Fast Foolish pre. "BOX in the LOG" Vol.1
| 種別 | 地下音響向けの予告編(プレ)資料 |
|---|---|
| 想定時代 | 1990年代後半〜2000年代初頭にかけての流通 |
| 収録内容 | 短い音声断片+「箱形ログ」記述 |
| 規格 | Vol.表記、pre.表記、箱形メモリ風レイアウト |
| 主要舞台 | 東京都(秋葉原周辺)と大阪府(中津)での即売 |
| 配布形態 | 同人頒布+交換制 |
| 制作関与 | 匿名コレクティブ、プリンター事業者、音響エンジニア |
| 特徴 | 音と手順書の「ずれ」を芸術原理とする |
Fast Foolish pre. "BOX in the LOG" Vol.1(英: Fast Foolish pre. "BOX in the LOG" Vol.1)は、日本の地下音響圏で流通したとされる音盤状の「予告編」資料である。録音技術と装丁情報を意図的に分離する形式が知られている[1]。
概要[編集]
Fast Foolish pre. "BOX in the LOG" Vol.1は、音の「内容」を直接提示せず、代わりに聴取手順と箱形のログ情報を同梱することで成立するとされる[1]。同種の資料は一般に「予告編」と呼ばれ、正式なアルバムとしてではなく、次号へ向けた合図として扱われてきた。
この資料が注目された背景には、東京の小規模工房が採用した印刷・録音分離の運用があるとされる。具体的には、録音マスタは別の工房で擦り合わせを行い、表紙側の版面は「LOG(記録)」として先に配布する方式が取られたと説明されている[2]。
また、タイトルに含まれる「BOX in the LOG」は、箱=物理メディア、LOG=手続き・履歴という対応づけで理解されることが多い。ただし同時代のファンの間では「BOXは聴き手の注意、LOGは失敗の履歴」とする解釈もあり、用語の揺れ自体が作品の文法とみなされた[3]。
成立と背景[編集]
前史:音を“先に謝る”流行[編集]
1997年ごろ、東京都千代田区の夜間印刷センター周辺で「先に謝ると音が良くなる」という半ば伝説的な作法が広まったとされる[4]。ここでいう謝罪は、録音前にスタジオ側へ提出する「免責メモ」の形式で行われ、免責の文面が後年、手順書の一部として再利用された。
このメモが、後のFast Foolish pre. "BOX in the LOG" Vol.1の“LOG”に相当する、とする説がある。すなわち、音を録るより先に「どう聞かなかったか」を記述してしまうことで、聴取体験が偶然から設計へ寄っていく、という発想である[5]。
一方で、当時の音響エンジニアの一部は「謝罪はメタデータであり、結果的に定位が変わる」と主張した。実際、ある現場では左右のスピーカー位相を±0.7度ずつずらし、紙片に書いた注意事項を読ませた後に測定したと記録されている[6]。
命名:BOX in the LOG の実務由来[編集]
「BOX in the LOG」の命名は、印刷所の倉庫台帳(LOG)に“BOX”の棚が存在したことから採られたとされる。ただしこの“棚”は物理棚ではなく、作業手順を段階ごとに箱で囲むテンプレートだったと報じられた[2]。
制作側はテンプレートを4箱構成にした。具体的には(1)入力、(2)擦り合わせ、(3)失敗ログ、(4)追い書きであるとされる[7]。この4段階が、そのままVol.1の手順ページの区切りとして採用され、各ページの端には「回転数の目安」が印字された。
回転数の目安は驚くほど細かく、当時のチケット交換者の記録では「毎分331回転で紙片を折り、3回だけため息を入れる」といった、儀礼に近い指示が残っている[8]。もっとも、後年の検証では回転数は実際の装置仕様と一致せず、象徴的数値として機能していた可能性が高いとされた[9]。
制作仕様と“箱形ログ”の仕組み[編集]
Fast Fool Foolish pre. "BOX in the LOG" Vol.1の最大の特徴は、音声断片の提示と、聴取手順の提示が同一の媒体面に同居していない点である。手順ページには、対象の音声が「箱」に分割されているかのような記法が含まれるとされ、聴取者はページをめくる順番に従うことで、断片が“意味を獲得する”構造になっている[3]。
資料内では、箱形ログが疑似的なインデックスとして機能している。そこでは、断片ごとに「LOG-BOX#」が付され、さらに読み上げ推奨の声量がdB相当の記号で示されたと伝えられる[10]。とはいえ、実測値と整合しない記号もあり、たとえば“静けさ”の指示が「-12.0dB」ではなく「-12.0“息”」と読める字体で印刷されていたという証言もある[11]。
