AcidBlackcherry
| 分野 | 音楽制作・サウンドデザイン |
|---|---|
| 別名 | ABC合成法(通称) |
| 中心概念 | 酸性の反復と暗色の倍音パターン |
| 成立時期 | 1990年代後半 |
| 主な媒体 | ライヴ演出、圧縮音源、サブカル映像 |
| 関連技術 | リングモジュレーション的操作、位相ずらし |
| 象徴モチーフ | 黒いサクランボ(暗色のスペクトル表象) |
| 論点 | 再現性と著作権の境界 |
AcidBlackcherry(英: AcidBlackcherry)は、主にとの領域で語られる「酸性の反復」と「暗い果実の色」を同時に扱う合成表現技法である。初出は1990年代後半の小規模な実験コミュニティとされ、のちに都市型イベントのライヴ演出にも採用された[1]。
概要[編集]
AcidBlackcherryは、「音色が酸に侵されるような粗さ」と「黒い果実に似た低域の凝集」を同時に成立させるための制作手順として説明されることが多い。手順自体は音響工学の専門用語を借りつつも、実務では手触りの再現性が最優先されるとされる。
語感の通り、技法名には比喩が強く込められている。特に「acid」は周波数の“尖り”を、「blackcherry」はスペクトルの“丸み”をそれぞれ連想させる指標として運用された。なお、この比喩指標は当初、機材マニュアルではなく裏ノートに書かれた数値遊びから広まったとされる[2]。
この技法は単独のプラグインを指すのではなく、複数の処理を組み合わせて“酸と果実”を同時に出す制作スタイルの総称として理解されることが多い。初期の同好会では、同一手順でも環境で結果が変わる点がむしろ美徳とされ、作り手の癖が文法のように扱われた。
歴史[編集]
前史:黒いサクランボ計測ノート[編集]
AcidBlackcherryの前史として、1996年前後にの地下スタジオで配布された「黒いサクランボ計測ノート」がしばしば挙げられる。ノートは全24ページで、最終ページにだけ「果実は黒く、酸は速く」という短文が印字されていたと報告されている[3]。
当時の関係者は、音響特性を“見える化”するために、周波数スペクトルを印刷し、そこへ黒い丸を鉛筆で重ねた。特定の丸が増えると低域が落ち着く、といった極めて主観的な相関が記録され、のちに「黒いサクランボ」の比喩が制作合図になっていったとされる。
ただし、ノートの配布元とされる人物名は複数系統で食い違っており、としては確認されないまま、のちの論壇で“どこにも属さないノート”として扱われた。ここが初期の神話化の出発点であったとする見方がある[4]。
成立:ABC合成法の会議と「17回目の酸」[編集]
技法名が実質的に定着したのは1999年の、内の会場で開かれた「ABC合成法」非公開ミーティングだとされる。会議では「酸の反復回数」によって印象が変わる点が議論され、最終的に“17回目の酸だけが黒い果実に触れる”という言い回しが採択された[5]。
当時の記録には、試行回数が細かく残されている。具体的には、リング状のフィードバックを用いた反復が「3回:光る」「7回:ざらつく」「11回:重い」「17回:黒く落ちる」「23回:暴れる」という暫定分類として書かれていたとされる。さらに、暴れた23回目の音源だけが編集用フォルダに“チェリー番号”で命名され、のちのファイル流通のきっかけになったと語られている[6]。
関与したとされる中心人物として、当時の制作コミュニティ「ナイトスペクトル研究会」の代表である、および映像側の編集者が挙げられる。両者は「音は酸で、映像は果実で」と役割分担したとされ、後年になって両者の主張が食い違い、会議記録の写しが一部だけ公開されたという逸話が付随する[7]。
社会への拡張:ライヴ演出と“黒い低域税”事件[編集]
2003年、のクラブでAcidBlackcherryがライヴ演出に組み込まれたことで、制作手順が一般音楽ファンにも知られるようになった。特に、ステージ背面のLEDが“黒いサクランボ色”へ遷移するタイミングを、音の反復回数と同期させた試みが話題になったとされる。
一方で、同年に起きた「黒い低域税」事件が論争の火種になった。市の文化関連窓口が、低域が一定以上の観客体験に影響する可能性を理由に、設備申請に“黒域係数”という追加パラメータを設定したと報じられたのである。数値は「黒域係数 1.3」などと曖昧に書かれており、実務担当が後に「音響の分類ではなく説明用の係数だった」と証言したとされる[8]。
この事件は制度設計の混乱として知られると同時に、AcidBlackcherryが“音そのもの”から“体験の規格”へと変換されていった転換点でもあると評価されている。のちに研究者が、音の感情価が行政の言葉に翻訳された例として論じたが、翻訳精度が過剰に独り歩きしたことが批判にもつながった[9]。
技法の特徴[編集]
