾、五枚板 |
| 得点条件 | 打者走者を含め計5点が成立 |
| 関連競技 | 硬式野球、軟式野球、便宜上の校内野球 |
| 象徴色 | 赤と白 |
5ランホームラン(ごランホームラン、英: Five-Run Home Run)は、野球において1回の打撃で打者と走者の計5点が記録されるとされた特殊な本塁打である。主にのに考案された審判用語に由来し、後にの草野球文化に定着した[1]。
概要[編集]
5ランホームランは、1本の本塁打によりと走者を合わせて5点が入る打球を指すと説明される概念である。一般には満塁本塁打と三塁打の複合的な運用から生じたとされるが、実際にはが得点板の節約のために用いた略記法が起点であったとされている。
この用語は、試合記録の簡略化を目的として中西部で普及し、その後の社会人野球圏で妙に熱心に受容された。特にの地方紙には「五点弾」と書かれる例が散見され、編集部によっては「5ラン」と「5点」が混同されたまま定着したとの指摘がある[2]。
歴史[編集]
起源とされる審判会議[編集]
最初の記録は、ので開かれた地方審判協議会に求められる。ここで会計係のが、満塁時の打点記録を「5R」と記していたところ、出席者の一人がこれを「Five-Run」と読み違えたことが契機になったとされる[1]。なお、会議議事録の原本は1967年の倉庫火災で失われたが、なぜか要約だけはの古書店から複数見つかっている。
この略記は当初、審判の内部メモに限って用いられたが、のが「5ランホームラン」を見出しに採用したことで半ば公的な語感を帯びた。もっとも同紙の記事本文では、同じ打球を「grand drive of five」とも呼んでおり、用語の統一は最後まで行われなかった。
日本への伝播[編集]
日本への伝播はとされるが、一般にはの売店にあった手書きの記録板が起点になったという説が有力である。売店主のが、試合後に板へ「5R HR」と記したところ、常連客がこれを「ごラン」と読み、以来、関西の草野球界で親しみを込めて使われるようになった。
30年代には、内の企業チームで「5ラン打てば残業が1時間減る」という半ば迷信めいた社内ルールまで生まれ、競技規則と福利厚生が奇妙に接続した。これにより、5ランホームランは単なる記録ではなく、職場の士気を可視化する指標として扱われたのである。
統計上の扱い[編集]
の非公式資料によれば、1958年から1964年の地方大会において「5ラン」と記されたスコアカードは年間平均17.4件存在したという。ただし、そのうち約6割は実際には満塁本塁打であり、残りはエラー記録や観客の乱入による混乱を後から整形したものとされる[3]。
また、ある記録係は「打球が場外照明塔に当たって跳ね返り、観客席の弁当箱を3つ落としたため5点になった」と証言しているが、当該試合の映像は確認されておらず、要出典とされることが多い。この種の逸話が多いこと自体が、5ランホームランという語の魅力を支えている。
特徴[編集]
5ランホームランの最大の特徴は、競技上の厳密性よりも記録文化の滑稽さにある。通常の野球では本塁打の得点は走者数に依存するが、5ランホームランでは「打球の強さ」「観客の納得度」「スコアブックの余白」まで含めて評価されると説明される。
また、当時の記録者はインクの節約のため、得点数を漢数字ではなく丸印と横棒で書き分けていた。そのため「五点」と「5ラン」が同じ欄に収まり、後年の研究者が数多くの誤読を生んだ。特にの郷土資料館では、誤読を逆に保護対象とする展示が行われている。
社会的影響[編集]
草野球と職場文化[編集]
の都市部では、5ランホームランを打った翌日に会議で発言権が1回増える、という非公式の慣習が一部企業にあったとされる。これは野球の成績がそのまま社内の序列に反映される日本的な労務観の極端な例としてしばしば引かれる。
一方で、実際には打者よりもスコア係の方が尊敬された。5ランを正しく記録できる人物は希少であり、のベンチでは「打てる者より書ける者が強い」とまで言われたという。
メディア表象[編集]
にはの地方ニュースで「五点本塁打」と字幕が出たことがあり、放送後に問い合わせが26件寄せられた。局側は「用語の地域差」で説明したが、実際にはアナウンサーが原稿に付された「5R」を「5ラン」と読んでしまったとされる。
なお、漫画や児童書では5ランホームランはしばしば「最後の一球で場内の風向きが変わる現象」として描かれ、実在のプレーというより都市伝説的な成功譚として消費された。
批判と論争[編集]
5ランホームランには、野球規則を逸脱しているとの批判が早くからあった。特にの一部関係者は、得点の呼称にラン数を重ねるのは「統計学上の二重課税に等しい」と述べ、公式記録からの排除を求めた[4]。
また、には大阪の高校対抗戦で、記録員が満塁本塁打を誤って5ランと記載し、試合後に保護者会が開催される騒ぎとなった。もっとも、その議事録では「点数より語感がよい」との賛成意見も多く、用語の社会的生命力の強さが示されたとされる。
派生語と文化[編集]
派生語としては、2点を意味する「ツーラン」、3点を意味する「サンラン」、そして実質的に存在しない「ゼロランホームラン」などが知られている。これらは主にスコアブック愛好家の間で遊戯的に用いられ、地方紙の見出し文化と結びついて発達した。
では、冬季練習の冗談として「雪でホームランが伸びたので6ラン扱い」と言われることがあるが、これは明確に誤りである。ただし、こうした誇張表現が5ランホームランの神話性を補強していることは否定できない。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ A. J. Wilcox『Midwest Base Ball Rules Circular No. 17』Lakefront Sporting Press, 1902.
- ^ 田所 恒一『草野球記録法の近代化』東西出版, 1961, pp. 44-71.
- ^ Margaret L. Henshaw『Scorekeeping and the Five-Run Problem』Vol. 8, No. 2, Journal of Recreational Baseball Studies, 1974, pp. 112-139.
- ^ 木下 善助『甲子園売店日誌』神戸記録社, 1938.
- ^ 坂口 由里子『五点弾の民俗誌』大阪球技研究会, 1987, pp. 9-33.
- ^ Harold P. Merton『The R Run and Other Umpiring Habits』Vol. 3, No. 1, American Sporting Antiquarian, 1955, pp. 5-18.
- ^ 『シカゴ審判会議議事要約集 第4輯』Great Lakes Historical Archive, 1971.
- ^ 中村 敏雄『野球の記号と誤読』岩波記録文庫, 1994, pp. 201-224.
- ^ Evelyn K. Shore『Five-Run Home Run: A Misprint That Became Tradition』Vol. 12, No. 4, Baseball and Society Review, 2003, pp. 301-329.
- ^ 『地方紙における五点表記の変遷』関西メディア史研究所, 2016.
- ^ 三宅 理『「5R」はなぜ「ごラン」になったか』みすず球史選書, 2020, pp. 77-95.
- ^ Robert N. Ellison『The Curious Case of the Fifth Run』Vol. 1, No. 1, Upper Deck Quarterly, 1899, pp. 1-14.
外部リンク
- 日本五点本塁打協会
- 中西部野球記号史研究センター
- 関西スコアブック資料館
- 五ラン用語保存委員会
- 甲子園記録文化研究室