また、装丁は大阪府の印刷業者「中津紙器研究会(仮称)」が関わったとされる。頒布者の回想では、製本工程の歩留まりが「初日92.6%」で、2日目に一気に「61.4%」まで落ちたため、Vol.1の差し替え版が密かに混在したとされる[12]。この差し替えが、コレクターの間で“本当のVol.1”論争を生んだ。
流通と社会的影響[編集]
Fast Foolish pre. "BOX in the LOG" Vol.1は、一般販売ではなく、交換制と即売会の小口流通で拡大したとされる。初期の拠点は東京都の秋葉原周辺で、同人頒布棚の「事務机コーナー」に紛れ込む形で置かれたという[4]。
この置き方は、当時の“音の評価”が聴感そのものよりも、手順を守ったかどうかで決まってしまう風潮と結びついた。結果として、作品は聴取者の行動規範を変えるメディアとして機能したと論じられている[5]。とくに、夜間バス待ちの列でページをめくる行為が“連帯の儀式”として語られ、公共空間での沈黙の共有が増えたという指摘がある[13]。
さらに、資料の記法は企業の研修にも波及したとする伝聞がある。たとえば系の研修資料に、ログを箱で囲うレイアウトが採用されたという証言が流通したが、後の検証では類似するレイアウトが偶然一致した可能性も指摘されている[14]。それでも、紙の手順書を読むこと自体が“正解”になるという考え方が、翌世代のコミュニティ運用に影響したとされる[15]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、Vol.1が“音盤”と呼ぶには内容が曖昧であり、聴き手の責任を強制的に高める点にあったとされる。ある匿名レビューでは、音が再生される前に「折り目の回数」を要求されるため、再生機器ではなく儀礼への適応力が評価されていると指摘された[16]。
また、差し替え版の存在が“商業的混乱”を招いたとも言われる。印刷歩留まりの低下による差し替えは、創作上の必然として擁護される一方、流通側の都合で品質が変わっただけではないかという見方もある[12]。
さらに、回転数331回転のような数値が、計測ではなく暗号に近かったのではないかという説もある。暗号説では、数値は音声断片の並び順を決める鍵であり、鍵の解読を禁じる“沈黙条項”があったとされる。ただし沈黙条項の証拠として残るのは、焼き増し者の手帳に書かれた「第3次沈黙まで話すな」という一行のみであり、根拠の薄さが批判されることになった[17]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田村織音『BOX in the LOG——予告編が聴取を支配するまで』改訂版, 音響資料出版, 2003.
- ^ Margaret A. Thornton『Paper Rituals and Metadata Listening』MIT Press, 2006.
- ^ 中山謙太『地下音響資料の流通実務(関東篇)』都市編集局, 2001.
- ^ 李暁辰『“謝罪メモ”の位相効果:小規模工房の実験記録』Vol.7第2号, 音響民俗学会誌, 2008, pp. 51-73.
- ^ 佐伯律子『印刷工程が作品を変える—歩留まり92%の夜』日本製本学会, 2004, pp. 118-136.
- ^ Nguyễn Minh Khoa『On the Symbolic Nature of dB-“Breath” Notation』Journal of Improvised Acoustics, Vol.12 No.3, 2010, pp. 201-219.
- ^ 山城慎介『ログを箱で囲うレイアウト史』情報書式研究, 第5巻第1号, 2012, pp. 9-24.
- ^ 鈴木風雅『交換制コミュニティの規律形成:沈黙条項をめぐって』社会技術レビュー, 2015, pp. 77-93.
- ^ Klaus Richter『Previews in Sound-Centric Media』Oxford Fringe Studies, 2011, pp. 33-58.
- ^ (タイトルが不一致の疑い)“Fast Fool Foolish”編集部『BOX in the LOG Vol. I 目録』東京写研, 1999.
外部リンク
- 箱形ログ倉庫(アーカイブ)
- Fast Foolish 同人資料館
- 地下音響交換掲示板の残骸
- 沈黙条項研究会
- 即売会写帖(写真台帳)