AcidBlackcherryの作り方は、しばしば「酸性処理」と「暗色倍音整流」の二段階として説明される。酸性処理では、短い時間幅で音を“細切れにする”処理が入り、暗色倍音整流では、主に低域側の倍音のまとまりを“回収”する処理が置かれるとされる。
実務で重要とされるのは、単なるエフェクトではなく“順番”と“回数”である。たとえば、反復は「最初の4回は明るく、次の8回で沈め、最後の5回で結び目を作る」と説明されることがある。ただし、数値分類は公式に固定されておらず、配布ノートの流れを継ぐグループほど独自の目盛りを持つとされる。
また、音の評価軸として「黒い果実感(BFC)」と呼ばれる指標が、半ば遊戯として流通した。BFCはスペクトルの“丸さ”を0〜100で採点するという体裁を取っていたが、実測値ではなく、録音環境と再生環境で変わる“体感点”であったとされる[10]。この点が後述する論争にもつながった。
受容と派生[編集]
AcidBlackcherryは当初、実験志向の音楽家や映像編集者の間で“秘密の手順”として扱われた。しかし2006年以降、サブカルイベントの公式プログラムに組み込まれたことで、一般にも知られるようになったとされる。
受容の加速には、関係者が主導した「17回目の酸だけを公開」する編集方針があった。つまり、完成版のうち17回目の酸が強く出る区間だけを抜き出し、それを“公式デモ”として再配布したのである。このやり方は“秘密のようで、真似しやすい”という相反する性質を同時に満たしたと評価された[11]。
さらに派生として、果実の色を赤系へ寄せた「AcidBlackCherry-Red」や、酸の速さを増やした「HyperAcidBlackcherry」などの呼称が生まれた。これらは厳密な仕様書を伴わない呼び名として広まり、結果として“言葉が先行して技術が後追いする”現象が見られたと報告されている[12]。
批判と論争[編集]
批判の中心は再現性とデータの妥当性にあった。BFCや“17回目の酸”といった指標は、数学的に定義されていないにもかかわらず、制作講座ではあたかも普遍的な規格であるかのように扱われたとされる。そのため、異なる機材や部屋環境で再現した参加者から「同じ回数でも黒くならない」といった反発が相次いだ[13]。
また、知的財産の境界にも問題が生じた。AcidBlackcherryは手順の総称であるはずなのに、ある時期から「この順番そのままが商品である」と主張する流通が現れたと報告される。特にの情報公開文書に“類似手順の審査”が出てきたと噂されたが、実際には関連性が薄い文書だった可能性も指摘されている[14]。
さらに一部では、黒いサクランボ計測ノートが“実在しない”という主張も出た。ただし、公式会場のバックヤードで同ノートのコピーが見つかったという証言もあり、真偽が確定しないまま、伝承として機能しているとまとめられている。要するに、技法というより神話が先に増殖した状態にあったのが論争の本質である、とも評される[15]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山根ユウ『夜のスペクトル図鑑:AcidBlackcherryの言葉と実務』東雲書房, 2007.
- ^ Mina Kettler『暗色倍音整流の編集論』Blackcherry Press, 2008.
- ^ 渡辺精一郎『黒いサクランボ計測法と17回目の酸』ナイトスペクトル研究会資料, 1999.
- ^ A. Thornton『Perception of Repeated Distortion in Live Settings』Journal of Urban Audio, Vol.12 No.3, pp.41-58, 2011.
- ^ 佐藤礼子『音楽演出における体験指標の翻訳過程』映像音響研究, 第6巻第2号, pp.9-26, 2014.
- ^ Klaus R. Möller『Color-Mapped Equalization: A Speculative Framework』Proceedings of the International Workshop on Phonic Myths, Vol.3, pp.77-103, 2010.
- ^ 田中啓介『低域規格と行政言語:黒域係数の系譜』都市文化政策年報, 第18号, pp.113-129, 2005.
- ^ L. Vanden『ACID AND FRUIT: A Taxonomy of Unofficial Production Protocols』Sound Practice Review, Vol.9 No.1, pp.1-19, 2016.
- ^ 井上みなみ『サブカル・ライヴ演出の同期設計』映像工房叢書, 2012.
- ^ 誤植学会編『Jittered Phase Ordering: 実装の常識と誤解』誤植学会出版, 2001.
外部リンク
- ナイトスペクトル研究会アーカイブ
- ABC合成法ファン掲示板
- 黒域係数メモ館
- 17回目の酸デモ倉庫
- 暗色倍音整流の講座ページ